第18話「危険な誘い・後編」
「かのんちゃん……?」
オーズッキの襲来をイクタは受け入れることが出来なかった。
仲間であるオーズッキが殴りかかるはずが無いので、他のライダーが化けているとしか思えなかったのだ。
しかしいくらリストのライダーを思い返してみてもそのような能力は見当たらない。
唯一ディエッグならオーズッキを使役することが出来るかもしれないが、
ディエッグがオーズッキを倒したというメールなど無かったのでこれも違うだろう。
となるとやはりこのオーズッキは本物なのだ。
「かのんちゃんなんで!」
「自分の胸に聞いてみなよ」
「はあ!?意味分からんし!」
オーズッキの目を覚まそうと立ち上がったイクタだったが、なんだか身体が言うことを聞いてくれない。
自分の意思とは無関係にオーズッキに引き寄せられてしまうのだ。
この現象の理由に気づいたイクタはひどく動揺する。
(これは重力操作!かのんちゃん本気!?)
現象の正体はクマ・ゴリラ・ゾウの重量系コンボの特殊能力、重力操作であった。
灰色のメダルで揃えられたこのクマゴーゾコンボは昆虫系コンボの分身のように強大な能力を備えている。
文字通り重力を操作し、周囲の物体を自由自在に操ることが出来るのだ。
全てを思い通りに出来るのでとても便利だが、昆虫系の分身と同じように体力を著しく消費してしまう。
そのため、この技を使う指示をイクタが出したことは一度も無かった。
「かのんちゃん今すぐ解除を!」
「うるさい。」
オーズッキは忠告を聞き入れず、
むしろゴリラの腕でイクタを思いっきりブン殴ってしまう。
「ああっ!」
ゴリラのパンチはとても強力だった。
重力が拳に乗っているおかげでその威力は普段の何倍もヘビーだ。
イクタが地に倒れると同じタイミングで910の声が聞こえてくる。
「かのんちゃーん!こっちもなんとかしてー」
「はい……分かりました。」
うずくまるイクタを足蹴にして、オーズッキはターゲットをBigWに変更する。
少し離れてはいるが、重力操作で引き寄せればなんでもない仕事だ。
「わっ!わっ!ちょっとなっきぃいったい何を考えて……」
「何をって?勝つ事以外考えてませんけど」
910を問い詰めたいBigWだったが、重力には勝てず引き寄せられてしまう。
これはまずいと、右側を担当する友理奈はメモリチェンジをする。
緑のチャチャを黄色のメモリに変更するのだ。
『Tsuki-kata!』
黄色の付き片手メモリは神秘のメモリ。
BigWの腕はビヨ~ンと伸び、近くにあった電柱をしっかりと掴む。
このまましがみつけば重力に負けずに済むと思われた。
「そんなので助かると思ってるの?」
伸びた腕のそばには既に910が立っていた。
そして手に持った黄色く輝く剣で、BigWの腕に斬りかかるのだった。
910の攻撃を受けたBigWはたまらず電柱から手を離してしまう。
手を離したが最後、オーズッキの元へと引き寄せられていく。
このままゴリラの腕で殴られるのがオチかと思われたが、
友理奈も千奈美も既にメモリを交換する準備を始めていた。
右半身は赤いボンバーメモリ。
左半身は青い弾丸メモリ。
合図や打ち合わせもなく状況に適したメモリを取り出す様は鮮やかだった。
『Bomber!』
『Dangan!』
青と赤の姿をしたボンバー弾丸フォームは銃から爆発的な火炎を放射することが出来る。
その威力は凄まじく、千奈美ベースのBigWでは最大クラスの攻撃力を誇っている。
火力が高すぎて自分も燃えてしまうのが欠点だが、これならオーズッキに大きなダメージを与えることが出来るだろう。
「「燃えろー!!」」
トリガーを引いた瞬間あたりは灼熱に包まれる。
重力操作をしたせいでオーズッキは自ら炎の塊を引き寄せる形になり、モロに攻撃を受けてしまう。
これでBigWは優位に立てるはずだった。
『ヒヨコ!』
『カラス!』
『ダチョウ!』
炎の中のオーズッキは赤い姿に変わっていた。
火炎に焼かれる直前に鳥系の赤いメダル三枚で変身していたのだ。
