リュウザは少年兵として身を売られた少年だった。
親の顔は既に覚えていない。
中東のとある犯罪組織に二束三文で売られた直後、大国の爆撃によって容易く吹っ飛んでしまったらしい。
しかし、それを不幸に思ったことは無い。
犯罪組織は反政府のテロリストでもあった。
そこでは21番と言うコードネームを与えられ、少年兵として育てられた。
政府による執拗な攻撃の中で、生き残るために必死だった。
殺す事や奪うことは日常。
やがて、どんな取り決めがあったかは知らないが、ある中国系マフィアに引き取られた。
マフィアでの暮らしはそこそこ豊かで、人間らしい教養を身に付けたのもそこでのことだった。
だが、ある日突然運命のいたずらの様なものが起きた。
抗争が起き、敵マフィアがボスを車ごと襲撃したのである。
しかも、アンチマテリアルライフルという対戦車ライフルを利用して、だ。
その時ボスの隣にいた彼は特殊な感覚に陥った。アクション映画の様な、スローモーションの感覚に。
視界が薄く青に染まり、真正面の大男から放たれた巨大な弾丸が迫ってくることを認出来る程、スローモーションになった。
此処まで彼が集中したのは初めてだったかもしれない。
そして、強烈な殺気を感じたのも。
そういった環境が整って。
彼の能力、スローモーションは発現した。
スローモーションのおかげで、ライフルの弾丸を拳銃で撃ち落とす事は出来た。
しかし、運転手がパニックを起こし突っ込んだガソリンスタンドは爆発し、
ボスもろとも吹き飛んで彼だけが生き残った。
色々あったが、最後に売られた先は日本のヤクザだった。
鎖でつながれ、家畜のように檻の中に入れられていたが・・・そんな彼に救いの手が差し伸べられた。
コトハは生まれた時から勝ち組だった。
親は人財産を築き、生まれた時からコトハに帝王学を学ばせるほどだった。
そしてその教育は、典型的なお嬢様を、しかもとびきりの高慢なお嬢様を創り出した。
ここまではよくある話だ。
しかしここからが良く無い話だ。
資産を狙った強盗に一家で襲われたのである。
父親は拷問をされ、母親は強姦された上に体を縦に切り裂かれた。
抵抗しようとした兄は眉間に穴を開けあっさりと絶命した。
コトハと弟は拉致され、家畜闘技場に送られた。
まずコトハが磔にされ、弟に鋸が渡された。
「四肢を切り落とせ。」
男にそう言われ、弟は喚いて泣きじゃくり、結局コトハの四肢を切ることはできなかった。
今度は逆に弟が磔にされ、コトハに鋸を渡され、同じことを言われた。
コトハにはこの先がなんとなくわかった。ここでやらなければ、コトハ達はここで殺される。
観客席はマジックミラーに覆われ見えないようになっていた。
誰もいない様な錯覚に陥りそうになるが、確かに醜悪な欲望や悪意が渦巻き、そういった視線も感じた。
コトハは弟の四肢を切り落とした。
落とした瞬間、男がやってくる。同時、マジックミラーに多くの文字が浮かび上がった。
「被害用の同年代の子と戦争、もしくは死合いをしてほしい」
「弟をレイプしながら内臓を食べてくれたら興奮する」
「体中の穴と言う穴にいろんなモノをブチ込んでほしい」
観客の注文リストだった。男は言う。
「おめでとう。君は今日からこの闘技場のスターだ。」
結局、大体の要望はやらされる事となった。
ある時、格闘技を習わされた。「その方が客が興奮するから」と言われた。
そして、闘技場で死合いを重ねた。欲望の捌け口にもされた。
拉致されてから何年の月日が経ったのか。コトハはいつの間にか、家畜闘技場でトップアイドルとなっていた。
今日も人を殺すのか。そんな事を考えながら家畜闘技場の真ん中に立った、彼女に救いの手が差し伸べられた。
ショウゴとミナが幼いころにはよく一緒に遊んでいた。
一緒に街を駆け回り、一緒に親父に怒られたりもした。
そして、ヤクザの世界の事も学んだ。
親父は厳格で不器用だったが、ミナは気が強いクセに優しかった。
ミナとショウゴが敵対するマフィアに連れて行かれそうになった時も、
ミナはカッターを構え瀕死のショウゴを必死で庇ったし、
親父はおっとり刀で駆け付けマフィアを叩き斬って助けた。
ショウゴは妾の子で家は離れていたし、周りには秘密にされていたが、
強い絆で結ばれていた。
ある時、家畜闘技場の話とそれを運営する組の話を聞いて、潰す話が出た。
最高顧問の叔父は渋ったが、親父がごり押ししたのである。
情報が漏れ、参加の組の一つが襲撃されたため、部下に裏切り者がいる可能性があると
踏んだ総長は自ら信頼できる者を連れて攻撃を仕掛けた。
その時はショウゴもミナも一緒に攻め込んでいた。
まずは家畜闘技場の真上に立つ敵本拠地を攻め、血の海にした。
ショウゴとミナが索敵した部屋には檻があり、銀髪浅黒の肌をした少年を始めとした、
人身売買の犠牲者を見つけると全員を解放した。
リュウザ、と名乗る少年が「闘いたい」と言い、
ショウゴはその真っ直ぐな目に応え自分のアサルトライフルを貸した。
リュウザを連れたショウゴとミナが総長達と合流すると、今度は地下の家畜闘技場へ向かう。
更に反撃が強くなったが、ミナがグレネード弾をぶっ放すと敵もおとなしくなった。
闘技場の中に入ると、マジックミラーに覆われた観客席に向け一斉掃射した。
すでに腐った観客は避難済みである。現れるであろう敵を警戒したが、
家畜闘技場の被害者の女の子を自由にする方が早かった。
脱出するために走る通路でいきなり現れた敵へ、助けたばかりの女の子が肉薄する。
まるで次の攻撃が見えているかのように敵の攻撃を避けると、
「なんか見えるわ。赤い線…殺気かしら?」
と、首をへし折りながら呟いた。
外へ出ると敵のボスを乗せたヘリが飛び立とうとしているところだった。威嚇射撃に怯み、
手の出せないショウゴ達だったが、リュウザが飛び出し弾丸をかわしながらグレネード弾を撃ち込んだ。
後で聞いたことだったが、リュウザにはスローモーションで戦闘が行える特技があったのだ。
ヘリが爆発し、敵の組のボスは跡形も残らなかった。
リュウザも、コトハも、ショウゴも、皆過去の事を思い出していた。
時計を見るショウゴ。
「・・・。」
三人は制服を着て、車から降りた。歩いて
出雲寺組に向かう。既に道は封鎖済み、突撃・陽動組も待機完了。
ショウゴの腰にはいつものモデルガン二丁と、ドスが見えないように差されている。
コトハも拳銃を二丁。スカートの中にナイフを何本か仕込んでいる。
リュウザは腰に拳銃を一丁、サブバックにサブマシンガンを一丁。
「演技は頼むぞ、二人共。・・・こうなった以上、頭抑えてとっとと終わらすしかねぇからな。」
「分かってるよ、ショウゴさん。」
「勿論理解してるわ。」
三人は、出雲寺組の門の前に立つ。
抗争が、始まる。
ショウゴの望まぬ、抗争が。
最終更新:2011年07月08日 20:44