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「イクタとレイナ」


私たちが暮らす世界とはちょっとだけ異なった世界。
この世界には"アイドル"という概念が存在しなかった。
その代わり、仮面ライダーなるものが世間に認知されている。
仮面ライダーとはとある組織に選ばれた若き女性たちのことを指し、
彼女らは"センター"になるために最後の一人になるまで戦い続けている。
"センター"が何なのかは誰にも分からない。
それでも、"センター"になることがこの上無い幸せだと信じて戦っているのである。
今回の物語は関東地方にあるSATOYAMAという名のコーヒーショップで繰り広げられる。
店長の光井愛佳が人数分のコーヒーをいれながら従業員に話しかける。

「みんなが働いてくれて、ほんまに助かるわぁ」

愛佳はアルバイトの3人に感謝の言葉を送る。
ここ最近になって3人が働いてくれたので、店の仕事がぐっと楽になったのだ。
コーヒーカップを手に取りながら、アルバイトの1人が言葉を返す。
彼女の名は生田衣梨奈。またの名を仮面ライダーイクタと呼ぶ。

「こっちこそ助かってますよぉ、仮面ライダーは色々とお金がかかりますし……」
「生田ちゃんは博多、鈴木ちゃんは名古屋からやったっけ
 たしかに交通費とか大変そうやなぁ……少ない給料しか払えなくてごめんな。」
「全然少なくないです。光井さんとバイト出来て楽しいですもん」
「あら本当」

愛佳を喜ばせたのは鈴木香音、仮面ライダーオーズッキだった。
ワケありな自分達を働かせてくれただけで、3人にとって光井愛佳は恩人なのだ。


「みずきは東京生まれっちゃろ、しかもお金持ち。なんでバイトしとぉ?」

衣梨奈がもう一人のアルバイト、譜久村聖に質問を投げかけた。
彼女もまた仮面ライダーであった。名をディエッグと言う。
しかも聖は他の2人とは敵対しているというややこしい関係性であった。

「えりぽんとぉ、かのんちゃんをずっと見ていたいから、かな?」
「うわ!みずきちゃん気持ち悪い!」
「そういう意味じゃないよ!ライバルを監視したいってことなの!」
「まぁウチは働いてくれるならなんでもええけどな」

ヒトクセもフタクセもありそうな3人を雇ってくれる愛佳はまさに神のような存在だった。
普通の店なら仮面ライダーという時点で面倒に思うものだが
この愛佳は違ったのだ。
だからこそ3人は愛佳にはなんでも打ち明けることが出来る。

「ところで、その"センター"ってそんなに大事なん?ウチよく分からんのやけど」
「みずきもよく分かりませんけど……なんでもアイドルの頂点に立てるらしいですよ。
 アイドルっていうのは若くて、多くの支持を集めた女性だけがなれる特殊な存在みたいです。
 その頂点って凄いですよね。」
「ふ~ん、若くて支持って……テレビのあの子みたいなもんと違うん?」

愛佳はテレビに映っていた、二つ結びの女性タレントを指差していた。
今日もわざと失敗をしては許してニャンと謝っている。

「光井さ~ん、ももちとアイドルは違うっちゃよ~、あんな気持ち悪いタレントよりもっとすごかとです」
「ちょっとえりぽん!嗣永さんの悪口を言うなら今すぐこの場で撃つよ!」
「ひゃ!みずきごめんっちゃ、えっと、ほら、許してニャン?」
「可愛くない!しゃべるなー!」

従業員同士がワイワイ騒いでいるところに一人の女性が来店してきた。
その女性は茶髪にサングラス、さらに派手なコートを羽織っていた。
どうやら客として来たわけではなく従業員の誰かに用があるようだった。

「……生田、ようやく見つけたっちゃ」
「た、田中さん!!」

衣梨奈は田中という女性を知っているようだった。
口調から察するに同郷のように見える。

「えりちゃん、知ってる人?」
「田中れいなさん……地元で負け知らずの最強のヤン……」
「ヤン?」
「あ、その、やんちゃな人っちゃ。えりが昔可愛がってもらったと。」

普段はハチャメチャな衣梨奈が珍しく焦っているのを聖と香音は感じ取っていた。
なんだか田中れいなという人物を怖がっているように見える。
その証拠に、れいなが名前を呼ぶだけでビクッとしてしまう。

「生田ぁ」
「は、はい!」
「コーヒー飲みたい」
「はいっ!今すぐ!」



「えぇ~えりぽんそんな子だったんですかぁ?」
「そうそう、訓練してもすぐ泣いて逃げだしとったね」
「もっと面白い話聞かせてください!」
「じゃあとっておきの話を……」

