「…主、久しぶりに
タクミさんに会いに行ってきます…;」
キリからその提案があげられたのは、突然のことだった。
春美は本から顔をあげる。
「え?うん、いいけど…どうしたの?」
「それが…;」
キリが自らの武器である鋏を取り出す。
しかし、その鋏は留め具が割れ、二つに分かれていた。
「ど、どうしたのそれ!」
「訓練中に壊れてしまいまして…。留め具が割れたので自分では修理できないので、
武器工場にと。」
「成程ね。わかった。きをつけてね。それこそ最近
シン・シーが動いてるんだから。」
「了解したのでありマス。」
キリは片手をあげると、そのまま姿を消した。
「…うん、この位なら30分もあれば修理できるよ。」
「毎度毎度申し訳ないのでありマス;」
「いいんだよ。こっちも仕事だし。」
タクミは笑いながら鋏を受け取った。
「待ってる間、暇だろう?工場、自由に回ってていいよ。キリ君も重火器に興味あったろうし。」
「いえ、迷惑をかけるわけにはいかないので、工場の周りをまわっておくのでありマス。」
工場の周り、といってもさほど風景は変わっていないのでキリにとっては見慣れた風景であった。
少し前まで自らの武器の整備にたびたび訪れていたからだ。
「…まぁ、変わらず平和なのが一番でありマスから…。」
独り言を呟いたその時だった。
「いやいや、平和を守るには変化も必要だよ。」
後ろから声。反射的に振り返った。
シン・シーか?
いや、黒い眼隠しとマントを纏ったその姿は彼に似ているが、明らかに小柄である。
深く被った帽子からは、色の薄い髪がはみ出す。
彼は少し間を置きながら尋ねた。
「…『お譲さん』、どちらさまでありマスか…?」
「僕?僕は『正義の味方(ボク)』だよ。そうだなぁ…。『パニ・シー』とでも名乗ろうかな。」
姿こそ確かにシン・シーとは別人だ。
しかし、眼の前の「少女」もまた、彼と同じ空気を漂わせているのだ。
まさか、彼に味方がいたのか?
「…それで、小生に何用で…。」
「うん。一つ、お願いを聞いてほしいだけだよ。」
笑いながら、彼女は近づく。
間を保つように後ずさるキリに向けて、彼女は一言発した。
「死んでくれよ。」
間髪いれずに飛ばされたナイフをかわし、キリは更に間を広げた。
背に手を回し、鋏を取り上げようとする。
しかし。
「!」
そうだった、鋏は今故障中で、タクミにあずけているのだ。
「武器がないんでしょ?分かってるよ。そこを狙って僕は来たんだから。」
パニがにやりと笑った。
まずいことになった。
普段使ってる武器が手元にないだけでかなりの負担になる。
そこを狙って襲われた。勝ち目がないとは言わないが、明らかに不利だ。
「何にも考えてないわけないだろう?ってことで、おとなしく死んで。」
再びナイフが襲いかかって来た。
かわしながらも時折おちたナイフを拾い上げて反撃する。
が、彼女もかなりのやり手らしい。簡単にかわしていく。
「妖怪って聞いて警戒したけど、その必要もないみたいだね。」
地を蹴り、眼の前に急激に迫って来た。
半ば反射的にナイフを取り押さえる。
重なり合う刃が押し合い、耳に痛い音が響く。
パニは笑顔を崩さず、こちらを目隠し越しに見ていた。
「焦ってるよね。今、かなり焦ってるよね、みたいな。」
「…;」
「その焦りが命取りだって分かってて、焦ってるんだよね。」
隠し持ったナイフが横から襲いかかる。
かわしたおかげで深手にはならなかったが、首に細く筋が入った。
赤黒い液体が少しずつあふれ出す。
「…よくよく見たら君、細くて弱そうだよね。『シン・シー(ボク)』が何で恐れたのか、分かりもしないや。」
「く…、やはり、奴と…。」
「君が知る必要無いよ?それじゃ…。」
パニは逆手にナイフを持つと、大きく振りあげた。
「さよなら、的な。」
ナイフには縁遠い、大きな破裂音が響いた。
何が起こったか全く分からない彼女は、振りあげた腕を見た。
ナイフは消え、掌は赤く染まっていた。
同時に気付く。脇腹が大きく抉れていることに。
武器を持たない筈のキリが、片手でそこに散弾銃の銃口を向けていたことに。
「な…何、これ…っ。」
咳と共に血を吐き、膝をついて倒れ込んだ。
キリは散弾銃を下ろすと、直ぐに持ち合わせの包帯を患部に巻きだした。
「…やはり緊急とはいえ、重火器は使うものではないのでありマスな。」
「…はは、そういうことか…。」
静かに笑いながら、パニは言った。
「君、鋏使わない方が強いんだね。初めて知ったよ…。」
「…。」
「感動したついでに、いいこと、教えてあげようか。」
「今すぐに帰った方がいいよ。君たちの「主」が今、『シン・シー』に襲われている。」
「!!??」
「ま、早い話、僕は君と主を引き離すための時間稼ぎさ。さぁ、いそぎなよ。」
「…。」
彼女の言うことは一重には信じられなかったが、妖怪の主で有る以上、春美も危ないのだろう。
直ぐに戻ろうと、キリは立ち上がった。
「タクミさん!小生は帰ります!彼女をお願いします!」
「えっ?…わ!どうしたんだい、この子!」
「説明は今度!それでは!」
パニを預け、キリは走り出そうとした。その時。
「キリ!忘れ物だぞ!」
バレッタの声。同時に何かが風を切る音が聞こえた。
振り向きざまに受け取ったそれは、すっかり元に戻り刃先を綺麗に研がれた鋏だった。
「ギリギリまにあった!早く行け!」
「ありがとう!感謝するのでありマス!!」
彼は鋏を背負うと、来た道を走って戻りだした。
『正義の味方』に誘われ
彼は来た道を戻りだす
一方その頃「紫」の少女は
『正義の味方』と遭遇していた――
最終更新:2011年07月08日 20:33