シュークリームの様な雲がまばらに見える空、澄んだ空気とピクニックにはちょうどいい天気だ。缶コーヒー片手ではもったいないほどに。
「で、この有様か?」
飲み終えたコーヒーを コンッ っとアスファルトに置く。
「面目ないです・・・」
運転席で落ち込む赤髪の少女は魂を抜かれたかの様だ。
状況を説明するならば、暴力団事務所を爆破して逃走を図るも、残党に追跡された。相手は高級外車であるため、こんなボロでは逃げれない。して、必殺技を使うも・・・
「やはりこーゆー仕事の時は別の車にします・・・」
無理な改造とNOSの使用によりエンジンはブローして、現在ボンネットから煙をだして路肩に停まっている。幸いにも追っては振り切っているので一安心だ。
「レッカー呼んだ?」
「保険会社のは弾痕見られたらナニ言われるかわからないので、いつものとこを呼んであります」
「あ~ また頭下げなきゃなぁ…」
交通事故ではなく、銃撃戦とカーチェイスと魔改造なんて保険屋は絶対取り扱ってくれない。
まもなくOD色のトラックが到着した。荷台にはクレーンがついている。
「お待たせしました。基地の近くでよかったです」
運転席から降りた迷彩服の兵士は直立し敬礼をする。階級は軍曹。
「ありがとうございます~ たすかりました~」
車からフラフラとイベリコ先生が彼元へ向かう。
「隊長もご無沙汰です」
「だから、元 だって」
そう、彼は昔の陸軍の仲間で、車両や装備の整備を行う部隊の長だ。この車の魔改造も彼らにやってもらった。
「すぐにけん引作業に移りますので、狭いですが車内でお待ちください」
「手伝うよ」
暇だし
「いえ、危ないですから」
「うぃーっす」
この車両は通称「軽レッカ」人員や物資輸送で使われる73式大型トラックを改造したもので、普通科から整備大隊まで幅広く配備されている。器材搬送、重量物据付、小型車両の牽引などに使用される。バンパーにウィンチがついてるもの特徴だ。
ミニクーパーの全部がクレーンに吊るされ、安全を確認すると軍曹はすぐ運転席に戻り出発する旨を告げる。
助手席に無理やり二人詰め込んだが、さすがに女性なので座ることはできた。道交法的にはアウトかもしれないが、10分もかからない移動なので気にしない。
陸自から使ているので少々古いが、V8エンジンの心地よい振動と排気音に揺られ、千歳の町中を走る。他から見れば軍車両が一般車をけん引してる不思議な光景で注目の的だ。
ガシャ ガシャ
軍曹がギヤチェンジに苦悩している。
「やっぱこの車両扱いにくいの?」
「ええ、シフトレバーはトランスミッション直結式でミッションが若干後部にある関係上、シフトノブも後部から前部にかけて曲がった形状ですし、ブレーキペダルは踏み込み式で強力に作動させる為には数回踏み込む動作が必要なんです。他にもありますよ?」
「私は普通車しか運転しないから、絶対このレッカ無理・・・」
「ははは、すぐに慣れますよ。さて、到着です」
旧東千歳駐屯地、現在はキャンプ千歳と名称が変更されている。大きな守衛で一旦停止し、軍曹が身分証を見せる。ちなみに我々は顔パスだ。
基地内部の整備班の格納庫までゆっくり走り続けるが、私に気づくと敬礼する兵士が多い。いや、大杉
「はやり今でも人気ですね。武勲的にもアイドル的にも」
「後者はうれしくない」
格納庫の前に到着すると作業着の兵士が整列して待機していた。運転手の軍曹が降りると即敬礼、
「イベリコ、ほら起きて。降りるよ」
愛車をブローさせた悲しみで精神がカミーユ状態の彼女を起こしレッカから降りる。して、我々にも敬礼された。
癖で答礼しそうになるも、無帽だし、今は軍属ではないのでお辞儀をして返す。
「すぐに作業に取り掛かります。暇なので」
「実に素直な理由でよろしい。じゃあお願いしますね」
すぐに兵士たちが車の状態を確かめる。
「しかし、リアや屋根には弾痕すごい量ですね」
なにも言い返せない。
「あー、エンジンルーム内のは全部ダメかも」
この一言でイベリコの顔から笑顔が消えた。
「なんとかしてみます。あー、特戦の射撃演習場でお連れの方が新装備のテストしてますよ。そちらに行かれて時間をつぶされては?」
「そうしますか」
広大な敷地の移動には高機動車(愛称:高機)を貸してもらった。GATEで伊丹たちが乗ってたアレだ。運転の名手は精神がヤバイので助手席に詰め込み、私がハンドルを握る。歩けばいいと思うかもしれないが、ここはとても広い。接収前でも総敷地面積約590万m²陸自最大の敷地面積を誇り、師団の隷下部隊の多くや陸自最大の普通科連隊をはじめ、陸自最大級の高射特科団をはじめする北部方面隊直轄部隊の多くが駐屯し、北部方面隊の中核をなす駐屯地となっていた。地内に隊員食堂・浴場及び売店が3個設置ある。(他の基地は一か所程度)独立、軍に編入後は兵器開発・試験をする民間企業や民間軍事会社にも一部を使わせており、少し面積を広げたが、陸軍最大の拠点であり、中枢であるのは間違いない。なので移動には自転車、自動車が欠かせない。
オープントップタイプの車両なので風が気持ちよく、ゆっくり基地内を流すと、休憩中であろう兵士たちが和気あいあいとバスケしたり楽しそうに過ごしている。
