「やぁ、リル君元気かい?」
ある日の帰り、仕事終わりに白髪笑顔の優男に声を掛けられる。
「私はいつだって元気ですよ?なにか御用ですか?」
この男性はここに来た時からの付き合いでイケメンだから話していて悪い気にはならない。
「ああ、重要な用事があるのだが……」
「だが?」
「ここでは話しにくい。ちょっといいかな?」
「ぜひ!!」
なんだろうか、イケメンが公然では言えない重大なお話?ちょっとドキドキしてします。ここ最近は談話室にある「少女漫画」なる日本原産の書物に夢中であり、こんなシチュエーションが物語であった気がする。この後は二人きりになり………
「///////」
「ん?」
「ななな、なんでもないです」
真っ赤な顔を必死で隠し彼の後に続いた。
二人で入ったのは無人の会議室でしっかり施錠し、中は二人きりになった。
「実はね」
彼の真剣な目つきに思わず息を飲む。
「は、はい」
「君にモスクワ会を襲撃もらいたい」
「はい?」
思ってたのと違う。
「いきなりで困るだろうが君しか適材人物がいないんだ」
「あ、はぁ」
「私はモスクワ会に入る条件を満たしているが、今あそこは定員がいっぱいだ」
「それで誰か殺して自分が入ると?」
「それもあるが、一番の目的は今のやり方を変えたいのさ」
「今のやりかた?」
「こんな人殺しで金儲けなんてやめたいんだ。私に賛同する同志は数多いがあの会が絶対の権力を保持していて下の意見は通らない。君たちのような可愛い子供たちが殺し合いに参加なんて……見てられない」
「か、かわいいなんて」
「兎に角、老人達の時代は終わったんだ。だから彼らをつぶしたい」
「でも警備は厳重でしょう?」
「そうなんだ……当たり前ではあるがね。けど、君ならできるだろ?私が警備状況を把握し、できれば弱体すればその機動力と戦闘力でならさ」
「相手の配置がわかるのであれば可能です。武器は?私たちはフィールドでしか携行できません」
「それも僕が用意しよう。何がいい?」
「AKM……より弾数優先か……5.56mmの小銃に光学照準ついたやつ、あとは9mmの拳銃にナイフと予備の弾いっぱいに防弾ベストも」
「全部用意しよう。明後日のこの時間に全員が集まる会合がある、その時が勝負だ。地図はこれ」
見慣れた館内図とは別に知らない線が見受けられる。よく見れば普段から生活する部屋の隣に隠し通路や部屋があるようだ。
「意外です。偉い人が集まる部屋がこのフロアだったなんて」
「灯台下暗しと言うだろう?ほかのVIPルームと別に作ることで秘匿性が高まるって設計らしいよ。もちろん一般人は入れない対策として、ここの談話室の裏に入り口がある」
「だからあそこには24時間警備員が常駐してるのですね」
「当日は僕がその扉を開く、あとは見取り図にあるこの一角に向かってくれ」
「他の部屋はなに?」
「警備の控室とか会議室だ。モスクワ会はこのフロアですべてを済ます」
「奴らの逃げ道は?」
「たくさんあるぞ、見取り図の赤い点が全部非常用だ」
「流石はVIPの中でも最高峰、違うね」
「だから作戦はスピードが命だ。大人より素早いキミにしかできない」
「やり遂げた後の報酬は?」
「君らは自由に生きる権利としばらく生活できるだけのお金を出そう。自由を与えたい」
「であれば私は全力を尽くすのみです」
彼のためなら命を捧げても良いと思っていた。それは純粋に恋だったのだろうか?
違う、皆が自由になれるんだ。
私は走った。撃った。そして最後の扉を蹴り破った。死に物狂いで、彼のため、みんなのため、私のため?
