アットウィキロゴ


「変身!」

掛け声と共にパスカードの型をした認証装置をバックルに触れる。
何も起こらない。
ただ白々とした空気がそこに広がっている。
当たり前だ。
私はライダーバトルで敗退したのだから、仮面ライダーには変身できない。
そういうルールだと黒服の男が言っていた。
なのに諦めきれず人目の少ない所で変身しようとするのはもう一度、彼女達に会いたいからだ。
モモタロス、ヤジタロス、マノタロス、マータロス。
仮面ライダーめん王に憑依する四人のいつめん達に。

最初にライダーベルトを渡されて、システムを説明された時は、何のことかわからなかった。
仮面ライダーのことは知っていた。
日曜の朝、プリキュアの前に放送しているのを目にしたことがある。
だけど自分が仮面ライダーに変身して、他のライダーと戦って欲しいと言われた時は、思わず一緒に話を聞いていたマネージャーさんの顔を見てしまった。
この男の人、大丈夫なんですか、それとも何かのドッキリで、新垣さんみたいな派手なリアクションをしなくちゃいけないんでしょうかという思いを込めて。

マネージャーさんは真剣だった。
私が仮面ライダー選ばれたのはチャンスだということを説明された。
ライダーバトルに優勝すればモベキマスのシングルのセンターになれるのだから。

世間のほとんどの人は、モベキマスのセンターなんて誰でもいいというか、興味すら持っていないということはわかってる。
学校の同級生だってモベキマスのセンターよりも、AKBの選抜メンバーに入った方が驚くだろうし、うらやましがるんだろう。

だけど私はハロープロジェクトが好きだ。
AKBは正直凄いと思うけど、モベキマスの中には何人も尊敬している先輩がいる。
いや、スマイレージの先輩二人や同期の子たちだって。

そんな人たちをさしおいて自分がセンターになっていいわけがないと思った。
でもこんな機会でなければ自分は一生、センターになることはできないとも思った。
だから私は黒服の男の人が持ってきたベルトを腰に巻き、言われたように変身した。

変身した私の姿はとてもかっこ悪かった。
私が見たことがある仮面ライダーと比べて、使われている色が少なく角とか羽もおついていない。
何これという私の気持ちが伝わったのか、黒服の男の人が言った。

「それはプラットフォームといって仮面ライダー電王の基本フォームです。 そこからソードフォームやロッドフォームにチェンジするんです」
「電王…ですか?」

黒色がメーンの地味な姿でずっといるわけではないらいいということが判って私はホッとした。
でも、電王という名前はなんか変だ。

「それまでの仮面ライダーはバイクが乗り物でしたけれど、電王は時の電車、デンライナーに乗るから電王というんです。 あ、でも勝田さんが変身するライダーはめん王という名ですが」
「めん王だったら菅谷さんの方が似合ってるんじゃないですか」

反射的に出てしまった私の言葉を聞いたマネージャーさんの顔がほころんだ。

「ああ勝田。、めん王の麺はラーメンのめんじゃなくて、いつめんのめんだから」

私の顔はプラットフォームの中で赤くなった。

「その通りです。 勝田さんが電王をモデルとしためん王に選ばれたのは、いつめんとイマジンが似たような存在だからです。 どちらも実体のない存在で…」
「いつめんはいます」

私は声を大にしていった。

「いつめんはいます。 今週のお休みも一緒に遊びに行く約束ですし」

黒服の男の人は一応は謝ってくれた上で、言葉を選んでるようだった。

「そうですねえ。 勝田さんはよくブログやラジオでいつめんさんのことを言われているようですが、それって勝田さんの心の中にいつもお友達がいるってことですよね」

ええと返事をすると男の人は勢い込んだ。

「つまり、イマジンもそういう存在なんですよ。 仮面ライダーの心の中にいつも存在する存在、それがイマジンでして、そのイマジンが乗り移ることで電王もフォームチェンジしていく」
「乗り移られるって何か怖いです」
「ああ、それは大丈夫です。 勝田さんに乗り移るいつめ、じゃなくてイマジンは我々タチバナが開発した仮想人格です。 勝目さんに悪影響が出ないよう何重にも対策が講じられています」

