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「大嫌いだ、仮面ライダーなんて」

夜の街を当て所なく歩きながら、萩原舞は呪っていた。
仮面ライダーの存在を。
自分と仮面ライダーを結びつけた組織、タチバナの存在を。

萩原舞はほんの数日前まで仮面ライダーだった。
ゲンキックンホッパー。
バッタをモチーフとしたフォルムで、格闘戦に特化したゲンキックンホッパーへの変身ギアを舞に手渡したのは、黒服の男だった。
一人呼び出された事務所の一室で、マネージャー立会いの元で、13人の仮面ライダーによるライダーバトルが開催されることを聞かされた。
そして、その一人として舞が選ばれたことを。

最初は断った。
自分が仮面ライダーに選ばれたのも突拍子のないことだったが、それ以上に自分以外のライダーと戦うなんて出来るとは思えなかったのだ。
舞の言葉を聞いた男はライダーバトルの優勝者には賞品があることを告げた。
モベキマスの2ndシングルのセンター。

モベキマスとして2枚目のシングルが発売されることも初耳だったが、前作とは違って明確なセンターを1人決めるというのも意外だった。
心は動いた。
しかし、誰がなるのかは判らないが他のハロプロメンバーに勝つことが有り得ないと思った舞は、改めて辞退することを伝えた。
マネージャーは舞を説得しようとしたが、黒服の男は何か考えがあるようだった。

「ホッパーのベルトは比較的汎用性が高く、装着者の適正設定の範囲も緩やかなのです。 ゲンキックンホッパーが日の目を見ないのは残念ですが、パンチッサーの候補者と面談を…」

男の言っていることはほとんどわからなかった舞だが、パンチッサーという名前を聞いた時、反射的にやりますと答えてしまっていた。
パンチッサーとは岡井千聖のことだと思ったのだ。

千聖にはアイドルとして敵わないと思っている。
自分では手の届かないだろうモベキマスのセンターも千聖なら実力で勝ち取る可能性が僅かながらあるとも思っている。
だからこそ、千聖をライダーにはしたくなかった。
自分があきらめてしまったライダーバトルへの参戦も千聖なら喜んで応じる気がする。

シングルのセンターなんて有り得ない自分にとってライダーバトルは真夜中の太陽だ。
自分が背を向けた真夜中の太陽の光に照らされて、千聖がセンターを勝ち取ってしまったら、自分は一生後悔から抜け出せないと思った舞はライダーバトルへの参戦を決めた。
後になって思えば、パンチッサーという名前を自分に聞かせたのは、黒服の男の企みだったのかもしれない。
しかし、それでも舞は必死に戦った。
仮面ライダーオーデンや、裂鬼。
自分の及ばない強さや、特殊能力を秘めた強敵に追い込まれながらも、止めを刺されることだけは回避した。
それが真夜中の太陽を自分で掴むために自分に出来る精一杯のことだったからだ。

頑なに勝つことにこだわり、負けることから逃げようとしていた舞を変えたのは鈴木愛理だった。
仮面ライダーパレット。
竹内朱莉が変身したオーデンに追い詰められた時、天から舞い降りて救ってくれたのがパレットだった。
その声を聞いただけで正体は判った。
言っていることは判らなかったが。

オーデンに追い詰められた時、宿舎の方に逃げたのは、他のライダーを巻き込みあわよくば助けてもらおうという計算があったからだ。
しかし後になって考えてみれば、弱っている自分を助けるよりも、倒してしまう方がバトルを勝ち抜く点では有利だったはずだ。
なのに、愛理は自分を助けてくれた。
あの醜いゲンキックンホッパーの姿をした自分が、萩原舞だと判ったうえで助けてくれた。

愛理が何をしようとしていたのかはわからない。
ライダーバトルに参戦した以上、最後の1人になるまで戦わなければならない。
だとしたらいつか自分たちも戦う時が来る。
そう思いながらも、その時がやってきた時のことは話さないままに愛理とは行動を共にした。
弱い自分が最後の方まで生き残るには、その方が良いと思ったからだ。

