-オーストラリア海軍本部施設-

 突然の轟音と共に視界は真っ暗になり、意識が遠のいた。気付くとガレキと砂ぼこり、煙の立ち込める「施設だった物」の地面に倒れていた。起き上がって五体満足を確認し

 「七咲艦長、鯨伏艦長ご無事ですか?」

 近くで横たわる艦長達に駆け寄る。幸いにも爆撃の様なものは至近弾でここへの直撃はなかったようだ。豪軍関係者も無事

 「海上で戦闘だ!!」

 外から叫び声が聞こえたのでガレキを押しのけて埠頭に出ると炎上する船舶と激しい弾幕で湾内が照らされる。

 「イベリコ?状況を、イベリコ?」

 無線機がコンクリートの破片が直撃して使えない。

 「司令、ここはあかつき丸に乗り込み急ぎ脱出を」

 「しかし沖合に停泊してる船にどう乗りこむか」

 周囲を見渡し、ちょうどいい物を見つける。SH-60通称ブラックホーク 輸送ヘリだ。

 「よし、負傷者は基地の人間に任せて我々は船に乗りつけましょう、これで」

 ヘリを指さすとその場に居合わせた者は不安な表情を浮かべる。

 「操縦できるんですか!!?」

 「シュミュレータなら経験済み 空に帰るぜぇ~」

 「えぇ…大丈夫です…?」

 

-あかつき丸 露天甲板-

 やはり知識はあって無駄にはならない。初めてヘリを操縦したがなんとか目的の船までたどり着いた。着陸なんて高度な技術はないので乗ってる人をロープで降ろした後に飛び降りて一機4400万ドルのヘリを海に捨ててしまったが。

 「いやぁ、なんとかなってよかった」

 ニコニコしながら服装を整える。

 「……もう、絶対にヘリは乗らないです」

 艦長達はゲッソリしていた。

 「もたもたするな、ミサイルが飛び交ってるんだぞ」

 急いであかつき丸の艦橋に駆け上がり船長に迫る。

 「船長、状況を説明してください。」

 「無線が混線していますが、艦隊旗艦パスカルメイジからはすぐに出港、湾内からの脱出の命を受けました。現在本船も護衛艦に続いているところです」

 よし、指揮は生きてるな

 「よし、じゃあ速度、進路そのまま、パスカルメイジに無事を伝えてくれ」

 「了解しました。無事に逃げれますか?」

 船長と船員の不安げな表情に

 「大丈夫です。敵の弾なんてあたりゃしません」

 笑顔で返した。

 

 

 「右舷より小型ボート急接近!!」

 その叫び声を聞いて双眼鏡を構えた時には銃弾の雨が艦橋に降り注ぐ

 「伏せろ!!!」

 艦橋にいる全員を伏せさせ、床を這いずりながら船長の元へと向かう。

 「なにか武器は?」

 「自衛用の20mmガトリングが艦橋脇の見張り台にそれぞれ二門、あとはその銃金庫にM16が入ってます」

 「おーらい、武器庫開けてて」 

 「司令は?」

 「あいさつしてくる」

 すでに随伴の巡視船が応戦しているも相手は動きの速い小型ボートで苦戦しているようだ。

 「あっ」

 ロケット弾を撃ち込まれたのか巡視船の艦橋が炎に包まれた。あれでは指揮が乱れるだろう。敵は護衛を排除した瞬間こちらに牙をむけた。スコールのような銃弾の雨が艦橋に撃ちつける。

 「ガトリングはあれか」

 擬装用のカバーがかけられたガトリングを見つけ銃弾の雨の中を飛び出す。

 着弾の金属音が大雨のように撃ちつけるも、持ち前の小柄さと素早さで見張り台に設置されている20mmガトリング砲に簡単にたどり着く。ロープをほどきカバーを投げ捨てトリガーに指をかけた。

