アットウィキロゴ


第29話「もしも…」


イクタとG3の最期は相打ちだった。
二体とも限界ギリギリのところで戦っていたので、
フィニッシュのパンチの衝撃にスーツが耐えきれなくなってしまったのだ。
衣梨奈も里沙も地面にグッタリと寝転んでしまっている。
色々思うことはあるだろうが、とにかく今は身体を休めたいのだろう。

「今のはえりぽんが勝ってたのに!どうして二人とも負けなんですか!!

変身を解除した聖が青年に抗議を始める。
聖も相当疲労しているはずなのに、必死で訴えていた。
衣梨奈との約束を守れなくなることが悔しくてたまらなかったのだ。

「どっちが先にやられたとかは関係ないよ。
スーツが壊れた時点で敗北とカウントされちゃうんだ。」
「どうにかならないんですか!?」
「残念だけど、どうにもならないね……」
「そんなぁ」

聖はショックで頭がクラクラしてきてしまう。
なす術が無いと理解するにつれて気が遠くなっていく。
そんな聖に、梨沙子がポツリと呟いた。

「新垣さんがライダーにならなきゃ生田ちゃんは負けずに済んだのにね。」
「!」

聖も里沙の参戦には否定的だった。
ハローを卒業したメンバーが出戻ってくるのは異例だし、
そもそも里沙がそんなに未練がましい人だとは思っていなかった。
聖は疲労困憊の里沙のところまで行って、泣きながら叫び出す。

「どうして新垣さんはライダーになったんですか!
そんなにハローに戻りたかったんですか?
じゃあ最初っから卒業しなきゃ良かったじゃないですか!!」

里沙は何も語らなかった。
ただ聖の叫びを聞くことだけに徹していたのだ。
むしろ叫びに耐えられなかったのは衣梨奈のほうだった。
重い身体を起き上がらせ、聖を制する。

「みずき、もういいっちゃ」
「だって!えりぽんだって新垣さんに戻って欲しくなかったでしょ!?」
「ううん、えりには分かる」
「?」
「新垣さんはモベキマスに戻る気なんて無かったっちゃん。」
「どういうこと?えりぽん」

KYの衣梨奈がすべて理解したような顔をしているので、聖は気になった。
新垣里沙のことだけはいつも衣梨奈のほうが分かっているのだ。

「新垣さんの武器の名前、覚えとる?」
「えっと……確かジャンヌとか」
「チサト、ミノリ、カオル、ユキノ、ジャンヌ
全部新垣さんの演じた役名っちゃん」
「あ……!」
「武器にそんな名前をつける人の意識が舞台に向いてない訳なかよ。
たぶんやけど、新垣さんには他の理由が有るんだと思う。」

衣梨奈は期待をするような目で里沙をじっと見る。
これまで黙っていた里沙だったが、観念して話し出す。

「お見通しだったのね、全部生田の言う通りよ。
あまり言いたくないだけど、こうなったら仕方ないわね。」

立ち上がったかと思えば、里沙はいきなり頭を下げた。
衣梨奈と聖に謝っているのだ。

「ごめん!私は若い子が優勝するのを防ぐためにライダーになったの。
経験が無いうちからセンターになるのは危険だと思ったから……
優勝は他のベリキューの子に譲るつもりだったわ
酷い先輩と思ったでしょ、こんな動機で戦ってるのは私くらいだしね……」

新垣里沙の卒業を知ったタチバナは、せっかくのG3-Mを無駄にしたくなかったので
どうか参加してくれないかと必死に打診をしていた。
里沙はいくら説明を聞いてもモチベーションを上げることが出来なかったが
リストの中の仮面ライダーイクタの名を発見して考えを改める。
9期や10期、そしてスマイレージ2期がセンターになる可能性があるのならば
それを阻止するのが自分の役目であると思ったのだ。
センターになる過程が不透明であればその子は確実にバッシングを受けてしまう。
経験を詰んだメンバーがなるならともかく、
若い子がそのような扱いを受けることになれば精神が壊れてしまうだろう。
里沙はそうなってしまうのを恐れていたのである。
ライダーになった目的が邪道であったことを里沙は恥じていた。
目の前の衣梨奈と聖に軽蔑されるかもしれないと感じていた。
ところが、当の二人はそうは思わなかったようだ。