想像したことがある。
もしも自分と愛理が最後の二人になったとしたら。
愛理が変身したパレットはあの大きな剣を自分には振り下ろさないのではないか。

「舞、センターになりなよ」

そう言って腕を下ろし、自分の攻撃を黙って受け止めてくれるような気がした。
そんな都合のよい話は有り得ないはずなのに、愛理ならそんなことを平気でしてしまいそうな気がした。

だから、あの時。
BigWと裂鬼とのチーム戦の時、自分は裂鬼のキーボードを打ち砕くことだけに専念した。
それが勝利につながると確信したから。
自分の勝利ではない。
自分を守ってくれた愛理を今度は自分が救うため。
そして愛理をセンターにするため。

その目的は達せられた。
自分は敗れ、センターの権利も失ったが、愛理は最後の二人まで勝ち残り、明日にも行われるだろうラストバトルにも勝つだろう。
自分たちの中からモベキマスを制する者が出ればいい。
その思いはかなったと思った…。

だけど、自分は知ってしまった。
ゲンキックンホッパーの真実を。

何の気なしに事務所のパソコンを開いていた。
ハロプロの他のメンバーのブログを覗くのは、パソコンからの方が見やすいからだ。
一通り巡回してから舞は思いついたのは、自分の分身でもあったゲンキックンホッパーのモデルになったキックホッパーのことを調べてみようということだった。

ゲンキックンホッパーとして戦うのは苦労した。
他のライダーが当たり前のように使う剣や銃が用意されてなかったからだ。
時間が止まっているように認識して行動できるクロックアップは有効な能力だが、ゲンキックンの攻撃力を増加させるものではない。
戦っているときは夢中で思いもしなかったが、後になってみれば不公平な気がした。
だからゲンキックンのモデルになったキックホッパーのことを知りたくなった。
本当にキックホッパーは武器も持たずに戦ったのかを知ってみたかったのだ。
そうした情報はweb上で簡単に手に入る。

クリックを数回、繰り返してたどり着いたサイトには舞の知りたかった情報が揃っていた。

― ふ~ん、やっぱり武器は持ってなかったのか。 兄弟? 地獄?

武器がなかったことは忠実に再現されていることはわかった。

― でも、だったら武器を持ってるライダーになれてたら私だって…。

納得してあきらめた筈の心がざわついてきたが、それは何とか押しとどめた。
もうバトルは最終局面に差し掛かっている。
勝ち残ったライダーはパレットとディエッグ。
最後まで勝ち残ったのだからディエッグも強いのだろうが、パレットなら必ず勝てる。

舞は思い出した。
べりキュー大戦でパレットが変身したキューティークイーンフォーム。
疲労で意識が飛びかけていた目にも鮮やかなあの金色は、自分の希望でもある。

― あのパレットなら絶対勝てる。 ところでもしゲンキックンが最強フォームになってたらどんなカッコになってたのかな?

実際に変身して戦っている間は、不恰好で醜いと思っていたゲンキックンの姿だったが、それでも愛着はある。
もし自分がタチバナの設定している条件をクリアして、最強フォームを手にしていたらどんな姿になっていたのか。
興味を持った舞はキックホッパーの最強フォームを捜した。
ゲンキックンはキックホッパーを忠実に再現している。
だったらゲンキックンの最強フォームもキックホッパーの最強モデルそっくりな筈だ。

自分の不甲斐なさゆえにめぐり合えなかった最強フォームの姿に胸躍らせた舞は懸命に探した。
だがしかしその努力は無駄に終わる。

― ええ! そんな。 最強フォームが無い。

舞が知りえた事実は仮面ライダーカブトに登場するライダーには、装甲重視のマスクドフォームと戦闘重視のライダーフォームが設定されているが、仮面ライダーホッパーには最初からライダーフォームしか存在しないということだった。
マスクドフォームからライダーフォームへのチェンジは、最強フォームへの移行を意味しないということは、「カブト」の視聴者には周知の事実だったが、女子であり早くから芸能活動を始めていた舞にはそんな知識はなかった。

― そんな、ひどいよ。 舞、あんなに頑張ったのに、最初から最強フォームが無かったなんて。 もしかして…

実際はタチバナはゲンキックンにも、オリジナルで最強フォームを設定していた。
もしも舞がライダーを2体撃破するか、透明生命体2000体を殲滅した上で、強くなることを望んでいればその最強フォームを手にすることはできていた。
しかしライダーバトルの全容を知らない舞は邪推してしまった。

