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― 初めてのバトルだというのに、この人は随分落ち着いているな

仮面ライダーリィサ~コが指定した決戦の場に向かうトレーラーの中で青年は見惚れていた。
14体目の仮面ライダーG3-Mの装着者、新垣里沙の美しい横顔に。

G3-Mが他の仮面ライダーと決定的に異なるのは、ベルトのようなサポートツールによる変身ができないということだ。
そのモデルとなったG3の番組上の設定が、パワードスーツということになっており、その本体はトレーラーに搭載されている。
そしてG3の装着者はトレーラーに乗り込み、G3の外殻を着込むことによってG3となる。

タチバナの科学力をもってすれば、G3-Mも他のライダー同様にベルトで瞬時に変身できる仕様にすることも可能なはずなのだが、そこは技術者のこだわりというべきか。
モデルとなったG3同様、ユニット一式をトレーラーに搭載し、装着者である新垣里沙を乗せて、決戦の地に向かっている。
もう既に胴体の部分はユニットを装着済みで、顔の部分だけが露出している。
体力の消耗を防ぐために、まだユニットは起動しておらず、固定装置に体を預けた体制で、これから向かう場所にいるリィサ~コやディエッグ、イクタに関する資料に目を通している。

他のライダーの情報をバトルに参加するライダー間でやり取りすることは自由だが、タチバナから提供することはライダーバトルの趣旨に反する。
しかし膠着したバトルを活性化するために投入した追加ライダーであるリィサ~コにはその便宜を図らざるを得なかった。
それは後発のリィサ~コと先発の仮面ライダーたちとの間には、バトルを重ねて得ることの出来る経験値に差がありすぎることを考慮した上での措置だった。
その特例を最初の13人の中に入っているG3-Mの装着者である新垣里沙にも適用したのは理由がある。
戦闘態勢に入るにの時間が掛かりすぎるG3-Mには、突発的に発生することの多いライダーバトルに参戦できなかったというハンディがあるからだ。
そのことを説明した上で、先刻新垣里沙に3人のライダーの資料を渡した際、里沙は青年に感謝しながら自嘲の笑みを浮かべた。

「バトルに参戦できなかったから、私みたいなオバチャンがここまで残ってるという面もあるけどね」
「そんなオバチャンなんて。 新垣さんはそんなに若いじゃないですか」
「ドオリ君に比べたらオバチャンだよ。 あっ、カズキ君って呼んだほうが良かったっけ」

年齢でも、芸能界のキャリアでも上回っている新垣里沙に自分がからかわれていることに気づいた青年は照れ隠しに、ナビゲート用のコンソールを見るふりをした。

「こうして見るとイクタとG3-Mって何か似てるよね」

確かにどちらも個人の所有する物ではなく、ある目的を持った組織によって開発されたメカという点では相通ずるものがあるが…。

「何か運命みたいなものを感じるよねえ」
「他の二人の資料にも目を通しておいた方がいいんじゃない」

だいたいわかったからと言いながら、里沙が目にしているのはイクタの資料だけだ。

「今回のライダーバトルはすごく流動的です。 成り行きしだいで誰と戦うことになるかわからないんだから」

だから他のライダーの資料にも目を通しておくべきだという思いを言外に匂わせたのだが…。

「あっ、私が戦うのはイクタ一択だから」

青年は少し意外な気がした。
ライダーバトルで勝ち残るのは一人だけというルールだが、そこに至るまでにはチームを組んだ方が有利だ。
現にディエッグの譜久村聖は最初オーデンの竹内朱莉と密約を結ぶ、今は生田衣梨奈とチームを組んでいる。
その生田も最初は同期のオーズッキこと鈴木香音とチームを組んでいた。

「生田さんを助けてあげて、決勝で師弟対決を実現するという手もあるんじゃない」
「それは無理だと思う。 だってこのG3-Mじゃあねえ」

意味ありげに笑う里沙の顔から視線を逸らした。
スペック上の数値ではG3-Mは決して強いとはいえない。
それはモデルとなったG3の数値を反映した結果であり、G3が登場した仮面ライダーアギトが現在放映されている仮面ライダーよりはリアリティを追求していたという時代の反映でもある。
もし仮にG3-Mが最初からライダーバトルに参戦していたら、かなり早い段階で脱落していた可能性がある。
しかし、そうした強さのスペックはリィサ~コこと菅谷梨沙子や里沙に渡した資料には記載されていないはずだったが…。

「勘よね。 武器のテストで透明生命体をやっつけに行ったことがあるじゃない。 その時判ったんだよね、なんとなく」
「でも、テストといってもたった一回きり、それも10分程度で終わったのに…」

