『君に贈る花菖蒲』
「カナちゃ~ん」
「あ、
ミユカちゃん」
「ねえ、一緒に屋上でお昼食べようよ! トッキーもどう?」
「行く行くー!」
「私もいいですよ」
「んじゃ屋上へレッツゴー!」
昼下がり、いかせのごれ高校2年2組の教室。
私とミユカちゃんとトキコちゃんの三人で、一緒に昼食を済まそうと屋上へ行きました。
「んー。気持ち良いね~」
「………」
「あれ、カナちゃんどしたの?」
「え…はっ! ななな、何でもないですっ!」
ああ、ついこの前
ウツロ君と夕焼け見てたの思い出して、ぼーっとしてしまいました。
その時ふと、トキコちゃんの方を見ると―――な、なに目をキラキラさせてるんですかーっ!?
「むっふっふ~。カナちゃん実はね~…恋してるんだよー!!」
「なにい!!」
「ちょ、ちょっと、何言ってるんですかトキコちゃん!」
でも二人は私の声など全く聞かずに、勝手にヒートアップし始めました。
「トッキー、それホント!?」
「ホントホント」
「あ、あの二人とも…」
「それで相手は誰!? …まさか羊じゃないよね?」
ミ、ミユカちゃん…顔が般若になってます…。
ミユカちゃんはどうしてか、
コウスケ君が私と居るところを目撃すると、容赦なくドロップキックとかかまします。
ミユカちゃん曰く、「ピュアなカナちゃんに近づくな」とか何とか…。
よく分かりませんが。
「ううん、私と同じホウオウグループの人だよ」
「あ、ならいいや」
コウスケ君が駄目で、
ホウオウグループの人ならいいって…ミユカちゃんの基準は一体……。
私も別に毛嫌いしてる訳ではありませんけども…って、あれ?
「トキコちゃんとミユカちゃん…お互いの立場、知ってるんですか?」
「「うん」」
いつの間に…
「そんな事より、どんな人か教えてよー」
そんな事よりって…。
私は別に構いませんが。
「名前はウツロって言ってね、ちょっと捻くれてるんだよー」
「ほうほう」
「それで、死にたがりな所があるんだけど、再生力が半端ないから中々死ねないんだー」
…トキコちゃん、その紹介はちょっと…。
「へえ~、で、カナちゃん」
ミユカちゃんがいきなりこっちを向きました。
「いつ、どこで会ったの~」
「ひ、ひぃいい~」
ゆ、幽霊みたいな素振りで聞かないで下さいよ~!
とほほ、白状しましょうか…。
「お、屋上です…」
「しかもねー! 一緒夕焼け見たんだってー!」
トキコちゃぁぁあああああんっ!!!
余計な事言っちゃ駄目ですーーーーっ!!!!
「へえ~? カナちゃん、罪だねえ~」
「もうからかわないで下さい…」
二人のヒートアップした攻撃に、もはや私は涙目になるしかありませんでした……。
「ところでカナちゃん」
恋バナ(?)も終わり、平和にお弁当を食べる私達。
その最中、ミユカちゃんが声をかけました。
「最近、よく花屋さんに寄ってるよね。お花好きなの?」
「はい。大好きです」
元々私は花が大好きで、最近出来たばかりの花屋さんにもよく寄っては、店員さんと花について話したりしてます。
「そういやカナちゃんって、お花似合うよね。可愛いし」
「か、可愛いだなんて! お二人も可愛いじゃないですか」
「いやいや~、カナちゃんには及ばないよ~。ねえトッキー」
「そだねー。現にモテてるし。ほら、この前三年からラブレター貰ったでしょ?」
「あ、あれはお断りしました」
「え~、勿体ない」
「私…お付き合いする気が無いというか…よく、分からなくて」
「ふーん」
そもそもよく知らない人から「付き合って下さい」って言われても、ちょっと戸惑いますし。
「まあ、それは置いといて。それだけ好きだから、花言葉とか詳しいんでしょ?」
「あ、はい。多少は」
「じゃあさー、私にぴったりな花言葉の花とかない?」
「ミユカちゃんにぴったりな花言葉の花、ですか。そうですね…」
ミユカちゃんと言えば…明るくて、賑やかで…友達思い。
となると…。
「友情の花言葉を持つ、『こでまり』という花ですね。ミユカちゃんが好きな白色の花です」
「友情?」
「ミユカちゃん、友達思いですから」
私の言葉に、ミユカちゃんの顔が少し赤くなりました。
あら、照れちゃったみたいですね。
「ねーねー、私は?」
「トキコちゃんは…純粋の花言葉を持つ『胡蝶蘭』がお似合いですね」
「それって綺麗?」
「はい、とても」
するとトキコちゃんは嬉しそうに笑いました。
本当に純粋そのものって感じの人ですね。
ホウオウグループの人間だという事をつい忘れてしまいます。
「カナちゃんは何?」
「え?」
「花言葉」
「私ですか? うーん…分かりません」
「むう」
「つまんないのー」
「そ、そうですか?」
そう話しているうちに、予鈴が鳴り響きました。
