第16話「裂ける音」
空気が裂けるような轟音とともに佐紀の身体に雷が落ちる。
その雷の轟きが佐紀を裂鬼へと変えてくれるのだ。
「やぁ!」
気合を入れることで残留していた電気がスパークし、
その中から仮面ライダー裂鬼の姿が現れる。
ボディカラーは暗い緑色であり、ゲンキックンのダークグリーンよりさらに暗い。
だが全身のツヤが美しく輝いているのでドンヨリとした印象は与えない。
仮面は目や口の周りに銀のラインが入っており顔のように見える。
また、頭頂部に生えた角は裂鬼が鬼であることをよく表している。
そして何より他のライダーと違う点は、裂鬼が持つその武器だ。
「なにそれ……キーボード?」
「うん、ジンギスカンのMVで使ったのがモチーフなのかな」
裂鬼の武器はギターのように担ぐタイプのキーボードなのである。
先端が刃のように尖ってはいるが、キーボードが武器だなんて前代未聞だ。
舞は親友がライダーであったり、裏切られたりで色々と情緒不安定だったが
楽器が武器だと知ってからは胸の奥がスーッとしてくる。
(良かった、なんか勝てそう)
舞はいくら考えてもオーデンの時以上に苦戦するビジョンが浮かばなかった。
おかげで安心して変身することができ、即座に攻撃に移ることが出来たのだ。
ゲンキックンの初手はもちろんクロックアップだ。先手必勝で大きなアドバンテージを得るつもりなのである。
『クロックアップ!』
いつものようにゲンキックン以外の時が遅くなっていく。
もちろん裂鬼の行動もスーパースロー映像のようにゆっくりだ。
ゲンキックンはオーデンにしてみせた時のように、裂鬼を蹴って、蹴って、蹴りまくろうとした。
ところが裂鬼に近づこうとしたその時、スーツの表面がビリビリと小刻みに震えだす。
その震えはやがて大きな振動に変わり、ゲンキックンの身体を裂鬼とは反対方向へと吹き飛ばしていく。
(な、なんだこれぇ!?)
『クロックオーバー!』
せっかく時をゆっくりにしたのにゲンキックンは吹き飛ばされるだけで終わってしまった。
正体不明の攻撃のように見えたが、時が元に戻ることで謎が解明される。
チャラララチャラララ~ン!
(ひょっとして……キーボードの音!?)
プロ以上に鮮やかな指捌きで演奏している裂鬼を見てゲンキックンは理解する。
裂鬼は演奏することで音の衝撃波を発することが出来るのだ。
衝撃波の速度はもちろん音速。
裂鬼は音速で移動する衝撃波の壁に守られているのである。
「舞が高速で移動するのは知ってるよ、戦いの音を聞いていたからね。
でも舞は音より速く動ける?無理でしょ、だったら私には勝てないなぁ」
音で戦う音撃戦士である裂鬼は耳も良い。
これまでイクタ達のなでしこ戦や、ゲンキックンのオーデン戦も遠距離から聞いていたのである。
こうして得た情報で裂鬼は敵ライダーの対策を練ることが出来る。
ゲンキックンの対策も当然バッチリだ。
裂鬼が音の壁に守られているのでゲンキックンは手出しが出来ず困ってしまう。
もう一度時をゆっくりにして左方・右方・後方からの接近を試みても、すべて跳ね返される。
音は全方位に広がるため付け入る隙が存在しないのだ。
いくら高速で動くことが出来てもまんべんなくガードされれば打つ手が無い。
これではクロックアップが無効化されたようなものだ。
しかも裂鬼はクロックアップの弱点についてよく理解している。
ゲンキックンが高速移動を止めると同時に、裂鬼はキーボードの先端で斬りかかる。
「たぁ!」