青年は絶句した。
確かに新垣里沙はライダーバトルに関しては初心者の素人もいいところだが、モーニング娘。として数え切れないぐらいのステージを経験してきた。
そしてモーニング娘。を卒業した現在は、女優として舞台に積極的に出演している。
そこで磨いた感覚こそが新垣里沙の最大の武器なのだ。

「だからなの。 G3-Mの装備にあんな変な名前をつけたのは」
「コラ~、変な名前なんて言わない」

青年はインターネットに接続すると、ウィキペディアの新垣里沙の項目にアクセスした。

― 新垣さんが出演した舞台の役名、あった。

GH-01チサト、GM-02ミノリ、GS-03ユキノ、GT-04カオル…
本家のG3ではスコーピオンやサラマンダーなど凶々しいニックネームがつけられていた装備につけらていた名前が、G3-Mでは新垣里沙が出演した舞台の役名に置き換えられている。

― 文字通り、自分の全てを賭けてライダーバトルに臨む気なんだ。 でも…

「だったら、やっぱり生田さんのことを助けてあげるべきなんじゃないですかね」

タチバナのエージェントとしては特定のライダーに肩入れをすることは避けるべきなのは青年も承知だ。
しかし、それでも青年は生田衣梨奈という少女に思い入れしてしまう。
生田衣梨奈がこのバトルに参戦しているライダーの中で、唯一といっていい仮面ライダー通だということに親しみを覚えていることもある。
イクタというライダーシステムが、モデルのイクサを忠実に再現していることで、個性を発揮できないことに悩みを感じた生田に自分の姿を投影したからなのかもしれない。
仮面ライダー電王という完成したコンテンツに中途で参加して、何とか個性を発揮しようと足掻いていた自分。


「今残っている仮面ライダーの中で一番、勝ち残りたい。 モベキマスのセンターを勝ち取りたいって思ってるのは多分、生田さんだよ」
「そうだね。 だから私はイクタを全力で潰さなきゃいけないんだ」

青年はハロプロのメンバーと共演しているといっても、その全てを知っているわけではない。
しかし、生田衣梨奈という少女が新垣里沙を物凄く慕っているということはタチバナの仕事を通じて伝わってきた。
だから、新垣里沙も生田衣梨奈のことを気に入っていると思っていた。

「好きだよ。 生田のことは」

最初は出来の悪い子だと思って、強く指導しているうちにだんだん向こうの方から近寄ってきて、構ってくるようになった。
時々、ウザく思って冷たく対応したら、萎れた花のようにションボリして。
そのフォローで疲れるから放っておいたら、どんどんいい気になって。
自分の生写真ならともかく写真集をツアーに持ち歩いていることを知った時は、呆れ果てた。
卒業のバスツアーでスタッフの空気から、何かサプライズがあることはわかってたけど、あいつがツアー参加者として現れたときは、ホントに。

私はモーニング娘。のことが好きだ。
今も現役のモーニング娘。として第一線で戦っているメンバーのことを誇らしく思っている。
ファンの人に祝福されて卒業したOGの皆さんのことを尊敬している。
心ならずも、不本意な形で娘。を去らなければならなかった人たちのことを思うと心が痛む。
とにかくモーニング娘。の一員として活動していた全ての人のことを愛している。
…でも、今の私が一番気にかかるのはアイツってことになるのか。

「出来の悪い子ほど可愛いっていうけど、アイツのことは気になるよ、やっぱ。 だからこそこんな形でモベキマスのシングルのセンターを勝ち取っちゃいけないんだ」

新垣里沙の強い言葉に青年は少し反発を覚えた。
里沙も出演していた学園もののドラマのオープニングで自分はモーニング娘。の曲に合わせて踊ったことがある。
本家のモーニング娘。のダンスと比べるなんて恐れ多いが、それでも楽しかった。
アイドルのコンサートで盛り上がるファンの気がわかった気がした。
あの楽しさこそがアイドルにとって一番重要なことではないのか。

その思いを里沙にぶつけてみたい気もするが、里沙の真摯な瞳を見ればその気は薄れる。

― この人は誇りを持ってるんだな。 アイドルとかアーティストとか女優とか、そんな区分けなんか関係なくお客さんの前でパフォーマンスを演じてきた自分に誇りを持っている。

「シングルのセンターはそれに相応しい歌唱力や、パフォーマンスの技量。そしてスターとしての華が兼ね備わった者が取らなきゃいけないんだ」
「今の生田さんにはそれが無いと言うの」
「無いよね。 ハロプロのシングルはこんな底抜け脱線ゲームの結果で決めちゃいけないんだ」

