それは北海道が独立よりずっと昔のお話しだ。
「どこへ行っても、いつの時代も、強者は争っている。私たち敗者はただ戦う。それだけ」
世界は大きな戦争はなくとも、地域間での紛争は続いていた。エネルギー、土地、宗教と戦う理由は様々だったが、戦争は変化し始めた。代理戦争と呼ばれ、国家の軍隊が直接戦うのはではなく、傭兵と傭兵が戦う戦争が増えてきたのだ。国家は企業にお金を払うだけで、戦闘も補給もすべて会社が行う。傭兵が前線を広げた後に国の正規軍が侵攻すればいいのだ。
また、代理戦争とは別に別の戦争ビジネスも発生した。戦争をショーとしてスポーツの様に観戦し、どちらが勝つか賭けたり、競馬の馬主感覚で自分の兵士を投入したりする富豪の娯楽となった。
そんな中、東欧のある国で紛争が起きた。
「ヤナちゃんと遊びにいくね」
学校も終わり、家に帰って鞄を投げると私は友人と遊びに出掛けた。
「はい。気を付けて」
家事をする叔母が笑顔で見送る。いつもの日常だ。
「ヤナちゃーん、あそびましょー!!」
「リルちゃんまってー!」
近所の親友と一緒にいつもの遊び場へと走った。
私の生まれはヨーロッパの東、東欧の小さな村だとは覚えてる。ただ、両親の顔など覚えていない。母は病死、唯一父親は軍人として戦いに出て帰ってこないのだとか。物心つく前から近所の叔母に育てられていた。
村は小さく、裕福とは言えないが人々は農作や畜産で生活をし、私は近所の子供たちと毎日走り回って遊んでいた程度には普通の生活だった。
あの日が来るまでは…
「いやっふううううう」
川にかかった橋からジョナサンが飛び込む。
「お前も飛ぶんだよ」
「やだもー」
「えーいっ!!」
ヤナちゃんの背中を押して突き落とす。
「きゃあああああああ」
「あははははは」
続いて私も川に飛び込み、ちょっと冷たい綺麗な水に包まれた。周りの友達は大爆笑だ。毎日こんなバカな遊びで過ごしている。とても楽しい。
そんなある日、村長が神妙な面持ちで村民を集めた。この村の近くに某国が攻めてくる可能性があるらしいのだ。パイプラインの利権争いや、敵国へ侵攻するための迂回路や補給地が必要だとか、そこでこの村が通り道と拠点になるかもしれないのだ。
「大丈夫だよね?おとなの兵隊さんが来て守ってくれるよね」
「大丈夫よ、絶対…大丈夫」
村長たちが交渉を行うも武力で物申す相手に話し合いも通じず、迂回をしてもらおうと頼む大金も用意できないので軍隊はまっすぐこの村を目指した。すぐに村民は荷物をまとめて準備に入るが、どの家庭も大混乱だった。
「はやく!!」
「子供たちを真っ先に逃がせ!」
「家具なんておいていけ、命がほしくないのか!?」
「リル、荷物は叔母さんがまとめたからもうトラックに乗りなさい!!!」
「まって、パパの…」
私も最低限の衣服と父親の形見をトラックに載せていた瞬間、空から響くような轟音と共にヘリが大量に飛来し、迷彩服を着た兵士が一斉に降下を始めた。そう、相手は村長に伝えた時間より早く侵攻してきたのだ。村人を労働力とし、家財や備蓄食料を逃がさないために…
当時は銃に知識はなかったが、それに抵抗してはいけないことは理解していた。
軍用車両が村に運ばれ、兵舎などを設営するのを、何もできない私達子供はただ傍観するしかなかった。
そして男は労働に使われ、女性は兵士のための食事、洗濯などに駆り出された。ただ女性に関しては兵士たちの性欲のはけ口として、性行為を強要され、それが食堂だろうと道端だろうと私たち子供の前でも繰り広げられた。拘束、暴行、強姦、もう無法地帯だ。
地獄だ。
この世に神などいないと私は知った。
神がいればこんな地獄のような光景は繰り広げられない。
さらに矛先は子供にも向けられた。一部の物好き兵士が年端も行かない少女を強姦、男子にさえ性的暴行を加えた。村の子供の数なんて多くはない、皆顔と名前も知っている仲でどんどん連れていかれる。
「いい?絶対に出ちゃダメだ。ヤナちゃんは狙われたから危ない。私が帰って来るまで…」
「おいガキぃ、なにコソコソしとるんじゃ?」
「ちっ、見つかった…!!」
「おっと、これは俺たちが探してた可愛いお嬢ちゃんじゃないか。かくれんぼもおしまいだよー?ほらこっちにおいで」
小太りにひげも剃っていないような汚い男たちが立ちはだかる。して の遅い腕をつかみ連れ去ろうとする。
私は必死に抵抗するも、この頃の力は非力で、訓練もしていない。
「やめなさい!!その子は絶対に…」
あるだけの力を振り絞り、連れて行こうとする兵士に殴りかかるも
