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平成20年7月特集 大学+自治体のパワー
千葉県白井市など 順天堂大学
順天堂大学スポーツ健康科学部健康学科 教授(医学博士)
誰もが願う健康増進。それを地域ぐるみで推進しようというのが「パートナーシップ型の健康なまちづくり」だ。順天堂大学がある千葉県印旛村を中心とする辺りが、日本の先進地域と言えるだろう。
ヘルスプロモーションとは世界保健機関(WHO)が一九八六年のオタワ憲章で提唱した新しい健康観に基づく二十一世紀の健康戦略で、「人々が自らの健康とその決定要因をコントロールし改善することができるようにするプロセス」と定義されている。
「すべての人々があらゆる生活舞台-労働・学習・余暇そして愛の場-で健康を享受することのできる公正な社会の創造」を健康づくり戦略の目標としている。
そして、目標実現のための活動方法として、▽健康な公共政策づくり▽健康を支援する環境づくり▽地域活動の強化▽個人技術の開発▽ヘルスサービスの方向転換 ―― の五つを掲げている。
日本では、厚生省の「健康文化都市構想」(九二年)が出たことで飛躍的な展開を見た。
私は当初、故郷の高知県南国市を中心に活動を展開していたが、大学が千葉県の習志野市から同県印旛村に移転したことを契機に、印旛郡地域の市町村との協働による「ヘルスプロモーションの視点に立った健康なまちづくり活動」を開始した。
そうした中で生まれたのが、千葉県白井市(当時は白井町)の健康なまちづくりプロジェクトで始まった「パートナーシップ型健康なまちづくりの形成過程」構築(九六年)だった。
今にして思えば、これが“大学+自治体のパワー”をフルに活かすことのできる戦略だったと自負している。
現在では、この展開方法が地球の裏側のブラジルのペルナンブコ州レシフェ市の「東北ブラジル健康なまちづくりプロジェクト」に受け継がれ、世界的な展開を見せるようになった。それも一重に市民と行政そして大学の協働によるプロジェクトだったからだと思う。
ブラジルの人々が我々の活動に共感してくれたのは「白井市をはじめとする印旛郡地域での健康なまちづくり活動は、市民の顔が見える」、すなわち「単なる行政や大学主導の勝手な活動ではない」と捉えたからだ。
文化や宗教、貧富の問題を超えて、グローバルな戦略であるヘルスプロモーション活動の一環としても、日本の地で生まれた実践が今や注目されていると言える。
「パートナーシップ型健康なまちづくり活動」は図のような過程で進む。
まず市町村(企画課か健康課)が事務局となり開始する。第一段階は「住民の学習会(健康講座や健康大学)」、第二段階は「行政職員の学習会」、第三段階は「住民と職員との合同委員会(ワークショップ)」、第四段階は「策定委員会」、そして第五段階は「市町村長へ健康なまちづくり計画書」の提出。それから議会の承認を得てPlan(計画)→Do(実施)→See(評価)→Show・Publish(公開)の過程を繰り返す。
このような過程を経て、印旛郡地域の市町村では健康なまちづくり活動が展開されている。
ヘルスプロモーション活動で私が今までに関った全国の市町村は▽白井市・酒々井町・佐倉市・印旛村・栄町・四街道市・習志野市=千葉県▽青森市▽岩手県陸前高田市▽埼玉県深谷市▽神奈川県座間市▽板橋区・練馬区・渋谷区=東京都▽宮崎市▽静岡県引佐町▽熊本市 ―― などだ。
私が当初から考えていたのは、単なる市町村の活動で留まっては大きな損失ということだ。ミクロな活動をメゾな活動に、そして最終的にはマクロな活動にまで波及させていくネットワーキングにこそ価値がある。
関係した自治体の中で、白井市は「健康文化都市大学」、酒々井町は「健康創造大学」、佐倉市は「ハッピネスデザイン講座」、栄町は「いきいきのびのび健康セミナー」、四街道市は「健康づくり市民講座」を、それぞれ市民向けに開講した。
また行政活動としては、白井市が「健康文化都市プラン」を策定して「健康文化都市」を宣言するなど、市町村によって名称は異なるが、ほぼ同じ内容のプランを策定し、宣言を採択している。
住民活動を見ると、白井市では「夢ふれ愛サークル」、酒々井町では「サークル酒・和・花しすい」が、佐倉市では「佐倉ハッピネスの会」が組織され、それぞれ自分たちの住んでいる市町村を“健康なまち”にするために独自の活動を展開している。これらはミクロな活動といえる。
他にも風と木の会(宮崎市)、ときめく輪ざま(座間市)、さわやか深谷・健康を考える会(深谷市)、和く話く輪(陸前高田市)、いき粋サークル浅虫(青森市)、ポレポレ印旛(千葉県印旛村)などがある。これらの市民グループは、WHOのヘルスプロモーションの理念を学び、立ち上がった人々といえる。
メゾな活動では、各市町村の住民が中心になり行政の協力を得て、印旛郡地域内の「健康なまちづくり活動」のネットワーク化を意識し「合同バーベキュー大会」を皮切りに、互いのグループ活動に参加し合うなどし、活性化と連携・協力への礎石を築くための活動を展開し始めている。
マクロな活動では「全国健康なまちづくりネットワーク会議」を七年前から開催している。今年は佐倉市で開催される。
このようなミクロからマクロまでの活動のすべてに、私の健康社会学研究室は関わり、積極的な支援をしている。もちろん私一人でこのような活動ができるわけではない。市町村での健康講座はすべて鈴木美奈子助手との話し合いによって企画し実施している。学内でのパートナーシップもまた、視野や発想を広げる重要な要素であると私は考えている。
「健康なまちづくり活動」が成功するには二つのカギがある。
一つは「コミュニティ・ミーティング」の価値に気づくか否かだ。それは、住民と行政職一人ひとりの「生活感覚」、すなわち“想い”を共有し、共通する健康ニーズの解決に向けて、共に活動していくプロセスに気づくか否かだ。
換言すれば「人々が自らの健康とその決定要因をコントロールし、改善することができるようにするプロセスである」というWHOが主張しているヘルスプロモーションの概念そのものの価値に気づくか否かだ。
それは唱道された住民と行政職が立ち上がり、自分たちが住んでいるまち・地域社会のエンパワメント(力量)を高め、自分たちの手で自分たちが住んでいるまちの健康づくりに取り組んでいく主体的なプロセスだ。
二つ目は、①市町村長②行政職③市民④専門家 ―― のリーダーシップの有機的連携だ。最近は企業のリーダーシップも必要になってきている。いわゆる産官学民の四位一体だ。
大学はこれらの四つのリーダーシップを束ねていくコーディネーター、ファシリテーターの中心的な役割を担っていると考えている。
いずれにしても、健康なまちづくりは「まちを愛する人々の美しい心」がなければ成功しない。
皆さん、「Think globally act locally ! 地球サイズの愛をもって今できることから始めよう!」ではありませんか。