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『最強の任侠集団、その名は』

『最強の任侠集団、その名は』

とある街中の一角。
そこに、裏から畏れられ、表から敬意の念を抱かれる者達がいた。


「ふあ…」

柔らかな日差しが差し込む和室で、「出雲寺組」組長、出雲寺 愛澄は起床した。
その後すぐ、部屋の壁に掛けられた日めくりカレンダーを見る。

「今日は…祝日ですか。じゃあ学校は休みですね」

立ち上がって布団を片付けた後、就寝用の着物から普段着の着物に着替えた。
そして部屋を出て、大広間へ向かう。
長い廊下を歩き、大広間の襖を開ける。
そこには彼女を慕う、大勢の組員達がいた。

『組長! おはようございます!!』
「ええ、おはよう。皆さん」

笑顔で返す愛澄。

「冴子は…台所ですか?」
「へい! いつも通り張り切ってやすぜ」
「あら、そうですか」

そこへ一人の少年が大広間に入ってくる。
ボサボサにはねたオレンジの髪と、寝ぼけ眼のこげ茶色。
亜澄の護衛を務める、九柳 亜樹斗である。

「亜樹斗! 寝坊してんじゃねーぞ!」
「そうだそうだ、 もう集合の時間は過ぎてるぜ」
「うっせーな。昨日は『始末』で忙しかったんだから、しょうがねえだろ」

亜樹斗の言葉に、愛澄が申し訳なさそうに謝る。

「申し訳ございません、亜樹斗…」
「!」
亜樹斗はそっぽ向いた。
だが口から出た言葉は―――。

「べ、別に…お前の命令なら何でも聞くからな!」
「頼りにしています。私の護衛」
「あ…ああ」

愛澄の笑顔に、亜樹斗の頬が赤くなる。
それを見た組員達は冷やかし始めた。

「相変わらずベタ惚れだなぁ~」
「よっ、色男!」
「ち、ちげぇよ! 別にそんな訳じゃあ…」
「だったら何で照れてんだよ?」
「ぁぁあああ! うるせぇうるせぇうるせぇえええっ!!!」

羞恥に耐えかねた亜樹斗は、逃げる様に大広間から去った。
それを愛澄は不思議そうに見つめた。

「? 亜樹斗、どうかしましたか?」
「姐御は知らなくてもいいですぜ」
「言うより気付いた方がいいからなあ」
「…?」

にやける面々の中、愛澄は唯一人、不思議な表情のままだった。





「朝ごはん出来たよー」
『ぉぉおおお!!! 待ってましたぁ!』
「ちょーっと待ったあ!」
『へ?』
「あたしには分かるよ…ユウマ!」
「な、何だよ」
「顔洗ってないでしょ! 洗い終わるまで朝食はお預けだからね!」
「そ、そりゃないだろ。お預けなんt」
「さあっさと洗いに行けー!!」
「は、はいーっ!」

冴子の怒号に畏れを成した組員ユウマは、洗面所へと一直線に向かった。
朝食の為に30秒ほどで終わらせたのは言うまでもない。

「揃ったようですね」
「早く食おうぜー」
「亜樹斗、急かしてはいけませんよ」
「亜寺さん、俺腹減ったー」
「待ちなさい」
「うぐ…」
「ふふ…では」


『いただきます!!!』


「今日の味噌汁…赤味噌ですか」
「あ、亜寺さん分かる?」
「ええ」
「酒屋さんがおまけしてくれたの」
「おーい冴子ー! 飯のおかわりくれ!」
「はいはーい!」
「冴子~、酒を出してk」
「無理」
「……バカか」

にぎやかな朝食の時間は、あっという間に終わった。
その後、冴子は数人の組員達と共に片付けを始めた。

「冴子、この茶碗はどこに?」
「その茶碗は一番左の棚の、上から2番目」
「この皿は?」
「それは右から2番目の棚の一番上」

テキパキと指示をする冴子を見て、愛澄と亜寺は目を細める。

「相変わらずよく働いてくれますね、冴子は」
「あれで元令嬢とは思えませんな」
「あら、義仁。知らないのですか?」
「?」
「あの子、今も昔もあんな感じだったんですよ?」
「…本当ですか?」
「ええ。よく見てましたから」
「ああ、そういえばあなたと冴子は親戚同士でしたね」
「はい…あの人たちも優しかったですね…」

