私が目撃した独裁国家の選挙(高橋) 2015/10/15 20:17 前の記事 次の記事 ホーム 「中国には選挙がない」とはしばしば聞く話ではないだろうか? だがこの言葉は正確ではない。実は中国にも選挙“制度”はちゃんと存在しているのだ。どんな選挙制度が存在するのか、そしてそれにもかかわらずなぜ「選挙がない」ように見えるのか、考えてみたい。 IMG_2490 中国の選挙制度と「党の指導」 中国憲法第34条では、「中華人民共和国の満18歳以上の公民は、民族、種族、性別、職業、家庭や出身、宗教信仰、教育程度、財産状況、居住期間に関わらず、すべて選挙権および被選挙権を有する。ただし、法律により政治的権利を剥奪された者はこの限りではない」と規定されている。憲法上は中国にも選挙があるわけだ。ただし日本人が一般的に考える選挙とは大きく異なる。 中国の「議会」は4つの段階に分かれている。上から順に、全国人民代表大会、省級人民代表大会、県級人民代表大会、郷級人民代表大会の4つだ。このうち、一般市民の投票の対象となっているのは、県級人民代表大会、郷級人民代表大会の2つまでで、それ以上の人民代表大会の議員は、一つ下の級の代表大会の議員による選挙によって選ばれることになる(市民の視点からすると間接選挙)。ここだけ聞けば、ある程度まっとうな選挙のようにも見えるのだが、実は全国人民代表大会、省級人民代表大会の議員の立候補者は、下級の人民代表大会の議員である必要はない。県級人民代表大会、郷級人民代表大会に選ばれていない人物が議員となることができる。市民に選ばれていない者でも国の議員である全国人民代表大会代表になれるわけだ。 また立候補には中国共産党か友党、もしくは選挙民10人以上からの推薦が必要となっている。余談だが、中国には共産党以外の政党も存在する。ただし日本の野党とは異なり、あくまで共産党の政策に従う政党でしかない。「共産党の友党」と呼ばれるゆえんだ。中国民主同盟、中国農工民主党などがある。 10人の推薦が条件だというなら、誰でも簡単に立候補できそうなものだが、現実は異なる。1970年代までは中国共産党の指導により、等額選挙、つまり立候補者数と当選枠が同数とされていた。例えば、ある選挙区で当選枠3人の選挙が行われたとする。そこに10名以上の推薦を得て、8人ほどが立候補したとする。しかし中国共産党の指導により、立候補者は3人まで減らされてしまうのである。形式的な選挙は存在していたが、結果は事前に決まっていたわけだ。 さすがにこれでは選挙とは呼べないため、現在では差額選挙が導入された。それでも競争率は最高で2倍になるよう「指導」されている。つまり当選枠3人の選挙区では最大6人までしか立候補できない。また選挙委員会による審査もあり、事実上「中国共産党のメガネに叶う人物しか立候補できない」制度になっている。 ついに「選挙」を発見 「中国に選挙がない」という言葉は正確ではない。「立候補の自由がなく、形骸化した選挙が行われている」というのが正しいところだ。ただそれは建前としての制度論だ。実際に中国人に話を聞いてみると、「憲法にも選挙法にも選挙に関する規定がある」と言っても、「選挙があるなんて告知聞いたこともないし、やってるのを見たこともない」とか「選挙なんか行ったことない。周りの人も誰も行ったことがない」という回答ばかり。ある中国人の法学教授は「憲法には選挙の規定があるが、それを無視した違憲政治が続いている」と批判していた。 中国人ですら見たことがない「選挙」。やはり存在しないのだろうか。いやいやそうではない。筆者は先日、北京市で選挙を目撃した。投票箱が出る一週間ほど前に選挙ポスターらしきものが貼りだされており、当日には投票箱も登場した。 IMG_2489 IMG_2481 IMG_2480 IMG_2479 IMG_2478 だがあまりにお粗末な選挙であることは間違いない。「道の真ん中に投票箱が置いてあるだけ」、なのだ。そして道ゆく人の誰もが投票箱に目もくれない。「選挙など見たことない」のではなく、「目に入らなかった」というのが真相なのだろうか。選挙が形式的なセレモニーにすぎないことを市民がよく知っているからだろう。