私は安心した。
そして決めた。
自分で変わろうとしなければ何も変わらない。
不安はあるが仮面ライダーめん王になってライダーバトルに参加しよう。
正直優勝できるとは思えないけど、その経験は私を変えてくれるはずだ。

「わかりました。 私、めん王になります。 どうやってフォームチェンジするんですか」

男の人の説明によると、ベルトについているいろんな色のボタンを押して、最初みたいにパスカードをタッチさせることでフォームチェンジできるらしい、が…。

「お願いなんですが、ボタンを押す際にあなたの仲間のハロプロメンバーのことを思い浮かべてほしいいのです」

ベルトは男の人の働いたいてるタチバナという組織のメーンコンピューターと繋がっているらしい。
そのメーンコンピューターで作られた仮想人格がイマジンとして私に乗り移ることで、めん王はフォームチェンジして戦闘力もアップするらしい。

「仮想人格を一方的に乗り移らせるだけではめん王システムの力は発揮できません。 仮想人格、つまりイマジンとの心の結びつきが強けれ強いほどめん王は強くなります」

本来なら共に戦っていくことでイマジンとの絆も強くなるらしいけどそれでは時間がかかり過ぎてライダーバトルで勝ち進むには不利なんだって。
だからよく知っていて凄いと思うハロプロメンバーと仮想人格を重ねることでめん王とイマジンの結びつきは強くなる。

「でもでもすごい人たちばっかりで誰のことを思い浮かべていいか」
「各フォームには特長が設定されています。 その特長と結びつくメンバーを思い浮かべれば効果的だと思いますよ。 たとえば…」

赤いボタンをに対応しているのはソードフォーム。 剣を使うので一対一の戦いに向いているというそのフォームにチェンジするのはモモタロスというイマジンだという説明を聞き終わったときそれは起こった。
私の手が勝手に動いてカードパスをベルトにタッチさせる。

「モモ参上」

赤色の光が私の体の周りでグルグル回るといろんな形のパーツになってプラットフォームの表面を走っているレールに組み込まれていく。
何かものすごく派手な姿になった気がする。
そして体がひとりでにクネクネ動きはじめ、知らぬ間に小指を立てている。

「あんたねえ。 確かにモモといえば桃子だけど、もっと強い誰かのこと思った方が良かったんじゃない」

目を丸くしたマネージャーさんがダメ出しをする。

「大丈夫、まだ3つ残ってますから。 強さでいえばモモタロス以上の力を持っているのがキンタロス。 これはアックスフォームといってマサカリ担いだ金太郎をモチーフに」

「私の強さにお前が泣いた。」

今度は金色の光に包まれてフォームチェンジした。

「その仕草は舞美ね」

金太郎と言われて矢島さんが写真集で着ていた水着を思い出したみたいだ。

「素晴らしい。 これほどの再現性を引き出すとは」

その後、釣り師と言われて何故か真野さんを思い浮かべ、マノタロス。
天然で弟気質。 わがまま気ままのやりたい放題と言われてマータロスが誕生した。

「素晴らしい、ほんとうに素晴らしい。 勝田さん、あなたはめん王になるために生まれてきたような人だ」

興奮して話す黒服の男の人の言葉は耳に入っていたけど、意味はわからなかった。
なぜって?
それはこれまでにないぐらいいつめんの存在を感じて嬉しかったからだ。
このいつめんとなら力を合わせてライダーバトルを勝ち抜ける。
その時は本当にそう思っていたんだ。

なのに、私は負けた。
仮面ライダーイクタに敗れてしまった。
イクタ、いや生田さんは運動神経も凄いと思うけどあの負け方は納得いかない。

ディエッグ。
譜久村聖さんとの一対一のバトルで追い詰められながら、それでも動きの止まったディエッグに攻撃しようとしたところを、いきなり現れたイクタにやられてしまった。