衣梨奈がコーヒーを入れてるうちに聖と香音はすっかりれいなに懐いてしまっていた。
次から次へと衣梨奈の過去話をするので面白がっているのだ。

「生田のやつ、優子っていう子に惚れとったんよ」
「え、相手女の子ですか?」
「そうったい、もう泣くほど好きみたいで山ほどラブレター送っとったんやけど」
「アァ…アァ…」
「その優子はずっと昔かられいなにホの字やけんね、生田可哀想っていう話。」
「えー本当ですかー!?」
「えりぽん可哀想ー!」

黒歴史を大公開された衣梨奈は涙目になっていた。
本当だったら今すぐにでもれいなの口を塞ぎたいところだが、出来ないのだ。
過去の上下関係はなかなか崩せないものなのである。

「た、田中さん……そろそろおしゃべりを止めてコーヒーでも飲みませんか?」
「生田のコーヒーは不味いから飲まん!」
「え?……」
「そんなことよりれいなは生田に用があってきたとよ、ほらコレ!」

れいなはベルトを取り出して衣梨奈たちに見せ付けた。
それは明らかに仮面ライダーの変身ベルトであった。

「田中さんが仮面ライダー!?」
「生田、あんたを倒しにきた」
「え、ええええ!?」

れいなの目的は衣梨奈を倒すことだった。
彼女もまた"センター"を夢見る仮面ライダーであり、
優勝候補だと噂の衣梨奈を仕留めるためにやってきたのだ。
れいなが敵だと分かるや否や、聖と香音も変身の準備を始めようとする。

「ちょい待ち!3対1は卑怯っちゃろ、れいなは生田と戦いに来たんよ」

れいなは衣梨奈を指名しながら窓の外を指差した。
表に出ろと言いたいようだった。
しかしれいながタイマンを望んでも聖と香音は許さなかった。
この戦いに正々堂々など無いと言った感じだ。
そんな二人を衣梨奈が制する

「二人とも、ここはえり一人で戦わせてほしいっちゃん」
「えりぽん!」「えりちゃん!?」
「ここで勝たなきゃ、一生勝てん気がするとよ!」

これまで衣梨奈はれいなに頭が上がらなかった。
だが、仮面ライダーの勝負となれば話は別だ。
ライダーバトルなら誰にでも勝てる、衣梨奈はそう思っていたのだ。

「それでこそ博多っ子ったい、やけん、生田もすぐこの子みたいにしてやるけんね」

そう言うとれいなは入り口の扉をバンッ!と開けてみせた。
今までは分からなかったが、店の前にはれいなにやられボロボロになった女性が倒れていたのだ。
その女性を見て、ライダーの3人は驚愕することになる

「「「菅谷さん!」」」

れいなは店に入る前にライダーの一人、菅谷梨沙子に話しかけられていた。
占いも出来る魔法使い、仮面ライダーリィサーコにライダーバトルを申し込まれたのだ。
リィサーコは火、水、風、土の4つの魔法を使い分けて相手を翻弄することが出来る。
以前イクタ、ディエッグ、オーズッキの3人を苦戦させたこともあるので、その実力は本物だ。
しかし、れいなの氷は四属性のどれよりも強力だった。
水は凍る、風も凍る、土も凍る、なんと火までも凍る。
しまいにはリィサーコそのものを凍らせてしまったのである。
こんなに強い敵に出会ったことの無いリィサーコはひどく怯えていた。

「戦っちゃだめ……あなたたちがこの人に敵うわけが無い……」

リィサーコはイクタ達とは敵対関係にあった。イクタらには"センター"の資格が無いと考えていたからだ。
だが、だからと言って若い子たちに苦しい思いをしてほしい訳では無かった。
リィサーコは純粋に人としてイクタ達を心配していたのだ。

「今すぐ謝って、降参して、そしたら全部終わるから」
「なんでですか菅谷さん!負けを認めたらえり達"センター"になれなくなりますよ!」
「まだ分からないの!その女は、田中れいなは……最も"センター"に近い存在なのよ!」
「「「!?」」」

断言する梨沙子に一同はビクついてしまう。
そしてれいなはニヤリとしながら衣梨奈の首をガシッと掴む。

「確かにれいなは"センター"に近いっちゃん、でも、降参なんてつまらんこと許さんよ」

れいなは変身した。
腰のベルトにコウモリのような機械が貼りつき、渋い声で一言『変身』とつぶやく。
それと同時に凍える程の吹雪がれいなの身体を白く染めていく。
青い複眼に白のスーツ、雪男のようなふわふわとした毛、鎖でガチガチに縛られた両腕
これが田中れいなの変身した姿「仮面ライダーレイナ」なのである。

