-苫小牧市 路上-
走る。どこまで走ればいい?あいつは絶対あそこで敵と差し違えるつもりだ。なのに私は護って貰いながら逃げる。
「そこの角曲がってコンビニがある、裏手の陰になるとこなら僕らは隠れれる。休憩しよう」
軽口をたたくこの男は今私の知ってる限りで強い人間だ。彼まで失ったら私はもうどこにも走れない。
「はぁ、はぁ、わかった、休憩ならなにか飲み物が欲しい。あと隙があればLANケーブル」
「店の事務所から引っ張ってみよう。なに、この手の事は僕の本業だ」
そういえばこいつはスパイだったか
LANケーブルを要求したのは少し可能性にかけてみたかった。あの憎き無人航空機を落せるかもしれない。私の理論が正しければきっと
「ほい、水とLANケーブルのセットでございます」
たった数分で買い物と潜入を済まし彼は帰ってきた。
「早いな 本当にお金払ったのか?」
「だから得意だって言ったでしょ?ネット料金以外は払ったよ。で、なにか調べ物?」
「賭けは好きか?」
「ギャンブルなら嗜む程度にはやるかな まぁ、好きだと言っておこう。今からデカイ事やるんだろう?」
「さっきUAVの事を聞いた時に思いついた。クリックひとつで落せるかもしれない。」
「おいおい、まさか国防総省にハッキングでも?やめとけ、あそこは世界トップレベルのセキュリティだぞ」
「そんなとこに繋ぐならこんなちゃっちな回線と端末では無理だ。今から私の部屋の端末を遠隔操作して三沢基地へ潜る。近いからな、なんとかやれるかもしれん」
「狙いは周辺機器か?」
「そう、早期警戒管制機とか飛んでなければ最寄りの基地から誘導してる可能性がある。だから基地のインフラを落とす。バックアップもあるだろうがその隙をついて通信を遮断する程度はできる。」
「けど、UAVは基本自立飛行が可能で、通信が途切れても飛行は可能だぞ?」
「位置情報を晒すのは対した問題じゃない。ミサイルを撃たせないのが目的だ」
「海まで出れば僕の仲間に合流して武器とか対抗手段を用意できるかもしれないしな」
「だから、奴を落さなくとも」
自宅の端末へ接続を確認、先ほどまで誰かが使っていた形跡がある。恐らくイベリコだから問題ない。今は出かけたのか?まぁ、いい
高速でノートPCのキーと叩く
「米軍三沢基地設備…攻勢防壁展開、ダミー送信スタート」
この程度か、思いのほか楽に潜れたな わずか10分で侵入に成功
「スタンドアローンで運用されているはずだ。とりあえず基地の電気を落してしまおう」
「言われなくとも」
エンターキーを押して三沢基地の電源をすべて遮断する。も、案の定自家発電に切り替わり問題ないようだ。
「ならば…」
再び基地への電力供給を再開させる。ただ通信設備へは何倍もの電流を送信して負荷をかける。このまま負荷をかけ続ければ発火など機材が直接壊れるはずだ。
「ついでに試すか」
「え、なにを」
彼の問いに答えることなく隣の自衛隊基地の設備へ潜る。米軍よりザルいのでそのまま衛星通信、戦術データリンクへ接続、UAVが送受信している情報を探す。
「見つけた!!」
リンク11の中にUAVがアップロードしている波を見つけ、UAV自体へ割り込みをかける。
「さすがに硬い…」
「あー、なんだかすごいことしてるのはわかるが、説明が欲しい。」
いくつもの防壁が行く手を阻み、逆に探知をされる。偽のIPを流してそちらに探知を流しUAVのコンピュータへ侵入を試みる。
なんだ、この光景は 無口でぶっきらぼうな彼女がUAVを落すと言って高速でタイピングをしている。凄腕のハッカーとは聞いていたが、出先でここまでやるとは思ってなかった。いくら三沢基地と言えどハッカー対策は高レベルのはずなのに、彼女は朝食を摂るような手軽さで突破して掌握したのだ。今は並列して自衛隊施設から経由して本体に取りつく気らしい。もう15分以上なにかを唱えながらキーを叩いているが、見てるこっちもハラハラする。僕はすごい少女と出会ってしまったのでは
「…っしゃ、UAV乗っ取り成功!!!」
操縦、攻撃、情報の送信先もすべて書き換える。
「これを」
ノートPCには鮮明にこの地域の画像が映し出された。
「さっきお嬢ちゃんと別れた場所、あそこは今どうなってる?ズームできるか?」
「どのへん?」
「ここだ」
指された周辺をズームすると警察車両が集まっており、救急車も大量に見える。
「ケリはついてるみたいだな」
「連絡がないってことは良い結果ではなさそうだね、僕ら周辺に怪しい車両は?」
「今のとこはない。けど、時間の問題だと思う」
「だろうね。あと5km海へ出れば僕らの勝ちだ。そのままUAVを飛ばし続け………」
突然映像が途切れ、上空から花火のような爆発音が響いてくる。
「落されたな」
「相手は対空攻撃も可能ってことね。ラングレーはどこまで本気なの?」
「それを調べるのはおまえの役目では?」
「そうだったかもしれませんお嬢様」
「行こう、駐車場で車を借りて走り抜ける」
「おっけい」
ノートPCを閉じて駐車場に出ると一台の商用車がちょうど停車したので運転手に銃を向けて車を借りる。
-苫小牧市 港街-
横からぶつけられた衝撃だと気づくには上下逆さになった世界を数秒見つめてからだった。
「意識はあるね?しっかりして!」
ぼーっとする思考に男性の声が入ってくる。身体を引っ張られ、背中に担がれると彼は走り出す。周囲では発砲音がする。発砲音?