 「あいさつされたら、返すのが礼儀ってもんよ!!!」

 モーター音と共に銃身が回転し、ブォーと低い音で弾を打ち出した。人間がまともに当たれば肉片になるであろう。曳航弾が光の線となり照準を修正していく。

 「ひとつ、ふたつ」

 装甲などないに等しい小型のプレジャーボートなど穴あきチーズのようになり、次々と爆破していく。

 しかし相手もバカではなく、射角の足りない死角や反対側に回りこむと反撃してきた。防弾プレートがあるとはいえ、着弾と共にくぼみができる。

 「重いな、12.7mmか?」

 やがてガトリングが弾切れとなり船内に退避する。

 「武器は」

 「用意できてます」

 投げられたM164を受け取りストックの長さを調整し、安全装置を解除した。

 「またずいぶんを古い物を」

 「米軍からのお下がりですから。一度も使われたことはありません」

 

 カンカン と金属音が甲板より聞こえる。貼りつかれて強襲用のワイヤーでもかけられたのだろう。

 「敵が上がってくるぞ!艦長二名は使えますね?」

 「元軍属ですから」

 鯨伏艦長が余裕の笑みを浮かべる。

 「私も大丈夫です」

 七咲艦長も

 「船長は?」

 「予備役で一応経験は、ただ一部船員は素人です」

 「撃てればいい。船内マイクを」

 『達する。船内に海賊が侵入、各自装備を確認したのち、防火扉を閉鎖、持ち場を固めよ』

 

 「予備です」

 予備弾倉を床に何本か滑らせパスを受ける。軍服のポケットにありったけ詰め込むと準備は完了した。

 「よーし、白兵戦用意」

 

 敵はこの核燃料を積んだ船の破壊はしない。奪って持ち帰るはずだ。そのためにはまず指揮と操舵を奪うために艦橋を制圧するのは基本だろう。

 「操舵を自動航行にして銃撃てない奴は下のフロアに降りろ!手りゅう弾投げ込まれたら終わるぞ!」

 「右舷外階段下に敵多数、反撃をする隙がないです」

 「銃だけ出してバラまけ」

 甲板には続々と敵兵が乗船し、こちらに向かう。タン タン タンと指きりで一発ずつ当てるも大して怯まない。

 「七咲艦長、頭は狙えるか?」 

 「あまり自信がないです」

 「敵は5.56mmでは防弾ベストかクスリが決まって怯まない。急所を狙わないと」

 「私が」

 鯨伏艦長が綺麗なフォームで構え、単発で続々と仕留める。

 「いける」

 と思った瞬間フラグを回収した。

 「グレネード!!!!」

 一個の球体が投げ込まれる。

 「伏せろぉぉ!!!」

 すぐに外に投げ返し、手りゅう弾は船外で爆発した。衝撃で転ぶも問題はない。

 「司令、このままではこちらの弾は尽きます。なにか打開策は」

 「うーん・・・」

 「敵の懐に飛び込む。援護よろ」

 「え」

 返事を待たずに外に飛び出し階段を駆け降りるのではなく、飛び降りた。クッションは敵兵。数名の敵を踏みつけ、相手は混乱している隙をつき至近距離で5.56mmを叩きこむ。フルオートで薙ぎ払うように3名を撃った瞬間弾が出なくなった。

 「ジャムった!!?」

 使われずメンテをされてなかったのか、信頼のM16でも廃夾不良を起こしてしまった。通常手動で廃夾して処置をするがまだ5名の敵に囲まれたまま。艦長たちの援護を受けつつ、とりあえず銃を鈍器にして数名を殴り飛ばし武器を拾う。

 「FN FALか」

 7.62mm×51mmで反動がでかいが、その威力は頼もしい。砂漠など砂に弱いため中東では使われないが、東南アジアでは湿気に弱いAKよりも重宝される。

 単発、至近距離で撃ち込むと防弾ベストも貫通して敵は倒れ込んだ。

 「ひとまずここはクリア」

 倒れた敵から予備の弾倉と拳銃を拾う。拳銃はガバメントだった。

 「司令、別の敵が核燃料の保管庫に向かっています!」

 大きな声で七咲艦長が叫ぶ。

 「わかった。艦長達はついてこい、残党狩りといくぞ」

 「小型ボートは巡視船と護衛艦が始末しました。乗船した敵を排除すればひとまずは安心ですな」

 いつのまにか側に来ていた鯨伏艦長が冷静に状況を伝える。

 「白兵戦は私のお箱だ」

 少し笑みを浮かべた。

 

