
![]() アドバンスト・メディアの最新の音声入力ソフト |
■実用的な音声入力への情熱
アドバンスト・メディアは、独自の音声認識技術で、電子カルテや議事録・会話記録の作成をはじめ、英語教育、携帯電話利用などの市場を切り開いてきた。
創業者である鈴木清幸会長の開拓者精神は、昨年11月に仏エビアンで開催された起業家育成機構「ワールドアントレプレナーシップフォーラム(WEF)」の
公式メンバーに選ばれるなど評価も高い。鈴木会長はニーズを見極め、注力すべき事業領域(コアドメイン)を見定めながら「今後はその拡充にフェーズを移
す」と力を込める。
昨年、同社の音声認識エンジン「Ami Voice(アミ・ボイス)」を活用した「音声入力メール」が、「ソフトウェア・プロダクト・オブ・
ザ・イヤー2008」(情報処理推進機構主催)を受賞した。「誰も使わなかった世界に実用的な解答をしてみせた」と鈴木会長が胸を張るその技術は、たとえ
ば「7時30分まで会議をやって、その後は会食して帰ります」と携帯電話端末に向かって話すと、そのまま文字になって画面に表示される。
音声認識は、人間の声をコンピューターで自動認識し、テキストなどで出力する技術。従来、認識率の悪さや、利用者が自分の声を事前学習させる必
要があるなどの手間から、実用化期待が高い半面、普及しなかった技術としても有名である。同社は、この“負の常識”に挑み、事業の黒字化、マザーズ上場、
先の受賞など次々に成果を挙げてきた。
会社設立は1997年。前職時代に出合った音声認識の世界的権威、アレックス・ワイベル博士(カーネギー・メロン大学教授)の技術を踏まえ、ど
の企業も軌道に乗せられずにいた「日本語」の音声認識ビジネスを目指した。技術的特徴は、独特の設計思想から生まれた、事前学習のいらない「不特定話者」
だ。マーケティングを重ね、使用領域を絞り込むことで、その領域でなら誰が話しても認識率100%に近い数字で、便利な使い方が提供できることを見いだし た。
2003年に議事録作成支援サービスを開始。議会や会議での内容を即時テキスト化するとともに、画面に従って認識・変換ミスを効率的に修正でき
るバックヤードの仕組みも入れたのが知恵だった。通常の文字起こしに比べコストを抑えながら納期を3分の1などに短縮。沼津市議会や北海道議会など30近
い議会のほか、企業や病院、金融機関での採用を取り付けていく。
04年にリリースしたコールセンター(CC)支援は、会話を文字記録するだけでなく、話し言葉(キーワード)から瞬時に必要情報をポップアップ
でオペレーター画面に自動表示する機能を備えた。最近は重要事項の説明など話すべき項目・言葉に抜けがないかを証拠に残せる仕組みなど、機能に厚みも持た
せている。
同じく04年開始の電子カルテ作成支援は、医師のクセのある言い方でもきれいにフォーマットに沿って入力されていく利便性が評価され、現在は採用件数約800事例を数える。他にもX線画像の所見や、調剤薬局の調剤記録など医療関連市場にくさびを打ちこんだ。
一連の動きは、議事録、CC、医療系分野に使用領域を絞り、音声認識をツールに、効率化を大きく促すソリューションを掛け合わせることで、市場から受け入れられていった。ただ、万人受けする製品ではなかった分、経営的に厳しい状況が続いたのも事実だ。
「これまではフェーズワンという位置づけで、08年は特に収益力向上のために布石を打ってきた。今後は、成長分野のさらなる育成・開発を進める」(鈴木会長)
新芽も出てきた。ベネッセコーポレーションのeラーニング講座「進研ゼミ中学講座+i」で、英語の発音の間違い判定にアミ・ボイスが採用された
ほか、「完全不特定話者」による音声入力が可能な一般向けワープロソフトや、携帯用「音声入力メール」もサービスを開始。絞り込んできた市場戦略は、一般
消費市場へと触手を伸ばし始めている。
2009/3/25
![]() 自社の音声受付システムの前に立つ鈴木清幸会長 |
■一般消費者に積極的アプローチ
アドバンスト・メディアは、自社の音声認識技術「Ami Voice(アミ・ボイス)」の応用ビジネスを、議事録など実績のある特定領域で強化する一方、一般消費者が使う領域にも広げ始めた。鈴木清幸会長に事業の近況や展望を聞いた。
--アミ・ボイスと今までの音声認識技術との違いは
