-北方陸軍キャンプ千歳 作戦司令部-
上から呼び出されると、私は上陸部隊の一個分隊を率いる体長の任を受けた。
「なぜ、私のような子供に任せるのですか?」
棒の様に直立不動の姿勢から硬いしゃべり方で上官に聞いた。
「わが軍に年齢は関係ない。ただ実戦経験が豊富だからさ」
書類をまとめながら上官は答えた。自衛隊はともかく、PMCはどうなのだろうか
「…隊員は少年兵をどう考えていますか?」
「リストを渡そう、会って話してみるといい」
笑顔で分隊の名簿が渡され、私は広い基地内を回る羽目になった。
「君だけじゃない、派遣された少年兵で能力があると見込んだ者には同じ隊長職を任せた」
部屋を出ようとして上官はつぶやいた。
司令部施設から歩き、資料をペラペラ流し読みすると、所属は陸軍第1旅団第11普通科連隊の一つで、陸奥に強襲上陸をする部隊らしい。とにかく12名の分隊員に会ってみなくては… 移動用の車に乗り込み兵舎へ行く。
-キャンプ千歳 下士官兵舎-
宿舎は当たり前だが男女分かれており、異性が入るのは厳禁であるが、隊長権限で簡単にパスし男くさそうな建物に入る。
中は思ったほど匂いはしないが、やはり大量の視線を浴びる。一応階級は准尉をもらっており、下士官が多いこの兵舎では威張れるのは気持ちよかった。近くの兵士にリストの名前の者を探させ、案内させる。
「…貴方が二階堂ね」
「あなたが私のマスターか」
「なんで軍のプロフに好みのアニメやゲーム載ってるんでしょうか」
「私にはわかりかねます」
「驚かないのですか?」
「PKOで海外の少年兵に会ったことが、他は隊長が美人だからですかね」
「この名前の他の隊員の場所わかる?」
「ガン無視ですか… では案内します」
-キャンプ東千歳 自室-
全員に会った印象としては、向こうがそんなに驚いていないことだろうか。むしろ実戦ばかり経験した人で喜ぶ者ばかりだ。好印象、と言ったとこか?全員元自衛官であるが、女性兵士はロシアや米軍で慣れており、年はさほど問題ではないとか
自室に戻り資料をペラペラめくる。いまいち「隊長」って実感が沸かないからだ。一応作戦概要は頭に入れたつもりがなにか落ち着かない。
「寝よう」
この部屋にはベッドと机とロッカー以外は何もない。ただベッドに横になり目を閉じた。
-津軽海峡 大間崎沖 強襲揚陸艦ふらの 士官室-
200m巨体も冬の荒波は大きく揺られる。必死に椅子に座り、作戦を思い出しながら考えにふける。
日本への反抗作戦は電撃的で軍の総力を挙げて行う大規模作戦だ。大規模と言っても日本の兵力は予備自衛官を含め約25万人、対して寄せ集めの北方は10万人と数の差が大きい。また、練度と装備の面でも差があるが、そこは策でカバーするそうだ。ぶっちゃけ作戦会議は寝てたので詳しくは資料抜粋。
まず定時哨戒の航空機に対地装備を施し、奇襲によるレーダー・通信施設や破壊でかく乱、その後空挺降下と海上部隊が南下し陸奥湾への攻撃と津軽海峡の封鎖を開始する。制空権と海上を確保し次第、大湊を確保してゆっくりと南下する。
ただ、強固な抵抗も予想されるため、同時に別動隊を強襲上陸させ確実に大湊を落とす作戦だ。その別動隊に私の部隊は配属された。ドックを持つ強襲上陸艦を中枢の艦隊は護衛の駆逐艦も最小限しかあらず、正面部隊が自衛隊を全面引き受けてくれないとすぐに沈んでしまうだろう。特にF-2支援機の対艦ミサイルは最大の脅威であり、対空兵装に強力なイージス艦は数に限りがあるため主戦力へ。こちらの護衛は旧式艦と汎用護衛艦、民間警備会社の小型護衛艦に独自開発した新鋭艦が数隻とのこと。
陸上兵力も上陸戦になるため、私のいる第一陣は機動力重視の歩兵師団、軽装甲車が中心であり、後部から続くLCAC群の戦車到着前に相手主力戦車が出てこられたら太刀打ちできない。
このたびの作戦は北海道、北方で開発された新兵器も多く投入される予定らしい。戦闘機や攻撃機が搭載する対艦ミサイルや誘導爆弾は新型になり、機動力と威力の向上、新型艦船も特徴的な三胴船(トリマラン)型など
さらに魚雷もロシアの技術が活かされており、キャビテーション魚雷を導入した。
陸上兵力は基本米軍、自衛隊と変わらないが、全員にiイルムネータとかなんとか情報端末が配られるらしい。個人の生体と戦場の情報を一括送信して司令部の作戦がうんたららしい。
軍事力による攻撃を日本は察知しているだろうか。いや、もう民間人が避難してないと困る。ただ、準備されると上陸先も地形が決まってくるためにトーチカでも作られてそれはそれで困る。
ホワイトボードに貼られた地図と作戦計画を見ながら唸りをあげる。
「考え事ですか?」
すると背後より男性の声
「ええ、こんな少人数で作戦遂行可能だと思うか…ところで君は?」
振り向く元気もない。敬語を使うからにたぶん部下
「失礼しました。私は艦長の鯨伏中佐です」
艦長…… 上官!?