不意打ちがずるいと言うつもりはない。
だけど一対一の戦いで弱っているところをいきなりやられて。
その上、イクタは動けなくて簡単に倒せるはずのディエッグには止めを刺さなかった。
同じモーニング娘。の9期だからなのかもしれないけど、モベキマスのセンターには一人しかなれない。
いずれは倒さなければならないはずのディエッグを倒さなかったことが、自分を軽く見れれてる気がして納得いかない。

こんなことなら私も朱莉ちゃんと組むんだった。
仮面ライダーオーデン。
私が本格的にライダーバトルに参加した時点で負けていたスマイレージの二期生。
名前から正体はわかっていたが、チーム結成を申し込む気持ちは湧いては来なかった。

いつかは戦わなければならないのなら、組んでも意味はない。
私にはいつめんという強い仲間がいるんだから、他のライダーと組まなくたって大丈夫。
そんな風に考えたバチが当たったんだろうか。
私はあっけなくライダーバトルから転がり落ちた。
イクタキックでライダースーツを壊され、変身が強制解除されてから、モモタロス、ヤジタロス、マノタロス、マータロスの声が聞こえなくなった。

めん王に変身できるときはあんなにうるさいと思っていたいつめんたちとのつながりを失ってしまった。

文句を言い終わって生田さんたちと別れてから、黒服の男の人がベルトを受け取りに現れた。
ライダー同士の戦いの記録は普通の人には見えないが、街のカメラや衛星からの映像をコンピューターで処理して見れるようにしてあるらしい。
しかし、ベルトにもいろんなセンサーやメモリーが組み込まれていて、その全てが今後の研究の対象となるらしい。

私はお願いした。
もうしばらくの間だけベルトを貸して欲しいと。
黒服の男の人は困ったような顔をしたけど、それでも必死でお願いしたら頼みをきいてくれた。

「いいでしょう。 既に敗退したライダーのベルトの解析もまだ終わってませんしね。 それにあの負け方ではあなたも納得いかないでしょうしね、ですけど…」

他のライダーベルトの解析が終わるか、ライダーバトルの勝者が決まった時点で私のベルトも返してもらうと黒服の男の人は言った。

「ですがあなたが敗退した時点でタチバナのメーンコンピューター内の仮想人格とのリンクも切れてしまっているはずです。 そもそもプラットフォームへの変身も不可能なはずですしね」

それでも構わなかった。
タチバナのコンピューターなんて関係ない。
いつめんはいつも私のそばにいるはずなのだから。
もう一度だけ彼女たちと話すだけでいい。
私のために戦ってくれてありがとうっていう気持ちを言葉で伝えたい。
彼女たちの頑張りを無駄にしてしまった自分の不甲斐なさをあやまりたい。
それができれば私は納得する。

カードパスに祈りを込めて、ベルトにタッチする。

「変身!」








青年が入ってきた時、タチバナの管制室は騒然としていた。

「いったい、どうしたんですか。 勝ち残った仮面ライダーもあと二人。 パレットとディエッグ。 共に最強フォームを手に入れた至高の戦いを前にして…」

その場を取り仕切っている男、年の頃なら三十代半ばの男が青年にディスプレイを示した。
タチバナのために働くようになってから日は浅い青年でもそのディスプレイが何のためのものかは判っている。

「また透明生命体を探知したんですか。 どうせ放っておいても自然消滅してエエエ」

青年の声が裏返ったのは、色によって透明生命体の数を表すディスプレイが真っ赤に染まっているからだ。

「こ、この数は一体」

透明生命体の数は単体の大きさに反比例するという知識が青年にある。
小型のものは多数、大型のものはごく少数。
ディスプレイの赤色は数的には千単位を意味する。

「これはきっと虫タイプの透明生命体ですよね。 だからこんなにたくさん」

男が計器を操作した。
別のディスプレイに様々なセンサーで解析して描き出した透明生命体す姿が映る。

「こ、これは!」
「モールイマジンといえば君にも判りやすいかね」

人型の体にモグラの頭。
手にはドリルやハンマーの工具が付いた異形の生物。
イマジンの名が示す通り、仮面ライダー電王に登場してきた敵に似ている。

「そんな凶々しい形態で成人男子程度の大きさの透明生命体が約、二千体」
「これまで最高でも一度に五百体程度しか出現しなかった透明生命体が何故、いきなり」
「それは君にも責任の一旦はあるかもしれない」

