暫定的な研究内容
キーワード:降雨量, 植生指数, 海面水温, EOF解析
1. 研究背景・修論目的
サハラ砂漠南縁に位置するサヘル地域では, 熱帯集束帯 (以下ITCZと略称)に由来する降雨をもとにした過度の降雨依存型農業が営まれているため, 気候変動に対する脆弱性が極めて高く, 近年頻発した大規模な干ばつにより, 草木が枯死し, 多数の家畜が死亡し, 何百万人という人々が餓死した. 逆に2003年には, アフリカ全土で大雨・洪水被害により550人以上の人々が死亡し, 250万人以上が避難を余儀なくされたのみならず, 農業に必要な有機物を含む表層土壌の侵食へとつながり, 甚大な被害を被った1). そこで本研究では, 天水農業を主体とするサヘル地域周辺における降雨量・植生の主要な気候パターンを把握するとともに, 熱帯海域の海面水温やジオポテンシャル高度等の気象データも用いて, サヘル地域周辺の気候変動に及ぼす全球的な影響を評価する.
2. 過去の研究
門村1) (2005)は, 2003年8月においてITCZがサハラの奥深くまで北上したことに連動して生じた, スーダン・サヘル地帯西部における記録的な夏雨とギニア湾岸地帯における顕著な小雨と干ばつの原因として, 15゜N付近を流れるアフリカ東風ジェットの波動による擾乱と, ギニアモンスーンが運ぶ湿潤気流との相乗効果により, サヘルを中心とした地帯で対流活動が活発化したためであると述べている.
また篠田2)(1991)では, サヘル地域における降水の長期的減少傾向は降水帯の位置が平年より南偏したためではなく, 熱帯における東西循環パターンが強まったことにより, 対流活動が全体的に弱まったためであると述べられている.
Giannini et al.3)(2003)は, サヘル地域の降水量が, 熱帯大西洋やインド洋は勿論のこと, 熱帯太平洋の海面水温によっても強く影響を受けていると述べている.
3. 対象地域・データ
年降雨量150 ~ 500 mmのサヘル地域を中心とした赤道 ~ 30゜N, 20゜W ~ 20゜Eの地域を対象とする. データにはGPCC発行の月平均降雨量 (1951.1 ~ 2004.12, 解像度:0.5゜), NOAA/AVHRRの正規化植生指数 (NDVI, 1981.7 ~ 2000.12, 解像度:8 km), NOAA/NCEPの海面水温 (SST, 1982.1 ~ 1999.12)を用いる.
4. 研究計画
降雨量・植生指数の偏差を経験的直交関数 (EOF)解析することで, サヘル地域周辺における降雨量・植生の主要な時空間的な変動パターンを明確にした. さらに, 得られた時係数をもとに降雨量・植生指数の増減と関連する全球の海面水温 (SST)の変動パターンを明確にした. しかし, 降雨量・植生・海面水温の時空間的な変動パターンのメカニズムの解明には至っておらず, 今後は海面水温だけでなく, ジオポテンシャル高度や大気の流れ, ITCZの挙動も考慮に入れた上で, サヘル地域周辺における気候変動のメカニズムを全球的な観点より解明する.
引用・参考文献
1) 門村 浩. アフリカにおける2003年の大雨・洪水災害. 地球環境. 2005, Vol.10, No.1, p.29-40.
2) 篠田 雅人. 熱帯アフリカの干ばつと砂漠化. 地学雑誌. 1991, Vol.100, No.6, p.910-926.
3) Giannini, A. Sravanan, R. and Dhang, P. Oceanic Forcing of Sahel Rainfall on Interdecadal Time Scales. Science, 2003, Vol.302, p.1027-1030.
最終更新:2010年03月28日 10:38