大きな翼を持ち、尚且つ赤いその姿はまるで火の鳥のようだ。
三枚のメダルを同じ系統で揃えているためこの変身もコンボの一つである。
よって、この姿でも大きな疲労と引き換えに強大な能力を使用することが出来る。
鳥系メダルのピョラチョウコンボの特殊能力は発炎と高速飛行。
火の鳥と化したオーズッキはBigWをがっしりと抱え込み、
空の世界へと招待するのだった。
高度は30m、50m、100m……どんどん上昇していっている。
高層ビルを越える高さまで簡単に到達してしまう。
ここから落とされたらスーツの大破は確実だろう。
「かのんちゃんいつそんな戦い方を覚えたと……」
イクタは同系統メダルのコンボについてレクチャーをしたことはあったが、
実際に使えと指示を出したことはほとんど無かった。
それはコンボの危険性についてよく知っていたからだ。
イクタはBigWを倒すのにリスクの大きい技を要求したりしない。
コブラメダルの一枚さえ使えば無力化出来るとリサーチをしていたからだ。
なのにオーズッキはそれを使わずコンボばかりを使っている。
その姿はまるで誰かに無理をするよう指示を受けているようだった。
オーズッキに危険な指示を出した犯人を捜すのに時間はかからなかった。
十中八九910である。
オーズッキを利用して二体、いや、三体のライダーを楽に始末しようと考えたのだろう。
重力の支配から逃れたイクタは起き上がり、910を探す。
(中島さんどこ?いつの間に消えたっちゃ!?)
もうそこには仮面ライダー910の姿は無かった。
自分がやられるというリスクを抑えるために戦場から去ったのだ。
もう何m上がったか分からない高さまでオーズッキは来ていた。
ここまでくれば確実に倒せるだろうと思い、BigWを離して落下させる。
「いやあ!こんなところで離さないでよお!!」
「安心してちぃ、私がなんとかする。」
右担当の友理奈はメモリを緑のチャチャメモリに戻す。
そして風の力で上昇気流を発生させたのだ。
完全に浮くことは出来ないが、これで落下速度を大きく殺すことが出来る。
「そんな、これでも倒せないなんて……」
コンボを2回使ってもBigWを倒せなかったので、オーズッキはひどく焦っていた。
とても息苦しいし、気を抜いたら意識が飛びそうなくらい辛いが、
自分を仲間として認めてくれた910のために絶対勝たなくてはならないのだ。
オーズッキは勝つために新たなメダルを三枚取り出した。
『クワガタ!』
『カマキリ!』
『トノサマバッタ!』
オーズッキは緑のメダルを三枚使ってガタキリバコンボに変身する。
相当苦しいのにまたコンボになったのだ。
ガタキリバコンボは50体に分身することが出来るためとても強力だが、
苦しさから判断力が鈍っていたのだろうか、オーズッキは変身のタイミングを誤っていた。
彼女は上空100mオーバーの高度で鳥から虫に変わってしまったのだ。
翼を持たぬオーズッキはただ落下するだけ。
50体の分身が例外なく地へと落ちていく。
高所から落ちるオーズッキの大群を見て、BigWは可哀想だと感じる。
オーズッキが910あたりに騙されているのは明らかだったので、
出来ればなんとかして助けてあげたいと思っていたのだ。
そうは思っていても、どうにもならない事だってある。
オーズッキがどういう原理で50体に分身しているのかは分からないが、
この50体を全員助けるなんて不可能だ。
いくらBigWが上昇気流を起こせると言っても風力や範囲には限界がある。
残念ではあるがオーズッキはライダーバトル敗退になるとBigWは思っていた。
ところが、イクタは思っていなかった。
イクタはオーズッキが落下すると思われる地点へと走りながら、こう叫ぶ。
「熊井さん!えりをまっすぐ上に飛ばしてください!!」
突然の依頼に熊井は戸惑ったが、すぐに風を巻き起こした。
ライバルとは言え、仲の良い後輩の頼みは断れないのだ。
「ありがとうございます!かのんちゃん今助ける!」
イクタはジャンプをし、下から吹く突風に乗り上昇していく。
