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『散り行く絆の花弁』

『散り行く絆の花弁』

某日、夕方。
私はトキコちゃんに、ウツロ君にスト跡地近くの河川敷へ来てもらう様に頼んで、今に至る訳ですが……。
ウツロ君、まだ来てないみたいですね。
待ちましょうか。

「よっこいしょ」

私はスカートの形が崩れない様に座りました。

「苺大福、あげて良かった…」

トキコちゃんからは「凄く美味しいって、喜んでたよ」と聞いたとき、嬉しくなった事は今でも感じます。

「…まだかな」

あの日、屋上で一緒に夕焼け見て、少し話して。
その次は、スト跡地でパニッシャーに襲われた時、助けてくれました。
あまり会わないぶん、会えた時は凄く嬉しい。
逆に離れると、凄く寂しい。
そして気づけばウツロ君の事が好きになっていました。
ウツロ君は寂しがり屋さんで、死にたがりさんです。
でも、私は知っています。
ウツロ君は、優しい人なんだって。
ウスワイアの近くまで送ってくれた日に、まだ歩き始めた時言っていました。
「人を殺すのは嫌だ」と。
「恨まれたり妬まれたりされるのも」とも。
そう言うウツロ君の顔は、とても寂しそうで、辛そうで。
だから私は、ウツロ君の支えになりたかった。
どうしてかは分からないけど、何だか……ウツロ君が昔の私に、似ている気がしましたから。
そんな事を考えていると、ウツロ君がやって来ました。

「遅くなってすいません」
「別にいいですよ。私こそ、急に呼んでごめんなさい」
「いえ、僕もちょうど、言わなきゃいけない事があったので」

言わなきゃいけない事…?
次にウツロ君が言ったその「言わなきゃいけない事」に、私は時間が止まった様に感じました。


「さよなら、しましょう」





……さよ…なら?

「どういう、事、ですか…?」

あまりの胸の痛みに、思わず声が掠れそうになるのを抑える私。

「私…何か、気にさわる事を、しました、か?」
「そうじゃありません」

じゃあ、どうして…

「あなたと僕は、違いすぎる」
「違うだなんて―――」
「あなたを失くしたくないんです!」

ウツロ君が叫びました。
こんなウツロ君は初めてです。

「いつか、よくない事が起こる…あなたを危険に巻き込む。だからお願いです」


「もう僕に会わないで下さい」


「……分かりました」
「カナミさん…」
「確かに、このままだと、いけませんよね」

私は何を言ってるんでしょう。
本当はさよならするなんて、嫌なのに。

「ウツロ君が、私の為にと思って…くれるな…ら、私も…そう…します…から」

段々、声が掠れてくる。
これだと、さよならしたくないのがバレちゃいます。
だから私は無理矢理、笑って。

「短い間、友達になってくれて。ありがとうございました」
「…それは、僕もです」

ウツロ君が笑いました。
もう、この笑顔も見れないんですね。

「あなたといると、幸せな気分になれました」
「…そうですか」
「たくさんの幸せの時間を、ありがとう」
「…私…も、会えて、良か…ったです」

言葉を紡ぐ度に、泣きたい衝動に襲われます。
もう限界―――そう思った私は。

「…さよなら」

逃げる様に走り出しました。
時々振り向きたくなりましたが、今振り向いたら、本当にさよならが出来ません。
ひたすら走って、走って、走り続けました。
胸が、凄く痛みます。
こんなに痛んだのは、『お母さんに友達の手紙を破られた』時以来かもしれません。
そうしているうちに、やがてウスワイアに辿り着きました。

「あ、カナちゃん。おかえ…… !」

たまたまその場にいたミユカちゃんが、俯く私を見て驚いた様に駆け寄ってきました。

「カナちゃん!? どうしたの?」
「…って」
「え?」
「ウツロ、君に…もう、会うなって…」
「な、何でそんな…」
「いつか、よく、ない事…が起こるっ…て…だから、さよ、なら…しようって」

途端に、涙が溢れてきました。

「うわぁあああああんっ!!」
「カナちゃん…」

縋り付いて泣く私を、ミユカちゃんが優しく背中を叩いてくれました。
それでも私から悲しい気持ちは消えません。
泣き疲れるまで、私の涙は枯れませんでした。





「…これで、良かったんだ」

カナミに別れを告げたウツロは、自分に言い聞かせる様に言った。

「あの人は殺されたらいけない……初めて、優しくしてくれた人だから…」

自分の為に笑顔を見せ、時にまるで自分の様に泣いてくれる少女。
いつしか大切に思う様になっていた。
だからこそ、別れを告げた。
もしかしたら、危険な目に逢わせるかもしれない。
最悪、殺されるという事もあり得る。

「…会わなきゃ、良かったかな」

そうでなければ、こんなに胸が痛む事は無い。
目の前が霞むことも。
だが今の死にたがりには、それが正しいかどうか、確かめる術を持たなかった。


死にたがりは 花菖蒲に 別れを告げた

その瞬間(とき) 二人の間にあった絆は

花弁の様に 散った


-その頃-

「しばらくマークしていて、正解でしたね」

ウスワイア付近のビルの屋上にいる、白い髪を持った黒ずくめな男がほくそ笑む。

「最近、あの灰色の生物兵器と、何かしら関係を持っていたようでしたからね…やはり、『あの時』に目覚めさせて良かったですよ」

この『白い闇』と呼ばれる男は、次に幕を開ける舞台の準備に取りかかろうとしていた。
勿論、主役は先程ウスワイアに入って行った、花菖蒲の様な薄紅色の髪の少女。
そして脇役は灰色の生物兵器。
悲恋を遂げ、『心を閉ざした』ヒロイン。
それに深い悲しみに苛まれるであろう、ヒロインの想い人―――というシナリオにするつもりだ。

「ククク…楽しみですねえ」

『白い闇』は一人、これから起こる劇に楽しみを覚えた。

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最終更新:2011年06月10日 23:24