-パスカルメイジ CIC-

 「あかつき丸が別動隊に襲われたとの電文です!随伴の巡視船はロケット弾で艦橋を破壊されるなど被害多数、さらに敵があかつき丸に乗船した模様」

 「あっちにはドンパチが得意な司令が乗りこんでいます。大丈夫。ソナー、潜水艦の位置は?」

 「ソノブイと本艦のソナーから方位2-4-6距離30です。地形の入り組んだ場所へ逃げるようです」

 「させん、スティガンテ用意」

 「スティガンテ座標入力完了」

 「撃て」

 艦首VLSから二発のミサイルが撃ちだされる。圧縮空気で撃ちだされるため艦橋のガラスが割れていてもコウ達は無害だ。

 「AIはミサイル艇からの攻撃に注意、迎撃はもっとも被害の少ないパターンで行え」

 『アイ、マム』

 「さて、潜水艦は逃げるだけか?それとも」

 「スティガンテ着弾まであと10秒…今」

 「観測手、どうだ?」 

 「爆発は小規模です、近付かないと確認はできません」

 「ソナー、回復までどの程度かかる?」

 「外れたのであれば30秒で……待って下さい。別方向から魚雷接近!数は2いや、3

 「進路そのまま、誘導か?」

 「探信音聴知、誘導魚雷です」

 魚雷艇か?潜水艦は逃げているし、先ほどの爆発でソナーは使えないはず。

 「デコイ放出」

 デコイの走った方向に魚雷は引き寄せられ爆発した。

 「さらに同一方向から魚雷、探信音はなし、向誘導です。扇状に展開!」

 「操舵手、コウかわせるか?」

 艦橋のモニタに魚雷のコースを送る

 「簡単です」

 「AIでバックアップする」

 「ヘルムライトフル、魚雷に船尾を向けろ」

 

 敵はなぜ誘導魚雷だけ使わない?現代では向誘導など船の機動性で回避できる。事実、先の魚雷で進路を崩してもう一発誘導を放った方が当たるとはずだ。いや、

 「ソナー、潜水艦は?」

 「待って下さい……いつの間に!?本艦後方にいます!先ほどの誘導魚雷の放った方位です!」

 しまった。

 扇状に広がったはずの雷跡はヘの字に曲がり全部こちらへ直進する。

 「あるだけのデコイに音響と自立走行を入力、本艦と潜水艦との間をかき乱せ!」

 「しかし向誘導には」

 「あれは有線のセミアクティブだ。かく乱するぞ」

※セミアクティブ 潜水艦魚雷の誘導方式の一つ。有線で母艦よりコントロールして目標にぶつける。ワイヤーの長さに限界はあるがデコイなどで邪魔されず破壊できる。

 有線ならば相手は着弾まで操作する。ならば目を見えなくすればいいだけだ。

 「デコイ発射、ランダムに動きます」

 しかし潜水艦はこちらの位置を正確につかんでいるようでデコイには目もくれない。

 「デコイを手動操作、魚雷に当てろ!!」

 「6機のデコイを同時には…」

 「AI、サポート」

 『アイ、マム』

 AIの正確なコントロールによりデコイは妙な起動を描き、魚雷にぶつかり水柱を立てる。爆発も近く艦内は激しく揺れる。

 「っ、反撃するよ!」

 「こちらソナー、今の爆発で潜水艦をロスト、回復までお待ちを」

 「くっ……本艦の安全を確認次第、救援に向かいます」

 拳を握って叩きそうになるもこらえる。引き際を心得た敵のようだ。

 

 

