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『彼にとって』の真実

※六水条剣さん直々の監修、後半執筆のもと作成しました※





『ん…』
木々の擦れる音がとても心地いい。
こんなに穏やかな気持ちはいつぶりかしら
ぽっかりと胸のどこかに空いた穴はまだ完全には埋められていないけれど、

嗚呼、満ちたような気がする

と、いうのにあの子

『なんだか寂しそうな顔してますよ?』

イライラするという感情を初めて知った気がする
知ったような偽善染みた、哀れみに溢れた表情
バカにしてるの?

『…まだ本調子じゃないわね』

ベガにやられた傷は思いの外深かったようで
目覚めたときには嘘のようにふさがった傷口だったけれど、中までは完治していない
現代医学では(ましてやエダのような能力医師がいたとしても)わたしの身体は治らない

成長もしなければ、死ぬこともない
それに甘えきっていたのかしらね
そろそろ戻らなくては。アキヒロと収容者の監修をしなくてはならない
ギッと車イスを動かすと、息を切らせた銀髪の少年がわたしの前に立っていた

『……あっ、の』
『邪魔よ』
『えっ』
『邪魔だって行ったの。わたしはもう施設に戻るわ』
『あっ、あ、…っスイネさん!』
『!』

何故わたしの名前を?
…ああそうか。なんてことはない。この子もここの収容者か
けれど不快だ。わたしはこの子のことを何もしらないというのに
気安く、名を

『あ、えと、すみませんシスイさんとハヤトさんにお名前聞きました』
『(…あいつら)』
『僕は…ジンです。ウスワイヤの、あの』
『言いたいことがあるならはっきり言ったら?』





『……その、変なこと言うかもしれませんが、どうしても確かめたくて…』
『……』
はっきり言えと言ったのに。
『何か伝えにきたんじゃないの?仕事?伝言? 簡潔に言って』
『はい……』
息を切らしてまで来たにも関わらず、どうにも口に出すのを躊躇っている様子だった。視線は俯きがちで、何かを考えているように見える。
こういうのを「優柔不断」と言うのだろうか?
近頃の男というのはこういうものなのか…それともただ単にこの少年が、人を苛つかせる達人なのか。
意を決したように顔を上げ、視線を合わせてくる。そして…
『あの。今から7年前くらいって、どこにいらっしゃいました?』
『……何?』

……わざと言ってるんじゃないのかしらそうでなければただの馬鹿だ。なんなんだ、この少年は。

『《過去は散策しない》…この施設のしきたりみたいなものよ。そんな事も知らないの?』
『あ…あ、いえ、すみません! そういうつもりじゃなかったんですが…』
『じゃあどういうつもりなの?さっきといい今といい、自分が脈絡もないこと言ってる事に気づいてないの?
貴方もどういう状況で来たかは知らないけど、軽く他人に言えるようなものではなかったはずよ
それを…会って間もない人に聞かれて、易々と答えられると思う?』
『……すみません……』

そういうと、少年は伏し目がちに深々と頭を下げた。少し言い過ぎたかな……と思っていると

『…知りたいんです。 失礼は承知です。無理強いもしません。 ただ、もし、答えれるところがあれば答えて欲しいんです』

反省しているように見えたのは気のせいだったのだろうか。と、無意識に奥歯を噛みしめる自分がいることに気づいた。

(なんでこんなにイライラしているんだろう……)

ただでさえ時間がないというのに、更に輪をかけて謎の少年からの質問攻め…この状況は精神的によくない。
早々に切り上げないと後に引きそうだ。仕方ない、と肩を軽く上げて少年に促す。

『わかったわよ。で、何を知りたいの』
『はい……あの……』

この施設では内外問わず「めずらしい者」が大半を占める。逆を言えば、「普通な姿」はつい目立ってしまう。
恐らく、この少年も私の車椅子姿に興味でも沸いたのだろう。
どこか怪我しているのか?どこか悪いのか?
そういう類の質問なら軽くあしらってやろうと思った。
だが、その後に続く言葉はわたしの予想の斜め上にあった。

『僕……昔、貴方と会ったことがあるんです』



『彼にとって』の真実
(呆れを通り越しわたしは)
(その少年を見つめ返した)

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最終更新:2011年07月19日 22:01