-函館市 コンビニ 19:00-
 道南は雪が少ない。なぜなら太平洋側で温かい空気が流れてくるからだ。さらに南の函館は暖かそうに思われる。
が、やはり積雪1cmで首都機能が麻痺する都市からはかなり北に位置し、積雪も40cmと道北や新潟などに比べれば少ないが、やはり雪国だ。除雪はされるも自転車なんて走れたものではない。
 一番怖いのが夜に積もった雪が昼間溶け、夕方に凍り始めることだ。アイスバーンになり身動きが取れなくなる。ちなみに冬用の靴(底面はスパイクなど滑り止め)を履くのが常識であり、歩幅はペンギンのように小さく歩くと安定して転びにくい。
 そんな真冬の函館で、朝からやまない雪が大量に積もるので民家、商業施設は除雪に追われる。無論私のバイト先のコンビニも例外ではない。そう、今か弱い女子がやるべきない除雪をしている。
 まず店舗入り口は生命線、次に駐車場。都市部のコンビニは本州と変わりないが、郊外は民家の玄関のように二重である。うちは二重。
太平洋側の雪は湿気を含んでおり、除雪は重労働だ、支給された防寒着で作業するも顔は冷たいが体は熱くなる。

「おーい、上がっていいぞー」
店長が寒そうに裏口から出てくる。
「あれ、こんな時間?」
「夜シフトの若いの交代にするから」
「あざっす」
その後ろに身長の低めの留年大学生バイトが嫌そうな顔でスコップを握って歩いてくる。
「かわります」
「がんば」
 この労働から解放される喜びを最高の笑顔にして男子に声をかけ、着替えに事務所にはいるが汗を流す作業していたので店内の暖房は暑すぎる。しかし、帰り道に薄着などすれば風邪ひくのでしっかりと着こみ、マフラーとニット帽をかぶってタイムカード押して裏口からコンビニを出る。

 

 

-自宅 リビング 19:30-
 夕方、晩御飯の準備を始めるついでにテレビをつけるも、どのチャンネルもニュースよりバレンタインデー特集ばかりですね。この女所帯ではあまり縁がないです。ほかのchは……変わりない。どの情報番組も有名パティシエのケーキとか、百貨店のコーナー紹介ばかり
「とりあえず晩御飯作りましょう。今日は……」
懐かしい曲がテレビより聞こえる。これはバレンタインデーキス

現代でも多くのアーティストがカバーしているので馴染みある曲ですね。つい鼻歌が

 


-函館市 自宅 19:30-
「ただいま」
 玄関を開けて入るとあったかハウスの暖房に迎えられた。家の住人はいないのか?リビングに明かりは灯っているが…
「バレンタインデーきっす♪バレンタインデーきいっす♪」
「……」
「ららら~」
キッチンにはエプロンでくるくる踊りながら歌う赤い髪の少女
「……ただいま」
気まずいが声をかけると彼女は置物みたいに静止した。
「……コホン、おかえりなさい。すぐ晩御飯にしましょうか」
「頼む」
他に言葉が出ない。
「ちなみにメニューは?」
「回鍋肉です」
「その歌の流れからか…」
「チョコ味のお肉食べたいです?」
「マックのチョコポテトで十分です」
「ではネトゲ俳人を起こしてください」
「起きるのかな?」
「数発蹴ってもいいですから」
笑顔でその言葉はちょっと…

しぶしぶと『COU』とプレートのかかった部屋へ向かう。3回ノックし
「おきろー ごはんだぞー」
声をかえるも返事はない。ならば
「入るぞ?」
鍵がかかっている可能性もあるが、一応ドアノブをひねると
「お、あいてんじゃーん」
施錠はされていない。真っ暗な部屋にPCのLEDだけが光り、ファンの音以外は静寂だ。
「さっむ…おきろー」
暖房は一切入っていない。体を縮こませながら、モニタの目の前にある中身があるであろう布団に声をかける。
「…」
返事がない。
「おきろ」
一発けり
「…あと五分」
「晩御飯冷めるだろ」
げしげしと蹴りを入れるも
「…うーん」
「おきろ!!」
布団をはぎ取ると黒髪居乳がごろんっと飛び出した。
「この怪力め…大天使イベリコならもっと優しいぞ」
「これでも超優しいほうなの」
「鬼!悪魔!ち○ろ!」
「おら、飯いくぞ」
シャツを掴みリビングへ引きずる。