「なんか、それ、菅谷さんの考えに似てますね」
「えっ!?」

里沙は反射的に梨沙子へと視線を送った。
梨沙子はほっぺたをプクッと膨らませており、何か言いたげな風にこちらに向かってきた。

「梨沙子ちゃんの考えって?」
「つんくさんにセンターを決めて貰えばいいんですよ
 ライダーバトルでセンターが決まるのがおかしいんです」
「あ~その手があったか!梨沙子ちゃんあったま良い~!」
「新垣さんにやられなきゃ私が勝てたのに……」
「う!……ごめんね梨沙子ちゃん」

里沙と梨沙子のやりとりを聞いて、聖はゾッとする。
目的の似ているこの2人が手を組んでいたら最凶に近いコンビになっていたからだ。
もし里沙が梨沙子の呼びかけに遅刻せずやってきていたらそれが実現していたかもしれない。
そうなっていたらおそらく衣梨奈と聖は勝てなかっただろう。
里沙が遅刻をして本当に良かったと思う。

里沙に対する誤解を解いてくれたことを感謝しようと、聖は衣梨奈の方を向く。
その時に見られた表情が浮かないものであったので、聖はハッとする。

(あんなにセンターになりたかったのに、もうセンターにはなれないんだ
 えりぽんはどう思ってるんだろう……)

優勝するために誰よりも頭を働かせていたので、そのショックは相当なものだろう。
あと数人倒せば優勝だったためにかなり悔しいに違いない。
なんと声をかければ良いのか分からずモジモジしている聖に気づいたのか、
衣梨奈がニコッと微笑みかけてくる。

「みずきどしたと~?あとちょっとで優勝なんやからもっと喜ばんと」
「うん……そう、よね」
「ひょっとしてえりが負けたこと気にしとる?」
「……」

聖は自らの手で衣梨奈を倒したいと思っていた。
夢を潰された同期が泣き叫ぶのを見ることで快感を得られると信じていたからだ。
ところが、実際に敗北した衣梨奈を見ても嬉しくもなんとも無かった。
それどころか虚しくなってくる。聖の心の中は空虚だ。
思えば香音がやられた時も同じ思いだった。
他人に同期を横取りされたからこんな感情になるのだろうか
それとも、自分の手で倒しても快感なんて得られなかったのだろうか
聖は自分で自分の心の中が分からなくなってくる。

「えりのことは心配せんでええよっ!ここまで来られたのが奇跡やけんね
 それよりみずきがパレットに勝つための策を考えんといかんっちゃ。
 たぶんパレットはブレイドをモチーフとしとるから……」
「えりぽん」
「ん?」
「いいよ、今度の戦いは、みずき一人でやるから
 だからえりぽんは休んでて……大丈夫、大丈夫だから」
「そっか、分かった、じゃあ先に帰るったいね」

衣梨奈は里沙と梨沙子にペコリとお辞儀をすると早々に行ってしまった。
久々に里沙と会えたのだからもっと話せばいいのに、すぐに帰ったのだ。
里沙と梨沙子は不思議そうな顔をしていたが、聖はその理由に気づいていた。
無理して強がる衣梨奈をこれ以上見たくなかったから帰したのである。

「フクちゃんはどうするの?」

梨沙子に呼ばれたので聖はドキッとしてしまう。
何について聞かれたのかハッキリしなかったので、聖は聞き返す。

「どうするって、何をですか?」
「ライダーバトルのことに決まってるでしょ」
「やります!もちろん優勝します!」
「そういうことを言ってるんじゃないの」
「えっ?」

梨沙子の質問の意図が分からないので、聖はますます焦ってしまう。
そんな聖に助け舟を出したのは里沙だった。

「優勝した後にセンターになりたいかどうか聞いてるんじゃないのかな」
「あっ……!」
「私も新垣さんもフクちゃんにはセンターになって欲しくないんだ。
 まぁ、負けた私たちの言うことなんて別に無視してもいいんだけどさ、
 フクちゃんはどう思ってるの?見た感じ、そんなになりたい訳じゃないよね?」
「うぅ……」

このことに関しては聖もかなり悩んでいた。
センターにはなりたい。ハローの中心でピカッピカッに輝きたい。
しかし梨沙子や里沙の話ももっともだと思う自分がいる。
今後スキルと魅力を伸ばしていくことでファンに認められ、
その後にセンターになるのがベストかもしれない。
梨沙子のように優勝特典でつんくに決めてもらう方式を選べば
センターを健全に決められるし、梨沙子に可愛がられるしで一石二鳥だ。
だが、それだと衣梨奈の気持ちはどうなるのだろうか。
聖が簡単にセンターを手放したと聞けば、衣梨奈は決して快くは思わないだろう。
衣梨奈だけではない、他の参加者たちの気持ちだって気になる。

