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『女組長の幼き日と誓い』

「お父さーん」
「おお、愛澄。膝に乗るか?」
「うん!」

黒髪の幼い少女―――愛澄が、深緑の着流しを来た父―――大地の膝に乗った。
その表情は、とても嬉しそうだ。

「ねえ、お父さん」
「ん?」
「いつになったら、組長の座がもらえるの?」
「何だ、もう組長になる気か?」
「だってだって、早くお父さんみたいな皆に慕われる組長になりたいもん!」

その答えに、大地は明るい笑い声を上げた。

「そうかそうか…でもな、組長になるにはお前はまだガキンチョだ」
「えー」

ぷぅ、と頬を膨らませ、駄々をこねる愛澄。
その様子に苦笑しつつ、大地は愛澄の黒い艶やかな髪を、わしゃわしゃと撫でた。

「なりたいなりたい、早くなりたーい」
「まーだ駄目だ」
「むー…じゃあいつになったらなれるの?」
「そうだなー…お前が17歳になったらな」
「17…ってことはー…」
「今お前は9歳だから、後8年な」
「えぇ~! そんなに~?」
「忍耐力も組長には必要だぞ? 我慢しろ」
「…は~い…」
「いい子だ」

屈強な手が仏頂面の愛澄の頭を、またわしゃわしゃと撫でる。
それでも愛澄の表情は変わらない。

「まー忍耐力も必要だが…組長に一番必要なのは、お前の名前に込められた生き方だ」
「名前?」
「そうだ。お前の名前にはな、桔梗の願いが込められている」
「お母さんの?」
「ああ、『優しく温かな愛情に溢れた、澄みきった心を持ってほしい』って願いがな…」
「へえ…」
「だから愛澄、組長になるんなら…組員や友達を愛し、邪な気持ちのない澄みきった心を持て。いいな?」
「うん! あたし、名前通りの生き方できるように、強くなって皆を守れる組長になる!」
「よし、それでこそ俺とアイツの娘だ」

明るく笑う愛澄の頭を、今度は優しく撫でる大地。
大地の表情も、穏やかなものだった。


 * * *

応接室のソファに横たわる愛澄を一瞥しつつ、武器の手入れをする省吾。
表情には陰りが差している。

「……父…上…」

耳に入った声に、省吾は思わず愛澄の方を見た。

「父上……私…は…組長失…格…です…」
「………」
「義仁を…亜樹斗を…皆を守れなかった…」


「申し訳……あり…ま…せん…」

寝言を呟く愛澄の目尻から、一筋の涙が伝う。
それを省吾はそっと拭き取った。

「…すまんな、組長さん」

省吾は再び武器の手入れに戻った。

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最終更新:2011年08月08日 16:33