スズメもモンシロチョウも外国からやって来た

  • サブタイトル:帰化動物と日本の自然
  • 責任編集:中村一恵
  • 発行所:PHP研究所

  • 初版:1990年7月20日


感想(2011/07/3)
生物の本をよく読みます。フィールドワークとかは全然しないのにです。
自然という巨大なシステムを自分の目で系統立てて解読することが出来ないけど、それを解説してもらって理解するのはすごく楽しいことです。

帰化動物といったら、ブラックバスやアライグマなど和やかな日本の環境でのさばっているという負のイメージしかもたれませんが、この本での取り扱いは優しい。
それらの生き物はもともと生きていた場所から連れて来られて、必死に生き抜こうとしているのだから。

最後の部分で帰化生物について、一般の人に責任を求めるのではなく推進してきた専門家に責任を求めています。
日本では明治維新後から産業の振興のために毛皮を取るための動物を何種類か移入してきて、そのすべてを野生化させてしまっています。

そのほかにも肉をとるために移入した動物や、動物園からも脱走させてしまい野生化させています。
一般の人がペット用に輸入した動物もです。

私はそもそも、日本人にはペットを飼う資格はないと思っています。
動物を飼うということは、その動物に対する深い知識とともに、自然に対する敬虔な態度が必要だと考えます。

私の周りを見渡してみても、きちんと動物を飼えている人は一人も居ないと断言できます。
ペットを見た目で判断し、動物の行動に対する知識を欠き、ゆがんだ愛情をかけるだけで真に自然に対する洞察を欠いています。

私は山を切り開いて作ったばかりの田んぼで作業したことがあります。
脚の周りを輪のようになって山ビルが吸い付いてきました。

それを一匹ずつ小枝に刺して逆さに剥いてい殺します。
見た目が不快ですし、血を吸われて脚が傷つきますし、病気を媒介するかもしれない。

その田んぼに十数年後に入ったときにはもうヒルは居なくなっていました。
日本に住んでいる動物たちは、こういう風に選択されて行ったのかも知れません。

人間が作り出す環境の変化によって新たに出来る住空間(ニッチ)を求めて、それまですんでいた動物の一部は排除され新たな動物が住み着いてくる。
スズメの祖先はアフリカなどの熱帯サバンナに住むハタオリドリから分かれた種類で、成鳥は留鳥の行動を示すが若い鳥は100㌔~400㌔ほども離れた場所に新たな居住地を確保する。

稲科草本類の実がなる場所に飛び石的に分布するスズメは歴史以前に自分の力で分布してきたのであろう。
モンシロチョウはヨーロッパが原産地で、その飛翔能力からアブラナ科の植物の分布に伴い歴史とともに拡散したか、それよりも早く広がったのかが不明である。

新大陸には農作物の輸入とともに拡散して行った歴史が記されている。
羽のある動物は人間の活動とともに、または関係なく広がっていったが、そうでない生き物は近代になって輸送力の向上とともに各地に拡散して行きます。

帰化動物を初めて見たときに人はギョッとします。
今までに見たことのない色や形、ずうずうしい生態に嫌悪感を覚えます。

しかし、それは人間が作り出した新たな環境の変化に適応した結果だと言うことも出来ます。
ブラックバスは止水性の魚で、湖沼のほかにも治水工事で生じた堰堤などの流れがよどんだ場所にも住み着きます。

逆にカマドコウロギなど、熱帯性の昆虫は毎日のように竈を使う家がなくなって動物園の熱帯舎や温泉地の温水パイプ付近などに生活の場を狭められています。
見た目に在来種を押しのけたように思える動物も、必ずしも競合しているとは限らない。

アメリカザリガニは良く目に付きますが、もともと日本にはニホンザリガニがいました。
しかし、ニホンザリガニは渓流に生息し、アメリカザリガニは環境の悪い場所でも生きていけるので競合しているとはいえない。

鎌倉付近で大量に発生したタイワンリスも、鎌倉の豊かな自然という限られた環境の中で暮らしていけるが、ニホンリスと出会っているかは不明だという。
それとは逆に、眼に見えないところで在来種と帰化動物が混血をして、在来種が絶滅寸前になっていたり本来の生態から狂っている例も挙げられている。

簡単に帰化動物イコール悪と捉えるのではなく、正しい知識を持つことの重要性をこの本で得ることが出来る。
生き物を扱う仕事は、本来もっと神聖でもっとも大事な扱いをするべきだったのだが、日本は賎民視してきたことにこのゆがみは出ていると思う。

日本のこれからの生態系のために、専門家が考えるだけではなく、私たち一般人こそが自然に対する知識を蓄えることが必要だと思われる。

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最終更新:2011年07月03日 23:57