あの時の私は本当に若かったのだろうと
その結果がこれか……
言われた通りに談話室から突入し、護衛を排除、そして指定の部屋へ飛び込み全員を排除した瞬間に拍手が飛び交った。
「おめでとう、そしてありがとう。最高のショーはいかがでしたでしょうか?」
部屋の奥に白髪の悪い顔がそこにはあった。
そして入口から続々入室する人々から拍手と称賛の声が
「実に素晴らしい」「これは心躍った」「君もやるじゃないか」
私は茫然と立ち尽くしたまま問いかける。
「どう……いう、意味です?」
「我々に邪魔な連中を掃除するついでに面白いショーを見せてもらった」「我らモスクワ会はより君を評価しなくてはならない」
「ありがとうございます」
白髪の彼はその人たちと握手を交わし例を述べる。
「え、だって貴方は……」
「騙して悪かった……僕はモスクワ会の10番目の会員であり、今回は殺戮は会の意向で行われたんだ」
笑顔ではきはきとしゃべる。
「じゃあ、この人達は」
足元に転がるは「モスクワ会」と教えられた人、の死体だ。
「君からすれば殺し合いを良く思わない良識派、僕らからすれば邪魔な存在だね」
「だって、貴方も賛成って」
「建前さ、確かに子供の虐殺は心痛むが人間のクズが殺し合うのは僕も見てて楽しい。君らを自由にしたいってのは割と本気ではあったよ」
手に持った銃を床に落とし途方に暮れる。
「そんな そんな」
「さぁみなさん、この子の価値は十分に計り知れたと思います。どうされますか?」
また売られるのか
「ワシが買おう。一人あたり100枚でどうだ?」
「これはオルガコフ様、そんな高値で、しかも他にも買われるのですか?」
「ああ、気にかけてはおったがより一層気に入った」
「ザイチェフ様、よろしいですか?」
「いいわ、そんな高値を出されちゃ売るしかないもの。代わりは特殊部隊上がりのハンターでも見つけるわ。それより買ってどうするおつもり?下世話なら間に合ってるでしょうに」
部屋に笑いがあがる。
「なに、ワシも歳だ。そろそろ引退と隠居を考えておってな。世界を旅行したいからこの子には身辺警護と世話係だ。ほかの子供も世話役として同行させたい」
「子供だから旅費が安く済みますわね」
「ハハハっ、それに孫世代と旅行ってのは楽しくなりそうだ。まぁ、極東での石油が当たったからそちらに専念したいのもある」
「ごゆるりとなさってください。リル君も不可能と言われた仕事を良くこなしてくれた。自室で待機だ」
冷徹な顔つきで私を見るので思わず睨み返し、思ったことを口に出した。
「同じ事に挑戦した人がいたのですね」
「ああ、もっとも護衛に阻まれすぐに死んでいくがね」
「……失礼します」
部屋を後にして血にまみれた頬を拭った。今後私たちは奴隷か人形代わりになるのだろうか……
セルゲイ・オルガコフ、裏社会の上級組織モスクワ会の創設者にして最高権力を持つ。その顔は資本家、政治家、マフィアと幅広く通じており世界を股にかける人の代表と言っても差支えがない。そろそろ歳か現役引退を考えており、会社経営やマフィアは後継者に任せ自分は世界旅行や極東で一攫千金を狙った隠居生活をしたいとのこと。
「以上が当主様の概要だが、聞いていたかい?」
「ええ、大丈夫です」
側近の方から説明を受けもなかなか頭に入ってこない。
「では、当主様の元に案内する、失礼のないようにね」
「お願いします」
そう言われ通されたのは豪華なお屋敷の広い書斎だった。
「当主様、お連れしました」
「ご苦労、下がってくれ」
「しかし、それでは何かあったときにお守りできなく……」
「何かあると思うのか?」
「失礼しました」
側近は差がり、部屋の中は子供と老人だけになる。
「さて、早速だが君らには教育を受けてもらう」
「殺しの教育でしたら不要です。警護の事も軽くは習っております」
「違うよ。一般教養の教育だ。これから一緒に過ごすのならマナーを身に着けてもらう」
「私達人形にそのような事は不要です。どうぞ何なりとご命令ください」
「馬鹿者が!!少しは自分を大切にせんか!!!」