(私、どうしたらいいの……)

結局、聖は梨沙子の質問に答えることが出来なかった。
決勝戦でイクタと戦うことを最終目標としていたので、
イクタが負けた今、何を目指せば良いのか分からなくなってしまったのだ。
決勝の日までに聖は答えを出すことが出来るのだろうか。







イクタが敗北してから数日後、
秋ツアーに向けたダンスレッスンの日。
生田衣梨奈と鈴木香音、飯窪春菜の三人は補習のため遅くまで残っていた。
このメンバーが集まれば帰り道の話題は自然とライダーバトルになってくる。

「それにしても信じられません。生田さんが敗退してしまうなんて」
「うん……絶対えりちゃんが優勝するっておもってたもん。」
「いやぁ、やっぱり新垣さんにはまだまだ及ばんけんねー」

衣梨奈の笑顔には、もう無理したような雰囲気は見られなかった。
時間の経過が彼女の悲しみ、悔しさ、憤りを癒してくれたのだろう。
とても自然に笑うことが出来ているし、
仮面ライダーの話題にも普通に入り込んでいる。
新番組仮面ライダーウィザードも録画分はすべてチェックをしたようだった。

「ところで生田さん」
「なーに?」
「譜久村さんは勝てるのでしょうか?」
「……みずきかぁ」

バトルも終盤なので、関心事は当然優勝者のことになってくる。
譜久村聖の変身するディエッグと、未だ正体不明のパレット。
その二人のどちらかが優勝し、モベキマスのセンターになるのだ。
結果が気にならないわけがない。

「みずきは強いっちゃん、それは二人も知っとると思う」
「はい」「うん」
「問題は相手やね、ライダーを二体も倒してるようやし
えりの勘が当たっとぉならパレットは最強フォームになってるはずっちゃん。
そこをみずきがどう攻略するかにかかっとると。」

衣梨奈がいつもの調子でノリノリで攻略法を語るので、
香音もなんだか気持ちが落ち着いてくる。
衣梨奈が応援している限り聖の優勝は間違いないと思ったのだ。

「私にやってくれたようにえりちゃんが指示を出せば完璧だよね
だってえりちゃん何でも知ってるんだもん」
「いや……指示なんか出さんよ、みずきは一人で戦う」
「「えっ!?」」

これまで一緒に戦ってきたというのに、
いきなり突き放したようなことを言うので香音と春菜は驚いてしまう。

「えりちゃんどうして!?みずきちゃんを応援してあげようよ。」
「生田さんが一番の仲良しじゃないですか」

二人の発言に対して衣梨奈は首を横に降る。
決して応援したくない訳ではないのだ。

「みずきが言ったと。一人で戦うって」
「みずきちゃんが?……どうしてそんなこと」
「分からん、みずきとは話とらんけん」
「えぇー!!まさか、あの日以来ずっと喋ってないんですかァーーッ!?」

衣梨奈はライダーバトルに敗北した日から聖と口を聞いていなかった。
嫌いになったのでは無いのだが、猛烈に話しかけにくくなってしまったのだ。
そう思っているのは譜久村聖も同じで、
お互いになんと声を掛ければ良いのか分からなくなっているのである。
結局衣梨奈はあの日言われた通りに、聖が一人で戦おうとするのを見守ることしか出来なかった。
パレットの攻略法や、最強フォームの特徴など話したいことはたくさん有るのに
それを伝えることすら出来ない。

(えりちゃんらしくないよ……空気なんて壊しちゃえば良いのに)
(せっかく譜久村さんの優勝で終わりそうなのに、これじゃあ悲しすぎる……)

香音と春菜にはあれこれ思うことは有ったが、直接口には出せなかった。
衣梨奈と聖の重い間柄に入り込む勇気が無かったのだ。


場面は変わり、とあるファミリーレストラン。
℃-uteの中島早貴と萩原舞がその店で夕食をとっていた。
ハンバーグを頬張りながら舞が話しだす。

「ライダーバトルもさ、あと二人だね。」
「ん、そね。」
「愛理……勝つかなあ?ディエッグっていうの結構強いんでしょ?
うーーん、なんか緊張してくるんだけど!」
「……」

早貴はベリキュー大戦が終わった日の愛理の謝罪を思い出していた。
早貴を優勝させられなかったことに相当責任を感じていたらしく、
土下座でもする勢いで謝っていたのだ。
さすがの早貴もそこまでされたら許すしかなかった。
そもそもBigWに負けた時点で悔しいながらも諦めていたので
特に愛理に対する不満は湧いてこなかったのだ。