「黙れガキが。お前は まだ お呼びじゃない」
大人の足蹴りで一発、飛ばされて激痛で身動きがとれなかった。
「グアー」
「リルちゃん、リルちゃ…いやぁ……いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
彼女の”まともな”姿を見たのはこれが最後となった。
自分の無力さに痛感しただ泣き叫んだ。このまま私も少女として生きられず、奴隷のような生活をするのか……絶対嫌だ。
「負けない…絶対に」
その夜 ”無事” な子供を集め今後をどうするかを相談した。会議できるような歳でもないが、幼いなりに真剣に話し合ったと記憶する。
「もう、だめだよ」
男の子も皆意気消沈
「みんな従うしか…」
「それでいいの?ヤナちゃんみたいになりたいの!?私は嫌だね!!」
「じゃあ、どうするのさ…?」
「私達がほかに生きる方法を…」
「あっ」
「どうしたの?」
子供たちの中でも頭のいいエリスがなにかを思い出した。
「兵隊の中にちょっとお兄さんぐらいの人達いたから、もしかしたら…」
そう、兵士の中に少年兵がいたのだ。つまり…
「それだ。私は兵隊になる」
「えぇ!?」
「そんな、絶対騙されておわりだよ…」
当然だ。ただの子供を雇えと言っても誰が雇うか
「やってみなきゃわからない」
建物を飛び出し、力強い足取りである建物へ向かう。たどり着くは警備が一番厳重な場所。そう、この軍隊で一番偉い人がいる場所である。
涙と兵士に蹴られた傷をぬぐい、警備の兵士に声をかける。
「ガキがなんの用事だ?」
「リーダーさんに合わせてください。話…取引をしたいんです」
玄関の兵士に訴えなんとか中に通信をしてもらうと以外にもあっさり通された。元は村長の家で、今は地図とか無線機とか大量に置かれ、家というより基地だ。
「お前か、ガキのくせに何か俺に取引したいそうじゃないか」
厳つい顔にドスの効いた低い声、いかにも「ボス」といった顔つきの男は椅子に深く腰掛けながら私をにらめつけた。
「はい、私たち子供を少年兵として売るか雇うかしてください。地雷処理でも前線の捨て駒でも構いません。ただし、これ以上村の住人への暴行はやめてください」
野獣のような眼光で彼は言葉を放った。
「ほう、いい目をしてるな……覚悟は本物か、そうか…なら、
実はお前らガキをどうするか決めかねててな。二つほど選択しを与えようと思ってたんだ。性奴隷として売られるか、少年兵になるかだ。だが、自ら後者を頼み出るのは初めてだなぁ」
「でしたら私たちの答えは一つです」
「わかった約束は守ろう。ただ、軍隊は学校とは違って優しくないぞ」
こうして村の無事な子供総勢26名は銃の扱いも知らないまま少年兵となった。
この軍隊はお金が発生する事に関しては約束を守るようで、早速兵士たちには規律を順守するよう戒厳令が出された。そして私たちが少年兵となる事も伝えられると、村の大人たちは悲鳴と怒号を挙げた。
「子供を返して!!」
「それでも人間か!!!」
「ワシが代わりになるから子供だけは」
だが司令官は動じず次の言葉を発した。
「親御さん達の気持ちはわかります。ただ、これは子供たちからのお願いなのです」
「嘘、でしょ・・・?」
「彼らは軍に力を貸す代わりに、村への暴力行為の静止を取引しました。私は取引に応じ彼らを雇い、戒厳令を出したのです」
「でまかせを言うんじゃない!!」
「貴様らのでっち上げだろ!」
村人から罵声が上がるも
「あぁん?うっせーな。子供に守ってもらう情けない大人は黙ってろよ。あいつらのがいい覚悟してたぞ?貴様らよりすばらしい人材だ。クズ共が」
罵声を一蹴りした。
その後私は一緒に行く子供たちと合流するために迎えに行く。真っ先にヤナの元へ
「迎えにきたよ!!」
悲鳴を上げて連れていかれた友人がいる家に飛び込むとそこは熱気と悪臭、男の裸体であふれていた。汚い大人をどけて彼女を探し出すも、全身に暴行や鞭の痕、痣だらけで、顔も見てられない。
「……いや…そんな、」
その場で膝をつきくずれ込む。
「こいつは、もうダメかもしれん…」
司令官が私に告げた。
「…」
彼女は暴行、強姦、好き放題にされ、虫の粋だった。
「助けられなくて、ごめん ごめん…ごめん…」
涙を流しながら彼女に寄り添う。
「一応近くの病院で手当てさせるように手配しよう。暴行した部下は処罰する」
こうして私達はトラックに載せられ、隣国の訓練施設へと送られた。誰も親と一言も交わすこともなく。