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受験が終わって僕はまた僕の日常を取り戻した。
受験は僕にとってくそったれなくらい非日常的なものだった。
受験が終わったらやりたいことがたくさんあった。やりたいことをひとつずつリストアップして全部実行するつもりだった。『ノッキンオン・ヘブンズドア』みたいに。でも受験が終わった今、やりたいことなんてたいしてありはしなかった。せいぜいホラー映画を観ることくらい(受験が終わってから一月で映画を30本くらい観た)。あれほど切望していたのに、僕の日常はそれほどぱっとしたものではなかった。
結局僕がやりたいことっていうのは一貫していた。僕は長編小説を描きたかった。
受験が終わったら一ヶ月くらい休みをとって実家に帰って長編小説を描こうと決めていた。それは僕にとって強力な受験の動機付けになった。それは間違いなく希望だった。その希望が僕を支えた。
一ヶ月とはいかなかったけど有給消化で3週間休みがとれた。僕はその時間を丸々長編小説に当てるつもりだ。
今はプレシーズンみたいなものだ。僕には「長編小説を描く人格」にトランスフォームする為の時間が必要なのだ。僕は気になった映画を手当たり次第観て、小説を読む。長編小説を描くために、しっかりとしたベースを作る。創造の神様に愛される為に。

ブランクは長い。インプットするだけじゃ足りない。自分の小説を読み返して、自分の文体、自らの肉体を取り戻すことが必要だった。『山賊村』からの小説を読み返した。
『山賊村』は前半と後半の断絶が気になった。前半はもろにジュブナイルで気恥ずかしくなった。翻訳調の文体と前近代的な日本の世界観ははっきり言って相当のギャップがあった。それが成功しているところもあったし、失敗しているところもあった。世に問うならばかなり手を加えなくてはいけない。ただ、どうしてこんな物語を自分が描けたのかはわからなかった。
『ちっちゃな海賊』はもう少し削って100枚くらいに納めたらどこかの新人賞に応募しても通用するんじゃないかな。自分で描いた物語なのに、ちょっと泣いちゃった。僕はこの小さな物語をとても愛しく思う。
『タワー』は僕が描いた長編小説の中で一番洗練されていると思う。読み返して新鮮だった。トリックの弱さはいかんともしがたいけれど、探偵ではなくトラブルシューターという設定ならいくらでもこのシリーズは描けるんじゃないかと思えた。本当に面白く読めたんだよ。ザッツ・エンターテインメント!
『デス・トライバル』は心底頭がイカれてると思った。イカれてるって感想しかない。自分が描いたとは思えなかったな。本当に気が狂ってると思った。キチ×イ。
『レインホース』シリーズも全部読んだ。僕はやっぱりレインホースシリーズのファンだし、もっと新しい物語が読みたくなった。『ハミングバード』泣いちゃった。

実家にカンヅメになって長編小説を描く。そんなチャンスはこれで最後かもしれない。何を描くかはまだ決めかねてる。いくつか候補はあるけど。時間がない。資料を集めなくちゃいけないし勉強だってしなくちゃいけない。僕は何を描く? 僕に何が描ける?
文学的勘を取り戻す為にも、長編の前にひとつ短編を描いておきたいところ。レインホースの新作にとりかかってる。ビールグラスの中の細やかな気泡みたいにインスピレーションが生まれては消えていく。僕は少しずつ小説を描く人格にトランスフォームしつつある。

レインホースの新作は銀行強盗の話です。
ジョン・デリンジャーとかボニー・アンド・クライドみたいに超クールなやつ。


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最終更新:2011年03月03日 02:25