(でも、あの時の愛理は気になることを言っていた。)

愛理は早貴に対して「二人をセンターにする目処が立った」と言ったのだ。
早貴も舞もすでに敗退しているのにどうやってセンターにするのか気になったが、
愛理が「とにかく信じて」ばかり言うので早貴は聞くことが出来なかった。
実際、今の早貴は無力なので身を委ねるしか道は無いのだろう。
ここで、早貴は舞がどう思っているのか気になった。
今回の件は特に口止めをされていない。
バラしたら舞はどんな反応を見せるのか、興味があったのだ。

「ねぇ、どうして愛理に勝ってほしいの?
もう早貴たちのセンターはあり得ないんだよ?」

早貴の言葉を聞いた舞はキョトンとしてしまった。
そしてクスクス笑ながら言葉を返していく。

「センターになれないなんて知ってるよ。当たり前じゃん。」
「分かってるならどうして」
「だって愛理だよ?普通応援するっしょ
ディエッグが千聖や舞美ちゃんだったらちょっと考えるけどさ
今は分からないんだから愛理を応援するよ。普通。」
「そ、そっか……」

舞の考えは至極単純なものだった。
愛理だから応援する。それだけだ。
無邪気にただ仲間を応援しようとする舞を見て、
早貴は秘密をバラす気が失せてしまった。

「よし!じゃあ早貴も愛理を応援するとしますかー」
「マジ?じゃあ決勝を見学しようよ!」






「りさこーいつライダーになったのー?」
「りさこ、ディエッグっていったい誰なの?やっぱりエッグの子?」
「りーさーこー」
「ああもう、うるさい!!」

Berryz仮面の稽古の帰り道。
菅谷梨沙子は同じベリーズのメンバーに質問攻めにあっていた。
神奈川方面に帰るメンツが清水佐紀、徳永千奈美、熊井友理奈と、
たまたま元ライダー揃いだったのでこうなったのだ。
ストレス耐性の無い梨沙子はかなりイライラしてしまう。

「もう!みんな負けたんだから関係ないでしょ!」
「負けたのはりさこが遅く来たからじゃーん!」
「そうだよ、りさこがチームに入ってたら℃-uteに勝ってたよ」
「う……」

ベリキュー大戦のことを千奈美と友理奈に突っ込まれて、梨沙子は閉口してしまう。
確かにもっと早く到着してればベリーズがやられる前に愛理を倒せたかもしれないのだ。
すべては青年の運転が遅かったのが原因だと梨沙子は思っていた。
しかしそれを言うと千奈美らの興味がたちまち青年に移ると予測される。
その後、あれこれ質問されることを考えると面倒なので梨沙子は黙っていた。

そんな梨沙子を助けたのはキャプテン佐紀だ。

「二人とももう辞めなよ。りさこが可哀想でしょ」
「きゃぷてん。」
「それにさ、チームを組むってのはお互いの考えを受け入れるってことなんだよ。
諦めきれた?センターになるの。」

梨沙子が優勝したらつんくが決める従来の方式になってしまう。
千奈美と友理奈は顔を見合わせ、ブンブンと首を降る。

「ありえなーーい!」
「つんくさん絶対ウチら選ばないよね」
「じゃあどの道りさこと組めなかったでしょ、もうグチグチ言わないの」
「「は~い」」

場が静かになったので梨沙子はホッとする。
だが同時に悲しくもあった。
結局はベリーズのメンバーも非正規の手段でセンターになることを求めていたからだ。
負けたからどうでも良いという話ではない。
そのような考えを持つ人が同じユニットにいるだけで梨沙子は胸がモヤモヤしてしまうのだ。

「うーん……」

千奈美が何やら険しい顔をして考え事をしている。
どうせくだらないことでも考えているのだろうと思ったら、本当にくだらなかった。

「そうだ!スタントマンになればいいんだ!」
「「「はぁ?」」」

突拍子もないことを言い出すので三人は呆れてしまう。
だが千奈美にも一応考えがあったのだ。

「私たちさ、ライダーになって体鍛えられたでしょ」
「そうかなぁ……」
「なったの!でさ、この肉体を活かしてスタントマンになったら仕事増えるんじゃない!?
それで目立って売れたらセンター間違いなしだよ!」
「ちぃうるさい。」
「そんなに鍛えられてないよ」
「SATOYAMAの作業が楽になる程度でしょ」