「はっ、どれだけ気絶してた?」
「数分程度」
「降ろせ、自分で走れる」
コンテナの陰に入ったとこで彼は私を降ろした。すると気付く事がある。
「お前…撃たれたのか!?」
「あと運転席側から突っ込まれたからその傷もね」
頭部から血を流し、背中にはいくつか銃創が見れる。
「手当するから少し…」
「行け、ここは僕が食い止めて君を逃がす番だ」
「けど、その傷では!?」
「行けって言ってるだろう!!」
優しい口調だった彼が初めて強く叫ぶ
「でも、でも…」
「彼女と約束したんでね、必ず生きて届けると」
「っ、」
言葉にならない声が出て、頬に涙が流れる。
「そんな顔するんじゃない。僕は死ぬと決まった訳でもなきゃ、死ぬつもりもない。君にはもっと笑顔が似合うはずだ」
頭を撫でられるも、なんと言葉を発せばいいか解らなかった。ただ泣いて彼に側にいてほしいと駄々をこねることしか。
「そうだな、君とも約束をしよう。僕は必ず生き抜くから君は目的を果たせ、そして笑え いいね?」
彼の笑顔が余計に涙を流させる。
「行けっ!!真っすぐ抜ければコンビナートを抜けて港だ!」
走る。ただそれだけ 今は何かを叫びたくても叫べないのだから
「さてと、かっこいい事言ったからには実行しないと男の恥だよな……こいよヤンキー!!あの子には指一本触れさせない、ぜっ!!」
-苫小牧港-
一人になってしまった。携帯には誰からの連絡もない。疲れからか途中転んで足をくじいてしまったため、靴を脱ぎ捨てて裸足で走っていた。右手には銃 左手にはケースを持ち、大量に置かれたコンテナを抜けると目の前に海が広がる。ここに彼の言ってた仲間とやらがいるはず。
左を向くと彼が言っていた船名の貨物船が停泊していた。激しい炎を上げながら。
艦橋からは岸へ向けて銃で応戦する船員が見れるが、あの炎と相手の量では無理だ。岸ではすでに数十人の武装した集団が陣取っており、港は封鎖されていた。こちらには気づいていないみたいだが…
すると自分の通った道から英語の話声が近付く
「つけられたか…けど二人程度ならっ!!!」
歩哨が視界に入ったとこで不意打ちで一人の顔に45口径をたたき込み、応戦しようとした片方には投げたケースが頭に当たり倒れる。すぐに近付いてとどめを入れる。
「今の銃撃で気付かれたはず」
消音機もなしに発砲したのはすでにあちらにも聞こえただろう。すぐに兵士のG36を奪うと装てんを確認して港の集団へと撃ち込む。撃つたびに暴れる銃身を抑えながらブレブレではあるが、なんとか狙いを定めて引き金を数秒感覚開けて引く。防弾装備をしっかりしているのか、胴に当たったと思われる兵士も倒れず反撃を開始する。コンテナに着弾する銃弾はドラムを叩くような金属音を奏で、単発で射撃する発砲音は人数が多いので機関銃を発射しているように長く続く。
「弾、弾!!」
隠れているうちに予備弾倉に替えて反撃するもまともに身体を出す勇気がないのでフルオートで暴れさせる。
「あいつ、いつもこんな反動でかい物を平気な顔で扱ってるのか」
いつも持つのはMP7など軽機関銃で、筑波ではミニミも撃ったが二脚を展開して狙いもなかった。ましてや支えなしで立ったまま小銃を撃つのは初めてかもしれない。軽いはずの5.56mmが今では一発撃つだけでもすごく重い。幸いにもどこに飛んでくるかわからない射撃はプロにとって予測不能で厄介らしく、相手も物に隠れながら慎重に進んでいる。
「あと2本」
昼間なのに銃弾は戦を描き空中を彩る。発砲する度ストロボが炊かれたように点滅する港は硝煙の匂いと煙でいっぱいだった。
予備の弾倉もそろそろ底尽きる。弾切れ後にはどうなるどうか?私は捕まる?撃たれる?捕まったのならきっと拷問とか待っているだろう。それなら自決も辞さない覚悟だ。
そんな事を考えていると弾はなくなった。正確にはガバメントの9発が残弾だ。静かになったのを確認すると相手は素早く距離を詰めてくる。
「ごめん、護れなったやケース。約束したのに」