遠い目で言う愛澄。
冴子の家族は、遺産に目が眩んだ使用人に全員殺されてしまった事を、彼女は知っていた。
すると亜寺が愛澄を励ますように言った。

「でも、あの子は一人じゃありませんよ」
「…そうですね」
「さ、私達も仕事をしなくては」
「ええ、今日も働きまくりますよ」
「はは。流石我らが組長」


「えーと、今残ってる『仕事』は…不正かつ横暴な借金の取り立てをするヤクザ集団の始末、暴走族の確保及び注意……義仁、他は?」
「今ので全部です」
「では暴走族の方は、ユウマ達に任せても大丈夫ですよね?」
「はい、ユウマなら上手く事を運べるでしょう」
「じゃあ、私達はヤクザ集団の遊び相手、ですか」
「遊び相手って…」
「たまには、極道らしく言ってみてもいいと思いますが?」
「…あなたには叶いませんよ、二代目組長に就任なされた時から」
「ふふっ、では皆を呼んでまいりましょう」
「はい」

ガラッ

「おお!姐御!!」
「『仕事』ですかい?」
「ええ、今から外道達の所へ出入りに行きます」
『おおおおおお!!!』

愛澄の一言で、組員達が沸いた。
出入り用の着物に着替え、艶のある長い黒髪を結った愛澄は、組員達の先頭に立って言う。


「さあ、行くよお前達…外道共を成敗しに」





「おい、あいつの借金の返済はどうなってる?」
「へへっ、アニキ。上手い事行きましたぜ」
「利子分の300万、がっぽり頂いてきやした」
「そうか」

某所。
ヤクザの様な風袋の男達が、リーダー格の男と話をしていた。
内容は借金の取り立て―――しかも不正な。

「さっさと返せば、家を売らずに済んだのによ」
「そうっすよねぇ」
『ぎゃはははははははっ!』

男達が笑うその時―――。


ドゴォオッ!!

「な、何だ!?」
「誰だ!」

突然響いた音に驚愕したヤクザ達は、音の方に視線を向ける。
そこには愛澄達、出雲寺組の面々がいた。

「何だテメェら!」
「ここをどこだって思ってやがんだ!! ああ!?」
「分かってるつもりでここに来たんだよ」
「んだと!?」

先頭に立っていた愛澄が一歩踏み出す。

「あ? 何だァ、ガキ」
「不当な利子をつけ、暴挙による返済の催促をする……」
「それが何だ? 返さねぇ奴が悪いんだろうが」
「貴方達の汚いやり方…まさに外道かつ非道! 出雲寺組の名において、貴方達を成敗します!!」

愛澄の言葉で、ヤクザ達が震え上がった。

「い、出雲寺組だとぉ!?」
「観念してよね! あ、でも今謝るなら、痛めつけたりしないから」
「冴子…甘い事言うな。それに」
「コイツらにはそんな事出来ませんよ」
「…お前ら! 返り討ちにしてやれぇ!!」
『うぉおおおお!!!』

両者の抗争が始まった。
一瞬にして銃声や刃がぶつかり合う音が響く。

「死ねぇええっ!」

三十人ほどのヤクザが亜寺に攻撃を仕掛けた。
が。

「おやおや、数だけで勝てるとでも?」

亜寺の両手にはそれぞれ一つの銃。
彼は銃を撃ち始める。

「ハッ! 銃2つでやれるって言うんじゃないだろうな!」
「確かに『2つだけ』ではキツいですね」
「何?」
「…ここからが本領発揮ですよ」

そう言って、亜寺は持っていた2つの銃を上に投げ、腰のホルスターから別の2つの銃を取り出す。

「!?」

亜寺の行動に驚くヤクザ達。
その隙を突いて、亜寺は銃弾を放つ。

「ぐあっ!」
「まだまだ!」
「な…っ!」

ヤクザ達は次にとった亜寺の行動に更に驚く。
何と、かなりの速さで持っていた銃を上に投げた後、先ほど手放した銃を取ったのだ。
そしてその銃でヤクザ達を撃つ。
何発か撃った後、また銃を投げ、空中にある銃を取ってそれで撃つ。
彼はこれを―――「四丁拳銃同時撃ち」と呼ばれる技を繰り返しているのだ。