-あかつき丸 核燃料格納庫-

 「あひゃひゃひゃ」

 「司令、前に出すぎです!!」

 敵の前に堂々と姿を晒して大量の銃弾をプレゼントされる。七咲艦長が引っ張ってなければ当たっていた。

 「すまん!!」

 給水管に背に隠すも7.62mm弾を弾く反動が背中に伝わる。

 「くらえ、怒りのFALフルバースト!!」

 まともにリコイル制御できないが敵にぶち込む。

 「牽制にはなってますが当たってないですな」

 「放っておいてください…」

 鯨伏艦長の冷静な観測に肩を落とすも、急いで弾倉を交換して再装填を済ませた。

 「さて、どうしますか」

 「まともな訓練受けたのは我々のみ、あとの船員5名は素人同然です」

 「ん~」

 「正面突破が無理なら回りこむしかないかと」

 「しかし、保管庫前は制圧されています。解錠に手間取っているのでまだ余裕はありそうです」

 「通路突きあたりでは回りこみはできないし、正面からは火力が足りない」

 相手の人数は20人弱と言ったところ。しかも訓練されたゲリラだ。

 「あ、あの」

 たわしのような髪型をした船員がなにか言いたそうだった。

 「どうした?」

 「実は、小柄な体格なら通れる程度のダクトがこの付近には張り巡らされています。そこを辿って敵の上部から奇襲などは…」

 指の先には確かに大型の通気口

 「あれね」

 「無理…だな。成人ではあの狭さは通れん。スパイ映画のように上手くはいかないと思うがね」

 「そう、ですよね…」

 少し自信があったのか彼は肩を落とす。

 「小柄ならね…」

 「ここは成人しかいないからな」

 そう小柄な体格なら…

 「成人…?」

 視線が集中する。

 

-モートン湾口 ブリビー島沖-

 「潜水艦を完全に見失い(ロスト)ました」

 「引き続き対潜警戒、駆逐艦からの対潜ヘリを出して見つけ出せ」

 『こちら艦橋、操舵系の機能は8割回復したが他はやっぱりダメだ。あと風通しが良すぎて潮風が気持ち悪い』

 コウのかなり不満そうな声がわかる。

 「空調も火災で死んでる。我慢しろ。あかつき丸は?」

 「後方より追従してきます。艦橋の脅威は排除し、船内で以前戦闘中とのこと」

 「ふむ、無事な護衛艦と巡視船から増援を送ってやれ、戦闘可能な船は?」

 「駆逐艦は一隻が魚雷を受けていますが、応急修理で対応。巡視船一隻が大破、直衛が艦橋に被弾して混乱、護衛艦はすべて健在、駆逐1護衛5です」

 「よし、救助は豪軍に任せて艦隊は列を組み直し進路を函館にとるぞ」

 「Aiによる理想陣形でました。各艦に送信します」

 奇襲で乱れていた艦もゆっくり舵を切ってあかつき丸を中心とした輪形陣に変化させる。だがあの船内では通信もできないほど想像を絶する白兵戦が行われているのだろう。

 

-あかつき丸 第二甲板 換気用ダクト- 

 スパイ映画やアニメ、ゲームでは通気口をほふく前進して潜入などお決まりだが、現実世界では綺麗なものじゃない。

 「埃がすごいし、狭いし、真っ暗だし!!」

 這わせる腕と脚は真っ黒になり、少しでも突起物があれば通れない程度にそこは狭かった。

 「あと暑い!!」

 ズズッっと身体を動かし、金属通しがこすれたら大きな音が出るために重い銃を浮かせて前進する。

 「特殊部隊出身ならばこの程度得意だと思っていました」

 「訓練されたのではないのですか?」

 無線代わりのスマホからは煽りとも受け取れる声援を頂く。

 「覚えてろ…」

 分岐

 「どっちだ?誰かわかる?」

 「迷った時は右にいけばいいと某漫画で」

 「君も大概だな…」

 言われた通り右に進むと敵の真上に到着した。

 「(うそやん)」

 「~~~」

 「~~~」

 扉を破ろうとする敵達が何か喋っているも、現地語か?サッパリわからない。

 そんじゃま、いきますか

 「~~!!?」

 ダクトの金属製鉄格子を外すと一人の頭に直撃し、悲鳴が上がった後に床に落ちる金属音で廊下が響く。

 「突撃!!!!」

 状況を飲みこめない敵の中に飛び降り、近くの奴から数発づつ叩きこむも、外の奴らより頑丈な防弾ベストがあるのかよろける程度で終わる。室内戦を想定してアーマーも強固だ。

