「おおきにー!」
風月堂の看板娘、咲埜子の明るい声を背に一人の少女がお店から姿を現した。
野原コノカ。彼女はウスワイヤに保護されている能力者の一人だった。
『カナミちゃん…大丈夫かな?これでちょっとでも笑顔になればいいなぁ』
風月堂の名物の苺大福は一口頬張れば笑顔が止まらないという噂をコノカは聞いていた。
そこで少しでも友人、
カナミの笑顔を見たくて、
ウスワイヤのリーダー、
アキヒロに頼み、許可をもらった上で外出してきたのである。
『咲埜子さん優しかったなぁ…ウスワイヤの方だって知ってびっくりしちゃった!
変わった口調していたし…どこの方言なんだろう??
初めて来たお店だけれど、どれも本当に美味しそう!また来たいなぁ…』
彼女は幸せそうに先程買った苺大福を見つめて微笑み、帰路に立とうとした。
が、まっすぐ視線を移した途端その足は止まる。
「あれ?」
それは違和感。
それは簡単な間違い探し。
それはたった一つの、明らかな違いだった。
「な、なに…あれ……!?」
それは巨木。
いかせのごれの街並みに一際目立って緑色の線が縦に走っていた。
距離はここからだいぶ離れては、いる。
だがこうして視界に容易く入る事はその樹の巨大さを物語っていた。
それはまるで幼き頃に絵本で見た「ジャックの豆の木」の挿絵のよう。
空を貫くように巨大な樹が遙か遠くにそびえ立っていたのである。
コノカはしばらくその非現実さに呆然としてしまう。
そうして思い至る。
『能力者っ…誰か、戦っているの…?』
彼女はアースセイバーになったばかりだった。
施設内で訓練は受けてはいたものの、実戦経験は皆無だった。
普通ならばウスワイヤに戻り、応援を呼ぶ必要があった。
だが一瞬、ウスワイヤから外出するカナミの、
ふと見かけた彼女の悲しげな表情が脳裏を横切った途端。
_____
ピシャンと扉を勢いよく開き、中にいた咲埜子に声をかける。
「咲埜子さん!」
「おいでやすー…あら、コノカはん」
「すぐ戻りますので!さっき買ったこの苺大福ちょっと預かってて下さい!!」
「こ、コノカはん?どないしたん!?…あぁもう行ってしもうた…なんなん?」
突然の事に驚いた咲埜子が声を返した時には
すでに彼女、コノカは巨木の元へと走り去った後だった。
『苺大福と焦燥』
「一体、どないしたんよ…??」
最終更新:2011年06月16日 19:05