昭和かよ、という青年のツッコミに里沙は笑って応じた。

「うん、昭和だから。 私、昭和生まれの女だから、泥臭いよ。 言うことやることみんなみんな」

“愛をください”
忘れもしない。
里沙がモーニング娘。に参加して初めてのシングルで与えられたパートだ。
プレイボーイという設定の吉澤ひとみに訴え掛ける初心な少女。
そのパートはTVの歌番組やステージでは同時加入の5期のメンバーが交代で担当した。
ステージを重ねていくうちに里沙は気づいた。
担当するメンバーによって客席の反応が違っていることに。
最初は気にもならなかったが、やがて自分が愛を求める時、客席の反応がどこかよそよそしい気がした。

LOVEオーディション21。
里沙がモーニング娘。に入るために受けたオーディションは今では考えられないことだが、TVで特番が組まれた。
その番組中に里沙が出演していたおもちゃ会社のCMが流されたことが発端だった。
そのCMは里沙がモーニング娘。になりたいという一心で、少しでも娘。との距離を縮めるために所属した芸能事務所での仕事だった。
しかし、そのタイミングのあまりの良さに、新垣里沙はコネでモーニング娘。に加入したという疑惑が囁かれたことを当時の里沙は知らなかった。

夢を叶えた嬉しさと曲がりなりにも芸能事務所に所属していたという自覚から、同じ5期のメンバーの中でも前に前に出て行った。
そうしたことが「生意気だ」とファンの目には映った。
全てが、裏目だった。

「コネガキ」と書かれたボード。
売上の芳しくないファンクラブのグッズ。
先輩のメンバーやスタッフはまだ幼かった里沙を守ろうとしていくれた。
しかし、12歳の子供ゆえに鋭い里沙の感受性は自分へ向けらてた冷たい視線にいつしか気づいていた。
それでも里沙は彼らを恨まなかった。
泣き言を言ったこともなかった。
ひた向きな笑顔を絶やさなかった。
元気いっぱいにその時の自分にできる精一杯をファンに披露し続けていくしか、里沙にはできなかった。

「ファンのみなさんは純粋にモーニング娘。のことが好きで応援してくれるからさ、そこから外れて見えるようなことをしちゃ変に想像してしまうんだよね」
「じゃあ新垣さんは生田さんを自分のような辛い目に合わせたくないから潰しにかかるっていうんですか」
「辛い目になんかあったことないよ」

ファンが里沙をバッシングしたのは、熱烈に愛しているモーニング娘。にふさわしくないと思ったからだ。

「こんなに愛されているモーニング娘。の一員でいられることに感謝した。 辛い目になんてあったことないよ」

里沙の笑顔が青年には菩薩のように見えた。

「だったら、イクタが勝って生田さんがセンターを取ったっていいじゃない」
「それはそうなんだけどさ」

自分がモーニング娘。に加入した当時と現在では取り巻く環境が違ってきていることを里沙は感じている。
ファンの感情がよりリアルタイムかつダイレクトに突き刺さってくる環境。

「もう今はスマフォで簡単にネットにアクセスできる時代だから」

生田はKYと言われるが、その実、周囲の声に影響されやすいことを里沙は知っている。
そしてどこか不安定なものを抱えた生田を、今の自分は支えてあげれないことを里沙は自覚している。

「やっぱ生田には早すぎるよ。 複数センターならともかく単独のセンターは絶対、早すぎる」

これがアルバムの収録曲であったり、シングルのカップリング曲なら話は違うけどという里沙の言葉はアラートで遮られた。

「そろそろみたいだね」
「うん。 あっ、梨沙子ちゃんがやられてる」

青年の座席のコンソールにはリィサ~コの苦境を示すデータが表示されている。

「じゃあ、ドオリ君。 最後に確認しておくけど絶対に中のライダーの安全は保証されてるんだよね」
「それは絶対。 絶対安全だってことはボクが保証するから」

里沙が念入りにライダーシステムの装着者の安全を確認したのは、自分の身を案じたからではないということが今の青年にはよくわかる。
逆にいえば改めて確認しておかずにはいられないほどの攻撃をイクタにしかけるつもりだ。

「梨沙子ちゃんには悪いけど、私たちの邪魔にならないよう、最初に潰す」

里沙の言葉にこれまで感じたことのなかった凄みを覚えた青年は、かつてない過酷な戦いが繰り広げられることを確信した。
その戦いを見届けられることに幸せを感じながらも、ライダーとして加わることができないことに少し不満を覚える。

― ボクだって、あれが完成すれば

メタリックに輝く一本のベルトの面影を振り払いながら、コンソールを操作する。

「G3-Mシステム 起動」
「ラジャー!」

親指を立てた里沙の頭部を青色の装甲が覆っていく。

        【おわり】













最終更新:2012年10月10日 07:13