千奈美の意見はケチョンケチョンにやられてしまった。
いくらライダーを経験したからってすぐに鍛えられる訳ではないし、
スタントマンで活躍してもセンターになれるかは疑問だからだ。
千奈美に現実を見せつけるために友理奈が立ち上がる。

「どうせなるならアクション女優だよ。
かっこ良いポーズ取るの上手くなったしね。
女優になってドラマに出たほうがセンターになるのは近いと思うけどな」
「熊井ちゃんみたいな大きい女優いないよ!」
「は?います!!!」

千奈美と友理奈がやいやい言いあってるのを見て、梨沙子は笑ってしまう。
あまりに馬鹿らしいやり取りだったのでつい笑みがこぼれたのだ。
そんな梨沙子に佐紀が話しかける。

「りさこ、あの二人バカでしょ」
「うん!ほんとおかしい」
「でもあの二人が言ってることはさ、梨沙子の言うところの邪道なんだよ」
「えっ?……」

佐紀は梨沙子にだけ聞こえる音量で続けていく。

「スタントマンも女優もセンターには関係ないよね。」
「う、うん」
「でもさ、そういった方法でセンターになるのも悪くないように聞こえない?」
「それは……」

「私も含めてさ、みんなチャンスを狙ってるのよ。
たとえそれが邪道でも、可能な限り手を伸ばしたい。
アイドルに一番必要なのってそういうハングリー精神なんじゃないかな?」

梨沙子は納得いかないような顔をしているが、佐紀の話を黙って聞き入れていた。
佐紀のような考えも間違ってはないような気がしてきたのだ。

「あの二人さ、なんか生田ちゃんのことすっごく気に入ったみたいなんだよね。
それって生田ちゃんに、自分たちに近いものを感じたからなんだと思うの。
実際、あの子のハングリー精神は怖いくらいだからね。」
「ふふ、言えてる。私の前でもセンターになりたいって言ってたもん。」
「りさこの前で?やっぱり生田ちゃん怖いもの知らずだね。」
「ちょっとキャプテンどういう意味!?」

いつの間にか梨沙子はライダーになる以前のように笑うことが出来ていた。
このライダーバトルの最終的な結果に満足出来るかどうかは分からないが、
とりあえず結末くらいは見届けてあげようかなと思い始めたのだ。







愛理は不眠に悩まされていた。
決勝を間近に控えてナイーブになっていたのだ。
しかも決勝の相手は以前から優勝候補と呼ばれていたディエッグだ。
この状況でプレッシャーを感じない訳がない。

(私はりさこと決勝で戦うつもりだったのに……どうして負けちゃったの?)

リィサーコとして登場し、愛理の考えを否定した菅谷梨沙子。
最終決戦を行うのならば相手は彼女であると信じていたのだ。
反対意見を持つ梨沙子に勝つことで、自分の案を正当化したいという考えもあった。
しかし、リィサーコが負けた今ではそれも叶わない。
"自分ではなく他人をセンターにするために頑張る"
この考えが本当に正しいのか、愛理は知りたがっていたのである。

(なっきぃか舞ちゃんがセンターになれば℃-uteは良い方向に進む。
 これが正しいんだよね?私、間違ってないよね?
 ねぇりさこ教えてよ……あの時みたいにズバッと言っちゃってよ。
 りさこがああ言ったから私はこんなに苦しんでるのに
 どうして先にやられちゃったの?)

デスメールにはリィサーコはG3-Mにやられたと書いてあったが
実際はそうではないことに愛理は気づいていた。
リィサーコがやられた直後にイクタとG3-Mの敗北メールも届いたため
少なくともリィサーコ・イクタ・G3-Mの3人は同じ現場にいたと推理出来る。
梨沙子が敵を呼んだと仮定すると、ディエッグもそこにいたのかもしれない。
ではリィサーコはイクタ・ディエッグ・G3-Mの3人に袋叩きにあったのではないか。
愛理はそう考えていたのだ。
ここまで分かるのならば、おのずとディエッグの正体も見えてくる。

(イクタはそのまま生田ちゃん。G3-Mはたぶん語呂合わせで新垣さん。
 その二人と協力してりさこを倒すのはやっぱりモーニング娘。の子なんだと思う。
 ディエッグっていうくらいだから元エッグの子。
 譜久村聖ちゃんか工藤遥ちゃん……どっちがディエッグなんだろう。
 いっしょにいる時間が長いほうが信頼関係を築けるのならば……)