「一言で表すなら、次元が違う。『不特定話者』を音声認識の世界において実現させているか否かの違いはそれだけ大きい。簡単に説明すれば、人の話し言葉
から『音素』を探索し、音声情報、辞書、言語モデルを利用して、テキストやロボット音声などで出力する。この方法では言語を選ばないが、よく使われる『単
語認識』は、事前学習でコンピューター側に話す人の“クセ”を登録し、単語とマッチングさせる方法が取られるので、話者や言語を特定する必要がある」
--音声認識ビジネスは難しいという見方も根強い
「音声認識ビジネスは過去40年以上、失敗の歴史だった。だがわれわれは、ビジネスを存続させ、現在はコアドメイン(中心事業領域)の設定から拡大へのフェーズに移っているという事実がある。業績拡大に向けてのさらなる営業強化やコスト削減が求められるが、これまでに必要な布石を打ち、次の飛躍
に向け経営体質強化を図ってきた」
--今年からの成功シナリオは
「現在の注力事業である金融機関向けコールセンターソリューションのほか、医療機関で使われる電子カルテ、議会などで必要な議事録の作成支援と
いった、実際に採用案件が増え、今後の市場も期待できる分野で、成功事例を武器にわれわれのシステムがどれだけ便利で、コスト削減や効率化、ときに
CS(顧客満足度)向上に役立つかを知ってもらい、さらなる普及と、他分野への水平展開にもつなげていきたい」
「最近の話題では、まずeラーニング講座で英語発音練習機能として採用されたことや、パソコン用音声ワープロソフトの投入を挙げておきたい。こ
のワープロソフトは話す人を選ばない『完全不特定話者』で、さまざまな分野の言葉を広く認識する。かつて大型コンピューターメーカーが成功しえなかった分
野にわれわれは挑み、毎月300~400本の販売実績を持つに至っている。また、モバイル分野でも富士通製FOMA端末への技術搭載が実り、NTTドコモ
の世界初『音声入力メール』サービスが開始されるなど、一般消費者市場に対し積極的なアプローチを開始している。専門市場と一般市場の両面から、確実に音
声認識技術が新たなフェーズに入ったことを伝えていきたい」
--さらにどのような展開が期待できるのか
「医療分野を挙げると、米国では医師による診断書作成などをサポートする医療事務補助者が約20万人もいるとされる。重要な機能であるが、人件
費の削減が課題でもあり、ここにわれわれのビジネスチャンスが生まれている。米国では、医師が話す内容を、音声認識技術を使って、いったん別の外部スタッ
フが高精度な診断書にして、それを本来の医療事務補助者が確認するASPモデルが成り立っている。日本でも国が補助者育成に力を入れ始めており、今後、同
様のビジネスが展望できるだろう。さらにこのモデルは、医療分野に限らず応用でき、新たな就業機会を創出できるとも考えている。専門職の補助業務を、自由
な時間に働けるスタイルで提供する環境に道を開く」
--昨年11月、フランスのエビアンで開かれた「ワールド アントレプレナーシップ フォーラム(WEF)」に参加した
「WEFは、仏政府が強力に後押しする、いわば欧州主導型起業家養成のためのシンクタンクだ。35の国籍からなる96人のメンバーで構成し、私
はその公式メンバーとして参加した。世界的起業家をどう育てるか、それを阻むものは何かなどさまざまな議論をし、12の提言を策定した。こうした活動を通
じ、日本でもアントレプレナーの重要性を今まで以上に認知してほしいと思う」
(ジャーナリスト 遠藤昌明)
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【プロフィル】鈴木清幸
すずき・きよゆき 京大大学院工学研究科化学工学専攻博士課程修了。米カーネギーグループ主催の知識工学エンジニア養成プログラム修了。
1978年東洋エンジニアリング入社。86年インテリジェントテクノロジー入社、89年常務。97年アドバンスト・メディアを設立し、社長に就任。
2008年から現職。57歳。愛知県出身。
【会社概要】アドバンスト・メディア
▽本社=東京都豊島区東池袋3の1の4 サンシャインシティ 文化会館6F(TEL03・5958・1031)
▽設立=1997年12月
▽資本金=41億9897万円(2008年3月末日現在)
▽売上高=26億6800万円(連結、08年3月期)
▽従業員数=110人