「何て技を使いやがる…!」
「おやおや、そんな事言ってる場合ではありませんよ? 周りを見なさい」
「…なっ!」

ヤクザは言われたまま周りを見て、自分におかれた状況を理解した。
いや、してしまった。
撃たれてないのは自分、只一人。
それ以外は全員、亜寺の銃弾を受けていた。

「や、やめてくれぇ…」
「お断りですね…まあ、死なない程度には撃ってやりますが」
「ひぃいいいっ!!」





「よう、お嬢ちゃ~ん」
「俺達に痛い目に遭わされたくなかったら、逃げてもいいぜぇ~?」

一方、冴子は2人のヤクザと対峙していた。
だが彼女の表情は、明るいままだ。

「やだ」
「ふ~ん、そうかい…じゃあ殺してやるよ!」

ヤクザ二人が冴子に銃を向ける。
だがそんな状況になっても、冴子の表情は変わらなかった。
寧ろ、余裕さも出始めている。

「あれあれ? 『その銃、弾切れ』じゃないの?」
「はあ? そんな訳ねーだろうが! クソガキィ!」
「死ねぇ!」

二人は銃の引き金を引いた。
が。

「あ、あれ?」
「何でだ!? 弾が出ねぇ!!」
「むっふっふ~。当たり前じゃん、あたしがそう言ったもん」
「ど、どういう事だ!」
「あたしが言う『嘘』はね~、みーんな『本当』の事になるんだよー!」
「何!?」
「そ、そんなのデタラメだ!」
「じゃあその証拠に何か言ってみるね! じゃあねぇ…」
「!? ま、待てやめ―――」
「『上からバケツが落ちてくる』!」

その途端。

「「ウェ!?」」
「ほらね」

冴子の言う通り、上からバケツが落ちて来た。
しかもヤクザの頭をすっぽりと覆って。

「じゃあ、最後は『本当』を『嘘』にするよ! えっとねー…」
「「やめろぉおおお!!」」
「『おじさん達の足は、骨折してない』!」

ゴキィッ!

「「うぎゃああああ!!!」」
「あらら、ホントに骨折しちゃったー。終わったら病院に行った方がいいねー」


「アニキ、押されてますぜ! このままじゃあ…」
「怯むんじゃねーよ。こういう時はな、頭を狙うんだよ」
「という事は…」
「あの女組長をぶっ潰せ!」
『おおう!!』