「生田、すぐ楽にしてやるっちゃん」

レイナは衣梨奈を強烈な吹雪で吹き飛ばしてしまった。
変身したリィサーコが耐えられないほどなのだから、生身の少女が受けたら即死だ。
だが衣梨奈は既にイクタに変身をしていた。
レイナに首を掴まれた時点でナックルをバックルにドッキングしていたのだ。

「イクタ爆現!」

この世界の衣梨奈にはある特殊能力が備わっていた。
それは見たことの無い仮面ライダーの特徴を言い当てる能力だ。
なぜこんな力がイクタに備わっているのかは定かではない。
分かっていることは、この力のおかげでイクタは今まで無敗だということだけだ。

「仮面ライダーレイナ、氷の能力を使うライダーっちゃね」
「それが噂の能力か……でも氷を使うくらい、見れば分かるっちゃろ!!」

レイナは吹雪をさらに強め、イクタを凍らせようとした。
イクタも銃の火力で応戦するが、リィサーコの炎をも凍らす吹雪に勝てるはずがなかった。
あっという間に手足を凍らされてしまう。

「うっ……くっ……!」
「しょせん生田は生田、優勝候補だかなんか知らんけど、れいなには勝てん。」


「えりぽん!」
「早くえりちゃんを助けないと!」
「「変身!!」」

イクタのピンチを救おうと聖と香音は仮面ライダーに変身する。
銃に生写真を挿入することで聖はディエッグに、
ベルトに3枚のメダルをはめることで香音はオーズッキになれるのだ。
すぐに店を出ようとしたその時、背中に謎の斬撃を受けてしまう

「きゃ!」「わっ、なに!?」

正体不明の攻撃に二人は思わず後ろを振り向くが、
そこでさらに驚くこととなってしまう。

「田中さんが戦ってんやから黙ってみとき、どうしてもって言うならウチが相手したるけどな」
「光井さん!?」「そんな!」

そこにいたのは、これまた青き目をしたライダーであった。
ディエッグとオーズッキにとって見た目は大した問題ではない、問題なのはその声だ。
このライダーの声は、今まで恩人だと思っていた光井愛佳そのものだったのだ。

「ごめんなぁ、ウチと田中さんはグルだったんよ」
「光井さんが仮面ライダーだったなんて……」
「仮面ライダーシガや。判決を言い渡す……死刑や」

シガの剣が鞭のように長く伸びていき、ディエッグとオーズッキの首を締め付ける。

「生田……もう終わりっちゃん!」

レイナのベルトが『ウェイクアップ』と言い放つことで、腕を縛る鎖がちぎれていく。
そこから現れたのは巨大な爪であった。この爪で凍ったイクタを仕留めるつもりなのだ。
爪をイクタに向けながら、レイナは一直線に走っていく

(あれはカテナ解放!……まずい、このままじゃ負ける……!)

イクタはこれまでの戦いを思い出していた。
今まで多くの仮面ライダーに苦戦を強いられてきたが、何度も乗り越えてきたのだ。
なでしこ、BigW、910、リィサーコ
どのライダーも強かったが、イクタは負けなかった。
そして、最後の戦いは今でも鮮明に思い出すことが出来る。
G3-M。憧れの新垣里沙との戦いだ。
あの戦いがあったからこそ今の衣梨奈がある。
あの日誓った決意を、ここで無意味なものにするわけにはいかなかった。

(ガキさん、えりは誰にも負けません)

イクタは右腕に力を入れ、凍りつく腕を無理やり動かした。
そして仮面の口の部分からケータイのようなデバイスを取り出し、1、9、3と入力する。

「ガキさんのおかげでなれました。これがえりの真の力」

『ラ・イ・ジ・ン・グ』

れいなが爪をぶつけるより速く、イクタは新たな姿に変化する。
ホワイトだったボディカラーはブルーに変わり、
胸には真っ赤な太陽が掲げられている。

「なん!?……その姿は……」
「これがえりの最強フォーム、ライジングイクタです。」

イクタ同様にオーズッキも反撃の狼煙をあげていた。
仮面ライダーシガはとても強く、下手したらレイナ以上の実力を持っているかもしれないが
自分なら勝てるとかもしれないとオーズッキは思っていたのだ。

(勝つにはこれしかない!)
『プテラ!』
『トリケラ!』
『ティラノ!』
『プトティラノザウル~ス!』

オーズッキは紫色の恐竜メダルを使うことで最強フォーム、プトティラコンボに変身する。
自身の首を締める邪魔なヒモを簡単に引きちぎり、その勢いでシガを殴り飛ばしてしまった。
紫のオーズッキはかなり強い。
恐竜の力を借りているので鳥や虫の何倍もパワフルなのだ。
しかし、最強フォームによる消耗とコンボの疲労がダブルパンチで香音の身体を蝕むことになる。
戦いが長引けば恐ろしい副作用も待っているだろう。