「平和だねぇ」
「軍隊ってのはなにもしないのが一番なんですよ」
「税金泥棒だな。うらやましい」
「軍属復帰します?」
「今の生活のが楽しいからやだ」
そんな会話をしながら10分ほどで乾いた音が鳴り響く射撃演習場に到着した。入口の兵士にIDを見せ中に入ると訓練や試験のために射撃をする兵士が多く見受けられる。
そして見慣れた黒髪の少女を見つける。
「よう、調子は?」
「そこそこ、実戦データが何度か手に入ったから結構いい感じ。で?派手にやったって?」
「きかないで・・・」
なぜコウもここにいるかと言えば、仕事で札幌に出るついでにいろいろ用事を済ませようとスケジュールを組んだ結果である。すると依頼主さんが気前よく交通手段を用意してくださり、普段なら函館から車で何時間もかかる距離を軍のヘリに車載せて人っ跳びだ。ちなみに宿泊もこの基地内である。
「教授もご無沙汰です」
「大学で仕事して以来だね」
現在コウと函館フューチャー大学の教授が行っているのはiイルミネータの実用試験だ。試作品を何度か試したが、軍でのテストで実用段階まで目指すらしい。他にも助手や、開発協力する会社の研究員など。
そしてテストを引き受けているのが陸軍特殊部隊の精鋭たちASKT
皆グラスを装着してレンジにて思い思いに射撃をしていた。
「今はなんのテスト?」
「構えた時にレティクルが表示され、着弾予測地点にちゃんと当たってるか」
「へぇ」
テーブルに置いてあったM1911を手に取り装填、ヒト型の的に撃ち込む。心臓部 と頭部 に命中
「腕は鈍ってないですね」
「鈍った。最近は只野案山子撃ってるようなもんだし」
「そのメガネ使ってこれより点数低いやつは私に飯おごりね。ついでに基地内マラソン」
えぇー っと不満とどよめきが立つも皆一斉にiイルミネータを装着して射撃にかかる。
全員が高得点の中心部に命中させる。
「さすがにはずれねーな」
「そりゃぁこの軍隊のトップ、精鋭しかいないんだし、システムの補正あるし」
「ああ、そういえば入れ替わりぐらいでいつもの武器商が商品を置いて行かれました。あちらに」
武器調達部門の小林選任大尉が声をかけてきた。
「あーできれば直接会って物を調達したかったな」
「商人もそんな事言ってましたよ。で、一部をここに運んであります。私が一応武器説明代理だそうで…」
武器商代理と書かれた腕章をつけていた。
「この部隊の武器や装備の納入、管理も将官が行っていますので勉強ついでです」
ずらりと並ぶはPDW(Personal Defense Weapon)いつぞや話してた我が家の武器更新の品定めに使うものだ。西側から東まで幅広い。
「やはり、気にするは弾の互換性か?」
「取り回しも 重量なんか」
機関銃を撃ってたコウが以外にも
「今のMP7より軽いものはないですよ」
むくりと起きたイベリコが
「ちなみに武器商はなんと?」
「国の資本的に東の物は調達とアフターサービスも効くそうです。まあ、我々もまだNATO弾使ってますし、西の物でも今まで通りだと」
「ふむっ」
「ただ…」
「ただ?」
「やはりFN P90は軍警察以外に卸すには審査も厳しく、うまく流せても専用弾の調達に苦労するだろう。そしてその分のコストも」
「専用弾は・・・高いしな。本格的に使うならサイドアームも5-7にしなきゃならん」
「MP7の4.6x30mm弾もコストが悪いです。やっぱ専用は避けましょう」
賽銭守が言うならしかたあるまい。
「P90がダメとなると、M4カービン斬り詰めたモデルや、ストックのないタイプばかりだな」
「PDWって分類も近年ですからね」
「だが、我々は威力不足に悩まされてる。しかし、小銃ほどの大きさと重さ、反動に耐えることは難しければ、拳銃弾では何も変わらん」
「だから、ライフルとサブマシンガンの中間のPDWですね?」
「そう、私だけならアバカンでも振り回すが、メインで使うのはこの二人だ」
「華奢なんです」
イベリコのかわいいアピール
「これどう?」
コウに勧められて手に取ったのはP90を思わせる形をした近未来的な銃
「Magpul PDRですね。開発中の物をよく取り寄せたもので」
「マグプルにはちょっとパイプあってね。ACRもその関係」
「これの特徴は?」
「PDWは新型弾薬とセットであることが多いですが、こいつはオーソドックスな5.56x45mm弾を採用し、弾倉にはAR-15系マガジンを使用するみたいですね」
プルバップ方式でマウントレールが標準装備されているのでアクセサリも選べそうだ。
「ちょっと弾かして」
弾倉を込め、装填、一発ずつ射撃して感覚を確かめる。
「よし」
フルオートでタタタと全弾撃ち尽くす。
「悪くない。マグプるルだけあって安定している」
「イベリコ、撃ってみなよ」
「うーん」
あまり乗る気でないらしい。
射撃が終わり
「これは使えるな」
「さーて、この試験も終わったら久しぶりにASKTと模擬戦でもすっかー?」
「データ収集にぜひ」
ASKT各位の青ざめた表情がうかがえる。
「手加減はするさ」