「どの番組もバレンタインだな」
「盛り上がってますね」
「こんな文化やってんの日本ぐらいだよ」
「そうなの?」
「まずイスラム教は禁止なんだ。欧州では…チョコレートに限らず、花やケーキ、カードなどを男女で贈りあうんだ」
「へぇ」
「女性同士はー?」
イベリコ先生の目がマジになる
「そこまでは知らないよっと…」
肉の多いエリアに箸を入れる
「あ、肉取りすぎ」
「情報量」
「我が家はどーします?」
「お前ら友d…うぐ」
イベリコ先生の腹パンが入る
「たまには流行に乗ってみるのもいいのでは?」
「じゃーアマゾソでポチるね」
「なに言ってるんですか。手作りしますよ?」
「え」
「コウ暇でしょ?」
「イっ…イベントで忙しい」
「明日買い出しして作りましょう」
「明日もバイトだから(震え声」
「ちっ…じゃあ二人で作ってますね」

 

 

-函館市 自宅 08:30-
「じゃあ、行ってきます」
朝いつもの時間に家を出る。雪は夜のうちにどっさり降ったのか除雪してない場所は軽く膝丈まで埋まってしまう。駐輪場にたどり着くも愛車は ゆきのなかにいる。
「歩くか・・・」
どうせ自転車がまともに走れる積雪量ではない。バイト先まで歩くことにした。雪をかき分けながら
くっそ、やっぱ車ほしい…けど、あの賽銭守が買ってくれるとも思わないし、自分のお小遣いでかな?
「あわtっ」
ブラックアイスバーンで盛大にしりもちをつく。スパイク付きのブーツ履いてるのになぁ。
しかし、どんな車にしようか?やはり四駆…いや、夏つまらないな。
「まぁ、お金には困ってないしな」
ここ最近の大きなお仕事で我が家の貯金は莫大なものになっていた。車の一大ぐらい許されるだろう。
「あわわわっ」
ふたたび転びながらもバイト先へ向かう。


-函館市 自宅 09:00-
「コウ、起きてください」
夢の中からイベリコの声がする。
「あと五分…」
「お き て」
布団を剥がれたと思うと服まで脱がされていた。
「着替えぐらい自分でできるよ」
「今日も雪が多いですから早く出ますよ」
「あい」
 適当に寝間着を投げ捨て、ウニクロのヒートテックインナー上下で装備し、セーター、ダッフルコートにマフラー、ロシア帽で完全防備してる頃にはイベリコは玄関で待機していた。彼女はピンクのモフモフしたポンチョに赤チェックのスカート、黒ストッキングだ。二人で駐車場まで降りると車は雪の山となっていた。
「掘り出しますか…」
 入居者共用で貸し出される雪かきスコップを手に、かき氷のような硬さの雪をせっせと掘り出して愛車を見つけるとエンジンをかけて暖気ついでに熱で回りを溶かしてなんとか出発できるようになった。
「さ、さて、行きますよ」
二人とも息を荒げながら。

 


-函館市郊外 コンビニ 9:00-
「お、おはようございます…」
徒歩通勤で息を荒げながら裏口から入る。
「おはよう」
事務所には店長一人
「あぁ^~店内暖かい」
しっかり暖房の効いた部屋はまさに天国だった。
「じゃあこれ」
店長が雪かき用スコップを私に差し出す。
「えっ」
「力仕事だからね」
その理屈はおかしい。
「私かよわい女の子」
「そう」
店長はシフト表をみるとこの時間はパートのおばさんばかりだ。
「やります」
仕方なくスコップを受け取った。