二人は可能性を託して私を逃がしたのだ。身体を張って。 なのに私はあっけなくここで力尽きていいのだろうか?ケースは奪われ、仲間も戻らない。そんな未来は
先ほどの兵士の死体から手榴弾を抜きとりケースを半開きにして中身を爆破できるようにする。
「今行く」
手榴弾の安全ピンに指をかけ、覚悟を決める。たぶん今ならこの指を引ける。
空からエンジン音と重い風切り音が近付く。数は4つ以上
それは突然現れ、目の前に広がる敵を機銃から放たれた曳航弾でなぎ倒していく。とても大きなヘリで、色は下から見ると水色、横から見ると茶色っぽい迷彩のツートン。前方に丸い操縦席が二つあるが、後ろに貨物室を備えており、脇にはミサイルやロケット弾を装備している。詳しい機種はわからないが、たしかロシアのハインドと呼ばれたヘリだった。
地上からの反撃が少なくなると1機が扉を開けて低空へ降りる。ロープで8人ほどの兵士が降下したと思うとすぐに小銃を構え、敵へ射撃を開始した。その狙いは正確で、動きに無駄がない。すると一人の兵士が近寄って言葉をかける。
「お怪我はありませんか!?」
「だ、だいじょうぶ。貴方達は?」
「我々は陸軍特殊部隊です。貴女とそのケースを回収する命令を受け、今到着しました!」
激しいヘリの音が鳴る中、大声で会話する。特殊部隊?軍は動けないはずではなかったのか?
「こちらコーヒー03、パッケージは無事、繰り返すパッケージは無事、すぐに回収したいので着陸を願う。」
「了解、ポッド01、02がモカとラテを注いだ後にポッド03が回収する。待機せよ。」
どこかで聞いた事のある女性の声だった。
「コーヒー03了。」
不思議なコールサインの無線を聞いていると二機のヘリが低空で侵入し、ロープで兵士を降ろした。いくら相手が最強を謳うパラミリSOGでも人数と腕が同じ相手では地の利で負けるだろう。私は手榴弾を適当に投げ捨て、ケースを閉めてからガバメントを鞄にしまった。
やがて一機着陸したので兵士に付き添って近付くと中には見慣れた顔があった。椿のような赤いモフモフしたサイドテールと、透き通るような空の色をしたロングヘアーの小娘達
「上がってください、船の火災もあるので長くは着陸できません。」
イベリコが手を差し出す。
「なんだその泣きっ面は?似合わないな」
この水色はいつでも無駄口が多い
「お前こそ生きていたのか、とっくにくたばったかと思った。」
口が荒いように見えるがお互い最上級に褒めている。
「無事でなによりです。出して下さい。」
たぶん天使はこいつだけだ。彼女の掛け声で扉を閉めて機体は上昇する。下ではまだ戦闘が続いているが
「さて、なぜお前らがここにいて、このヘリと部隊はなんなのだって顔してますので説明しなければなりませんね」
-数時間前 函館-
軍部にお願いはしてみるものの、政府がダメと言えば出動は叶わなかった。かつての好で知り合いの軍人に連絡を取るも「上の判断は絶対」と断られた。このままでは戦闘に巻き込まれた彼女らが危ない。ひとますコウのPCはこのままで、銃器をいくつか持って現場に向かうとしましょう。
インターホン先輩「ピィィィンポォォォン(迫真」
「はい?」
お客さん?宅配便かも 玄関を開けるとスーツ姿の男性が数人
「おはようございます。こーゆー者でして」
「諜報機関の方が私になんのご用事で」
「札幌で我々の仲間がお知り合いを保護したと連絡がありました。ですので、彼の指示で私共はお迎えにあがりました。」
「佐久間さん、でしたっけ?しかし、今から高速を飛ばしてもここからでは3時間は…」
「ご安心ください。空から行きます。」
アパート上空に複数のヘリが降下してきた。ロシア軍Mi-24VM最新のハインドだ。攻撃と輸送を兼ねたそのボディはとても大きく、吹き付ける風も強い。
「荷物は部下が運びます。急ぎ準備を」
-函館 上空-
「ヘリをまわして下った事に感謝申し上げます。しかし、相手は恐らくパラミリのSOGです。こちらも相応の歩兵戦力がなければ…」