 「く、た、ば、れ!!」

 全部当てる

 が、20発あった弾はすぐになくなり、小銃は唯の鈍器と化した。

 すぐ生き残ってる敵に銃を向けられなにもできなくなる。

 「あー、話し合おう」

 「グワーッ!」

 たたた っと銃撃がこちらに飛んでくる。すぐに伏せ、さっき拾ったガバメントを至近距離で撃つ。防具のない首元へ。

 「次、間違えて私を撃つなよ!!」

 艦長達の援護だ。

 「善処します」

 普段より短いが、携帯しているナイフを左手で逆手に握り、相手との間合いを一気に詰める。スライディングで股の下を抜けると同時にナイフで切る。

 「次!」

 悶絶して倒れ込む兵士をみて周りがたじろぐ。

 『英語は通じるかしら?かかってきなさい!!』

 小銃を振りかざして襲ってくる。味方が密集しているので発砲はしない判断か。多少訓練されているようだが、

 「遅い」

 かわし、下からガバメントを撃ち、ナイフを持ちかえ首めがけて一突き。

 「…っ」

 近接は不利と悟ったか敵は距離を空け、遮蔽物に身を隠しながら射撃する。

 「司令、今のうちに扉に繋がれている端末を」

 今も数人が扉を開けようと必死だ。その端末を破壊すれば…その距離5

 脚に力を入れ、靴が きゅっ と音を立てて飛び込み、解錠する数人へ襲いかかる。

 「これを壊せば!!」

 端末にガバの残弾を撃ち込んで破壊し、一人を背負い投げて他二人へ投げつける。

 すぐに姿勢を直した敵に撃たれそうになるも

 たたたたん と艦長たちのいる通路から多量の銃弾が浴びせられる。

 「増援です!!」

 よかった。

 巡視船や駆逐艦からのまともな兵士の増援だ。礼装軍服に拾った武器の私たちとは戦闘力が桁違いだ。

 「生き残ってるのは尋問する。縛って1部屋に あとは…海に片づけよう」

 残弾のないガバメントを投げ捨てガタンと重い金属が床をはねた。そして安堵のため息をつく。

 

 

