-八戸市 高等学校 12/28 10:00-
本来なら冬休みであるが、誘拐事件で学校を閉鎖していた時の補講のため私たちは通学をしている。25日の朝に犯人が逮捕され、リルちゃんも無事に保護されたと聞くがそれ以上の報道も情報もない。もちろん学校にも来てはいない。
「今日も補講とはダルいね~ 早く終わらせてカラオケでも行こうよ」
裕子が気怠そうにぼやく。気分はわからなくもない。
「仕方ないよ……」
「由香げんきないなー」
「裕子だって」
一昨日から普段通り学校に通うもこの会話の繰り返しな気がする。事件解決後にリルちゃんの家を何度か尋ねるも、不在と家にいる警察の人から告げられた。まだ入院してるかもしれない。もしかして安全のために退院しても本国に帰るのは?そんな不安が頭をよぎる。
「エレベーターきたよー」
「まって」
癖で考え込むとつい立ち止まってしまう。急いでエレベーターに乗り込み教室がある5階のボタンを押した。
「……」
無言の空間が続きエレベーターの扉が開くと教室が少しザワついていた。
「教室の奥で人が集まってるね」
裕子がスマホカメラを構ながら人込みに突っ込んでいく
私はそんな元気がないので徐々に近寄ると目を疑う光景がそこにあった。
「そんなことないって~ 私は本物だよー」
笑いながら談笑する少女には見覚えがある。透き通る青い髪にトレードマークの深紅のリボン、褐色の肌に赤い目、こんな目立つ学生は一人しか知らない。
「な、な……」
衝撃すぎて言葉がでない。すると
「由香じゃん、おひさ~!!」
手を振って元気よく声をかけられた。
「なんで」
「なんでって、退院したら学校に行きなさいって厳しく言われ……」
「そうじゃなくて!!!」
「なんで連絡なかったの!?」
裕子と二人で詰め寄った。
「ごめん、スマホ壊れて……連絡できないから学校きたら会えるかなって……心配かけたね」
「ほんとだよ……」
心の奥に押し殺していた感情が涙と共に一気にあふれかえる。
泣きながらリルちゃんの胸に飛び込んだ。彼女は優しく抱き込んでくれた。
「よかった……もう会えないかと思ってた……ずっと心配で」
裕子も泣きながら彼女に抱き着いている。私は手を握り、顔を上げた。
「もう、どこにもいかないで……」
「ここにいるし、どこにもいかないよ」
「約束」
「するよ」
すると手を強く握り返された。
「もう絶対に離さないんだから!!」
いつまでもこの時が続きますように……。
-名古屋市上空 UH-60J機内 12/25 07:00-
特殊作戦群を載せたヘリは朝日に照らされながら帰路に就いていた。隊員が無線を報告する。
「犯人拘束、人質は無事救助だそうだ」
「やったぜえぇ!!」
「いやっふうううう」
「お前の狙撃のおかげだな」
皆が若い隊員肩や背中を叩く。
「先輩たちの指導が上手いからです」
「こいつ、一人前に口ききやがって」
談笑の機内で彼は少し微笑んだ
「よかった、今度は君を撃たないですんだよ」
ヘリは寒空を切り裂きながら東へ向かった。