バネの様に跳ね上がり中佐に敬礼
「こ、こちらこそ失礼しました!!」
「いいですよ、私は世界中を歩き、たくさんを見た貴方にお会いできて光栄です」
「せ、せめて組織として相応に接していただければ」
冷汗が全身から噴き出す。
「そうか、では改めて強襲揚陸艦ふらの艦長鯨伏だ。准尉に会えて光栄です」
40代も半ばといったとこだろうか。中堅な顔つきにやさしい笑顔
「普通科第522分隊隊長のフェンリル准尉です。しかし、私程度の経験をした少年兵は同期も含め他にもいますが…」
「貴方の噂をよく耳にします。ずば抜けて身体能力と判断力に優れ、射撃もさながら近接戦闘も得意とする。さらには各国の軍の教育も受けられたエリート…飛行機も飛ばせるとか?」
「シミュレーターだけですよ」
「ところで悩まれていたが、やはり作戦に不安が?」
「我々の部隊は住宅街も通る予定です。向こうがちゃんと避難させてくれていれば…無用な血は流したくない」
「おそらく大丈夫でしょう。情報部が工作をしてるしてるはず、それよりも君らを出すタイミングが我々の判断に任せられていて私達も困っている」
「司令部から通信はこないのですか?」
「無線封鎖でギリギリまで接近するそうだ。しかし本隊が失敗していた場合は我々でだけで防御陣地に突っ込むことになる」
「その時は私がトーチカ壊しますよ」
「頼もしいな、しかし作戦開始予定まであと3日あるから体力を温存しなさいな。あとは作戦の相談事なら私にいつでも相談をするといい、艦橋か艦長室にいる」
艦長は敬礼すると士官室を少しうれしそうに部屋を出た。
「ありがとうございます」
答礼を済まし、謎の緊張感から解放され溜息を吐く。
「部屋に戻ろう」
暴れる波に揺られ壁に打ち付けられながら女性部屋に戻り、カーテンで仕切られた唯一の個人空間にこもる。
どこで有名になったのか…
-津軽海峡 大間崎沖 強襲揚陸艦ふらの艦内-
作戦開始のゼロアワーを告げる艦内放送が流れ、艦内は緊張に包まれる。役職は士官室での最終会議があるため招集がかかった。最低限の資料とペン一本だけもってふらふらと士官室に向かう。
艦は最大船速で南下し上陸点を目指し始めた。艦内にエンジンの唸りが木コル中。各隊長までの指揮官同士のブリーフィングを手早く済ませ、上陸第一陣は上陸用舟艇のある甲板へ移動し、待機となった。
「第522分隊諸君、銃のメンテと装備の確認をしたら仮眠しておけ。まぁ、この揺れで寝れたらなw」
「隊長の膝枕を所望します!!」
「自分も!!」
「私も!!」
男どもは・・・・
「まーこの作戦で戦果あげて、生きて帰ったら考えてやる」
「「「ありがとうございます」」」
これで士気は上がっただろう。私は少し散歩するか。あちらの戦況が気になるが…
これは後日談となるのだが、空軍の奇襲は成功していた。初めての有事となった自衛隊の指揮はかなり混乱した。が、反撃に移る時間は早かった。主力艦隊は津軽海峡の封鎖には成功したものの、陸奥湾からの反撃に苦戦した。私たち別動隊は察知はされなかったので対艦攻撃は受けんかったものも、すでに沿岸部には偽装された防御陣地が形成されていた。それを別動隊の誰も知らなかった。
-ふらの艦内 第二甲板-
「リル准尉」
ダンディな声で呼び止められる。
「鯨伏艦長」
「今君たちを出すしかない、準備不足で済まない」
帽子を深く被り、顔を落とす。
「大丈夫ですよ。陸は私のステージです」
「また、会えることを」
「ええ、約束しましょう。では、行ってきます」
「気を付けて、いってらっしゃい」
互いにきれいな敬礼をして別れる。
-ふらの艦内 艦尾ドック-
すし詰めの甲板に腰を下ろし、銃のメンテでも始める。
「全員生きて返さないとな…」
少し眠気がしたので目をつむる。起きたら出撃か・・・
そして物語は始まる
-キャンプ東千歳 特戦射撃演習場-
「では、我が家の新しい装備はMagpul PDRに決定でーす」
「いえーい」
「妥当ですかね」
「さーて、メインが決まったとこで二人にはみっちり射撃の練習な」
「えー」
「あまり・・・」
「どうせ暇なんだしさ。今夜はASTKも一緒に宴会するぞー!!」
「おおおお」
「隊長!隊長!」
平和っていいな