Johnnyの容体は極めて早く回復した。手術の6日後には、彼は座って食事を取れるようになった。8日後には、彼は難しい問題に取り組んでいた。そしてその3日後には、Johnnyは廊下を端から端まで一人で歩けるまでに良くなった。しかしこの間も、彼は病気に苛まれなかったというわけではない。
初めの2日間、彼の眼は完全に閉じられたままだった。48時間もの間、彼は失明の恐怖にさらされ続けたことになる。手術が行われた翌日、Johnnyは私に物理の本を病院に持ってくるよう頼んだ。そして、彼は私とFrancesに、その本の終わりのほうから問題を出すように言った。私たちの出した問題に彼が答えられた時、私は喜びを隠せなかった。Johnnyは、脳に対する手術が原因で記憶力を失ってしまったのではないかと心配していたのである。
しかし、彼の知能には何の障害も生じていなかった。数学や歴史の難しい問題にも、彼は答えることができた。私には難しすぎてわからないような数学の問題も、彼は解いてみせた。彼は飽きることなく、次から次へと問題を要求した。
その後、Johnnyは再び落ち込み、神経質になった。彼が逃してしまっている学校の授業についてである。学校で扱われている事よりも遥かに難しい内容を理解しているということを、彼は証明しようとした。人間が経験しうる中で最も危険な手術に耐えた12日後の5月10日、Johnnyは突然に手紙を書きたいと言い出した。Francesは、JohnnyがDeerfieldの友人に手紙を書こうとしているものだと思っていた。しかし、彼の手紙は有名物理学者、Einstein博士に宛てたものだった。Francesはこれに反対したものの、最後にはJohnnyが自分の言葉で手紙を書くことを許し、JohnnyもFrancesがペンをとることを認めて譲歩の姿勢を見せた。
JohnnyはEinstein博士に、彼は何度か難しい物理学の本を読んで理解しようとしているのだということを伝えた。そのうちに、宇宙と、地球の中心に物体を引き付ける力についてJohnnyはある考えに思い至った。彼は自身の考えをEinstein博士に説明し、それがすでに発見されたものなのか未発見のものなのかを尋ねた。
私はJohnnyの手紙に自分の書簡を添えて、投函した。嬉しい事に、Einstein博士は早々に返事を書いてくれた。博士は、手紙にとても興味をひかれたという。しかし、Johnnyの考えにはっきりとした見解を示すには、Johnnyの手紙は短すぎるとも書かれていた。彼は、Johnnyが自身の考えについて話せるくらい良くなったら、Johnnyと会って話がしたいと語った。
私とFrancesは手紙について皆に話そうとしたが、Johnnyはそれを止めた。彼のEinstein博士に宛てた次の手紙は、初めのものよりも丁寧に礼儀正しく書かれていたように思う。
『親愛なる Einstein博士
心のこもった手紙をありがとうございます。もしかしたら、前の手紙は、あなたに私を過大評価させてしまったかもしれません。
私は1カ月以上前に退院しました。それ以来、前の手紙の中で安易に使ってしまった難しい単語について理解しようと努めています。
私は勉強を続けるつもりです。そしていつかはあなたに会って、あなたが寛大にも受けてくれた話し合いをしたいと思います。』
私とFrancesには、Johnnyが最初の手紙で書いた考えが正しいものなのかどうか分からなかった。そこで、私は物理学の教授をしている友人に手紙を書くことにした。
友人は、Johnnyがどんな考えを持っているのか断言はできないと言った。しかし、Johnnyが取り組もうとしている問題は物理学の最高峰の一つであるとも答えた。Einstein博士も、他の物理学者たちも未だに完全には解決できていないという。友人は、Johnnyがその問題の存在に気付いたことに驚きが隠せなかった。
Johnnyの主たる興味は、いかにして学校に戻るかにあった。彼は受けることができなくなってしまった授業のことを、心配していた。そのJohnnyに対して、彼は二度と学校に戻れないかもしれないなどと伝えることが、私とFrancesには我慢できなかった。
彼はこの件に関して私とFrancesを欺いたのだが、それは後に記す。Johnnyは良くなりたいと思うあまり、眼と共に左手も衰えつつあることを隠そうとしたのだ。ともかく、彼が医師たちからの質問の全てに対して、痛々しいほど生真面目に答える様子は見るに堪えなかった。水分を摂りすぎないように言われれば、彼は自分の飲む水を一滴単位で管理した。Johnnyの望みは、医師からの指示に従って学校に戻ることだけだったのだ。
しかし、一度だけ、Johnnyがひどく怒った事があった。厚く巻かれた包帯の下、彼の青い目が火のように熱を帯びたその時間は、恐ろしいものだった。彼はDeerfieldの授業を激しく罵った。あるいは、彼のクラスの理解の遅い生徒のせいで授業が遅れる。あるいは、彼は大学の物理学をもう学べるレベルになっているため早くハーバード大学に進みたいと考えているのに、学校は彼に、すでに知っている内容を学ぶための時間、労力の消費を強いている。こういう具合にである。
Johnnyは腫瘍の原因が何であるのかに、強く関心を示し始めた。彼は、Deerfieldでの授業より進んだ内容を学びたいのに、それが許されないことが原因ではないかと考えた。
何がJohnnyの腫瘍の原因であったのか。Mount医師は他の数人と共に、Johnnyがそれまで送ってきた生活について調べた。彼らはJohnnyの頭に打撲の跡がないか、あるいは何か腫瘍の原因になりえる事がなかったかを調査した。ある時、Johnnyは誇らしげに言った。「原因がわかったぞ!」。Mount医師は重々しく、そして優しく答えた。「もしそうなら、君は医学の先行きを変えたことになるね。」
最終更新:2009年10月13日 18:20