そして、50体のうちの1体だけを目指して向かっていったのだ。
イクタにはその1体が鈴木香音の入った本体であるという確信があったのである。
(コンボを連発した時から危なっかしくて目を離せられんかった。
だからえりには分かる。かのんちゃんは君だって。)
イクタはしっかりとオーズッキを抱きかかえる。
そして着地に備えるために右手でイクタカリバーを掴みだした。
地面に到達するタイミングでイクタ第2の技を使おうとしているのだ。
ミラクルなテクニックで着陸の衝撃を和らげようと思っているのである。
(いや、そんなことしなくても大丈夫かもしれん)
イクタは下からの風がふわふわとしたものに変化したのを感じた。
BigWが風をコントロールし、可能な限り着地のショックを殺してくれたのだ。
まわりの49体の分身は痛々しく地面にぶつかっているが、
イクタとオーズッキ本人だけはゆっくりと足を着けることが出来た。
「えりちゃん……助けてくれたの?」
「このままじゃ疲れるけん、はやくピョヒョバに戻るっちゃん」
自分を助けてくれたうえに、コンボの解除を勧めるイクタを見て、
オーズッキは自分がどれほど大きな過ちを犯してしまったのか気づく。
「ごめんねえりちゃん……私、私……」
オーズッキは謝ろうとするがフラついてしまいそれも上手くいかない。
もう視界もほとんど真っ白で、倒れる寸前なのだ。
コンボは1回使うだけでもスーツのみでなく装着者の体力を奪ってしまう。
3回も使ったのでオーズッキのスーツはボロボロ、身体もボロボロといった感じだ。
そんなオーズッキをしっかりと支え、イクタは労いの言葉をかける。
「座ったほうがいいとよ、なんなら寝てても。」
「ありがとう、たぶん座ると楽……」
もう脚の力も弱まっているのだろう、オーズッキは一瞬で地面に崩れ落ちてしまう。
さっきまで強大な力を操っていた人間にはとても見えない。
そのオーズッキに苦しめられたBigWもギャップに驚いているようだ。
「こんなに弱っちゃうんだね、でも助かってよかった。」
「徳永さん、熊井さん、本当にありがとうございます、かのんちゃんを助けてくれて……」
「気にしない気にしない!」
「前に香音ちゃん言ってたよ、ハロプロは助け合いだってね。」
最悪の事態を免れたせいか、雰囲気はとても穏やかだった。
BigWも弱ったオーズッキに攻撃するのは野暮と思ったのか、今回は見逃してくれるようだ。
イクタはそんな先輩達を大きく見直している。
「あれ、生田ちゃんあれなに?」
「えっ?」
友理奈が何かに気づいたらしく、オーズッキの背後を指差している。
そこにあったのは円錐形の光であった。
オーズッキの後ろで、金の光がピカピカと輝いている。
今にも円錐の先端がオーズッキに突き刺さるようにも見える。
円錐を不思議がっているところに物陰から仮面ライダー910が登場してきた。
もう彼女は飛び蹴りの動作に入っており、金の円錐へと跳びかかっている。
910は円錐状の光を全身に纏わせて、その先端で貫くようにオーズッキに蹴りかかる。
「はああああ!」
力強い蹴りはボロボロになったオーズッキのスーツをぶち破っていく。
その蹴りのキレは凄まじく、まるで反対側へと擦り抜けていくように見える。
これが仮面ライダー910の必殺技「ゴル℃スマッシュ」なのだ。
オーズッキのスーツは耐え切れず、粉々に砕け散ってしまう。
「あっ……」
スーツが破壊されて強制的に変身解除されたことを知った香音はそのまま地面に倒れこんでしまう。
ライダーであるということだけが疲労困憊であった彼女を支えていたので、
その資格を剥奪されて心が折れてしまったのだ。
「かのんちゃん!かのんちゃああああん!」
イクタは香音に駆け寄り安否を確認する。
幸いにも香音は無傷。ただ気を失っただけだったのだ。
むしろ身体を休めることが出来るので敗北前より状況がよくなったとも言える。
だがそれでもイクタは910を許すことは出来なかった。
「中島さん不意打ちなんて酷いじゃないですか!」