-パスカルメイジ CIC-

 「増援の突入によりあかつき丸の制圧完了、艦長と司令官も無事です」

 通信使の報告にCICでも少しの歓声が上がるが

 「浮かれるな、進路そのまま、こっちはまだ終わってない」

 気を引き締め直す。私だって声を上げて喜びたい。

 「前方よりミサイル飛来、照準は本艦です!!」

 「迎撃並びに回避運動!!」

 急激な舵に叩きつけられるような横Gで揺られる。

 「短SAM撃てません、砲にて迎撃します!」

 前方は艦尾に供えられた短SAM発射機の射角外であり、装填、旋回、発射と時間がかかるのが裏目に出た。すでにミサイルでの迎撃圏内を突破して着弾まで数秒

 57mm高速射砲とCIWSによる弾幕が展開され、腹に響くような爆発が数発、最終突入段階の敵ミサイルは迎撃された。

 「ラジエダ、モンゴメリに被弾、被害確認」

 だが僚艦は被弾したようだ。

 「反撃、こんな短距離からとは…」

 「おそらく相手はミサイル艇です。レーダーには乏しい反応があります」

 「停泊時の奇襲でこちらのレーダー類は損傷しています、索敵能力は期待できません」

 対空用のSPYレーダーと各レーダーが載ったマストは破壊されていた。カバーに覆われた二本目のマストだけで代用はできるも限界がある。

 「ドロップワン、高高度から貨物船などをミサイル艇の母船になりそうな船を探して」

 「アイ、ショーティ。これより索敵にあたります」

 外から爆発音と金属を叩くような音が連続して聞こえる。

 「ミサイル艇さらに接近、搭載砲での砲撃です」

 「進路そのままでジグザグに回避運動、速力前進全速、爆風や破片の危険がある。艦橋からは全員退避しろ」

 『それは無理です』

 『無理だね』

 「なぜ!?」

 『私は艦橋三人娘の一人にしてこの艦を一番上手く扱える操舵主です。砲撃が怖くて艦橋から逃げるなんて恥です』

 「コウだけでも!」

 『私は…まぁ、この娘の補佐をしないといけないからな。なんか忙しいんだぜ?』

 「んぐぐぐ……」

 『あんたの操艦だ。死にゃせんさ』

 『艦長代理を信じていますから」

 こいつらは誰に似て……

 「戦闘は主砲、副砲で対応しろ」

 思考がこんがらがってる間にも砲雷長は戦闘を続ける。

 「カレントアルファ、こちらドロップワン。不審な貨物船発見するも対空砲火激しく接近を断念。座標を送る!」

 もうどうにでもなれ!!

 「駆逐艦へハープーン、護衛艦にレーヴァテイン発射要請!」

 「アイ、ショーティ」

 「本艦はスティガンテにて偽装船の喫水線下を狙う」

 「もう残弾ありません!」

 「ちっ、ならレーヴァテイン用ぃ」

 「左舷より魚雷接近!!」

 「デコイ放出、左回避運動!発射位置特定急げ!」

 「特定ならず、デコイはもう残機がありません!」

 「魚雷船体中央へ直撃コースです!」

 「総員魚雷の衝撃に備え!対ショック体勢!」

 「とっくに対ショック!」

 魚雷の爆発と共に船体は軋む音を立てながら大きく揺られた。衝撃で飛ばされないよう座席に捕まるので必死だ。

 中央に被弾したならこれから浸水が

 「被害報告!!」

 「え、っと、被害なし。こちら機関室、本艦への被害はありません!」

 「なに?」

 

 『よう、間に合った?』

 ザザっとスピーカーから無線が入る。この憎ったらしい声は間違いなく

 「司令殿?」

 『あかつき丸船上より対物ライフルでの魚雷狙撃だ。直撃しそうなのをな』

 「ゴルゴかコブラですか貴方は…」

 『助かったろ?やっぱり私が一番活躍しなきゃ』

 「はいはい、すごいですねー」

 無線の切る。また助けられてしまった。あの娘に

 喋る暇もなく死闘をしてた奴が何をはしゃいでいるのだか……あとで褒めてあげないと

 

 

 湾口で爆音と水柱が大きく上がる。

 「あの場所は…」

 観測主が光学カメラでズームした映像を出す。

 「ずっと前に自立誘導で放置したスティガンテだ。地形が入り組み索敵しにくいのと、海流の流れが速いから動力を切って移動ができるんだ。私が潜水艦の艦長ならあそこを通る」

 「それをあの時点で判断して投下したのですか?」

 「そう、半分勘だったけどね。どう?見直した?」

 聞こえてはいないだろうが、船の甲板でドヤ顔してるあの娘の方向を観ながら自慢し返した。

 「機雷のようにばら撒いて海中を浮遊するスティガンテ付近を潜水艦が航行、自立誘導にて判断する弾頭は潜水艦を探知し追いかける。距離が近いので回避できなかったと」

 砲雷長らが冷静な分析を進める。

 「機械じゃできない芸当だな。AIに学ばせよう」

 

 突然CICの電子海図に敵を示すアイコンが表示され管制官が叫ぶ。

 「データリンク更新、もう一隻の潜水艦の位置情報です」

 「もう一隻!?二隻で攻撃を仕掛けたのか…こっちは一隻を追いかけていたと思いこんでいたが……まて、その情報はどこから?」

 「発信先は、前方の艦隊?空母を含む大艦隊です」

 「電文きました。読み上げます。『こちらはアメリカ合衆国海軍第7艦隊。これより海賊を掃討を開始する』と?」

 棒読みする通信士と

 「あ、アメリカ?」

 「なぜ今頃?」 

 困惑する乗組員

 「わからんが感謝の電文を…」

 「米艦隊より対潜ヘリが展開、艦載機も随時発進!」

 「本艦上空を艦載機が通過します!」

 艦中心部にあるCICにもF-35の爆音と衝撃波が伝わる。

 本当に助けが来たのだ。

 「潜水艦に向け投降を呼びかけるピンガーを打て、あとは被害の確認と負傷者の手当てあが最優先だ。ついでに艦長達を回収」

 「偽装貨物船が米軍の攻撃により沈黙、同歩兵が突入しました」 

 「すぐに制圧されるだろう…米艦隊旗艦に無線は繋がりますか?」

 「米軍バンドで応答すれば繋がるかと思いますが?」

 そう、同盟国でもなければ友好国でもない。ましては外交官でもないこの私が外交をするなど…

 