透明生命体はライダースーツに誘引される。
ライダースーツの素材に誘引性のある物質が組み込まれているのだ。

「膠着状態が続き、一向に進展しないライダーバトルに一石を投じた形になったのが、君がナビを担当した仮面ライダーリィサーコであり、G3-Mだった」

5体のライダーが戦い、パレット一体が勝ち残ったいわゆるベリキュー大戦。
その余韻も冷めやらぬままリィサーコが主導し、G3-Mが途中参戦したライダーバトルではディエッグ一体が残った。
複数のライダーによって繰り広げられた激しい戦いによってライダースーツの破片が大量に散乱したことで数多くの透明生命体が引き寄せられたという。

「特にイクタとG3-Mの戦いは凄まじかった」

共にスーツを大破させながら肉を切らせて骨を断ち、スーツを削るような戦いぶりを見せた師弟対決によってばらまかれたスーツの素材の量は膨大極まりないらしい。

「だったら何故今急にこんなに大量の透明生命体が発生したんです。 ベリキュー大戦や生ガキ対決が終わってからかなりの時間が経っているのに」
「透明生命体は学習するらしい。 初期の頃はただ無秩序に現れてライダーの餌食になるばかりだったやつらに防衛本能らしきものが芽生えてきたようだ」

ライダーバトルで放出されるスーツの素材に本能的に引き寄せられながら、撃退されることを回避するためにすぐさま襲撃してこず、バトルの終結を待ってから、摂取する動きが見られるというのが男の説明だった。

「ということは?」
「ああ。 これはイクタとG3-Mが戦った場所だ。 そしてやつらにとっては格好の生き餌までいる。 戦闘力が乏しくて倒される危険性が少ないライダーがな」

男がコンソールを操作すると、見えない敵に追われて逃げ惑うライダーらしき者の姿が映し出された。
黒を基調としたボディの表面を走るレール。

「…あれは仮面ライダーめん王プラットフォームじゃないですか。 どうして」

青年の悲痛な叫びに黒服の男の一人が答えた。

「その点については私のミスです」

勝田里奈に仮面ライダーめん王の変身ギアを渡し、ライダーバトルのルールについて説明したのはその黒服の男だった。
彼によれば勝田里奈がバトルから脱落した際に本人から強い要望を受け入れて、回収を延期したという。

「それはルール違反なのでは」
「厳密に言えばそうだが、責任者である私も事後承認した」

タチバナの開発したライダーシステムは装着者に怪我を負わせないよう万全の保護システムが付与されている。
ライダースーツに組み込まれた衝撃吸収システムによって、装着者の負傷回避率は99.99999999パーセントに抑えられているという。

「彼女たちが普通に道を歩いている方がケガをする可能性は高いだろうな。 しかしそれでも全然リスクを負わないわけではない」

バトルで敗れ去ったライダーの多くは疲労感を感じ、何時間も眠ってしまうという。
敗戦のショックや精神的な疲労がそうさせるのだ。

仮面ライダーになるハロプロメンバーには彼女たちにはモベキマスのセンターという賞品が提示されている。
しかし、それを手にすることができるのはたった一人。 ほとんどのライダーが敗北の苦さを味わってしまうことになる。

「肉体的なダメージを負うリスクは一律的に減らすことができたが、精神面でのケアは一人ひとり違った対応が必要だ」

いつめんと精神をリンクさせるめん王については特に極め細やかな対応が必要だと考えた男は、勝田里奈のナビを担当した黒服の判断を良しとした。

「里奈ちゃんがいつめんとの別れを受け入れるようになるまで見守ろうとしたってことですね?」

男が黙って頷いたのを見て、青年は少しホッとした。
自分が属するタチバナという組織が血も涙も無い非情の論理で動いているわけではないということがわかったからだ。

ベルトを手元に残しておくことを許された勝田里奈は、何とかめん王に変身していつめん達と別れの言葉を交わしたかったのだろう。
そしてベルトの機能が完全に停止していなかったことと里奈の思いの強さが交錯して奇跡は起きた。
ライダーバトルに敗退した勝田里奈は再び、仮面ライダーめん王に変身できたのだ。
だが、彼女を助けてくれるいつめんはいない。
ならば今、やるべきことは一つ。