― もしかして舞なんて最初から負けてしまえばいいって思われてたのかな。 だからあんなゲンキックンホッパーに選ばれたんだ、私。

気がつかないうちに事務所を飛び出した舞は、夜の闇を彷徨う。
愛理への友情は変わらない。
今でもライダーバトルに勝ち、モベキマスのセンターを勝ち取って欲しいと思っている。
だが…。

― 愛理はバトルなんて無くても、歌の実力でセンターになれる。 でも私なんてライダーバトルがなければセンターになんてなれない、なのに、なのに。

― タチバナの人はみんな、私のこと笑ってたんだ。 負けることが決まってるのに必死に頑張ってる舞のこと笑ってたに決まってる。

ネガティブな気持ちに突き動かされて、遠くまで歩いてきてしまっていた。
知らない町並みは舞を心細くする。

「お前」

いきなり呼びかけられて、ひぃっと出かけた悲鳴をこらえたのは芸能人としての嗜みだ。
一般の人にトラブルを起こしては、芸能人の方が不利になる。
だから刺激したり、誤解されたりするような言動を慎むようにという教育は受けている舞だったが、自分に声をかけてきた男は自分のことを芸能人だと判っているのだろうか。

真っ白の髪に、二枚目だが皺が刻まれた顔。
身に着けている皮のジャケットは所々擦り切れ、足を悪くしているのか片手には金属製の杖が装着されている。
その男のことをホームレスではないかと考えた舞は、曖昧な笑みを浮かべてその場を去ろうとした。 だが…。

「ひぃぃっ」

意外な身の軽さを発揮した男は舞の腕を掴むと、その顔を覗き込んだ。

「お前、いい眼をしてるな。 実に立派な負け犬の目だ」

いや、と呟き考え込んだ男は更に言葉を投げかける。

「もしかして、その若さで地獄を覗いてきたか、お前」
「いいえ、別に」
「俺がもう少し若ければ、一緒に地獄の底へ行かないかと誘うところだが…」

そう言って男は手を離した。

慌ててその場を立ち去ろうとする舞に男は言った。

「地獄はお前の心の中にある。 いや、地獄だけじゃない、天国も。 みんなみんなお前の心の中にある」

その言葉に何か惹かれるものを感じた舞は男と対峙した。
男は意外に優しい眼をしているように思えた。

「お嬢ちゃん。 もしも天国に行きたいなら地獄の底まで沈むことだ。 落ちて落ちて、一番底まで落ちてそして突き破るんだ」
「でも…」

どうやって地獄の底を突き破ればいいという問いかけを言葉にしない程の配慮は、舞にもある。

男の手から何か飛んだ。
危ないと思いながら舞が受け止めたそれは…。

何度も装着した変身用のベルト。
そのバックルにバッタを模したデバイスをセットすれば舞はゲンキックンになる。

「どうして、あなたがこれを」

そのベルトはよく見ると、舞が使っていたものではない。
古ぼけていて目の前の男に似つかわしく所々に錆が入り、欠けている部分もある。

「お前ならそれをどう使えばいいかわかってるはずだ。 地獄の淵を覗いたことがあるお前ならな」

何かが飛んでくる気配がする。
高速で、飛び跳ねてやってきたまるでバッタのようなそれは、舞の回りを回っている。

「でも、終わったことなんです。 友達を応援しているんです。 私にはもうバトルに参加する資格なんて…」
「そんな光の下で決められたルールなんかに、闇の住人が従うことはない。 掴むんだ、もしお前に許せないものがあるなら、その手に掴め。 そして、地獄に堕ちろ」

その言葉を聞いた舞は強く握っていた手を開く。
その手に飛び移ってきたのは、ホッパーゼクター。
闇への扉を開く鍵だ。

「だいっきらいだ。 仮面ライダーなんて。 ライダーバトルなんかぶっ壊してやる」

タチバナへの怒りを込めて舞は、ゼクターをバックルに叩きつける。

変身!!

決して届くことはない真夜中の太陽をめがけて、哀れな戦士が跳躍する。













最終更新:2012年09月29日 23:27