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臆病と先輩

 苦しいし寂しい

 ホントは手を伸ばしたくなるほど誰かに叫びたい

 助けて貰いたい

 大丈夫だって言って貰いたい

 でも、大切な人に迷惑をかけたくないから

 ボクの針はその思いをおおげさに汲んで

 誰も彼も傷付ける

 ・・・これは、ボクの罪だから仕方が無いんだ

 死んでからずっとそう思ってた




 そんなボクの元にも、ヒーローが訪れたんだ





 その日、ボクはいつものように同級生に絡まれて、いかせのごれ高校近くにある
コンビニに行き、万引きをしてこいと強要された。当然断れるはずもなく、
ボクは苦しい気持ちを抱えたままコンビニに行き、お菓子棚に陳列されている
チョコレートを盗もうとした。幸い、レジの店員さんは居眠りをしていてこっちを見ていない。
ボクはそれを鞄の中に入れようと…した。
 すると突然、ボクの腕が捕まれ、それは阻止されてしまったのだ。

「!?」

 腕を掴んだのはボクより背の高い、男の人。
彼は低い声で、ボクを睨みながら言った。

「何してるんだ?」
「あ、…う…」

 怖かった、怖くて声が出なかった。
万引きするところを見られたからとかじゃなくて、その人が持つ異様な雰囲気に
恐怖を抱いた。制服を着ているところからみれば同じ学生だと分かるのに、
こちらを見る目はまるで違う。次に殺されてしまうのではないかと、そんなことを
思ったぐらい鋭くて、強くて、とにかく怖かった。
どうしよう、どうしたらいいんだろう・・・!?
しばらく声を出さないで固まっていたら、不意に男の人が手を離して、代わりにボクが
持っていたチョコレートを取り上げ、それを持ったままレジへと歩いていった。

「すいません、これお願いします。」
「ん?あぁ、はい…」

 彼はレジの店員さんに、ボクが盗もうとしたチョコレートと、もう一つ
手に持っていたペットボトルを会計して貰っていた。
ボクは逃げ出そうともせずにその様子を、ただ呆然と眺めているだけだった。

「ありがとうございましたー」
「行くぞ。」

 男の人は一度振り向いて、ボクにそう言ってからコンビニを出て行った。

「え、あ、はっ、はい!」

 反射的にボクは答えてしまったけど…大丈夫、なのかな…
そんな不安を抱えながら、ボクは彼の背中を追うようにコンビニを後にした。
その後、あのうたた寝をしていた店員さんが別の眼鏡をかけた店員さんに
こっぴどく叱られたのはここだけの話。



 ***



 歩きながら、彼は自己紹介をしてくれた。
彼は「汰狩省吾」という人で、いかせのごれ高校三年生の先輩だった。
柔道部の主将をしているらしい。
ボクもボクなりに自己紹介をしたけど、それっきりで後は黙ってしまった。
人見知りが激しいわけじゃないけど、常日頃から「恐怖」を抱くボクにとって、
初対面の人にすぐ心を開くのは、とても難しいことだったから。





「………」
「………」

 コンビニから少し離れた公園に着いて、ボクは先輩と一緒にベンチへと座った。
隣に座るタガリ先輩は、袋からペットボトルとチョコレートを出す。
ボクが盗もうとしたのは、長方形の板チョコ。昔はカイくんとはんぶんこにして、
下校途中とかよく食べてたかな。最近、彼女たちはそれを知ってるのか知らないのか、
よくボクにそれを盗ませようとする。思い出のお菓子だったのに、なんだか悲しい。
複雑な思いでそれを見つめていたら、タガリ先輩は板チョコをボクに手渡してきた。
ボクは眼を丸くして、それと先輩の顔を交互に見つめて呟いた。

「…え?」
「食べたかったんだろ?これ。」
「え、で、でも…」
「いいって、もう買ったんだから好きなだけ食えよ。」
「…違うんです、これは、その…」
「分かってる。同じクラスの奴に盗れって頼まれたんだろ?」
「!なんで知って、るんですか…!?」

 一気に血の気が失せた気がした。なんで初対面の先輩がそんなことを知ってるんだ?
もしかして、今までのことも…!?
ボクの心の中を見透かしたように、先輩は言った。

「見たのは、今回が初めてだ。まさか現行犯で捕まえられるだなんて思ってなかったし…
何より、女の子がやってたとはな。」
「あ、……そ、それは・・・!」
「大丈夫、警察に突き出さねーよ。安心しろ。」
「………」

 どうして、なんて聞けなかった。
だってそう言った先輩の眼は、先ほどと打って変わってとても優しかったから。
・・・この人は、ボクが悪くないって分かってるんだ。

「…っぐす…」
「お、おいおい…大丈夫か?」
「へ、平気…です…うう…」

 泣き虫なボクの背中を、先輩は苦笑しながら優しく撫でてくれた。
こうやって誰かに優しくして貰ったのは、カイくん以外の人は先輩が初めてだった。
学校じゃボクは格好のいじめの的だし、それに関わろうとする人はほとんどいない。
だから、・・・嬉しかった。

「まぁ、なんだ・・・また同じ事言われても、もう二度とするんじゃないぞ。」
「・・・っぐす・・・でも・・・」

 彼女達はそれを許さないかもしれない、と言う前に先輩が先手を取った。

「それをネタにいじめられるかもしれないって?だったら、俺のとこに来い。」
「えっ?」
「いじめられそうになったら相談に乗ってやる。そうしたら、
もう万引きなんて真似しないだろ?」
「・・・で、でも、そうしたら先輩に迷惑を・・・」

 おずおずとボクがそう言えば、先輩は胸を張ってこう答えてくれた。

「迷惑なわけないだろ、俺は困ってる女の子を放っておくような男じゃないからな!」

 そう言って、明るく笑う彼の姿はまるで太陽のようだった。
また泣きそうになったけど、けど今度は抑えて、先輩から貰ったチョコレートに被り付いた。
涙が落ちてしょっぱかったけど、久しぶりに美味しいと思えた。










臆病と先輩


(まるでえほんからでてきたように)
(ヒーローはとつぜんあらわれてボクをすくったんだ)

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最終更新:2011年07月08日 20:46