週末。ポリトワルサーカスはいつも通り大勢の観客でにぎわっている。
その騒がしい集団から数メートル間を置き、電柱の陰に隠れる一人の少年がいた。
白と赤の髪。黄色い服。どれも隠れるのには適していないが、そんなことお構いなしのようだ。
彼は人に気付かれないようにそっと、にぎわうテントを眺めていた。
「…面白いの、かなぁ…?」
彼は小さく呟く。
サーカスで短い「人生」の大半を過ごした彼は、ポリトワルサーカスに興味を持っていた。
しかし、それと同時に彼は「恐怖」を持っていた。
夕刻。ショーを終えたテントから、人々が吐き出されていった。
その人もまばらになった頃を見計らい、彼はそっとテントに近づいた。
入口の僅かな隙間を覗くと、ショーの片づけだろうか。少し騒がしかった。
色鮮やかな衣装に身を包んだ人たちがからかい合い、笑っている。
とても楽しそう。純粋にそう思った。
思わずテントの入口をつかむ。
しかし。
「…っ!?」
入口に触れた瞬間。
フラッシュバックするように、彼の頭の中を「過去」が駆け巡った。
直ぐに入口から手を離し、手首をつかむ。
震えが止まらないその手を、彼はただ茫然と見つめる。
その時。
「ん?どうしたのかなぁ、君?」
不意に肩をたたかれた。
彼は飛び上がらんばかりに驚き、振り返った。
帽子と前髪で隠れた顔。左右不対象のスーツ。
一見滑稽に見えるその姿も、今の彼には恐ろしく見えたらしい。
「い…あ、その…ごめんなさいっ!!」
彼はそれだけ叫び、逃げるように走って立ち去ってしまった。
「あ、ちょっとー!;」
「うーん?どうしたんですかぁ、団長?」
「いやぁ、ちょっと今テントに面白い子が来ててね。サーカスに誘おうと思ったんだけど、逃げられちゃった。」
「やっぱりその格好、怖いんじゃないですかぁ?」
「失礼なっ!;」
「はぁっ、はぁっ…!」
勢い余って寺まで戻ってきてしまった。
肩で息をしながら、膝に手をつく。
焦点のあわない瞳孔は開ききっていた。
折角声をかけてくれた人に申し訳ないとは思ったが、それどころではなかった。
「…はぁ…。何回同じこと繰り返してるんだろう、俺…。」
そういいながら、門の柱に寄りかかって座り込んだ。
「主からも「向こうが許可したら入っていいよ」って言われてるのに…。」
「人生」の大半をサーカスで過ごした少年。
しかし、それは決していい記憶ではない。
彼は、「剣奴」として、サーカスに閉じ込められ、見せもので殺されたのだから…。
最終更新:2011年07月08日 20:41