D論研究
Growth responses of 6 Japanese forest tree species to ozone under different N loads
(異なる窒素負荷量で育成した日本の森林樹種6種のオゾンに対する成長応答)
近年、大気から森林生態系への窒素沈着量の増加が指摘されている。窒素は植物体内において様々な生理・生化学的反応に関与する元素であるため、窒素沈着量の増加は植物のオゾン感受性を変化させる可能性がある。もし、窒素沈着によって森林を構成する樹木のオゾン感受性が変化するのであれば、地域による窒素沈着量の違いが、森林におけるオゾンのリスクの過大あるいは過小評価を引き起こす要因になる。しかしながら、窒素沈着量の違いが樹木の成長や生理機能のオゾン感受性に与える影響はほとんど明らかにされていない。したがって、窒素沈着の影響を考慮にいれたオゾンのリスク評価を行うことはできない。そこで、博士課程においては、日本の代表的な6樹種のオゾン感受性に対する土壌への窒素負荷の影響に関する研究を行った。
各樹種の育成とオゾン処理および土壌への窒素負荷は天井に開口部をもうけたオープン・トップ・チャンバー内で行った。ガス処理として浄化空気区と野外のオゾン濃度の1.0倍、1.5倍および2.0倍となるようにチャンバー内のオゾン濃度を制御した処理区の合計4処理区を設けた。また土壌への窒素負荷量が年間1ヘクタールあたり0(N0)、20(N20)および50 kg(N50)となる3段階の窒素処理区を設けた。ガス処理と土壌への窒素処理を組み合わせた合計12処理区を設定した。2成長期に渡るオゾン処理および土壌への窒素処理の結果、個体乾物成長のオゾン感受性に与える窒素負荷の影響は樹種によって異なることが明らかになった。土壌への窒素負荷によって、ブナの個体乾物成長のオゾン感受性は高くなったが、カラマツのそれは低くなった。なお、コナラ、スダジイ、アカマツおよびスギの個体乾物成長のオゾン感受性は、土壌への窒素負荷の影響を受けなかった。供試した6樹種のオゾン感受性を決定する要因を解析した結果、6樹種の個体乾物成長のオゾンによる低下程度は、純光合成速度と葉面積の積として表される、個体あたりの純光合成速度のオゾンによる低下程度を反映しており、その関係は樹種によらず一定であることが明らかになった。これは出葉形態や成長型などがまったく異なる6樹種の、オゾンによる個体乾物成長の低下程度を1つのパラメーターで説明した点において極めて独創性が高い研究成果である。
上記の実験的研究の結果から得られた個体乾物成長のオゾン感受性の樹種間差異と、窒素沈着量の違いに伴うオゾン感受性の変化(ブナとカラマツ)に基づき、6樹種のオゾンによる成長低下率を、地理情報システム(GIS)を用いて日本全国にわたって推定した。その結果、オゾン濃度が高い地域とオゾンによる成長低下が著しい地域が、必ずしも一致するとは限らないことが示された。その原因として、個体乾物成長のオゾン感受性の樹種間差異やブナおよびカラマツで認められた、大気から地表面への窒素沈着量の違いによる、個体乾物成長のオゾン感受性の変化が挙げられた。これまでにも樹木の成長に対するオゾンのリスク評価は行われていたが、窒素沈着量の違いがオゾン感受性に与える影響を考慮し、それによる樹木の成長に対するオゾンの影響程度の変化を明確に示した点は世界でも前例がない極めて独創性が高い研究成果である。
以下広告です。
最終更新:2008年01月05日 01:49