「里奈ちゃんを何とかして助けないと。 透明生命体が人間に危害を加えないといっても数が多すぎます。 仮に怪我を免れても、精神的なダメージが心配です!!」

「それはわかっている。 今現在バトルに勝ち残っているパレットとディエッグに連絡して現場に急行してもらっている。 しかし少し離れていてね」

これが夏のモベキマスのツアー開催中なら、皆が一緒に行動していて対応も早いのだろうが、今は各々が自分のグループに戻って活動している。
ん、自分のグループ。

青年は空いていたデスクトップでスマイレージのスケジュールを調べた。 

「今現在スマイレージはTVのバラエティ番組のロケ中です。 里奈ちゃんはその合間を見計らって、めん王に変身しようとしたんだと思います。 だったら近くに朱莉ちゃん、オーデンがいます」

仮面ライダーオーデン。
瞬間移動という特殊能力。
武器や防具を召喚できるカード。
楽天という巨大な契約モンスター。
一度だけ時間を巻き戻せるタイムベント。
そして、何より装着者である竹内朱莉の身体能力と運動センスの高さ。
運悪くかなり初期の段階でライダーバトルには脱落したが、マッチアップの次第では決勝に勝ち残っていてもおかしくはない強豪だ。

「オーデンのベルトは既に解析を終了して、再チューン中のはずです。 それを朱莉ちゃんに転送すれば…」
「君は大事な事を忘れているよ」

名案だと思った考えをあっさり否定された青年は気色ばんだ。

「何故ですか。 朱莉ちゃんのオーデンなら楽天を召喚して戦わせている間に、瞬間移動でめん王プラットフォームを救い出せます。 何なら僕もG3-M用のトレーラーを出して」
「いいかい、カズキ君。 それともノブアキ君と呼んだほうがいいかな。 確かにタチバナの科学力はライダースーツを転送することができる。 しかしそれには条件がある。それは…」
「…それは?」

ライダースーツが転送される際には勿論、原型を止めてはいない。
分子レベルに分解され、帯電子状態で転送されたライダースーツを元の形に再構築するにはデジタルスキャンしたデータと転送ゲートが必要なのだ。

「その転送ゲートってまさか?」
「そうライダーベルトがその役割を果たしている。 デジタルスキャンのデータもベルト内のメモリーに記憶させている」

つまりタチバナの転送システムはライダースーツを転送することはできても、ライダーベルト自体を転送できることはできないのだ。

起死回生の案があっさり水泡に帰したことを悟った青年は、透明生命体が発生している現場の映像に目を転じた。
数え切れない程のモールイマジンに攻撃を受けてボロボロになっためん王プラットフォームの姿がそこにある。
この様子ではもってあと数分。
ライダースーツが大破すれば勝田里奈は一方的な暴力から解放されるのかもしれない。
しかしたとえ身体に怪我を負わなくとも、大量のモールイマジンに襲われて、いつめん達との繋がりを絶たれたままではきっと心に傷を負ってしまう。
何かないのか。
自分にできることは何かないのか。

「ちくしょうーーっ!!」

青年の叫びがタチバナの管制室に虚しく響いた。






もう少し、あともう少しで楽になれる。

モグラのような顔をした透明生命体の軍団に囲まれてそんなに時間は経っていない。
なのに頭はパニック状態で早く楽になりたいと思っている。
ライダースーツが大破すれば、自分は解放される。
あんなにもなりたいと思っていた仮面ライダー。
切ないほどの願いを込めてようやく装着することが出来たライダースーツが今は壊れて欲しいと願っている。