「ひどい?そんなことないでしょ、だってそんなに気持ちさそうに眠ってるじゃない。
もう仮面ライダーじゃないんだからゆっくりさせてあげなよ。」
910はベルトに装着されたケータイを取り出し、その画面をイクタに見せる
そこにはたった今受信したメールの文面が表示されていた。
「仮面ライダーオーズッキ」
が
「仮面ライダー910」
に
敗北したことをお伝えします。
「早貴のやり方が汚いって言いたいみたいだけど……それは生田ちゃんも同じじゃない?」
「なっ……」
「BigWとの戦いを見てたよ、まったく酷いもんじゃない。
早貴には香音ちゃんをオトリにしてデータを取ろうとしているようにしか見えなかったよ。
それに香音ちゃん言ってた、生田ちゃんは戦う前になんにも教えてくれない、ってね。」
イクタには返す言葉が無かった。
確かに今まで香音をないがしろにしたこともあったが、問題は無いと思っていたのだ。
むしろ勝てるのだから喜んでいるとばかり思い込んでいた。
それゆえにイクタは、香音が早貴に真意を打ち明けたことがショックだった。
なぜ自分に相談してくれなかったのかと思ったが、
自分がそのような空気を作れなかったことにすぐに気づき、恥じる。
「正直にいいなよ、香音ちゃんを利用しようとしてたんでしょ?」
「そんなことは!」
「いーやしてたね!だったら早貴が利用したって全然いいじゃないの」
「えりはかのんちゃんにコンボ使わせてません!」
声を荒げるイクタだったが、隣にいたBigWに制されてしまう。
そして千奈美がイクタを諭しだす。
「一緒だよえりぽん。香音ちゃんをオトリにした時点で一緒だよ。
どっちが悪いとかじゃない。二人とも私から見たら同じ。
ライダーバトルに勝つために出来ることをしたんでしょ、じゃあいいじゃない」
「……」
イクタはまた何も言えなくなってしまった。
香音を利用していたことは誰よりも自分がよく分かっていたのだ。
気づけば涙がボロボロと流れ出し、嗚咽をあげてしまう。
もうイクタからは戦意が完全に失われている。
「じゃあ早貴は帰るね。生田ちゃんには勝てるだろうけど、
正直言って千奈美と熊井ちゃんに勝つ自信はあまり無いからね。
また今度よろしく。」
910の逃走宣言はBigWにとっても有り難かった。
BigWもオーズッキのコンボ連発にダメージを受けていたので、
出来ることならばここでの戦いを避けたかったのだ。
それでも、友理奈には言うべき言葉があった。
「なっきぃ」
「……なに?熊井ちゃん」
「あたしはライダーバトルに勝つためだったら何をしても良いと思ってる。
二人がかりでも、卑怯な手を使っても、相手を騙しても、ね。
だからなっきぃを責めるつもりは全然無いよ。」
「当然でしょ」
「でもね、あんまり後輩を泣かせないで欲しいな。
中学生が泣くのを見るのは、ちょっと、辛いよ。」
「……考えておく。」
910はBigWのほうを振り向かず去っていってしまった。
その姿が見えなくなるのを確認するや、イクタは土下座でもする勢いでBigWに嘆願をする。
「徳永さん!熊井さん!お願いがあります、中島さんを倒してください!
えりには中島さんを倒す資格はなかとです……かのんちゃんには本当に悪いことをしました。
でも、それでも胸の奥が嫌な気分でいっぱいなんです!
明日でも明後日でも、いつでも良いので中島さんを倒してください……
910の弱点なら教えます。どうか、どうかえりの代わりに中島さんを……」
仮面ライダーイクタ / 生田衣梨奈
仮面ライダーオーズッキ / 鈴木香音 敗退
仮面ライダーなでしこ / 真野恵里菜 敗退
仮面ライダーゲンキックンホッパー / 萩原舞
仮面ライダーオーデン / 竹内朱莉 敗退
仮面ライダーパレット / 鈴木愛理
仮面ライダーディエッグ / 譜久村聖
仮面ライダーBig W / 熊井友理奈&徳永千奈美
仮面ライダーハウガ / 飯窪春菜 敗退
仮面ライダー裂鬼 / 清水佐紀
仮面ライダー910 / 中島早貴
最終更新:2012年09月01日 18:31