「顔さむいし…でも体熱いし…」
ジャンパーまで着込んでも顔は隠せない。
「雪は重いし…!!」
新雪は軽いほうだが、その体積も多くなるほど重くなる。

「や、精が出るね」
聞きなれた男性の声が背後より聞こえる。
「いらっしゃいませー 本日も自慢のホットシェフとおでんがおいしいですよ」
作業しながら店員のマニュアルで返事をする。
「えーと 一応君に用事が…」
男は困り気味
「ナンパですか?通報しますよ?」
今非常に忙しいのだ。ましては相手はよく知る人物。
「冷たいなぁ」
無精ひげに着崩したスーツの彼は溜息をついた。
「これを彼女に渡してほしいんだ」
「なぜ私経由?」
「君らの自宅に行ったけど誰もいなくてね」
「あー買い物中だな」
差し出された紙袋に入っているのは透明のケースに入ったブリザードフラワーにメッセージカード
「えー てっか、”彼女”ってもう手籠めにしたの?」
「いや、あー、まぁいい」
ふーん
「しかし花か。チョコじゃなくていいの?バレンタインだよ?」
「欧米では男女で贈りあうのが常識って言ってなかった?」
「貴様どこで聞いてやがった。でもあいつ男に興味なんてないよ」
「それでも気持ちだよ。あと君たちにもこれ」
「市販のチョコでも入ってそうな小箱だね。格差ひどすぎない?」
「そこは気にしてはいけない。じゃあ、ぼくはこれで」
「おい、お客様…何か買って帰りませんか・・・?」
「あー、お金ないんで」
「ケツポケットの財布パンパンですよ?」
「それ全部レシートとポイントカードだから チャオ」
腐ってもイケメンか。むかつくがかっこいい。

しかし、頭に雪が積もってしまった。

 


-函館市 ラルズマート 10:00-
「必要なのは、板チョコと、生クリームあとは…ココアに」
イベリコがメモを片手にpoipoiと買い物かごに商品を投げていく。ショッピングカートに全体重をかけながら彼女についていく。
「コウ、カートで遊ぶのはよくないですよ?」
「あーい」
「で、なに作るの?」
「生チョコです。手軽ですよ?」
「へ~ もっとたくさん買うのかと思てた」
「あとは晩御飯の食材も買っておきましょう。雪がこれ以上酷くなれば買い出しも困難になります」
「鍋くいたい」
「ではきりたんぽでもにでもしますか」
「さんせー」

 

-函館市 コンビニ 11:30-

「はぁ、はぁ、店長、とりあえずこんなもんで…」
「おつかれ、休憩していいよ」
「除雪機買いましょうよ」
ホームセンターにも売ってる手頃なサイズがある
「本部が許してくれないよね」
だが軽自動車買える並みに高い
「あ~ じゃあ休憩入りまーす」

防寒具を脱ぎ、事務所のパイプ椅子に座る。お昼は賞味期限間近のいつものやつ
「今日は二つぐらい食べてもいいでしょう」
週替わり弁当二つを温め
「いただきます」
割り箸を割り、至福の時間に浸る。

 

