…変だ。
直感的に星は思った。
今朝方から月光の動きがおかしい。
クランケと
ミサキは朝早くから出掛けているという。
流也も気がつくと外に出ていたようだった。…方向音痴らしいが、一人で出ていってよかったのか。
「…月光、今日、なにかあったっけ?」
星が声をかけた瞬間、月光はあからさまに背筋を伸ばした。
「へっ!?…いや、何もないぜよ?」
「そうか?お前、なんか隠してねぇか?」
「気のせいぜよ。」
そうかなぁ、と首をかしげた瞬間だった。
そのタイミングを狙ったかのように、窓の隙間から何かが飛んできた。
それは星の首すれすれを通り過ぎると、向かいの壁に刺さった。
「!?」
驚いて見ると、一本の矢が刺さっていた。その翅には白い紙。
「な、何の音ぜよ!?」
「矢文か?誰だよ、この時代に…。」
星はそういいながら、紙を取り外した。
そこに書かれていた内容は。
『本日中に、貴方の命を頂戴いたします。』
「なっ…!?」
思わず窓を開け、あたりを見回す。
怪しい物は何もない。ただ、静かな空間がそこに広がるだけだ。
「…なんだよ、ただのいたずらかよ。ったく、達の悪い…。」
「全くじゃね。誰がか、こんな文章かいたんは。ねぇ、星殿。」
手紙を月光が読みながら、そう言った瞬間だった。
急に地響きを感じ、思わずその場に伏せた。
と同時に壁が盛り上がり、そのまま隣の壁を巻き込んで吹き飛んだ。
屋根と壁だった襤褸が吹き飛ばされ、近くの樹にぶつかったのだ。
「…なんじゃ、こりゃぁ…;」
何が起こったか分からないまま、星は茫然と屋根があった場所を見つめる。
「ま、まさか…本当に…?;」
月光の声が震える。星ははっと正気を取り戻し、月光の手を引いた。
「逃げるぞ、月光!いたずらにしちゃ度を超えている!へたすりゃマジで殺されるぞ!」
「え、でも星殿!」
「いいかr…うぇっ!?」
使い物にならなくなったドアを開けた瞬間、サイドから包丁が飛んできた。
反射的に伏せてかわしそちらを見たが、そこには誰もいなかった。
(やべぇ、これは本格的に!)
走り込んだ先は市街地。
「ほっ…星殿!!」
「落ちつけ、月光!わっ!」
後ろから飛んできた注射器をかわしながら、横に転がり込んだ。
後ろに誰かいる。そう判断した星はそのままその道を走り出した。
次々と襲い掛かる凶器。
散弾銃が放たれ、ナイフが飛び、中には鉄柱すら飛んできた。
しかし、星にとって重要なのはそこではない。
(なんだ?俺が通る位置に必ず誰かいる…。)
咄嗟に出た考察は
(誰かの出すタイミングで攻撃し、どこかに誘導しているんだ。)
というものだった。
しかし、誰も後からついてくる者はいない。
どういうことだ、と考えているうちに。
「!!行き止まりだ!」
立ちはだかるのはビルの壁。裏口のドアだけが寂しく立っていた。
月光と共に振り返ると、眼の前に現れたのは黒装束の集団。
完全に道をふさがれ、身動きが取れなくなったのだ。
彼女はあきらめ、頭の包帯を握った。
「ほ…星殿っ!!」
月光が悲痛な声をあげた。
銃口が音を立てて向けられる。
その瞬間、星は閃き、握った包帯をはなしてしまった。
「…ようやっと分かった。そういうことだったんだな…。」
「…?」
「私が抵抗しても、何も変わりやしない。」
そういい、星はホールドアップ。
「さぁ。撃てよ。」
次の瞬間には暗い空間にいた。
月光が近くのビルの裏口を開け、星を引きこんだのだ。
投げ出した星を見ながら、月光は叫んでいた。
「何言ってるがか!星殿は…星殿はそんなあきらめ方をする人だったがか!?」
「…月光、なにか勘違いしてねぇか。」
星は体勢を立てなおし、その場に座り込んだ。
「私は『分かった』と言ったんだ。なにもあきらめたわけじゃねぇ。」
「犯人は私をここに誘導するのが目的だった。ならば、私の走る道を伝え、仲間を動かす必要がある。」
星の背を、月光は黙って見ることしかできなかった。
「そして、攻撃をするタイミングを教えなきゃならねぇ。つまり。」
星は一呼吸置き、言った。
「犯人は『一見分からない合図』を出すことで、攻撃のタイミングを教えたんだ。」
「『星殿』ってな…。」
闇がうごめく。
黒装束が空間いっぱいに満たされる。
「何故だ…。」
星は唇をかみしめながら、訊いた。
「何故、お前が…。」
後ろに立っていた『彼』はゆっくりと近づきながら、拳銃の銃口を向けた。
「…それはな、星殿を…。」
乾いた破裂音が、部屋に響いた。
――と、同時に部屋の明かりがついた。
「…この、新しい事務所に連れてくるためじゃ!」
拳銃型のクラッカー持ち上げ、月光は笑った。
黒装束もフードをとり、クラッカーを鳴らした。
それは、かつて星とかかわったアースセイバーの面々であった。クランケやミサキも交っている。
「…み、んな…?」
星は茫然とする。と、後ろから肩をたたかれた。
「
アキヒロさん…。」
「驚いたか?ちょっとしたサプライズだったんだ。提案したのは月光だったんだがな。」
「人数も増えてきて、あの事務所ではろくに仕事もできなかっただろう?これからはウスワイヤが全面保証する。」
「それってつまり…。」
「これからはこの事務所で、よりよい環境で探偵稼業ができる。「怪盗狩り」に専念せずに済むんだ。」
「…いいんですか、私の事務所なんかが…。」
「能力者を相手にする探偵は存在しなかった。だから、改めて命じよう。」
「
天河 星。探偵として能力者を助け、人々の日常を守るんだ。」
星は暫く黙っていたが、やがて力強く頷いた。
「わかりました、アキヒロさん!」
どこからか拍手がなり、それは波紋のように広がった。
彼らはその日、新たな事務所の開業を祝ったという。
追記
「そうだ、星。今度お前の事務所に人員を派遣する。」
「本当ですか!?」
「少々融通がきかないが、きっと役に立つ。約束しよう。」
「ありがとうございます!」
生まれ変わった探偵事務所に2人の事務員が増えるまで、あと2日。
最終更新:2011年07月19日 22:08