「フォレスト・マジシャンのマジック、とくとご覧あれ!」
いかせのごれ高校近くのとある公園。
ウスワイヤ専属の医師である莉絵に買い物を頼まれた
森山修斗は、
その帰り道に気まぐれでその公園へと立ち寄った。
するとその中で遊んでいた子供たちの中に、かつて祭で自分のマジックを見てくれた子どもがいたのだ。
その子供たちもまたシュウトの存在に気付き、遊びを止めて彼に駆け寄った。
シュウトの中で“エッグ”は卒業したというのに、子どもたちは彼をフォレスト・“エッグ”・マジシャンと
呼んで周りの友達に紹介して、少しだけ複雑な心境になったのはここだけの話。
紹介が終わるや否や新参者の子ども達はシュウトのマジックが見たいとせがんできたので、
彼はその場で即興のマジックショーを行ったのであった。
トランプを使った簡単なマジックから始まり、お得意の縄を使った脱出芸など、
シュウトは小さな観客達を満足させるべく、自分の中にある力の限りを尽くした。
その甲斐あってか、子供たちは片時もマジックから目を離すことなく、
一通りのレパートリーを終えた後に「アンコール!アンコール!」と言って、
彼を困らせたほど好評であった。
マジックショーは夕方頃まで続き、辺りが薄暗くなってしまった頃シュウトは
ショーを止めて、子供たちを家へと帰してあげた。
子供達が公園を出て行ったのを確認すると、シュウトもベンチに置いてあった買い物袋を持って
ウスワイヤに戻ろうとした。すると、彼だけしかいない公園に拍手の音が響いた。
「…ん?」
シュウトが音のしたほうを振り向くと、そこには拍手をする少女が一人。
髪も肌も新雪のように白く、眼はルビーを思わせる鮮やかな赤色、
どこか世俗離れしたような不思議な姿をした、アルビノの少女だ。
彼女はニコニコ笑いながら、彼に話しかけた。
「すごかったですねマジック!」
「そう?ありがとう。」
「あのマジックって、誰かに習ったのですか?」
「いや、あれは全部自分で特訓したんだ。」
「自分一人でですか!?すっごーい!」
少女が眼を輝かせてシュウトを賞賛すると、彼は照れ臭くなり、
思わずシルクハットで目元を隠した。
こうして面と向かって褒められるのはあまり慣れていないからかもしれない。
特にマジックに関しては、最近はアースセイバーとしての仕事の方が多かった為、
実は久しぶりのジックショーであったのだ。
幸い失敗することはなかったのだが、知らずのうちに手が震えていたのはシュウトだけの秘密である。
「あの、いつもここでマジックしているのですか?」
「今日はたまたま。前に祭で会った子たちに偶然出会って、
他の子達がマジック見せてーっていうから即興で。」
「あれで即興……ふうん、良い戦力になりますね。」
少女が一人頷いて、シュウトに向かって言う。
「あの、一緒にサーカスに出ませんか?」
「…サーカス?」
「はいっ!」
サーカス、という単語を聞いてシュウトは首を傾げのだが、
思い当たりのあるサーカス団が頭の中に浮かんだ。
「もしかして、ポリトワルサーカスのことかい?」
「あっ、ご存知でしたか!?嬉しいなぁ!」
まるで自分が褒められたかのように、少女は嬉しそうに笑った。
ポリトワルサーカスとは、いかせのごれ内で活動をしているサーカス団のことだ。
老若男女問わず色々な人達が集っているらしいのだが、噂によれば団員のほとんどが能力者だという。
本来であれば、団員全員をウスワイヤで保護するべきなのだろうが、
能力者以前に彼らは人々を楽しませるパフォーマーであり一般人だ。
“能力者に未来は無い、だから俺らは抹消されるべき存在なんだよ。無論、お前もな”
いつか蒼井聖に言われた、その言葉を不意に思い出してしまった。
人々に笑顔を運ぶ彼らでさえ抹消されるべき存在なのであれば、マジシャンを志していた自分もまた___
「お兄さん?」
「え?」
いつの間にか少女が至近距離でシュウトの顔を覗き込んでいた。
どうやら自分は少し考え込んでしまっていたようだ。
彼はごめん、と謝り、少女に話しかけた。
「話の途中だったね、えぇっと…君はポリトワルサーカスの一員なんだよね?」
「はい!私、サーカスで道化師をやってるセツナって言います!
ちなみにフォレスト・“エッグ”・マジシャンのお兄さんのお名前は?」
「フォレスト・マジシャンね、名前は森山修斗って言うんだ。」
「シュウトさん、ですね!覚えました!
…それで、サーカスに入ってみる気はありませんか?」
セツナと名乗った少女は、自身の赤い眼を爛々と輝かせてシュウトに尋ねた。
願ってもない申し出ではあったが、彼はすぐに返事を出すことは出来なかった。
シュウトは申し訳なさそうにセツナへ言う。
「……ごめん、今すぐには答えられないかな。」
「えぇー!そんなっ」
「でも、考えてはおくよ。」
「うぅー…」
セツナは肩を落とし残念そうな声で、分かりました、と呟いた。
よほどショックだったのだろうか、とシュウトが思えば、少しだけ罪悪感に駆られる。
何か声をかけよた方が良いかと考えていたら、唐突に彼女は肩から下げていたバックを開き、
二枚のチケットを取り出してシュウトへと差し出した。
「…これは?」
「ポリトワルサーカスのチケットです。」
「え、タダで貰っていいの?」
「はい、シュウトさんには是非!私たちのショーを見て考えて欲しいなと思います!
私としては、フォレスト・“エッグ”・マジシャンをあきらめきれませんので!」
「フォレスト・マジシャンね。」
チケットを見ながらシュウトはセツナの言葉を訂正した。
セツナから渡されたチケットには、
『ポリトワルサーカス!土日開催!
開演:昼の部 AM11:00~
夜の部 PM08:00~ 』
という日程と、歪な帽子と真っ白の髪を垂らした不思議な
ピエロの絵が書いてある。
どうやら週末にサーカスは行われているようだ。
セツナが自慢げに喋る。
「そのチケットは指定席なのですが、シュウトさんはと・く・べ・つ・に!
一番見やすい席にしておきました!」
「…あとでお金取ったりしないよね?」
「そんなぼったくりしませんよ。」
あははー、とセツナが笑い、それでは!と何故か敬礼して言った。
「我々『ポリトワルサーカス』は森山修斗さんの来訪を心よりお待ちしております!」
そして最後にスカートの裾を少しだけあげて会釈すると、元気よく立ち去っていったのであった。
フォレスト・マジシャンとポリトワルサーカス
「…サーカス、か。暇があったら、行ってみようかな。」
(そう言ったマジシャンの声は、少しだけ弾んでいた。)
最終更新:2011年06月10日 22:25