「かのんちゃんったらまた無茶して!仕方ない、みずきも……」

香音が苦しむ前にケリをつけるため、ディエッグはタッチデバイスを操作する。

『ハウガ!』
『オーデン!』
『910!』
『裂鬼!』
『ゲンキックンホッパー!』
『めん王!』
『BigW!』
『なでしこ!』
『ファイナルフォームライド・ディエッグ!』

八体のライダーを従えて、ディエッグまでもが最強フォームに変化する。

勢いでコンプリートフォームになったものの、ディエッグの身体は相当重くなっていた。
人間の映像を呼ぶだけでもかなり消耗するというのに
ライダーを何体も呼んでしまったのでエネルギーが枯渇寸前なのだ。
また失敗したと冷や汗をかくところに、謎の機械音が聞こえてくる。

『プリーズ』『プリーズ』

音の正体はリィサーコの指輪だ。ディエッグにエネルギーを分け与えているところだった。
魔法使いの彼女にはこんなことも出来るのである。

「逃げろって言ったのにしょうがない子ね、貴方たちが最後の希望なんだから派手にやっちゃいなさい!」
「菅谷さん……ありがとうございます!」

貰ったエネルギーでディエッグはとっておきの必殺技を発動させる。

『ファイナルカメンライド』
『アルティメットシイング!』
『サバイブ!』
『アクセル!』
『紅!』
『ハイパー!』
『超クライマックス!』
『エクストリーム!』
『ロケット!』

それは召喚した仮面ライダーを最強フォームへと変身させるという技だった。
ディエッグとオーズッキを含め、10の最強体がシガに襲いかかる。

ライジングになったイクタに一瞬戸惑ったが、レイナはすぐに頭を冷やす。

「だから何!?凍っちゃえば動けんし!」

本日最大クラスの大吹雪を発生させるレイナだが、ライジングイクタには効かなかった。
イクタの背後に見える炎の塊にすべて溶かされてしまったのだ。
その炎は太陽のように眩しく輝いていた。

「た、太陽!?」
「雪はもう降りませんよ、イクタは青空の使者ですから!!」

イクタが叫ぶことで、辺り一体が見事に晴れていく。
吹雪で見えにくかったSATOYAMA の様子もよく見える。
そこではシガが10の最強体に袋叩きにされてる真っ最中だった。
超高速移動をするオーデンと910、ゲンキックンに何千発も蹴られ、
クウガと裂鬼の地獄の豪華に焼かれ、
BigWの突風に吹き飛ばされ空高く舞い上がり、
そこをオーズッキ、めん王、なでしこにライダーキックをぶち込まれていた。
スーツが粉々に大破したシガをみて、レイナは背筋を凍らす。

「あ、あそこまでせんでも……」
「田中さん、えりはみずきみたいにいたぶったりしませんよ」
「へ?」
「一瞬で消し去ってあげます!!」

イクタは変身に使ったケータイを銃のように持ち、強烈なエネルギー弾をレイナに放った。
この技の名は『ファイナルライジングブラスト』
その熱量は氷のみならずレイナのスーツまで溶かしてしまう。

レイナとシガに勝利した一同は、聖の自宅で祝勝会をあげていた。
もうあの店には戻れないから、ここに来たのだ。

「はぁ、今回も強敵だったねぇ……」
「うんうん、まさか光井さんがあんなに強いなんて……でもかのんちゃん!だからってコンボはダメだよ!」
「なん?かのんちゃんまたコンボになったと!?」
「うん、しかも紫のやつ」
「わー!みずきちゃん言っちゃだめぇ!」

香音は心配性な衣梨奈にキツ~く絞られてしまった。
心配されるのは嬉しいが、さすがに香音も堪えたようだ。

「まったく、まだまだ戦いは続くけんね、身体壊しちゃいかんよ!」
「え?ライダーってまだいるの?」
「これ田中さんのケータイ。こっそり持ち出してきたっちゃん」

衣梨奈はれいなのアドレス帳を二人に見せた。
そこには明らかに仮面ライダーとしか思えぬ名前がビッシリと埋まっていた。

「王じゃゆ?パンチッサー?ガーイシ?カリホ?」
「なにこのボツネタっぽい名前……」
「とにかく!まだまだ敵はおるってことったい!」

衣梨奈は拳を天に突き出し、大声で誓う。

「アイドルのセンターになるのはえりやけんねー!」

おしまい。













最終更新:2012年10月10日 21:10