 『 合衆国海軍第7艦隊司令官へ。こちらは北方独立行政府特務輸送船団司令官である。直接お話しがしたい』

 私が介入しなくとも話をつけるようだ。

 

 

-あかつき丸 艦橋-

 野蛮な族も増援が来た事で制圧、自体は終息した。間もなく日の出の時間となりうっすらと明るくなった外へ出て、激しい銃撃戦の痕が残る艦橋に上がると戦闘を続ける護衛艦群が目に入る。船団の前方でミサイルに砲撃が飛び交い、小型のミサイル艇が豆鉄砲のような砲を打ち続ける。

 「なんとか援護はできんのか?」

 「無理です。20mmも弾切れ、手持ちの小銃では射程が足りません」

 「この船体を小さいのにぶつけて転覆ぐらいはできるでしょう」

 「鯨伏艦長それです!!船長、速力を最大まであげてパスカルメイジに寄せて」

 「あの渦中に飛び込むのですか!?」

 「こっちは核燃料積んでるんだ。敵も迂闊に撃てまい」

 「りょ、了解しました」

 ディーゼルエンジンの噴き上がる雄たけびと共にゆっくりと加速を始める。

 「むっふっふ~ あとはなんか武器があれば…」

 周りを見渡し

 「へっ?」

 一人の兵士と目が合う。双眼鏡で見張りをしていたが、背中にはスリングで長い銃身の銃を背負っている。

 「それ、貸 し て ♪」

 「え、はい、あの、よろしいですが当たるかは…」

 「君だって小型ボートに当てる自信ないでしょ?持ってても無駄むだ」

 彼が助けを求めようと周囲に目をやるも

 「渡してやりなさい」「言っても無駄」

 と皆あきれ顔だ。

 「よっし、対物ライフルゲットだぜ!」

 ロシア製対物ライフル KSVK 発射機構はボルトアクション方式でブルパップ方式を採用している。そのため、長い銃身にも関わらず全長はコンパクトで、銃を運びやすい。弾倉は5発入り。

 「あとは~」

 予備の弾とあかつき丸を経由して喋れる無線子機も腰にぶら下げ

 「じゃ、ちょっと船首いってくる」

 「船首って」

 「アレで」

 階段下の軽快車(俗称:ママチャリ)に飛び乗り立ちこぎで全力疾走する。船の上が数百メートルあるタンカーや貨物船はこれで移動するのが常識だ。

 『パスカルメイジとの距離1000を切ります』

 一応報告をくれる船長たちに感謝しつつ、全力で強虫ペダルをすれば船首に到着。

 ブレーキと同時に後輪が浮き上がり「ジャックナイフ」と呼ばれる技を披露した後、船の揺れも相まってバランスを崩して吹き飛んだ。自転車は勢いをつけたまま海へ放り出されてしまったが

 「いててて」

 『魚雷確認!パスカルメイジへ』

 「メイジとの間に割って入れるか?」

 『距離と速度的に無理です!』

 「なら舵そのまま」

 KSVKの二脚を立てて甲板に置き、うつ伏せになってスコープを覗く。朝日が少し登った程度で横から差し込み視界は明るい。数本の魚雷を目視で確認した後、どれが当たるかを考える。小型とは言え全長124mの巨体がゆっくり左へ舵を切る。

 「あれは中央に当たるな」

 一本、どう舵を取っても当たるコースがある。揺れる船上から1000m。動く魚雷の偏差射撃。勝負は一発きり。

 (魚雷を視認してからこの間2秒)

