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第01話「まじですかスカ#ライダーへの変身」


「生田さん、あなたには今日からライダーとして戦ってもらいます。」
「はっ?……へっ?」

衣梨奈は何が起きたのか分からないといった表情をしている。
その戸惑いは「モーニング娘。」に選ばれた時のそれを越えているようだ。

「ではまずは変身の仕方から説明を……」
「ちょ、ちょっと待ってください!」

あまりの急展開に頭がついてこれず、衣梨奈は男の説明を遮らずにはいられなかった。
そして、自分をこの場に連れてきた張本人であるマネージャーの方を不安そうに見上げる。

「マネージャーさぁん、どういうことなんですかぁ?この人はいったい……」
「いいから黙って聞きなさい」

マネージャーは即答した。
冷たく言い放つマネージャーに衣梨奈はビクッとしてしまう。
目の前の黒服の男はいったい誰なのだろうか
ジャケット撮影の最中で突然呼ばれたのだが大丈夫なのだろうか
衣梨奈の頭の中は疑問だらけだったが、マネージャーは何も教えてくれない。
特に訳が分からないのは「ライダー」という単語だ。
「ライダー」「変身」この2つの単語にはとても聞き覚えがある。
むしろ大好きと言っても良いくらいだ。
もしその単語の意味が衣梨奈の考えるものと一致するのなら……

(なんだか、とてもドキドキするっちゃん……)


「これらを使って変身してもらいます。」

黒服の男は派手なデザインのベルトとナックルを衣梨奈に差し出した。
黒いベルトの中心に金と赤の装飾が施されており、なにやらゴテゴテとしている。
ナックルもベルト同様に黒地に金装飾だ。 衣梨奈の手と比べるとかなり大きい。
大抵の人ならこれらを見ても「派手だな」くらいの感想しか抱かないだろう。
しかし衣梨奈は違った。衣梨奈はこれらの装置を見たことがあるのである。

「イクサ!!」
「ん?ご存知でしたか」

突然"イクサ"と叫ぶ衣梨奈に黒服の男は驚いた風である。
それは大声に対する驚きでなく、衣梨奈が知っていたことに対する驚きだ。
それを察したマネージャーは軽い補足をする。

「この子特撮好きなんですよ。」
「ああ、それは話が早いですね。」

衣梨奈はぷるぷると震えていた。
まだ頭の中は分からないことだらけだが、興奮を抑えることが出来ないのだ。
このベルトとナックルは玩具なんかではない……衣梨奈は手に持った瞬間にそれを感じ取っていた。

「では説明するまでも無いみたいですね、さっそく変身してみてください」
「えっ……でも、まだ聞きたいことがたくさん!」
「でしょうね、でも今説明しても消化しきれないでしょう。
 とにかく変身してみてください、それが一番手っ取り早い」
「は、はい!」



衣梨奈は混乱しきっていた。
黒服の男は「ライダー」に「変身」して「戦え」と言っている。
男の言葉の意味することが衣梨奈の考える通りだとしたら……あまりに馬鹿げている。
何かのドッキリだろうか?醜態を晒す衣梨奈にプラカードでも見せ付けてくるのかもしれない。
違う、それにしてはベルトとナックルの造りが本格的すぎる。
では「ライダー」の格好をするコスプレイベントでもあるのだろうか?
違う、そんな打ち合わせならジャケット撮影の後でも出来る。緊急性が感じられない。
ならば次期「ライダー」の主役に衣梨奈が選ばれ、その撮影でもしようと言うのだろうか?
違う、過去の「ライダー」であるイクサを今さら主役に持ってくる訳が無い。

(信じられんけど、ほんっっとに信じられんけど、とにかく、やらんと!)

