黒く濡れた地面に、浅い溝が彫られる。
足を引きずるようにして歩く「彼女」は、人が踏み込まない深い森を進んでいた。
脇腹に巻いている包帯には赤く血が滲み、それを抑える手にも包帯が巻かれていた。
「…いた…。やっとみつけたよ…。」
息切れに混じって流れ出したその声には、深い安堵が籠っていた。
「大怪我がなくて何よりだよ…、『君(ボク)』…。」
「…捜しに、来てくれたんだ、『君』。」
眼の前の黒ずくめの男は、彼女を見て微笑んだ。
「そういう『君』は大怪我をしているじゃないか。そんな姿で僕を探しに…?」
「そうさ。僕にとって『君』は何よりも大切だからね。」
「…うれしいや、そんなことを言われると。」
「動けるかい?肩を貸そうか?」
「…うん。「あの空間」のせいで体力を削られてね。一人じゃたてそうにないんだ。」
妖怪の男の力で妙な空間に閉じ込められたのは、丁度昨日の話になるだろう。
能力をオーラとしてとらえる彼の能力のおかげで、真っ暗な空間にも変化を見ることができたため、精神的ダメージは軽減した。
しかしそれでも、視覚以外の変化がない世界に彼の体と頭はかなり消耗したようだった。
「ごめんね。『君』も歩くのさえ精一杯なのに。」
「いいんだ。互いに肩を貸し合おう。」
二人は肩を組み、ゆっくりと森の中を歩きだした。
「向こうはこれで懲らしめたつもりなのかな?だとしたら心外だよね。」
「全くだよ。むしろ、こうして他人を傷つけることを止めないのなら、『正義の味方(ボク)』達は黙っちゃいない。」
そういい、妹の方は「あっ」と思い出したように言った。
「そう言えば此処に来る途中、とんでもない物をみつけてしまったんだ。」
「それは?」
「足跡なんだ。道端に、赤い足跡が点々とついていた。途中から消えて行ったあたり、血なんじゃないかな。」
「それは物騒だね。」
「近くに血だまりがあって、地面には鴉が埋めてあったんだ。」
「人外かもしれないね。よし、帰る途中にそこに行こう。」
「えっ?大丈夫なのかい?」
「勿論さ。一日動けなかったせいで人外排除が滞っちゃ困るからね。今日はその現場を見て、家でゆっくり寝て、夜に活動を再開する。」
「分かったよ。でも、せめて少しなにか食べなよ。体力が持たないからね。」
「ここ、だね。」
「…うん。間違いないよ。この鴉、妖怪に殺されてる。」
「本当かい?」
「能力で呼びだすか、作り出すかした槍が刺さったんだろうね。かわいそうに。」
「それで、どうするんだい?この犯人も分かるだろう?」
「ああ。でも、この犯人は『君』に任せるよ。」
「え?構わないけど、どうして?」
「この妖怪、弱いんじゃないかな。血が乾ききってないからさっき死んだはずだけど、傷口に残っているオーラがもうすぐ消えそうなんだ。僕が「集めた」
パニッシャーがあるから。」
「分かったよ。使わせてもらう。」
彼は血から目を離し、目隠し越しに妹を見た。
「『君』の能力の解放ももうすぐだ。後少し、経験を重ねればいい。」
「ありがとう。解放した暁には、『君』の為につくそうじゃないか。」
二人は笑い合った。
「僕はそのあいだ、他の人外を成敗することにするよ。」
「お互い頑張ろうじゃないか、『君』。人間の平和の為に。」
「勿論さ。」
二人は手を握り合うと、そのまま別れた。
追記
「え?彼女が休みなんですか?それは珍しい…。」
「いつも元気だから、風邪なんかひかないと思うんだけど。」
「…いるの、間違いなく。」
「居るって、誰が?」
「『奴』の仲間、じゃ。」
最終更新:2011年07月19日 22:03