「……あーっ、面白かった」
その日も、僕は図書室にいた。さっきまで呼んでいたのはツバメ叔母さんの絵本。
「時計塔の姫」っていうタイトルで、街の真ん中にある時計塔にいる「姫」と、その謎を巡る物語だ。
最終的な解釈は読み手に任されていて、その意味でも読んでいて楽しい。
「次は……っと」
次に向かったのは、壁際にある小説の棚。実は、最近になって「幻想物語」シリーズが入っている。
……ま、細かい事は言いっこなし。ちなみに自分で持ってるから、読むのは別のやつ。
「え、と……あ、これにしよう」
目的の本を抜きとり、タイトルをあらためて見る。「不思議という話」―――面白そうだ。
本を取った時、その隙間から向こう側にいた人と一瞬目があった。すぐに本が倒れて見えなくなったけど。
(本が好きなんだな、あの人も)
座っていた椅子に戻って、その本を読んだ。
「………………」
読んだ事を猛烈に後悔した。シュールに過ぎる話ばかりで、僕とは決定的に相容れないタイプの本だった。
「幻想物語」は全体的にバッドエンドが多いけど、物語性が強いから楽しく読んでいられる。だけどこれは現代ホラーだ。叙述トリックの山、山、山。話の本当の意味に気がついた瞬間、背筋が冷たくなる。
それぞれの話は1ページだけ。総ページは後書き・前書きと目次抜きで212ページ。正直、明日生きている自信が欠片もなくなるような暗い話ばっかりだった。「幻想物語」とは暗さのベクトルが真反対だ。だけど、一番打ちのめされたのは、二つ。
姉に偏愛し、恐怖で縛る妹の話。おまけに、語り部の「妹」の性格と話し方がアオイにそっくり。
告白しようとした想い人を殺してしまった女の話。これ、ちょっと見方を変えると僕なんだ……。
「う、うぅ……も、もう嫌だ……何だよこれ……」
馬鹿な事を考えていると思う。だけど正直、心が折れた。半泣きだよ、もう……。
「ひ、火波さん、大丈夫か?」
図書委員が声をかけてくれたけど、もう答える気力もなかった。泣きたい。叫びたい。誰かに思い切り甘えたい。……でも、甘えさせてくれる母さんも、父さんも、もういない。
その事実が、余計に僕を打ちのめした。わかっていた、わかっていたはずなのに・・・…。
「さ、さよなら……」
ふらふらと鞄を取り、何とか僕は図書室を出て、学校を後にした。
なお。
実は僕が去った直後にアオイが来てその本を読んだらしく、帰った後で思いっきり甘え合った。
……一人じゃなくて、よかった。
ツバメ叔母さんの存在をすっかり忘れていたのは、ここだけの話。……学校の近所に住んでるんだから、帰りによればよかった……。
(……)
(………)
(…………)
(……………お気づきだろうか?)
(彼女がその本を取った棚は)
(壁際、である)
(つまり、向こう側には……?)
最終更新:2011年08月08日 16:32