ひょっとしたら大恥をかくかもしれない。
それでも衣梨奈は湧いてくる衝動を抑えることが出来なかった。
恥ならたくさんかいてきたのだ、今ここで全力を出さなくてどうするのだ。
全力で、全力で、衣梨奈はナックルを左の掌に叩き付けた。

『レ・ジ・イ』

叩き付けるなりナックルから鳴り響く機械音声を聞いて、衣梨奈のテンションは最高潮に達する。
もうこうなったら衣梨奈は止まらない。
ナックルを持った右腕を右方にブンと振りながら、声を上げる

「変身!!」

大声で気合を入れたその流れで、ナックルを腰へと降ろしていく。
そして、いつの間にか装着されていたベルトの中心部へとドッキングさせるのだ。
ベルトとナックルが合体することで更なる機械音声が鳴り響く

『フィ・ス・ト・オ・ン』

ベルトから黄金の光が発せられ、衣梨奈の全身を包んでいく
あまりの眩しさに衣梨奈は目をつむってしまうが
数秒も経たないうちにカッと目を見開く。
自分の姿を一秒でも早く確認したかったのだ。

「うそ……うそうそうそうそぉ!本当にイクサやん!」

まったく信じられない話だが、衣梨奈の身体は一瞬で真っ白い鎧に包まれたのだ。
いや、鎧ではなくスーツと表現したほうが適切だろう。
昔から「仮面ライダー」に代表される特撮ヒーローの戦闘服はスーツと呼ばれているのだから。

「うそぉぉおお!うそおおお!やったぁあああ!やったやったやったぁあああ!」

念願の仮面ライダーになることの出来た衣梨奈はゴテゴテしたスーツのままぴょんぴょんと跳ね上がる。
衣梨奈を包む白きスーツは鉄のように硬く、ガッシリとしている。
顔面には十字架を模した黄金のバイザーが取り付けられており、西洋の騎士を彷彿とさせる造りになっている。
まさに戦士といった感じの見た目なのだが、動きとテンションが衣梨奈そのものなのでどこかおかしい。
そもそも一瞬でスーツに変身するなんてそれこそ特撮でしかありえないことなのだが
衣梨奈はさほど驚いていないようだった。とにかく今は喜びを表すことに精一杯なのだ。
驚きで言えばむしろマネージャーの方が上だろう。

「信じられない……話には聞いてたけど本当に変身するなんて……」
「これが科学の力ですよ。」
「はぁ……それにしても生田ったら全然驚いていませんね、あいつは本当に何というか……」
「自分が仮面ライダーになれると心から信じていたのかもしれませんね。
 だとしたら相当な大物ですよ。優勝も夢じゃないかもしれません。」


「どうですか?仮面ライダーイクタになった感想は」
「イ、イクタ?」
「そうです、仮面ライダーイクサをベースに生田さんの特徴を取り入れたからイクタ、良い名前でしょう?」

仮面ライダーに自分の名が冠されたことを知って、衣梨奈は恥ずかしくなってしまう。
だが決して悪い気はしない。憧れていたヒーローになれて、しかも名がつくなんて光栄だ。
正義のために精一杯戦おうという気にもなってくる。

「私が仮面ライダーイクタ……なんか燃えてきますね
 世界を守るため、全力で!気合で!頑張ります!!」
「あ、いや、世界は別に守らなくていいですよ」
「えっ」

黒服の予想外の返答に衣梨奈は気の抜けたような声を出してしまう。
仮面ライダーなのに世界の平和を守らないなんてどういうことだろうか

「じゃあ日本の平和ですか?あ!ダブルみたいに町の平和とか!!」
「日本も、町も守りませんね」
「えぇ~?じゃあいったい何と戦うんですかぁ~!!」

イクタの姿でおおげさにがっかりする衣梨奈は傍から見るとかなり滑稽だ。
黒服もさすがに意地が悪すぎたと気づいたのか、フォローを始める。

「大丈夫です、間接的には世界を救えますから」
「間接的?」
「実はですね……ライダーシステムはもともと他の人たちのために造られた装備なのですよ。」
「誰ですかぁ?それって」
「それは口が裂けても言えません。まぁ、屈強な男たちってとこですかね。
 その男たちのために、プロトタイプをハロープロジェクトの皆さんにテストして貰いたいのです。」
「プロトタイプ……?」






仮面ライダーイクタ / 生田衣梨奈















最終更新:2012年09月01日 18:32