ダンスで鍛えたその足捌きは一瞬にしてゲンキックンとの距離をつめてしまう。
クロックアップは連続して行うことが出来ないと耳で聞いていたので、
この時が最大のチャンスだと知っていたのである。
ゲンキックンも自慢のキックでキーボードを蹴り飛ばそうとするが、
音を発しながら迫るキーボードには勝てず、腹でキーボードを受けてしまう。
このように先端を刺してからが裂鬼にとっては本番だ。
キーボードの先端をゲンキックンに刺したまま演奏することで、内部へ音撃を響かせることが出来るのである。
「音撃斬、雷電裂震!」
音はゲンキックンのスーツ内部で反響しどんどん振動を大きくしていく。
演奏の激しさは留まることを知らないためスーツはみるみるうちに磨耗されてしまうのだ。
このように中から相手を破壊するのが裂鬼のスタイルなのである。
スーツの内部を攻撃されているため、舞にもビリビリとした振動が伝わってくる。
どんな攻撃からも装着者を守ってくれるスーツを着ているというのに、
微量ではあるとは言えダメージを感じてしまっているのだ。
これがどれだけ危険なことなのかは舞にだって分かる。
(佐紀ちゃん……本当に勝ちたいんだね)
振動とともに裂鬼の執念が伝わってくるようにゲンキックンには思えた。
本来ならば焦らなくてはいけない状況であることは分かっている。
それでもゲンキックンは裂鬼に共感せざるをえなかったのだ。
舞も、佐紀も、本来ならばセンターになれないことを十分理解している。
現実を見ることを知っているため、諦めにも近い感情を抱いているのだ。
ハロコンで黄色Tシャツの数が昨年比で大きく減少したのも諦めに拍車をかけている。
だからこそ今回のライダーバトルにかける熱意は半端ではない。
裂鬼の震えを知ることでゲンキックンはその感情を思い出すことが出来たのだ。
(舞も、勝ちたい!)
音をぶちこまれているうちにクロックアップの禁止時間が終了した。
ゲンキックンは震えながらも腰のボタンを押す。これで時をゆっくりすることに成功したのだ。
まずはキーボードを身体から抜きたいところだがゲンキックンは焦らない。
衝撃波があちらこちらに飛んでいるため、無理矢理抜こうとしても邪魔されると気づいているのである。
ゲンキックンは冷静に考える。この状況を打破し裂鬼に勝つ方法を考える。
裂鬼はすぐそばにいるので蹴ればいいのではないか?
否、振動でヘロヘロになった脚では音波の壁を突破することは出来ない。
ゲンキックンに必要なのは音を破る行動のみだ。
幸いにも仮面ライダーゲンキックンにはクロックアップ以外にも使える必殺技が2つ有る。
その2つを同時に使えば現状を変えることが出来ると、ゲンキックンは考えたのだ。
「ライダーJAUP!」
ライダーJAUPはバッタの能力を覚醒させるジャンプ技だ。
通常のジャンプより空高く、勢いよく跳躍することが出来るのである。
キーボードの先端が突き刺さっている状態で無理矢理跳んだので、
ボディに大きな損傷を負ってしまうことになったが、
その代わりゲンキックンは音の壁を越えて高く高く飛翔することが出来た。
ここまでが第一段階。
ゲンキックンの勝つための戦法はここから第二段階へと突入する。
「ライダーキック!」
ゲンキックンは右足を裂鬼へ向けて落下していく。
一見ただのキックに見えるが、これもれっきとしたゲンキックンホッパーの技である。
キックの鬼であるライダーのキック技は一味違うのだ。
(どうせまた音に邪魔されちゃうんでしょ……そんなんじゃ舞は止まらないけどね!)
