第06話「反・射・行・動」
なでしこに対して有利に勝負を進めているイクタとオーズッキを見て、舞は驚愕していた。
(頭良い!よくあんなこと思いつくなぁ……ちょっと真野ちゃんが可哀想すぎるね、これ)
イクタも、オーズッキも、舞も、なでしこに勝機は無いと感じていた。
ロケットという最大の攻撃手段が封じられたのだからそう考えるのが自然だろう。
しかしなでしこは負ける気などさらさらない。
そう、絶対に負けられない戦いなのである。
(あたしには今しか無いんだ……2月にはハローを卒業しちゃうんだから、
モベキマスのセンターになれるチャンスは本当に今しかない!
えりぽんと香音ちゃんの卒業はまだ先でしょ?だったら先輩に権利を譲りなさいっての!)
なでしこは自身のベルトにある操作を行いはじめる。
それはなでしこの戦闘スタイルを大きく変える操作であり、イクタも知らないものであった。
「なんしようと?……」
「これだけはしたくなかったんだけどね、もうなりふり構っていられないから。
……よしっ」
操作を終えた途端、なでしこの様子がおかしくなる。
辺りをキョロキョロと見回しているし、動きもやたらとクネクネしている。
その様はまるで人が変わったかのようだった。
「えりちゃんこれはいったい!?」
「わからん!でもなんか、映画のなでしこにそっくりのような……」
「ソックリ?」
「へっ?」
「ソックリ、ソックリ、ソックリソックリソックリソックリ」
「ま、真野さんが変になりよった!」
(変になってなんかないよ!声も動きもオートにしただけなの!)
なでしこスーツの中の恵里菜は自分は正常だと伝えたかったが、その声は外には届かない。
先ほど行った操作によりなでしこの動きをコンピュータ制御にしてしまったために、
恵里菜の行動がなでしこに反映されなくなってしまったのだ。
(やっぱり人前でオートを使うのは失敗だったかな……どう見ても変人だよ
それに凄い動きするから疲れちゃうんだよね……まぁ、強いから許すけど)
恵里菜が言うようにコンピュータ制御のなでしこは強い。その動きはスーツアクター並だ。
今この時もアクロバティックな前転でイクタの方へと向かっていっている。
このような動きをされたら中の恵里菜は目がまわってしょうがないが、
勝つためには忍耐が必要なのだ。じっと我慢するほかに道は無い。
「真野さんもハンドスプリングが出来たなんて!」
「えりちゃん感心してる場合じゃないよ!戦わないと」
「そやった!じゃあここはイクタナックルで……」
イクタはベルトにドッキングされたナックルを取り出し、右手に装着する。
ナックルによる重い拳をなでしこにぶちこもうとしているのだ。
『イ・ク・サ・ナッ・ク・ル・ラ・イ・ズ・アッ・プ』
ベルトからの機械音とともに熱くなる拳を連続前転中のなでしこに叩き込む。
しかしなでしこも負けていなかった。彼女も拳を握ってイクタの胸に殴りかかっていたのだ。
その姿はまるでクロスカウンターを放っているようだ。
しかもなでしこには前転移動による加速がついている。よってパンチのスピードはなでしこのが上だ。
両者ともパンチを喰らうことで装甲にヒビが入るが、ダメージは明らかにイクタのほうが大きい。
「えりちゃんと一緒!」
クロスカウンターをヒヨコの眼で見ていたオーズッキは
なでしこのパンチの形がイクタとまったく同じであることに気づいた。
前転移動からのパンチなので体勢などは異なっているが、
腕を伸ばすスピードや、殴りこむ角度などがほとんど一致していたのだ。
オーズッキの驚きを見て、イクタはなでしこのもう一つの性質を思い出す。
「反射行動!」
映画を見ていない読者もいると思われるので詳しい説明は省くが、
なでしこはその目で見た動きを瞬時にコピーすることが出来るのである。
その能力は作中では「反射行動」と呼ばれていた。
イクタの攻撃をそっくり真似たのもその反射行動によるものだ。
そして、反射行動でコピー出来るの対象は他人に限った話ではない。
自分の動きですら反射行動することが可能なのだ。
(まずいっ!)
「ハンシャコウドウ!ハンシャコウドウ!ハンシャコウドウ!」
イクタが避ける間もなく、なでしこは同じパンチをイクタの胸に叩き込む。
それも1発などではない、2発、3発とイクタナックルのコピーをぶつけたのだ。
いくら喰らおうと痛みなどないが、イクタは胸部が破壊されていくことを認識する。
(これ以上はまずいっちゃ!)
