584 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/16(金) 20:56:28.29 ID:hb+OwaEl0 (PC)
割と暇な国王の一日

第三話
――書庫の魔導師――

「岸田さん、いるかい?」
かび臭い湿った空気と、獣脂の蝋燭が燃える匂いが交じり合ったルディブリアム城の地下書物庫。
辺りに満ちた怪しげな雰囲気に、ビプ妹の周囲をふよふよ漂う精霊たちも不安げにしている。

「やあ、誰かと思ったら珍しいお客人ですな」
びっしりと書物の詰まった書架の奥から、葦染めの魔導服をゆったりと纏った男がひょいと顔を出した。
司書を務める魔導師だった。
彼の真名を知る者はこの国にはいないが、名を問うと「俺が岸田だ」と答えることから、同士達から岸田さんと呼ばれ慕われている男だ。

ビプ妹は積まれた熟練の書にヒョイと腰掛けると、率直に話を切り出した。
「雲骨丸殿が間違えてうちのトイレを詰まらせた」
「それはそれは……」
あくまで気さくに答える岸田さんの柔和な顔が、わずかに緊張するのをビプ妹は見逃さなかった。
「それで、解決法を探している。岸田さんなら何か知ってるんじゃないかと思ってな」

「それは一大事。……しかし生憎、国中の書物を司る私でさえ、雲骨丸殿が詰まらせたトイレを治す方法などが書かれた書物など見たことが無いな」
申し訳なさそうに岸田さんが答える。
「そうか、岸田さんなら何か分かるんじゃないかと思ったんだが……、そうなるとますます厄介だな」
ビプ妹が思案に耽っていると、岸田さんがポンと手を叩いた。

「そういえば、前に誰かの家でも雲骨丸殿がトイレを詰まらせたことがありましたな。確かそれは……」

ーつづくー

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最終更新:2009年10月17日 11:50