その日、いかせのごれには大雨が降りだしていた。
雨は激しく降り注ぎ、木々を震わせ、川を濁流と化させた。
その濁流の傍らから一つの黒い塊が岸にあがった。
その塊が一歩ずつ足を踏み出す度、浅い水面に一本の赤い線がなぞられる。
その塊、黒い猫は腹部に傷を負っていた。
川から離れ、草むらに辿り着くとどさりと重力に任せて倒れた。
「っ……!」
じくじくと痛みだす腹部を拠点に地面に赤い池が広がる。
「流石に…やべぇよな…」
そうつぶやいた猫は妖怪だった。
2本の尻尾を生やす猫又という妖怪、名前はシキ。
「俺…死ぬのかな」
____1時間前
「ってめぇ!いい加減にしろ!!」
「嫌だね。せっかく人外に会えたんだよ。排除しなきゃ、でしょ?」
目標に先にさけられたナイフは鈍い音を立てて地面に深々と突き刺さる。
シン・シーと名乗る男がシキに向かって投げたものだった。
「僕は正義の味方、皆排除しなくちゃ、ね。」
そう言ってシンは口角を上げて微笑んだ後、シキを執拗に追いかけ、無数のナイフを投げつけた。
……狂ってる。
人外を見分けられるだの、人が大好きだから人外を排除するだの。
ただの戯言にしては狂気じみていた。
それでもシキがすぐに自慢の俊足で逃げなかったのは。
話し合えばきっと分かりあえる。
そう、人間を信じていたからだ。
いや、人間を疑いたくなかったからだった。
その結果が。
______________
濁流に自ら飛び込んだ時、あぁ、俺死ぬかもって思ったが。
まさかこうしてまだ生きられるとはなぁ…いや、もう流石にきついけど、な。
あぁ腹いてぇし、雨が目に入ってしみるし・・心もいてぇ・・・いてぇよ。
俺にはまだ・・。
『もがいて足掻く』
ぽちゃりと水面を描き近づく2本の足にシキは気付く余地もなかった。
最終更新:2011年06月14日 19:21