836 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/17(土) 19:51:49.67 ID:NkG5YeMq0 (PC)
空気読まず再開


第六話
――ROMらないROM――

日がだいぶ昇ってきた。
夜勤の話によると、基本的にROM氏は昼過ぎからの出勤ということだった。
しかし、時は一刻を争う。
ビプ妹はそう離れていない基本的にROM氏の自宅まで赴いた。

「ROMさん、いますかぁ?」
木戸をノックすると、間もなくROMがぬうっと顔を出した。出勤までまだ時間があるというのに、もういつものくたびれかけたスーツを着こんでいる。
「すまんな、突然」
意外な来客に心中驚きながらも、そんな表情を決して見せない。ROM氏はそういう男だった。
「…いえ、むさ苦しいところですが、ひとまず…お茶でもいれます」

こざっぱりというよりも、むしろ簡素過ぎるといったほうがしっくりとくる居間にビプ妹は通された。ふよふよと漂わせている精霊たちも、物珍しそうにあたりを見回している。
「…粗茶で申し訳ない」
歩く記録用メディアの異名を持つROM氏が、塗り物の盆に緑茶をのせてきた。

すこしぬるめに淹れられた香ばしい茶を一口すすると、ビプ妹は単刀直入に切り出した。
「実はだなROMさん。今城で、ちょっとマズいことが起こってる」
国王のただならぬ様子に、ROM氏もすこし居住まいを正した。
「雲骨丸殿が本城のトイレを間違えて詰まらせた」
「…それは」
ビプ妹の一言にさすがのROM氏も、一瞬顔を曇らせた。

「…なるほど。それで我が家に」
さすがに頭の回転が速い。歩く記録メディアはすぐに情況が飲み込めたようだ。
「…過去に一度、我が家でも雲骨丸殿にトイレを詰まらされたことが確かにありました」
「それでっ、そのときはどうやってッ」
腰を浮かすような姿勢でビプ妹が身を乗り出す。拍子にテーブル上の茶碗が揺れ、中の茶が少しこぼれ広がった。
「あっ、すまん……」
ビプ妹は居心地が悪そうに、もう一度ソファへ身を沈めた。

「…いえ、雲骨丸殿がトイレを詰まらせたとあっては、城の一大事。見方にすると頼もしいが、敵に回すと恐ろしい方すなあ」
ROM氏が手際よくテーブルを台ふきで拭きながら、訥々と独り言のようにつぶやいた。
「それでっッ? そのとき雲骨丸はどうしてた?」
すこし思い出すような顔をしながら、間をおいてROM氏が語り始めた。
「…確か、あのときは……雲骨丸殿は慌てて家を飛び出していかれて……。あの時は私も動転していましたしね……。どれくらい経ったかは定かではないんですが、酒を一本抱えて戻ってこられました」

「酒?」
ビプ妹が刮目してROM氏の顔を見つめた。
つぶやくように、されどもはっきりとした声音で彼は続けた。
「…銘酒 便所殺し」


ー次回をまてー

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最終更新:2009年10月17日 20:00