「あ、やっば! 私、次の授業は移動教室なんだよ! そゆ訳だから先行くねっ、ばいばーい!!」
と、ミユカちゃんは慌てて走り去っていきました。
勿論、高速スピードで。
「相変わらず速いねー」
「そうですね…。私達も戻りましょうか」
「うん」
-夕方 ホウオウグループ-
「うーちゃーん」
たまたま用事を思いつき、トキコはウツロの元へ駆け寄る。
トキコの姿を見つけたウツロは怪訝な顔をした。
「…トキコさん? 何の用ですか」
「カナちゃんに何かプレゼントしたらー?」
「…いきなり何を言い出すんですか」
「カナちゃん、きっと喜ぶと思うけどなあ」
「……」
「ねーねー、プレゼントしなよー」
「…まあ、この前の事もありますしね」
「この前?」
「何でもないです。でも何あげればいいんですか?」
「んー…あ、そうだ! お花あげたら?」
「お花?」
「今日ね、カナちゃんがお花好きだって、言ってたんだ~」
「へえ…でも何のお花がいいんですかね」
「そうだねー」
「…何も考えてないんですか」
「私だってそんなに詳しくないもん…」
「…そうですか」
「とりあえず花屋さんに行ってさ、カナちゃんに似合いそうなお花探したら?」
「流血なうですが」
「力入れれば大丈夫だって! 私も一緒に行くから」
「えー…」
不満の声を上げるウツロだが、やっぱり
カナミを喜ばせたいという思いがあるのか、結局トキコと花屋に行く事になった。
-とある花屋-
「いらっしゃいませ」
「わあ、綺麗なお花がいっぱいあるよー」
「確かに、綺麗ですね」
少し見て回ると、店員らしき女性が話しかけてきた。
「お客様、どんなお花をお探しですか?」
「え、えと…」
口籠もるウツロの代わりに、トキコが答えた。
「あのね、この人が好きな女の子にお花あげたいんだけど、どれがいいのか分かんないんだって」
「…別に好きじゃありませんけど」
だが誰もそんな呟きは耳にしなかった。
「それでしたら、花言葉で選んでみてはいかかですか?」
「花言葉…」
「そうしようよ、うーちゃん!」
「じゃあ…それで」
すると店員は営業スマイルで、「分かりました」と答えた。
「お客様は、花言葉に詳しいですか?」
「いえ、別に…」
「それでしたら、プレゼントされる方のイメージを教えて下さい。それに合った花言葉の花をお持ちしますので」
「イメージ……」
―――カナミさんは…とても、心が優しい人。
「…優しい、人です」
「へえ~、うーちゃん、カナミちゃんの事そんな風に見てたんだ~」
「トキコさん、ちょっと黙っててくれません?」
そんな二人のやりとりにくすりと笑いながら、店員は「少しお待ちください」と、奥に入っていった。
「…うーちゃん」
「何です?」
「もし選ぶとしたら、カナミちゃんとホウオウ様、どっち取るの?」
「……そんな事聞いてどうするんです? というか、カナミさん取ったらトキコさん、絶対怒りますよね」
「まあ怒りたいけど~、でもカナミちゃん取らなかったら、それ以上に怒るかも」
「? 何故?」
「納得できないから」
「…どういう事か分かりませんが」
「お待たせしましたー」
店員が色違いの同じ花を、何本か抱えながら奥から戻ってきた。
「この花は『花菖蒲』と言って、優しい心、優美な心という花言葉があるんです」
「色んな色があるんだねー」
「はい。紫や青色の他に、淡紅色や、紅紫色などがありますよ」
「……」
「うーちゃん?」
トキコがウツロの視線を追うと、その先には淡紅色の花菖蒲があった。
「あ、この色が気に入りましたか?」
「カナミさんの髪と…似た色をしてるので」
「あ、そういやそうだねー」
「じゃあこれにしますか?」
「はい」
「分かりました。ラッピングしときますね」
二人は会計を済ませ、綺麗にラッピングされた淡紅色の花菖蒲を手に花屋を出た。
「カナミさん…喜びますかね」
「うん、絶対喜んでくれるよー」
「…そうですか」
と、ウツロは微笑する。
それを見たトキコは。
「あれ? うーちゃん、やっぱりカナミちゃんの事好きなの?」
「…それとこれとは別ですよ」
「何で? 花をプレゼントしようとしてるのに?」
「これはこの前、迷惑かけてしまったので、そのお詫びです」
「ふーん…」
興味を無くしたのか、トキコはそれきり何も言わなくなった。
そんなトキコをよそに、ウツロはトキコに言われた言葉について考えていた。
―――カナミちゃんの事好きなの?
「……」
―――確かにカナミさんは優しくしてくれる。
だからって、あの人を好きになる事なんか無い。
あの人はアースセイバー。
僕はホウオウグループ。
好きには―――なれない。
最終更新:2011年06月07日 00:33