「…かっ!」
校舎の壁に叩きつけられた体。その上から動きを封じるように幾本ものナイフが突き刺さった。
真紅の液体が肩口から流れ出す。熱い。痛い。そんな言葉では表現しえない。
「あれあれ~?噂に聞いたんじゃ、トキコちゃんはもっと強いって聞いたんだけどな~?」
眼の前の声に、顔を上げる。
信じられなかった。今まさに自分を襲っているのが、自分の友達の一人だということを。
いや、そもそもこの子は能力者の存在を知らない筈であるのだが…。
「能力者の存在?何言ってんの?僕が知らないわけないじゃん。」
けらけらと馬鹿にしたように、眼の前の人は笑う。
「でも、でも知らないからこそ、超常現象を知ろうとして…。」
「違う違う。あれは口実。本当は大きな争い、みーんな見てるんだよ。」
「僕ね、ずーっと皆にウソついてた。いつもの態度も、この髪の色も、目の色も皆ウソを吐くためのアイテム。」
トキコから目を離し、語るように徘徊する。
後ろを見ている間に、トキコは肩に刺さったナイフに手をかけた。
「でも、本当の事もあるよ。僕は確かに能力を持たない一般人。」
傷を抉る痛みに耐えながら、彼女はナイフを抜き取る。
「超常現象相手じゃ無力。何もできない。そんな人だった――」
肉を引き裂く感触。
骨が砕ける感覚。
血管の切れる雑音。
全てが入り混じってトキコの耳に届いたのは、「友達」の腕を引きちぎった後だった。
自分の足りない頭でそれが処理される前に、彼女は「友達」の首を折り、足を外し、鳩尾に穴を開けた。
残骸になり果てた体はその場で崩れ、前に倒れ込んだ。
ろくにできない呼吸をしながら、トキコは肩の傷を抑えて歩き出した。
「早く、早く鳥さんに伝えなきゃ…。」
『…そ、僕が聞きたいのはスザクちゃんのことなんだよね。』
聞き間違いかと信じたかった。
しかし後ろを向けば、死んだはずの「友達」が何食わぬ顔で微笑んでいた。
「っ…!!??」
無傷の「友達」はもう一度壁にトキコを押し付けた。
「あはっw吃驚した?吃驚したよね?そりゃそうだもん。『これ』、つかうの初めてだから。」
トキコは恐怖でしか「友達」を見上げられなかった。
「僕はもう一般人じゃない。経験を重ねたおかげで、能力に目覚めることができたんだ。驚いたでしょ?」
対する「友達」は、トキコを笑いながら見下ろしていた。
「さて、本題に入ろうか。
火波 スザクちゃんって、生物兵器の成り損ないなんだよね?」
「しっ、知らない!そんなこと!」
「へぇ、そうなんだ。なら、君には用なしだね。」
トキコの眉間に、「友達」は容赦なくナイフを向けた。
「大丈夫、死んだりしないよ。ただ、今起こったこの出来事を綺麗に忘れるだけさ。」
そして、「友達」はナイフを振り上げた。
「…どうして…、どうしてこんなこと、するの…?」
「どうして?そうだなぁ…。」
「僕は、『正義の味方(ボク)』だからね。」
「…トキコちゃん?トキコちゃーん?」
肩をゆすられ、トキコは目を覚ました。
此処は何処だろう?…あ、そうだ。此処は屋上だ。
きっと日向ぼっこが気持ちよくって、うとうとしちゃったんだろうな。
「いつまで寝てるの?もうすぐ授業はじまっちゃうよ?」
「あ、うん。直ぐ行くよ。」
トキコは立ち上がり、「友達」に歩み寄った。
「待っててくれたの?」
「…うん、まぁね。」
彼女の記憶には恐ろしい「友達」の姿は残されていなかった。
肩の傷も、ボロボロにされたプライドも既に、「無かったことにされていた」…。
最終更新:2011年07月30日 04:32