怒鳴られた。真剣な面持ちで私たちを見渡す。
「どんな教育を受けたのか知らんが、お前らは奴隷でも性欲処理の人形でも玩具でもない。まずはワシの孫として、一人一人の少年少女として生きてもらう。学び、働き、家庭を持ち幸せに過ごすのだ」
「ですが私たちは買い取られた身です」
「そうじゃ、まず学校に通わせたいがその境遇から無理だろう。だから教養を身に着け、ワシと一緒に世界を回るのじゃ。その中で出会った職や人についていけばいい」
「なぜそこまで肩入れするのですか?」
「お前らが年端も行かぬ少年だからだ」
「殺し合いをさせた人間とは思いません」
「あれは別の他の奴らの趣味だ。ワシは反対したが多数決で決まった。だから君らを救う方法は買い取るしかなかった」
しかし、今までも甘い言葉には裏切られていきた。今度はどうだろう私たちの飼い主たる人間か確かめたい。だから腰のナイフを抜いて急所へ襲い掛かった。が、
「いい、実にいい筋だ。だが隙が多い!」
ナイフは彼の首元寸前で杖に止められ、身体を蹴られて横に吹き飛んだ。
「当主様!!!」
側近が慌ただしく銃を構えて入室してくる。
「銃を下ろさんか!!軽く腕試ししたまでよ」
私も油断していた。杖を使った老人だからと軽く思っていたが、きれいな横蹴りをされたではないか。まだわき腹がジンジンする。この人は強い、本物だ。
「しかし当主様……」
「さがれ」
側近は退出し、再び子供だけが残された。
「お前さんがリーダーだったな?」
「そうです……」
「今日からワシがお前の主だ。いいな?」
「……はい」
今日から新しい転職先が決まった。
その後私たちは一般教養を学んだ。テーブルマナーや社交ダンスも含まれており、綺麗なドレスにも身を包んだ。
「リルちゃんよく似合ってるよ」
「うん、かわいい」
各自採寸され、オーダーメイドのドレスが届き身に纏うと私は皆から似合うと誉められた。
「案外そっちの方が似合うのかもしれないな」
「当主様!?この部屋は男子禁制ですよ?」
どこからか現れたオルガコフに対してメイドが厳しく叱りつける。
「なに、孫娘たちの晴れ姿と聞いて居ても立っても居られなくてのう」
「とにかく出て行ってください!」
「わかったから蹴るな」
鑑の前でくるっと回ってみる。深紅のドレスがふわっと舞う。
「ドレスってこんなに動けるものなんですね」
「サイズをぴったり合わせてありますからね。あと生地も動きやすく作られているんですよ」
年長のメイドさんが私の髪型を手直しする。
「このようにサイドの髪の毛を纏めると、ほらよく似合っていますよ?」
「はわ」
思ったより可愛くて自分でも驚てしまう。
「髪留めは……このリボンにしましょうか。ドレスに合わせてこの赤いリボンはどうでしょう?」
「かわいい!!」
女子諸君が群がる。
「髪型までありがとうございます。この髪留めはまた綺麗にしてお返しします」
「不要よ、そのリボンはドレスの手直し様の布を切って加工しただけだし、貴方にあげるわ。だからいつも可愛くしていなさい」
「はい!!」
珍しくオルガコフ様から呼び出しを受ける。
「失礼します」
「あら、写真で見たのと違うわよ。髪型を変えてすごく可愛くなってるじゃない」
「そら自慢の孫娘代表だからな。
さて、君らの教育ももう少しで終わる。そこでだ、ワシの警護をするにあたり、武器の選定をしたい。この武器商人と一緒にな」
「よろしくお嬢さん」
東洋人、黒髪のサラサラした綺麗なロングヘアでスーツを身に纏っている。
「身辺護衛となればまずは常に携行する拳銃ね。この子らに合わせるとなるとグロック26やUSPコンパクトがよろしいかと。グロック握ってみて」
「小さい」
「この子案外と手が大きいのね」
「いえ、今までこんな小さな銃を触ったことがなくて…ですが私より小さい子もいますし、携行するにはちょうど良いかと」
「USPとどっちがいいかね?」
「トリガーレスはいささか不安はありますが、上着などに引っ掛からないのでグロックがいいかと思います」
「わかった。ナイフはどうするかね?」
「各自グリップは調整します」