危機を察したイクタは倒れこむようにうつ伏せになる。
胸をやられないための行動だが、どう見ても付け焼刃だ。
この程度では長くは持たないだろう。そうなると頼りになるのはオーズッキしかいない。
「えりちゃん今助けるね!ガタキリバで行くよ!!」
オーズッキはコンボで助けようとクワガタ、カマキリ、バッタのメダルを取り出した。
数の暴力でなでしこを倒そうとしているのだ。
しかしオーズッキの案に対して、イクタは大声で否定しだす。
「かのんちゃんダメ!!やるならクマとゴリラ!」
オーズッキはクワガタとカマキリのメダルをホルダーに戻し、
代わりに2枚の灰色メダルを取り出した。クマメダルとゴリラメダルだ。
大事にしているぬいぐるみと、仲良しのハロプロメンバーへの思いがこのメダルにはこめられている。
イクタがなぜこのメダルを選んだかは分からないが、彼女の言うことに間違いは無いはず。
オーズッキは迷わずメダルをベルトに装着した。
『クマ!』
『ゴリラ!』
『トノサマバッタ!』
メダルチェンジをすることでオーズッキの上半身はガッシリしたものとなる。
頭部はクマメダルの効果により、テディベアのような大きな耳と黒い鼻が取り付けられている。
また、ゴリラメダルは腕と胸を分厚く変えていた。いかにもパワーがありそうな風貌だ。
「うおおおおおお!真野さん覚悟!!!」
重い上半身をバッタの脚力でしっかりと支え、オーズッキはなでしこへと接近していく。
なでしこもそれに気づいたようで、イクタを無視してオーズッキへと近づいていった。
「えりちゃん!どうすればいいの!」
「殴り合いっちゃ……かのんちゃんは真野さんと殴り合いをすればええっちゃん!」
イクタの考えは作戦というにはあまりにも浅はかだった。
しかしオーズッキはその指令に異議を唱えたりなどしない。
「わかったよえりちゃん!うおりゃあ!」
言われた通りにオーズッキはゴリラの腕でなでしこに殴りかかる。
だがオーズッキが攻撃をしたということは、なでしこが反射行動でカウンターをするということ。
ほぼ同じタイミングで二人のパンチがお互いの胸にヒットする。
「ウオリャア!」
なでしこの反射行動は相変わらず正確だった。
パンチのタイミングも、拳の入る角度も、すべてがオーズッキの完全なるコピーだ。
しかし、いくらなでしこでもゴリラのような太い腕まではマネできない。
なでしこの倍以上に太いオーズッキの腕は、数倍のダメージを与えているのである。
「かのんちゃんもう一発!もっともっと!」
「分かってるよ!うらぁ!!」
「ウラァ!!」
今度は左腕の相打ちだ。今回もオーズッキのストレートはパワフルであり、
ダメージ差をさらに広げていた。
この事態にもっとも焦っているのはなでしこの中の恵里菜だ。
(このまま殴りあったら負けちゃうじゃん!オートを解除しないと……)
恵里菜はすぐにオート解除の操作を行い、なでしこのコントロールを自分のものにする。
そして本当になりふり構わなくなったなでしこは、禁断のロケットスイッチへと手を伸ばしたのだ。
(負けられない、負けられないんだよ!もう会場がどうなったっていい、ロケットで吹き飛ばしてやる!!)
ロケットさえ押せば勝利出来るとなでしこは考えている。
だが逆に言えば、ロケットを押すことが出来なければ勝てないのだ。
なでしこが反射行動をせず右手をベルトに運んだことに、オーズッキは気づいていた。
「今だ!」
オーズッキが反応したその時、クマの眼がギラリと光る。
この眼光こそがクマメダルの能力発動の合図だ。
自身に起きた身体の異変になでしこはすぐ気づく。
(あれ……オートにしてないのに自由がきかない……)
クマメダルの効果は「相手の動きを一瞬だけ止める」というものだった。
熊の威圧感で恐怖を植えつけるのである。
なでしこが止まる1秒未満の時間のうちに、オーズッキはゴリラの拳を上から叩きつける。
「おしまいだよっ!セイヤー!!」
ドゴンッっという鈍い音とともになでしこのスーツは機能をダウンさせてしまう。
ゴリラパンチを何発も受け続けた装甲は、オーズッキの渾身の一撃に耐えられなかったのだ。
これはライダーシステムの全損であり、同時に真野恵里菜の敗北を意味する。
仮面ライダーイクタ / 生田衣梨奈
仮面ライダーオーズッキ / 鈴木香音
仮面ライダーなでしこ / 真野恵里菜
最終更新:2012年08月31日 15:30