過去

今を生きている以上、明日を夢見て過去に縛られない生き方を望んでいる。

それでも、気持ちを伝えた頃にはもう遅いって事も知った。
あれから3ヶ月経って、関係が変わったと言えば変わったのかもしれない。

春休みで気づいてしまった2人の距離に、追い討ちをかけるように周りは囃し立てた。
その傍らで耳を塞ぎたいと思いながらもお酒を煽りながら酔い潰れようと必死だった。

現実はかくも残酷なものかと自分を戒めながら、この感情も胃液と共に流れていってほしいと考えていた。
それでも、彼女は相変わらず優しいままで気高い。
惚れた彼女と何も変わってはいなかった。
その相手も自分が信用している男で、優しさと厳しさを兼ね備えた奴だった。
入学当初、2人が代表でなるべきであろうと思いながら、同時に辞めていく気がしてこわかった。
だから、彼らを引き留めようと代表になって一年間責任を持ってやっていた。
その傍らで自分を支えてくれた彼らに感謝と共に、もう一年続ける事が出来ると喜んでいた。

だが、あの瞬間に嫉妬をし酔いつぶれた自分に彼女は心配してくれていた。
気がつけば彼女に感情を吐露していた。お幸せにと。
彼女は笑っていて幸せそうだった。
これが現実だと、皮肉めいた自虐心がここにはあった。
心身ボロボロな自分を心配して、帰ったら電話をしてくれと彼女は言った。散漫する思考で涙を堪えるので必死だった。


独り帰り道を歩くうちに嫉妬が消えたが悔しさは膨れ上がるようになり、
後悔しない生き方を選んだはずでも、行動をしなかった現実がすでに存在していた。
未だに何が正しい行動だったのかはわからない。
それでも自分は、感情を伝えたくて、何より彼女の気持ちを聞きたかった。
こんな告白はフェアじゃない。電話だなんて惨めで仕方がない。
そのうち酔いも覚め、頭もスッキリした。それでも心が痛いし、吐いた時の疲労感が自分を蔑むように溜め息をつかせる。

もう、自棄になっていたのかも知れない。
お似合いの2人だと思っていても、祝福をしたいと思っていても、
結局、自分は現実を受け止める事が怖かった。

家に到着した時には自分の中で答えが出ていた。
酔った勢いだなんて思わせないくらい真剣に、直球で。
シャワーを浴びて汚れた身体を洗い流し、気持ちが決まると気力も体力も戻ってきた。
携帯を手に取り、彼女の優しい声を聴く。
今思えば、初めて会った時から惚れていたのかもしれない。自分が変わろうと思うキッカケをくれた大切な人。
悔しいが、そんな彼女を幸せにしている男を憎めなかった。

きっとこの片想いは無駄じゃなかったと思えるくらいに、気持ちを伝えたいと思ったのは初めてだった。
告白なんてしたことない。誕生日を前にして自分はようやく一歩踏み出していけると安心した。

 


彼女を困らせてしまった。けれども彼女も自分も心地が良い時間だった。
普段、気持ちを隠す自分が好意を持っていた事に嬉しいと。フル時までも彼女は優しい…。

自分は諦めるために告白しているのに、それは辛かった。涙も出ない。
暖かいのに鋭利な感情が渦巻く。この距離は離れる事も彼女は許そうとしない。

3ヶ月経った今も、自分は毎週彼女達と会い、そのカップルのジャレ合いを間近で見せつけられる。
もう慣れたというよりも自分がこの気持ちを受け入れただけだった。
本当はさっさと距離を置くべきなのだろう。
だが、そうするには自分に嘘をつかないといけない。
先週も、代表の用事で電話をした。自分が今後の団体の方針で彼女に役職を継がせるために。
彼女は自分が気持ちを周りに伝えていく事を、まるで母親のように喜んでいる。

俺も笑う。彼女も笑う。
告白をしてからも感情が不安定で、友人に迷惑をかけた事もあった。
告白した事実を知っているからこそ、自分が苦しまない道を選ばせてくれた。

今はみんなが笑っている。それが自分にとっての幸福だ。
今でも皆は互いに支え合って団体を統括する。
感情が変わっても関係は変わらない。それが不幸だと思ってはいない。むしろ関係が壊れなくて良かったと本当に思う。

自分が変わっていく事に恐れはない。
ただ、この気持ちがいつかショウカされるのを望んでいる。
立ち止まっていても仕方がない。すぐに気持ちが変わらなくても自分は優しい気持ちになれて成長をさせてくれる。

自分はここにいる。いつしか離れていくのだから、この目で見届けてみたい。
目を背けて生きるのはもう要らない。辛いとか、それ以前に自分を受け入れたいからここにいる。

過去を振り替える事が悪いとは思わない。
ただ、そのせいで今を楽しめないのなら酸いも甘いも味わいながら、今の自分を望めばいい。

最終更新:2014年05月11日 10:29