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福島から東京までは高速バスを使った。
乗り物の中で寝るのが苦手なので、事前に睡眠薬と安定剤を飲んでいた。それでも僕はうまく眠ることができなかった。
サービスエリアでコーヒーを飲み、煙草を吸った。
どうしてサービスエリアで飲むコーヒーはあんなにおいしいんだろう?
僕は高速道路のサービスエリアが凄く好きだ。
サービスエリアはなんというか、暫定的な場所というカンジがする。
暫定。または仮定。
「僕らは移動する任意の一点である」というような、仮定。
ここではない、どこかでもない、仮定。
ここから物語が立ち上がる。
『タクシードライバー』みたいなオープニング。
不眠症の男。サービスエリアで体を売る女の子。交錯する謎。記憶。血のイメージ。ヴァンパイア。クローゼットで眠るあのこ。
夜の高速道路を走る車のテールランプは体中の細胞へと血液を運搬する赤血球のように見える。それらは連なり、圧を受けて、流れていく。
車窓から流れていく景色。意識。溶け合う。ロードムービー。工場のダクト。モーテル。街の明かり。近くに見える物は瞬く間に後方へと消し飛び、遠くの景色はゆるやかに移ろう。
車の窓ガラスに額を当ててみる。ガラスは温かくも冷たくもない。
僕は細胞について考える。
細胞の構造図は小さな宇宙だ。
核。核膜。リボソーム。リソソーム。ゴルジ装置。ミトコンドリア。細胞は細胞膜に包まれていて、チャネルを通してカリウムやナトリウムをやりとりする。そして電気が生まれ、細胞は興奮する。
細胞は興奮する。
細胞は飢える。細胞は充足する。それだけだ。とてもシンプル。細胞は物を思わない。細胞に想像力はない。
飢えと充足。
DNAは二重の螺旋構造をした命の鎖だ。塩基、糖、リン酸で構成されるヌフレオチドが連なる鎖。塩基はアデニン、グアニン、チミン、シトシンの4種類で、アデニンとチミン、グアニンとシトシンが互いに結合している。塩基配列はコード化された遺伝情報だ。
子宮の中で胎児は生命の進化を辿る。
卵子はひとつの細胞だ。胎児は魚になり、両生類になり、猿になり、人間になる。胎児は子宮の中で水かきがあったりしっぽがあったりする。
DNAの二重螺旋構造が分解されていくイメージ。
ほころび。命を紐解く。幻覚や妄想ではなく数学的なやり方で。情報はバラバラに分解され、極小のフラグメンツになり、やがてそれは別の何かに再構成される。統合される。
それは生命のミクスチュアだ。
再び結びつく。強く。求め合うということ。飢餓が充足されるということ。そうでもしなければ僕たちは途方もなく孤独になってしまう。
わからないのか?
そうでもしなければ僕たちは途方もなく孤独になってしまうんだ。
レディオヘッドを聴いていた。
分解され再構築されたポストロック。エレクトロニカ。高速道路に溶けた。意識。
あれはきっと薬が見せたイメージだったんだろう。僕はドラッグで完全にキマっていた。眠れずに、朦朧として、けれど意識のどこかでは覚醒していて、幾何学的な夢を見ていた。
プリミティブで、幾何学的な夢。


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最終更新:2013年08月27日 23:04