-自宅 キッチン 13:00-
帰り道も渋滞に巻き込まれたが、無事自宅に着くと簡単な食事を済ませ、お菓子作りに取り掛かる。
「さて。作りますよ」
「私さっぱり作ったことないのだが」
料理や家事など全く経験がない。
「大丈夫」
「まず、生クリームを鍋に入れ、中火にかけ沸騰直前まで温めてください。刻んだチョコレートを入れたボウルに一気に注ぎ、湯気が出なくなるまで待ち、泡立て器で混ぜ合わせて、チョコレートが完全に溶けてなめらかなクリーム状になるまで混ぜます」
「わかるように説明してくれ…」
「まず生クリーム入れて湯煎で溶かしてください。あと、別に板チョコ刻んで、トッピングに使います」
板チョコがじわじわ溶け、ゆっくりとかきまぜていく。
「私が混ぜますからコウはトッピング用のチョコ刻んでください」
「あーい」
包丁の先端を支点に、後ろの刃で刻んでいくがそこそこに力を使う。ちょっとでも手が滑ると
「いたっ」
しまった、力みすぎてチョコを切った瞬間指をかすめた。
「もう、気を付けてください。絆創膏は…ないですね」
イベリコが救急箱を持ってくる。
「大丈夫だ。この程度」
この程度唾つけりゃ治るってどこかの青髪は言いそうだ。
「ダメです!!はむっ」
彼女が私の指を口に入れた。
「あ、こら あっ…あっ…んっ」
「ちゅぱっ…ちゅちゅっ」
「だ、ダメだって…あんっ」
悔しいが気持ちよく声が出る
「ちゅ…ちゅぱ」
舌で傷口をなめていく。その舌使いは洗練されている。
「ダメだって、雑菌が」
「コウのならキレです」
「んあぁっ…らめっ!!」
勝手に体が火照ってくる。
「かわいい…もう我慢できません」
彼女が野獣の目になり私を床に押し倒した。その際エプロンでひっかけたボウルがひっくり返り、溶けたチョコなどが床と私たちにかかる。だが彼女はお構いなしに私の体をなめ回す。
「チョコレートトッピングのコウ…おいしいです」
首筋や腕にかかったチョコを彼女は舐めとっていく
「あ、こら、らめ」
「こっちもきれいにしないと」
湯煎したチョコがお腹から胸回りにかかっており、服越しに肌にもたれていた。
「かわいくて、おいしくて、最高ですよ?あら、ノーブラなんですね」
「も、もう出かけないし、あんっ…家の中なら楽だから…あっ」
慣れた手つきで私の服を脱がせると彼女はわき腹をなめながら、手は胸と股間をまさぐっていた。
「それ以上は…ああんっ」
「ふふ」


-函館市 郊外 17:00-
「おつかれっしたー」
いつもよりはやく上がり、帰路につく。どっかの誰かのせいで荷物が増えたが。
「でも、私もなにか買っていくか」
通りかかった花屋が目につきお店に入る。
「どのようなものをお探しですか?」
店員さんは身長も高く、ポニーテールでとてもキレイな花屋のお姉さんだった。
「見繕ってもらえすか?」
「どのような方に贈られます?」
「二人なんですけど、一人は赤髪の似合う母のような存在で、もう一人は黒髪でクールな感じです」
「少々お待ちくださいね」
店員さんは店の奥へ行き考えながら花をまとめていく。
「お待たせしました。カーネーションとシンビジウムを中心に彩をそろえてみました。花言葉は『母の愛情』と『飾らない心、素朴』です」
「ありがとうございます」
荷物は増えたが花屋を後に自宅へと急いだ。


-自宅 18:00-
「ただいまー」
返事がない?
「かえったぞー」
リビングへ入るとソファでぐったりするイベコウの姿
「なにがあった…?」
「まぁ、ちょっと失敗しまして…」
イベリコがエプロン片手にふらふらと立ち上がる。
「チョコは?」
「あー、その、えーっと」
キッチンを除くと小さなお皿に一口で食べ終わる程度のチョコが置いてあるだけだった。
「…これだけ?」
「こ、これで三人分です……」
やけにイベリコの挙動が怪しいが、盛大に失敗したのだろう。
「コウ、バイト先に不審者がきてお前宛てにこれ」
ブリザードフラワーを手渡す。
「ん?あ、あ~」
「我々には小さい小箱」
「誰ですか?」
「スパイ野郎。あとは、私から二人に」
先ほど買った花束を手渡す。
「え、いいんですか、こんなきれいなお花、わわわ」
「お前にしては気が利くが、ダブル花か」
「いいじゃないの、普段の気持ち」
「私たちは・・・・失敗して本当に」
「気にすんな。じゃあこれから楽しく晩飯にしようよ。それだけで私は十分だよ」
「はいっ!!」
イベリコは元気よく調理場に向かい、コウは真剣な面持ちでメッセージカードを読んでいた。
「たまにはこんなバレンタインもいいだろう?」
「そうだな」
「そうですね」

雪が降り続け、外の気温はとても寒いが、家の中はとても暖かい。それは暖房だけではなく、人のぬくもりであふれていた。

 

最終更新:2016年09月11日 14:57