結局いつめん達とは繋がらなかったし。 いいんだ、もう仮面ライダーになんてならない。なりたくない。なるもんか。
ひょとして大声を出せば他の皆が助けに来てくれるかもしれないけど。
でも他のみんなにはこいつらが見えないんだし。
朱莉ちゃんだってライダーベルトが無いんだったらきっと無理だし。
それにもし万が一、透明生命体が人間のことを襲うようになったら危ないよ。

だから早く壊れちゃって、私のライダースーツ。
もう二度とめん王になりたいだなんて思わないから。


勝田里奈は子供のように膝を抱えて透明生命体の攻撃に耐えている。
ライダーシステムのおかげで体への衝撃は軽減されている。
だけど恐ろしい姿をした透明生命体が自分に敵意を向けてくるという状況は里奈を傷つけた。
それ以上に、いつめんたちと繋がれないというのはもっと辛いことだった。

その時不意に携帯が鳴った。
里奈自身の携帯の着信音とは違う。
よく見ればめん王の腰のあたりにいつのまにかガラケーが装着していた。
最初は無視していた里奈だったが、あまりに鳴り止まないのでつい出てしまう。

「あきらめるな!!」

いきなり若い男の声がした。

「あきらめちゃ、だめだ。 君はいつめん達ともう一度話したいんだろう。だったらここであきらめるんじゃない」
「あなたは一体誰なんです? わかりもしないでエラそうに」
「僕は…あぁ君とは共演したことがなかったんだっけ。 僕は仮面ライダーのことを誰よりもわかっている男だ」

若い男の熱っぽさが電話越しに伝わってくる。
その熱は里奈をうんざりさせた。

「いいえ、あなたは何もわかってません。 今の私は仮面ライダーの中でも一番弱いんです。 そして…」

しばらくためらった里奈は強い気持ちを込めて、言葉を口にした。

「そしてこんな弱い私を助けてくれたいつめん達はもういないんです。 いいえ、いつめんなんて最初からいなかったんです」

言ってはいけない言葉を口にしてしまったという思いは里奈の心を苛んだが、その代わり少し楽になった。
だからもっと楽になろうと同じ言葉を繰り返す。

「いつめんなんていません。 いつめんなんていなかったんです」
「いるよ、いつめんは君の心の中にいるじゃないか」
「それはわたしが想像したんだから…」
「いいかい、里奈ちゃん。 僕は仮面ライダーのことを誰よりもわかっている男だけど、その中でも君のめん王のモデルとなった電王のことは一番よくわかっているよ」

電王、変な名前だ。
時の列車、デンライナーに乗って現れるから電王。
そんな説明を黒服の男の人から受けてから一ヶ月以上経ったんだ。

里奈の考えを他所に若い男はまくし立てている。

「電王に憑いたイマジン達は実は未来からやって来た侵略者だったんだ。 過去の歴史を自分たちの都合の良いように変える為、実体を持たない精神だけが未来からやってきたんだ」

もう少し前だったら興味を抱いたかもしれないが、今の里奈は仮面ライダーともいつめん達とも決別することを決めていた。 
だから聞きたくないはずなのに。

「でもイマジンは自分たちが憑いた良太郎。 彼が電王の正体なんだけど、彼との間に生まれた絆を何より大切に思うようになったんだ。 だから彼らは徹底的に良太郎に力を貸すことにした」

この人、頭が悪いのかな。
電王って日曜朝八時から放送してきた子供向けのドラマでしょ。
何でこんなふうに熱く語るの。

「電王は最後の戦いで勝った。 でもその結果イマジンたちのいる未来へのルートが絶たれたので、イマジン達は消えてしまったんだ」

えっ、消えた。
いつめん、じゃなくてイマジン達が消えたんだ。
私とおんなじだ。

「でもイマジン達は戻ってきた。 いや消えなかったのかもしれない。 記憶こそは時間。 電王と一緒に過ごした時間が今度はイマジンたち自身の記憶となって彼らは存在し続ける」