 引き金を引くとストックを当てている肩に重い力で叩かれた間隔が入る。マズルブレーキで反動は抑えられていると言っても12.7mm×108mmは重い。その射撃音は銃声より砲撃に近いかもしれない。

 地球の重力と海上の強い風に流されつつも真っすぐ進む白い泡の先端に弾は着弾した。

 「外した…?」

 と思った瞬間爆発と水柱が上がったので見事弾頭部に命中だ。

 艦橋からは歓声が聞こえた気がした。無線の周波数を弄ってイベリコと繋げる。

 「よう、間に合った?」

 『司令殿?』

 なにが起きたか理解してない様だ。

 「あかつき丸船上より対物ライフルでの魚雷狙撃だ。直撃しそうなのを」

 「ゴルゴかコブラですか貴方は…』

 「助かったろ?やっぱり私が一番活躍しなきゃ」

 立ち上がりコッキングして重い薬きょうを捨てた。

 『はいはい、すごいですねー』

 ブツっと無線を切られた。たぶん忙しいのだろう。

 なにか清々しい気持ちになり、ライフルを杖のように立ててドヤ顔でその場に立ち誇った。

 

 ドヤ顔でポーズを決めていると、突然空を何かが通過した。数秒遅れて轟音が腹まで響いて聞こえる。戦闘機だ。

 「艦橋、どこの戦闘機だ?」

 『えっと、電文ありました。米海軍第7艦隊です。前方に展開している模様』

 「米軍の周波数で無線繋いで?」

 『……繋がりました』

 「合衆国海軍第7艦隊司令官へ。こちらは北方独立行政府特務輸送船団司令官である。直接お話しがしたい」

 『日本語でOKネー!ミーは第7艦隊司令官ガルナ・I・キムリッシュ中将デース。直接ミーティングできなくてソーリーね』

 「えっ…あ、その、気にしません。米軍がなぜ今海賊狩りを?」

 「ミッションは以前よりオーダーされており、ミー達もこのオーシャンでウェイティングしてた。しかし同盟国であるおーすとレリィアがアタックされたからモア急いできた。ソウ、潜水艦・偽装貨物船へのアタック理由は十分にあります」

 「我が国と貴国はあまり有効的ではなかったと思うがなぜ助けた?」

 「レスキューしたのではなく、互いのアタックターゲットが一致したまでです。データリンクをセンディングしたのもソコクによるダメージをディフェンスするためです」

 手を出すなってことか

 「ユー達の船団には偶然ミーティング、カーゴもミッションもアイドンノウ。現場でプッティングならガバメントもボスも楽にできるでしょう」

 「それは私も意見が合致します。ここで世界最強の艦隊と一戦など勘弁ですから。では無害で通してもらえますか?」

 「ミー達はスパイからセンディングされた情報を元にミッションを遂行しているまで。好きにユアセルフするね。

 おっと、ミッションの責任者からユーたちのコマンダーへメッセージを預かっている。『オーディンの加護を受けしベルセルクは北上してグラズヘイムを目指せ。PS.お嬢ちゃんへ 借りじゃないから気にするな』と。コンテンツは伝えればアンダースタンドいただけるとリッスンしましたが?」

 「あの優男か」

 コウの声が無線に混じる。

 「結構です。十分に意味は伝わりました。あと豪軍にも送りましたが我が国の船舶が大損害を受けておりまして、後で正式に救難要請を送らせていただきます。では、貴官の御武運をお祈りします」

 『承知した。救助活動は国は関係ないからな。手負いの貴女こそ御無事で(英 語』

 無線機の電源を落してぼやく

 「まーた助けられちった。ちぇ」

 船団の中心にいるあかつき丸甲板から見渡すと8割の艦から煙が上がったり焦げ付いている。こっちは満身創痍だ。

 一度切った無線機を入れ直し簡単に命令を放った。

 「全艦へ、北海道に進路を向けろ。帰るぞ」

 無線機を腰にぶら下げ、KSVKを背中に担いで揺れる船上を歩く。暁の水平線を背に、手を振って待っている仲間の元へ。

 

最終更新:2017年01月27日 22:52