さすが秀才なだけあって、愛理は簡単に現場状況およびディエッグの正体を推理してしまった。
このライダーバトルにおいて相手の正体を知ることは大きなアドバンテージだ。
なんせ心の準備をしてからバトルを申し込むことが出来る。
だが愛理はここまで分かっていても、心を落ち着かせることが出来なかった。
バトルにはたぶん勝てる。
でも、勝ってからどうすれば良いのか分からない。
優勝してセンターを中島早貴か萩原舞に譲るか。
譲らず自分がセンターになるか。
それともディエッグに勝利を譲るか。
愛理は答えを出せずにいた。

愛理のケータイがブルブルと震え出した。
こんな時間になんだろうと不審に思うが、発信者情報を見て安心する。

「りさこ……!」

誰よりも話したかった梨沙子からの着信なので、愛理はケータイに手を伸ばす。
しかし、着信ボタンを押すことが出来なかった。
彼女もまた衣梨奈や聖と同じように、
どのように話せば良いのか分からくなっていたのだ。
今の自分には他人の声が必要と分かっていても、それでも躊躇してしまうのである。
結局愛理は居留守を使ってしまった。

(ごめんねりさこ……)

愛理が出ないと知った梨沙子は、自分の思いを留守電に吹き込む。
その思いは先日とは大きく変わっており、愛理を驚かせる。

『愛理寝てた?夜遅くにごめんね。
でも、今夜中に話さないと最後の戦いが始まっちゃような気がして……
あっ、あまり時間無いから一言だけ言うね!
愛理は愛理が一番したいことをして。
私が言いたいことはそれだけ、じゃあおやすみ!バイバイ』

以前のような怒った感じではないので、愛理は安心する。
だが安心と同時に困惑も生まれていた。
自分のしたいことをやれと言われても、
それが分からないからまた悩んでしまうのだ。

(でも、何が正しいのか考えるよりはずっと楽かも。
だって、自分と対話し続ければ答えが出るんだもん。)



翌日、愛理は譜久村聖を訪ねるためにレッスン場へ向かった。
突然の来訪にパニクる聖だったが、
愛理の真剣な目を見てすぐに覚悟を決める。

「鈴木さん、決着をつけに来たんですね。」
「あれ?譜久村ちゃん、私がパレットだって気づいてたんだ。」
「ええ、ハロプロのことならなんでも分かりますから」

本当はハローライドの特性で知っていただけだったが、
聖はあたかも自分で推理したかのようにハッタリをかます。
だが本当に自力で推理をした愛理の精神はこの程度では揺れなかったみたいだ。

「さすがここまで生き残っただけあるね。」
「そんな、それは鈴木さんだって同じじゃないですか」
「ううん凄いよ、私なんてまだまだ。」

憧れの先輩に褒められた聖はかなり浮き足立っていたが、
この場ではしゃいではいけないと気を引き締める。

「鈴木さん、私は勝ちたいんです。」
「うん、そうだろうね。」
「夢を叶えるために負ける訳にはいかないんです!」
「私だって夢を決めて来たよ。絶対に負けない。」

聖と愛理の二人は建物の外へ出て行った。
ライダー歴も長いので、お互いに戦いやすい場所をよく知っているのだ。
だだっ広く何もない空間を目指して歩いていく。
そんな中、聖はカバンの中からとある生写真を取り出して胸ポケットに入れていた。
この生写真は最終決戦のために調達した特別な生写真なのだ。

(間に合って良かった……この生写真で鈴木さんに勝つ!)






 仮面ライダーイクタ / 生田衣梨奈 敗退
 仮面ライダーオーズッキ / 鈴木香音 敗退
 仮面ライダーなでしこ / 真野恵里菜 敗退
 仮面ライダーゲンキックンホッパー / 萩原舞 敗退
 仮面ライダーオーデン / 竹内朱莉 敗退
 仮面ライダーパレット / 鈴木愛理
 仮面ライダーディエッグ / 譜久村聖
 仮面ライダーBig W  / 熊井友理奈&徳永千奈美 敗退
 仮面ライダーハウガ / 飯窪春菜 敗退
 仮面ライダー裂鬼 / 清水佐紀 敗退
 仮面ライダー910 / 中島早貴 敗退
 仮面ライダーめん王 / 勝田里奈 敗退
 仮面ライダーリィサーコ / 菅谷梨沙子 敗退
 仮面ライダーG3-M / 新垣里沙 敗退 












最終更新:2012年09月20日 19:08