えっ、今何を言ったかよくわからないんですけど。

「だから君も思い出すんだ。 もっと強くいつめん達と過ごした時間を思い出すんだ。 その記憶の一つ一つがいつめん達を呼び戻す鍵となる」

いつめん達が戻ってくるの。
本当に思うだけで戻ってくるならいくらでも思い出したいけど、でも、でも。

「でもいつめん達と一緒にいた時間はとっても少なくて」
「時間の長さが全てじゃない。 深さだ。 いつめん達への思いの強さが全てだ」


モモタロス。
自意識過剰な上に、すぐ高い所に登ったかと思うと飛び降りて。
体をクネクネさせて戦って少し気持ち悪いけど、とても賑やかだった。

ヤジタロス。
頭はそんなに良くないけどとても強くて。
いつめん達の中では一番私のことを気遣ってくれたとても頼りになる存在。

マノタロス。
ちょっと悪ぶったり。思わせぶりなことを言うくせに私のことをちゃんと見ていてくれた。
憎めない奴。

マータロス。
何を考えているのか判らなくて。
多分何も考えてなくて。
手当たり次第に銃を撃ちまくるなんて信じられない。

「会いたい」
「そう、もう一度会うんだ。 でもそのためにはあきらめちゃだめだ」

里奈は強い衝撃を腕に感じた。
一体の透明生命体が万力でめん王の腕の装甲を壊そうとしている。

「こいつぅ」

里奈は思い切り振りかぶり、頭突きをモグラの顔面に入れる。
その衝撃でプラットフォームの顔面の装甲に更に罅が入ったが、そんなことはもう気にもならない。
これまでほとんど無抵抗だっためん王が反撃したことで警戒したのかモールイマジン型の透明生命体が距離を取る。
しかしめん王の装甲がボロボロで、体力を消費していることは明らかだったのでそれ以上離れようともしない。

いつの間にか里奈は見覚えのある剣を手にしていた。
ソードフォームが武器にしていた剣。
プラットフォームでも使用できるが、自分は弱いという諦めからほとんど手にすることはなかったメンガッシャーソードモードだ。

ただでさえ重い剣だ。
今の里奈は構えることさえ難しい。
しかし構える。
肩に担ぐようにして何とか構える。
近づいてきた透明生命体に一撃を浴びせる覚悟だ。

♪~

また携帯が鳴った。
今度は少しリズミカルな着メロだ。
こんな時にかけてこないでと思いながらも、進むべき道を指し示してくれた若い男を無視することもできない。
剣を肩に預けながら、何とか片手を空にすると携帯を手にする。
はい、もしもしと少しだけ声を荒げた里奈の耳に飛び込んできたのは…。

「はい、もちもち。 皆のアイドルももちですよ。 会いたかった~、ねえモモにそんなに会いたかった、ん、ん、ん」
「モモタロス」
「りなぶ~の強さに私が泣いた」
「ヤジタロス」
「やっぱり私がいないと寂しいのかな」
「マノタロス」
「こんちくわ~。 そいつらみんなまーちゃんがやっつける」
「マータロス。 みんな消えなかったんだ」

喜びよりも驚きが先に立つ里奈にマノタロスが話しかける。

「とりあえず、その携帯使ってみなよ」

「使ってって言ったって、今こうして話してるし」

わけがわからないまま携帯のボタンを押して見る。

「うわっ」

突如形成されたレールのようなものに包まれた。
空のどこかとつながっているレールを伝わって何かが高速でやってきた。
ガシャッ、ガシャッ。 何かが合体する音、燃え上がる炎。 フォームチェンジ。

モモタロスのソードフォームをベースに他の三人のいつめん達の仮面の部分が両腕と胸にドッキングしている。

「みんな消えなかったんだ」
「そうみたいだね」
「りなぶ~、また世話になるからね」
「でもまーちゃんこのカッコ気持ち悪い」
「バカ言わないで。 一番気持ち悪いのはモモなんだからね」

口々に騒ぎ立て、勝手に動き出す手足。

「ちょっと~」

苦情を口にする里奈の声色は限りなく明るい。

「とりあえず、目の前のモグラさんたちやっつけますかね。 モモの必殺~」
「違うよ、モモ…タロス」

里奈の言いたいことはみんなに伝わったようだ。
そうだねという笑いも重なり合い、響き合う。

「私たちの必殺技!!!!」















最終更新:2012年09月28日 11:25