リーダー格の男の言葉に、ヤクザ達は愛澄を取り囲む。

「全く、私も嘗められたものですね」
「随分と余裕だなァ」
「余裕ですか…まあ、そうかもしれませんね」

愛澄が目を閉じ、右手をかざす。

「私は、『心の強さ』なら誰にも負けない自信がありますから」





愛澄の目が開く。
彼女の瞳は、赤から空色へと変わっていた。
そして、髪にも変化が起こり始める。

「この瞳と髪の色。そしてこの『武器』こそ、私の心の強さの証…覚悟しなさい!」

愛澄の髪の色が、黒から雪色へと変わっていた。
そして右手には、髪と同じ色の、光の様な薙刀が握られていた。

「はぁあっ!」

薙刀を振り回し、愛澄はヤクザ達を次々と薙いでいった。
その姿はまるで天女の様だ。

「つぇえ…」
「伊達に組長をやってる訳ではありませんので」
「くそっ!」
「組長、こちらは終わりました」
「あたしもー!」

次々と上がる組員達の勝利の声。
それを聞いたリーダー格の男は逃げ出そうとする。
が。

「逃がさねーぞ」
「なっ!」

突如現れた亜樹斗に、逃走を阻まれた。

「亜樹斗、貴方も?」
「ああ、終わったぜ」
「流石、私の護衛」
「べっ、別にそんな事な―――」

刹那。

ドカッ

「うお!?」
「きゃあ!」

リーダー格の男は亜樹斗を突き飛ばし、愛澄を捕らえる。
全て、一瞬だった。

「あ、愛姐さん!」
「貴様…組長を離せ!」
「だったら、武器を降ろしな」
「何ッ!」
「ほ~ら、早く降ろさねえと、組長さんの顔に傷がつくぜえ?」

と、リーダーの男がズボンのポケットからナイフを取り出す。

「く…ッ!」
「早く降ろせよぉ~」

ナイフの刃が愛澄の顔に近づいてくる。
その時―――。


「俺の組長に傷つけんな、外道」
「!?」

突如として、リーダー格の男の目の前に亜樹斗が現れた。
男は気付いたと同時に、亜樹斗の金属棒を頭に受けて吹っ飛ばされた。

「てめ…いつの間に」
「愛澄を狙った時点で、お前らは負けてんだよ」
「何だと?」
「本当に出雲寺組を壊したければ、『俺を殺すべき』だったんだ。俺がいる限り、愛澄はぜってー死なねーんだよ!」
「…ねー、亜樹斗。いいところで悪いけどさー」
「何だよ冴子」
「さっきさ、『俺の組長』って言ってたよね。正確には『俺らの組長』の方が、正しいと思うんだけど」
「!!」

亜樹斗は先ほど言ってしまった言葉を思い出し、一気に赤面する。

「おま、冴子! 余計な事を言う―――」
「亜樹斗! 後ろ!」
「え?」

ゴッ!

「ぐおっ!」
「亜樹斗!」

起き上がっていたリーダーの男が、油断していた亜樹斗の背中を蹴りつけた。
男は倒れた亜樹斗の頭を踏みつけながら言う。

「油断したな…自分の事には無頓着ってか?」
「ぐ…っ」
「見上げた忠誠心だな。呆れちまうぜ、忠犬風情が」
「うる…せぇ…」
「ハッ、だったら死ね!」

男が亜樹斗の頭に拳銃を突きだす。
と、その時。





「…どこまでも腐った奴だねえ」
「あ?」

愛澄の怒りを秘めた、凛とした声が響く。

「そいつはな、私の大事な組のモンだ。強い忠誠を誓い、見を挺して私を守ってくれる仲間なんだよ」
「だから何だってんだ?」
「…そいつを踏み躙る様な言葉を吐くんじゃないよ!!!」

愛澄の怒りが爆発した途端、愛澄に再び変化が起こった。
雪色の髪が金色に。
空色の瞳が緋色になっていく。
そして―――薙刀は黄金の光を放っていた。

「!?」
「私は出雲寺 愛澄! 出雲寺組二代目組長にして、出雲寺 大地の娘だ!」

薙刀を構える愛澄。
薙刀の光が強まっていく。

「ま、ま、待て! 悪かった、許してくれ!」
「出来ないね。仲間に手ェ出した外道は、地獄の果てに行きな!!!」
「ぎゃああぁぁぁぁああっ!!!」


その後、愛澄は警察に連絡した。
程なくして、パトカーが集まってくる。

「いやいや、すまねぇな。また手間をかけさせてちまって」
「いいですよ、キトシさん。これも私達の『仕事』ですから」
「ははっ、そりゃどうも。しかし…えらい派手にやったなあ。あの男だけ」

と、キトシが視線を向けると、そこには大怪我に加え、気絶しているリーダーの男がいた。

「愛姐さん、ちょっとやり過ぎな気が…」
「…私も同じく」
「同感」
「あ、あはははは…」

苦笑いする愛澄。
だが、亜樹斗は仏頂面を解いて言った。

「ま、本当は嬉しかったけどな…ありがとよ、愛澄」
「亜樹斗…」


「はい!」
「!!!!!」

愛澄の笑顔に、またしても亜樹斗は赤面した。
それを見た三人は。

「いや~、いつ見ても面白いもんだな~」
「キトシさん、亜樹斗に悪いですよ」
「そういう亜寺さんだって、顔ニヤけてるよ~」
「お・ま・え・ら~~~っ!!!」

亜樹斗の怒号が響く中。
愛澄は唯一人、不思議な表情だった。


とある街中の一角。
そこに、裏から畏れられ、表から敬意の念を抱かれる者達がいた。

その内の一人の青年は無限の如くの銃弾を使い

一人の小さな少女は真実と嘘を巧みに操り

一人の少年は主の忠実な番犬として動いていた。

そして彼らの頭領となる少女は、強く、麗しく、優しい組長であった。

その組長が束ねる、義理と人情と正義の最強の任侠集団―――その名は。



「出雲寺組」

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最終更新:2011年07月01日 22:08