「好きなの選んで~ 人気はこの折り畳み式よ」
武器商人がアタッシュケースを開くを様々なナイフが陳列している。
「たしかに携帯性は優れますが折りたたみは論外です。首を1回切ったら壊れるでしょう」
「あらそうなの?普通のコンバットナイフは大きすぎるからあまり揃えていないわ」
「この小ぶりな物程度なら大丈夫です」
ペーパーナイフを大きくした程度のナイフを手に取り振って見せる。
「かわいいだけじゃないのね」
「この子だけ飛び切り強いぞ?君の部下といい勝負すると思うがね」
「ですが、護衛とあれば一回使えばいいでしょう。使い捨ての感覚で折りたたみでもよいとは思います。あとは個人での好みの問題です」
「じゃあこの耐久性のある軽いカーボンファイバー性のオススメするわ」
「切れ味は?」
「保障するわ。私の護衛も使ってるもの」
「ではそれで決まりじゃな。ほかにリル君から要望する物はあるかね?」
「小銃は?」
「不要だ。常時携帯できないからな、必要な状況下になれば後方の部隊がフル装備で駆けつける。君らは初期対応だ」
「では防弾ベストを所望します。弾除けには必須かと」
「実は君らの普段着のスーツは防弾性がある素材で作ってある。あのドレスもな」
「これも私が手配したの」
この武器商人は何でも揃えるのか。
「では言うことはありません」
「よろしい、あとは注文やら大人のやりとりがあるから君は下がりなさい」
「はい」
やけにいかがわしく聞こえたが触れないでおこう。
「実に筋の良い、冷静沈着で狼みたいな子ね」
「さっき言った通り26人の中でも飛びぬけた才能を持つ、だから悔しいのだ」
「あの歳の少女には銃を握らせたくないと?世界的に見れば一部地域では普通ですが?」
「この先進国では異常だ」
「だから一緒に世界を見せて回ると?」
「そうだ。旅先での細かな手配もお前に一任する予定だ。特に大所帯で動くからな」
「いつも御贔屓頂き感謝します」
私が盗み聞ぎできた会話はここまでだった。
そして朝が来た。今日はオルガコフ様が世界を回る旅立ちの日だ。
特性の防弾スーツに袖を通し、ホルスターにグロック26と予備弾倉を一本、腰にはナイフを固定する。
部屋を出たとこで先日の武器商と再開した。
「貴方だけ特別にこれを上げるわ。お代はタダで」
SIGと書かれたプラ製の箱を受け取る。
「開けてみて」
廊下のサイドテーブルに置き開けると中には四角く角ばった印象の拳銃が入っていた。
「SIG
SauerProシリーズのSP2022よ。公用拳銃としてポピュラーなデザインと容易な取り回しが特徴の拳銃よ。私の部下は皆これを使ってる信頼のある拳銃よ。少し大型だけど貴方なら使えると思ってね。アンダーレールにはライトとかも付けれるから必要な時は用意するわ」
「なぜ私だけ?」
「貴方を気に入ったからじゃダメかしら?」
「私を引き抜くなら当主様に申し出てください」
「バレたかー。はいこれホルスター、グロックは腰にでも付けたら?知り合いの殺し屋はそうしてるわ」
「何から何までありがとうございます」
「お礼はいいのよ、セルゲイを嫌いになる年頃になったらいつでもうちにいらっしゃいね」
「考えてきます」
胸にSP2022を仕込み、グロックは腰に、ナイフは左の腰に固定することにした。
「おそいぞリル君、君は私の専属護衛なんだから」
「すみません。武器商さんと話し込んでいました」
「何か吹き込まれたな?無視しておけ」
「はい、当主様」
「その当主様は堅苦しいな。セルゲイでいい、君らは孫なんだ」
「はい、セルゲイおじ様」
「ふーむ、まぁよい行くぞ」
モスクワ会も集まった見送りは豪華なもので、パレードな気分だった。私はセルゲイの第一護衛として常に隣でお世話をしなければならない。屋敷からでるリムジンに乗り込み港へと向かう。そこから豪華客船で世界を回るそうだ。
こうして私達26人は世界を旅した。きっと故郷にも帰れる可能性も信じてか、もう捨て去った村には帰らぬ思いか、どちらだったかはわからない。しかし、北海道へ行きつくにはまだ長い年月がかかるのだった。