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人狼は月夜に思う

三日月が空に浮かぶころ、森の中の丘にたくさんの影があった。
たくさんの影の正体は狼で、さらにその中心には人の姿があった。

「今日も、いい月だね。」

声は、女性の物だった。すると、言葉がわかるのか近くにいた狼がウォンとほえた。
くすり、と笑った。

「大丈夫だよ。私の中の狼も落ち着いてるし、満月もまだまだ先だからね。」

そういうと、その女性―――シーラはまた月を見上げた。
今度は手を伸ばし、まるでつかもうとするように。

「…本当に、今夜は月がきれいだ。、どうしたの、セセナ。」

セセナと呼ばれた一匹の狼はどこか遠い目をしながらシーラにたずねた。

「お父さんとお母さんのこと?あははっ、恨むわけがないよ。」

でも、とつけたし

「私をおいて、死んじゃったのはちょっといやだったな。」

と、呟いた。
それを聞いた狼は自分で聞いておきながら興味がないように立ち去った。
それで、いいのだ。狼に、同情なんかいらない。それが、当たり前だ。
セセナがいなくなると同時に、ほかの狼たちも次々にどこかへ去っていった。
残ったのは、シーラと幼い狼だ。

「どうしたの?早くお母さんのところに行ってあげないと。」

狼は弱弱しい声で吼えた。

「この血のことかい?さっきも言ったけど恨んではいないけど…」

幼い狼は、その続きを待った。

「恨んではいないけど、時々、無性に悲しくはなるよ。」

狼は何も言わない。そんな様子を見て、シーラは立ち上がり、いまだ座っている狼に声をかけた。

「帰ろう?お母さんも、きっと待ってるよ。」

はかなく輝く月の光を受けながら、一人と一匹は森の中へと入っていった。
その胸に、絆を抱きながら。





「だから俺はウソツキなんだ。」

ひそひそとささやかれる声。
そんな廊下の道を歩く一人の男がいた。金髪で碧眼といった、いかにも美男子だ。

「おぉ、なぜあんなところをわれわれの面汚しが歩いておる。」
「わしの知ったことか。…あぁ、汚らわしい。」

「おい見ろよ、ヒーロー気取りの登場だぜ。」
「ほんとだ。、っち、マジウゼェ。」
「あっち行こうぜ。」

突き刺さるような言葉の数々に、平然と廊下を歩く。
ある扉の前で止まり、中に入る。ここは自室だ。誰も入ってはこない。
ぼすん。とベッドにダイブする。全身に疲労が襲った。

「…………、あー…のど渇いた。」

だが男は、水を飲もうとはしない。水を飲んだところで、この渇きは癒されない。
なぜならこの渇きは……人間の血でしか癒されないから。
テーブルを見やる。テーブルには、親からの金が入っている。受取人は自分の名前―――セロと書いてある。
だが、もはやあける気力もない。ベッドに沈んだまま、手はあるものをつかんだ。
ピアスの穴を開ける道具。おもむろに持つと、無造作に穴を開けた。
びりっ、と痛みが走る。だが、それでいい。この渇きを誤魔化せられるなら。
渇きも、心の闇も、全部全部。
そして今日もまた、自分に嘘をつき、すべてに嘘をつく。
だから俺は、ウソツキなんだ。

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最終更新:2011年07月30日 04:31