518 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/16(金) 15:26:08.99 ID:hb+OwaEl0 (PC)
割と暇な国王の一日
「なんてこったい。今月も赤字かよ……」
いつの間にか秋色に染まりはじめたハロワ国。
その王都・ルディブリアムにそびえる王城の最奥部。瀟洒な調度品のしつらえられた執務室には少々不釣合いな、幼い少女のつぶやきが聞こえてくる。
「ったく……、税収は潤沢に回収できてるはずなのに、どの部署も予算がカツカツだよ……」
まだあどけなさの残る少女の声で妙に親父くさい独り言をしゃべっているのは、決起から僅か二月あまりで大陸の大部分を平定したビプ妹ハロワ国王その人だった。
混乱と殺戮渦巻くMOB2ワールドに異世界からVIPPERと呼ばれる戦士たちを召喚し、自ら先陣をきり並居る強国を次々に陥落させ、さながら軍神フルブラウザと人々から恐れられているとはその外見からは想像だにできない。
ハロワ国王は大理石でできた専用の社長椅子にちょこんと腰掛け、ふっくらとした頬を膨らませながら決算書に目を通している。
「……この何ヵ月かで一気に人口増えたからなぁ……、こんなときに城壁の新装備とか実装されたりとかしたら最悪だよ。やっぱ、うちもコスト削減とかもっと考えなきゃだよな……」
コンコンと、扉をノックする音がした。
「おはようございます。国王、お茶をお持ちしました」
ビプ妹がしかめっ面のまま顔を上げると、茶器の載った盆を携えた青年がニコニコとしながら戸口に立っていた。
「なんだ、ベニィじないか。突っ立ってないで入ったらどうだ」
ベニィの愛称で呼ばれた若きVIP参謀は、カチャカチャと音をさせながら決算書にサインをする国王に近づくと、なれた手つきで青磁のティーカップへと茶を注ぎ始めた。
あまーい香りがあたりに漂いはじめる。
「すまんな」
ワイバーンの羽でできたペンを置くと、熱い琥珀色の茶を「ふーふー」と念入りに冷ましながら、ビプ妹はお気に入りのウサギが絵付けされたティーカップをすする。
「おっ、葉っぱ変えたんじゃねえか?なかなかいい茶だな」
国王の指摘に参謀がうれしそうに応じた。
「お気づきになりましたか!タイの町で人気のばばろあ草を乾燥させた茶葉なんですっ。あまーい香りがいい感じでしょ」
ブーーーーーーーーーーーーーー
ビプ妹が勢いよく茶の霧を吹いた。
「おおお前ベニィ……、不気味なもん飲ませんなよッッッ」
参謀は不思議そうに首をかしげる。
「そう……ですか?いま巷じゃ結構流行っているんですけど……」
「――いいよ、もう。普通の茶で……」
ビプ妹は辛そうに両手の人差し指でこめかみを押さえている。
参謀はそこらに噴霧されたあまーい香りのばばろあ茶をふき取りながら、荒い息をついている国王をかえりみた。
「国王はお疲れのご様子で……。国王の指揮のおかげでもう統一は目の前です。召喚したVIPPERたちも順調に経験を積んできています。どうでしょう、ここらで一日休暇をおとりになられては?」
「休暇かーー」
「はい、決戦も近いです。中には少々中だるみの国民もおりますが、ここらで彼らの指揮を高めるための視察という名目で、のんびりと城下町あたりを散歩でもされては」
「そうだな……」
ビプ妹は大きめさサイズのティーカップを両手で抱えたまま、窓外に一望できる城下町へ視線を向けた。
楓の木が色づき始める、少しだけ風の冷たい秋口の朝だった。
最終更新:2009年10月17日 11:48