急降下で蹴りを入れようとしても、先ほどと同様に音の壁に阻まれるだろう。
このままではまた弾き飛ばされておしまいだ。
だが、ゲンキックンの蹴りが音の壁にぶつかったその瞬間、
脚に取り付けられていた金色のジャッキがぐぐぐっと動きだし、
蹴りを強める方向に力を与えてくれたのだ。
このようにジャッキを動作させることで蹴りのインパクトを強めるのがライダーキックの特徴である。
二重に加えられた力は衝撃波をも打ち破り、裂鬼のボディへと蹴りを入れることに成功する。
ゲンキックンにとっては長い時間だったかもしれないが、
裂鬼から見たら一瞬の出来事だった。
気づけば蹴りを喰らっていたので、裂鬼はひどく驚く。
(うっ……いつの間に音を破ったの……)
一回蹴りを貰った程度なので裂鬼にはまだまだ余裕があったが、
ゲンキックンが未知の攻撃をしたということに恐怖を感じてしまう。
未知を未知のままにしていたらまた思わぬ攻撃を喰らってしまうかもしれない。
慎重派の裂鬼はうかつに反撃に出たりせずに、ゲンキックンに探りを入れ始める。
「舞強いね……思っていた以上だから驚いたよ」
「そんなことないよ、舞もボロボロだもん……」
この時のゲンキックンの台詞は本心から来たものだった。
まだ戦う気力はあるとは言え、スーツ内部への音撃が結構効いていたのだ。
それを聞いた裂鬼はニヤリとする。
「そっかボロボロか、じゃあ、戦いやめよっか」
「はっ!?」
裂鬼がキーボードを地面に投げ捨てるので、ゲンキックンは戸惑ってしまう。
ついさっきまで激戦を繰り広げていたと言うのに、簡単に試合放棄したので驚いたのだ。
キーボードを捨てた今、クロックアップすれば楽に倒すことが出来るかもしれない。
しかし疑り深いゲンキックンにはそんな裂鬼が怪しく見えてならなかった。
罠かもしれない。
クロックアップしたらしっぺ返しを喰らうかもしれない。
裂鬼はキーボードなしで戦えるのかもしれない。
そんなことばかり考えてしまうのだ。
そして何より、戦いを止めるという提案にホッとしてしまった自分がいる。
このまま戦っても勝機は薄いと思ったゲンキックンは変身を解除してしまう。
(良かった……舞が提案に乗ってくれて)
裂鬼のスーツの中は汗でビショビショだった。
ゲンキックンが襲ってくるのではないかとずっとヒヤヒヤしていたのだ。
キーボードを捨てるというハッタリが上手く効いたので、裂鬼は心から安心する。
裂鬼は賭けに勝ったのだ。
おかげで、これから何日間もかけてゲンキックンの未知の技を調査することが出来る。
リベンジなど完全に安心できた日にすれば良いのだ。
裂鬼は変身を解除して、舞にこの言葉を送る。
「ふぅ、じゃあカラオケいこっか♪」
一方その頃℃-uteの楽屋では、
怒った中島早貴が3人の失礼な輩たちを外へ追い出していたところだった。
プリプリしながら再度ケータイをいじろうとしたところに、リーダーの矢島舞美が声をかけてくる。
「そういえばなっきぃさ、いつの間にケータイ変えたの?
前までiphoneだったのに、それガラケーだよね。」
「あ、うん、ちょっと気分転換でね。」
「あ~~~ひょっとしてスマフォの操作がよく分からなかったんでしょ!
難しいもんねぇ、ああいうのは機械に詳しくないと無理だよねぇ」
「ちょっと!それはリーダーだけでしょ、一緒にしないでよ」
「えへへへへ、隠さない隠さない♪」
「もう、ほっといてよ。」
早貴は舞美をあしらいながら楽屋の隅へと歩いていく。
そして壁を背に向けて、ケータイをポチポチと、ポチポチといじり続ける。
仮面ライダーイクタ / 生田衣梨奈
仮面ライダーオーズッキ / 鈴木香音
仮面ライダーなでしこ / 真野恵里菜 敗退
仮面ライダーゲンキックンホッパー / 萩原舞
仮面ライダーオーデン / 竹内朱莉 敗退
仮面ライダーパレット / 鈴木愛理
仮面ライダーディエッグ / 譜久村聖
仮面ライダーBig W / 熊井友理奈&徳永千奈美
仮面ライダーハウガ / 飯窪春菜 敗退
仮面ライダー裂鬼 / 清水佐紀
最終更新:2012年08月31日 16:51