エピローグ
結局、満身創痍の輸送船団は低速で帰路に就く事となった。弾薬もほぼなくなっており、次襲われたら自衛で精一杯と言ったところだ。だが、仲間の救助と海賊狩りを終えた第7艦隊が一緒に北上し、見た目は護衛される形となった。米軍に言わせれば「横須賀まで帰り道は一緒なのだから傷ついた船を放置する訳にはいかない」となかなかの建前(ツンデレ)である。
横須賀から米軍が離れた後は日本の海上自衛隊と航空自衛隊が、津軽海峡には我が国の艦艇が出迎えにきていた。陸に降ろされた核燃料は陸軍の警備の元、発電所に送られ、早速原子炉の稼働準備に入ったそうだ。火力発電などに使う石油やガスを減らし、国民の負担を減らすと共に、電力の安定供給で工業もより一層繁栄するだろう。
そして無事に護衛を終え入港した私たちを待っていたのは派手なパレードと表彰かと思いきや、大量の報告書の山だった。仮にも役職を頂戴し、最高指揮官だったのだからこの損害の説明もしなければならない。世知辛い世の中だ。
「イベリコ先生~夜戦時の指揮権掌握に至った経緯の説明が足りないって」
コウが大量のプリントを手に入室する。
「あれは緊急事態でですね…」
手を動かしながら目をどこかに逸らすイベリコ先生
「お前には豪軍からヘリを海に落とした件について証人喚問するか審議中だそうだ」
「え、あれは緊急事態で…」
「説明責任を果たせだって」
いくら緊急事態でも後で片付けるにはお金が必要だ。誰が払うかが問題なのだが、個人ではもちろん無理。ならば所属の軍隊や会社となる。
「ハルニコ社は一応保険には入っているはずだし、我々には政府が…」
「政府は『さすがにちょっと想定外」だって。船の修理とか弾薬は全額出るけど、現地のヘリはねぇ」
「ああああ 帰りたいもぉぉぉぉん」
書類を投げて床をゴロゴロする。
「あら、大人げないですよ?」
「副長!!」
そんな騒がしい部屋に訪れたのは頭に包帯を巻いたコジマ副長と相変わらず制服の似合う巨乳七咲艦長だ。
「もう大丈夫なの?」
「貴女のおかげでね。すぐに私を手当てして頂いたから」
「わ、私はなにも…してない……です。医者呼んだだけ……」
「あら、すぐに失血部を抑えて応急手当てされてたそうですよ?先生が褒めてました。ふふふっ」
「あ、たまたま…」
コウの恥ずかしがる姿 いいな
「私たちがこの部屋を訪れたのには訳がありまして、ついてきて下さい」
青髪と赤髪の背筋が凍る。
「はよいけ」
コウにケツを叩かれ部屋を後にした。
前を行く七咲艦長達に恐る恐るついていくと出発前に偉い人と打ち合わせした会議室の隣、大きな多目的室の前に到着した。
「私たちはここまでお連れするよう指示を受けております。この先はお二人で」
自分で開けろ と脅されたのでイベリコと「お前が開けろ」「貴女が開けるべきでしょ」と小競り合いもするも、勢い良く扉を開け放った。
「「「お疲れ様です!!!」」」
大歓声と共にクラッカーの弾ける音。拍手に音楽に声援が出迎える。
「……これは?」
てっきり軍法会議かなにかの会場と思い込んでいた私たちはポカンとする。
「中にお入りください」
背中を押され中に入るとパスカルメイジのクルーを始め、僚艦のクルー、作戦に参加した関係者、政府高官までが私たちを取り囲み「ありがとう!」「おつかれさま!」など声援と共に握手を求められる。もみくちゃだ。
よく見渡すとギプスをつけたり、包帯でグルグル巻の負傷者もいる。
「皆、誰も欠けることなく連れて帰った貴女方に感謝しています。それが軍紀違反だろうと、死者ゼロ、そして任務遂行できたのです。敵の脅威はほぼ沈黙し、原発の安定稼働で生活も楽になりますからね。会社や軍、政府を挙げてここで祝賀会を取り行いたいと各方面から要望がありました」
陸持マネージャーが笑顔で説明を続ける。
「謝礼は契約している我々ハルニコから、電力会社・軍・政府からは金銭の贈与はできないので、この場の料理や音楽隊などを贈らせて頂きます」
テーブルにはそこらの星つきレストランやホテル顔負けの豪華料理が並べられている。これが食い放題………
たくさんの花もある。大臣とか政治家とかいろんな人からの贈り物だ。中には佐久間と書かれた謎の小包もあった。
「それじゃ、我々を無事に連れ帰った艦隊司令官に一言!」
いつの間にかマイクを握りMCを務める若い航海士がこちらに駆け寄る。
「え、あの、まいったな……」
何も考えてない。
「ここ数日始末書と請求書と軍法会議に怯える中、このような祝賀会にを開いてくださったことに感謝します。まー、出港前に約束した通り、私の指示に皆が従ったおかげで全員連れ帰った。向こうで吹き飛ばされてからは我が相棒の鬼のような指示によく耐えてくれた。まだ平和が訪れたわけではないが、この国がこれから栄えていく第一歩として今は祝おう。今ある命に感謝して乾杯しようじゃないか」
いつの間にか手元にはシャンパンの入ったグラスが用意され、会場にいる参加者も乾杯の準備はできていた。
「今ここにある命に 乾杯 」