大きなボディのヘリはなかなか快適な乗り心地で空を飛ぶ。
「北方と同じく我々も正式な軍を使う訳にはいきません。ですので、もし準備があれば”非正規”の部隊を使ってはどうですか?」
男性の言葉に思い当たるとこがある。
「なるほど、その手が…でしたら東千歳駐屯地へ向かってください。全ヘリに詰めるだけ人を載せます。」
「でしたら、我々情報部の人間はそこで降りてスペースをあけましょう。あとこちらから準備する物はありますか?」
「でしたら…貴方の上司とお話できせんか?どうせ1時間はかかります」
「かしこまりました。すぐに」
二人とも待っていてください。
-千歳市 キャンプ東千歳-
自衛隊の駐屯地をそのまま吸収したので キャンプ の呼び名はあまり浸透しない。ここには”機材の故障により不時着”として着陸した。
「ご無沙汰しております。」
ヘリポートで待っていたのは灰色の迷彩服に身を包んだ男性だ。彼は陸奥侵攻の折、ある人物の下で戦い生き延びた数少ない人間だ。
「本当にご無沙汰しております、大佐。今や一個の部隊を指揮なさる隊長さんだなんて、あの子が見たらなんと言いだしますやら」
「ですが今隊長、いえ、元隊長が危機に瀕しているとお耳にしまして我々が集結しました。現在点呼が終わり装備の確認中です。問題なのは軍のヘリや車両が使えないことですが…」
「そこは問題ありません。ロシアがあのハインド全部貸してくださるそうなので、乗るだけ乗せてすぐに現場に急行します。非正規部隊でありながら類まれなる戦火を上げてきたASKTの出番です。」
「皆、我々しかできない仕事、そして師を命に代えても救いたいと沸き立っております。」
大佐に通されて近くの格納庫に入ると綺麗に整列した隊員の姿が目に飛び込む。
「皆さん本日はお忙しい中ありがとうございます。今は時間がありません。動けるのは貴方達だけ、相手はパラミリです。簡単にはいかない相手ですが、皆さんならこの危機を打開できると信じております。では出撃」
「以後ハインドのコードネームはポッドとする。コーヒー、モカ、ラテ、ココアに分かれ搭乗!!急げ!!!」
隊長の言葉で無駄な動きなく彼らは装備をまとめて搭乗する。
「全体指揮は貴方が、私は部隊の指揮を行います。」
インカムを渡され、少し戸惑う。
「貴女が状況判断力に優れているのは知っています。だからこそ頼みたいのです。」
「わかりました。たしかに非公式でしかできないですね。」
ハインドは駐屯地を飛び立った。
しかしすでに彼女らは戦闘を開始していた。
-路上-
グラスに移し出される情報は推定だが敵の残弾数も知らせてくれる。その情報を頼りに弾切れのUSPを投げ捨て、腰のコンバットナイフを抜き、自慢の跳躍力で弾倉交換をしている敵に近付き喉元を切り裂く。G36を奪うと頑丈そうなコンクリの陰に飛びん込んで反撃を開始する。
「10人相手はさすがにキツイか…」
いくら射撃に自信があっても相手は特殊部隊。簡単には倒れてくれない。G36が火を吹いて装備の弱点に撃ち込むも、ある程度弾道を予測してるのか避けられる。
「こいつは手ごわいなぁ」
コンクリにぱぱぱと着弾音が撃ちつけ、どんどん削れていく。
「にゃろ」
反撃をした瞬間
たーん
と音が鳴ったと同時にG36は砕け散った。狙撃で武器を破壊されてしまった。
「まずいな」
これまでになくヤバイ状況だ。送信所の時以来かもしれない。コウからもらったメガネもバッテリー切れで画面が消える。
「次回があれば1時間は使えるようにして貰わないとな…文句も言えればいいが」
状況不利。拳銃を出そうと鞄を開くとさらに絶望した。スマホにひびが入り画面が消えている。いくら生身には当たらなくとも鞄には弾が当たったようだ。
SP2022が一丁だけで弾は15発しかない。このような事態想定をしてないのだから当然か
「派手に散るかなぁ」
拳銃のスライドを引いて覚悟を決める。