実際、選挙が終わった後も当選者の公示はなかった。 IMG_2488 こんな無意味な選挙は資源の無駄なのでは……と考えさせられた光景だった。 関連記事: 中国共産党は憲法を守ってちゃんと社会主義せよ!薄熙来政党の主張が斬新だった件 「ネットの勝利」がないと動かない中国の司法、ある女性歌手の“解放”を考える 中国の腐女子に衝撃=ネット掲示板にBL小説転載の女性逮捕 【小ネタ】中国民間の金融飢餓=環球時報の紙面構成が秀逸すぎる件 「ネットを取り戻す」習近平の大号令でエロ小説作家、BL小説作家が大変なことに―中国 ■執筆者プロフィール:高橋孝治(たかはし・こうじ) 日本文化大学卒業。法政大学大学院・放送大学大学院修了。中国法の魅力に取り憑かれ、都内社労士事務所を退職し渡中。現在、中国政法大学 刑事司法学院 博士課程在学中。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』。特定社会保険労務士有資格者、行政書士有資格者、法律諮詢師、民事執行師。※法律諮詢師(和訳は「法律コンサル士」)、民事執行師は中国政府認定の法律家(試験事務局いわく初の外国人合格とのこと)。『Whenever北京《城市漫歩》北京日文版増刊』にて「理論から見る中国ビジネス法」連載中。ブログ「中国労務事情」を運営。 トップページへ 「コラム」カテゴリの最新記事 中国シェア自転車「悪名高きマナー問題」が消えた理由(高口) 「同性婚未保障」の民法は違憲、台湾の違憲審査がはらむ危険性(高橋) ブログもSNSも取材は禁止、人民日報のコピペだけにしとけ=中国政府の新ウェブメディア規制(高口) 「中国モバイル決済の発達ぶりにビビる日本人」中国ネットユーザーの反応(高口) 検閲には困ってない?!中国コンテンツ企業の意外な本音(高口) 「中国-社会」カテゴリの最新記事 ブログもSNSも取材は禁止、人民日報のコピペだけにしとけ=中国政府の新ウェブメディア規制(高口) 検閲には困ってない?!中国コンテンツ企業の意外な本音(高口) 突如盛り上がってきた「中国スゲェ話」と中国ネットの「日本スゲェ話」(高口) UPQ問題から考える「信頼」の日本モデルと中国モデル(高口) 二重国籍を許さない中国の国籍法、それでも突破口を見つける中国人のトンチ(高口) カテゴリ コラム 中国-社会 タグ 記事:高橋孝治 中国 前の記事 次の記事 ホーム このエントリーをはてなブックマークに追加 コメントを書く 人気記事 1 なぜ中国でここまで『蒼井そら』が人気なのか?中国人から聞いたその理由―中国オタ事情 2 信じられない話だが日本人は学校で漢文を勉強するらしい……中国人オタクの疑問(百元) 3 テレ東深夜ドラマが中国でまたまた話題に!「孤独のグルメ」を語る中国人オタク(百元) 4 タイの格差は世界最凶レベル!総所得の5割を富裕層が手にする社会(ucci-h) 5 中国シェア自転車「悪名高きマナー問題」が消えた理由(高口) 海外・翻訳ニュース カテゴリ人気ブログ 1 ほんとにもう、大きくなりやがって。育ち盛りの犬たちビフォー・アフター総集編 カラパイア 2 韓国労働組合「ムン・ジェインを支援した我々は正義だ! 3年で2兆ウォンの赤字を出しても昇給させろ! さもなきゃストだ!」 楽韓Web 3 【胸熱】アメリカが「宇宙軍」を創設か、地球外の脅威から民間人を守るための部隊になる模様 ユルクヤル、外国人から見た世界 4 海外「見ていて微笑ましい」日本の伝統的おもちゃを初めて見た外国人の子供がキュート過ぎる!! かっとびジャパン - 海外の反応 - 5 中国 アホらしい事件 日本や世界や宇宙の動向 もっと見る 動画ランキング LINE LIVEアプリで見る 1. だいきん□(CLUSTAR.)ライブ 2. TAEMIN #1 3. 益若つばさゆるLINE LIVE□#6 4. ジェネシスワンとか。。事務所とか。。。 5. いつもありがとうございます□✨おうち配�� 6. まほりんちゃんねる 7. 2万人突破企画〜100位以内に入れば参加 8. 歌うよ 9. Powered by livedoor Blog