何か飛翔音がすると思うとグレネードの様なものが弾着し、強烈な閃光で敵は脚を止める。大きなエンジン音と共に上空にヘリが大量に押し寄せた。ロシアのハインドVMだ。23mm連装機関砲GSh-23Lで敵をあらかた掃討したあと、多数の缶が落ちてきたと思うと煙が噴き出したちまち視界が悪くなる。ヘリボーンで兵士が降下するとすぐに隊長格の兵士がこちらに駆け付ける。
「北方軍ASKTです。隊長殿お怪我はありませんか!?」
「大丈夫だ。それに私はもう隊長じゃないぞ?」
彼はよく知っている。
「我々は貴女がピンチと聞き、全力でここまで飛んできました。敵はお任せ下さい。」
「一人前になりやがって」
聞いてか聞かぬか彼はすぐに無線に向かって叫ぶ
「モカ、ラテ、は各自散開、ココアとコーヒーは上空から援護だ。数で押しこめ!!ポッド各機は携帯式対空ミサイルに注意せよ!」
その部隊の動きはパラミリと互角に戦っている。かつて自分の部下で、陸奥攻防戦の唯一の生き残りを集めた部隊なのだから当然か。あの戦いでは上陸した兵の8割は生きて帰れなかった。自分の逃がした部下でさえ生存者は少ない。その中を生き延びた生存者(サバイバー)達はより訓練を受け、今では世界に誇る強さを持った強靭な兵士に育っただろう。ただ身元不明の少女が指揮官だったり、少年兵も多数所属していることから非公式として扱われ、普段は各時それぞれの部隊で生活、有事の時だけ招集される。もちろん非公式なので任意だが。その部隊の名前はASKT
Armaments Special Knifer Team
の略称で、私が近接攻撃が得意なために彼らもそう仕上げた。もちろんマルチに戦える部隊であり、秘密裏に遂行される作戦で数々の戦火を上げた。閃光手榴弾や煙幕など非殺傷兵器の運用に長けており、他の軍隊と違って発砲数と殺傷数を少なく作戦を遂行する。
状況は打って変わりこちらの圧倒的有利で銃撃戦は幕を閉じた。生き残りは数名、自決しようとした瞬間をなんとか止める事ができた兵士だけだ。
「大佐、まだ終わっちゃいない。大切な仲間が命をかけて戦ってるんだ。そいつを助けに行かないと」
「もちろんです。そちらも指示通り追跡し、これから向かいます」
「指示って誰の?」
独立愚連隊がどこから指示を仰ぐのだ?
「向かうはずの港で船が襲撃、炎上しているとの報告がありました。コウと諜報員は現在位置を捜索中です。ここは地元警察に任せて出発しますよ、敵の増援も近いです」
無線から聞こえるその声は函館にいるはずの少女だった。
「なら早く着陸してくれないかなー?さすがにロープを登るほど体力ないよ」
「少々お待ちを」
借りた無線を返し、ため息をついてその場に座り込む。さすがに疲れた。
-苫小牧上空-
「で、そのまま連絡もなしにここへ急行したと」
コウがなにか不満げな顔でこちらを見る。
「私も急いでたので携帯を忘れて…」
「壊れたから連絡の取りようがなかったから…ね?」
必死の言い訳
「生きて……なら……ら連絡欲…かった…」
ヘリの雑音でその言葉は聞きとれなかった。
「とりあえず敵さんはこれで引き上げるだろう。私たちもこのままロシア大使館へ直接降りる」
「許可は取ったのか?」
「ヘリを貸してくださった人にお願いしてロシア政府と交渉した結果OKを貰いました。無期限の滞在許可もです。絶対に手の出せない治外法権エリアなら自体が落ちつくまで安全です」
「ロシア…あいつは!?」
コウが何かを思い出したかのようにイベリコに問いただす。
「彼は…ココアチームが交戦地点へ向かいましたが、身元不明の死体が数体だけとしか報告はありません。今も捜索中です…」
身元不明 それは第三者からみれば当然だろう。彼も一流の諜報員なら本当の身分を示すものは簡単に見つかるようには持ってないはず。つまりその死体に含まれているかもしれない。コウの顔から血が引くのがわかった。
「そんな、死なないって…言った…約束…した…」
コウは倒れた。溜まった疲労と精神的なショックにより。