「…ああ、またですか」
深夜、日付も変わるという時間帯。
ストラウル跡地の廃墟前で、望は疲れたように呟いた。
この跡地では不可解なことが起こりやすいという話は小耳に挟んだことがあったが、ここ最近は毎日のように何かしら起こっているらしい。
今日も、歩きやすいようにと朝瓦礫を片付けたはずなのだが、今見ると朝以上の瓦礫が転がっていた。
廃墟も所々真新しい崩れた跡が目立つ。また、ここで何か一悶着あったのだろう。
この廃墟を拠点としようと決めた時から、ある程度のことは覚悟していたつもりだった。
「…せっかく今日、片付けたばかりですのに。また明日もやらないとなりませんね」
特にやらなくてもいいものではあるけど、どうしても放っておけないのだから仕方ない。
地面に転がった瓦礫に躓かないように歩きながら、望は自分の性格と「不可解なこと」に向けてため息をついた。
「…ん?」
ふと、瓦礫の隙間で何かが動いたように見え、足を止める。
しゃがんで見てみると、小さな猫だった。首輪もしていないから、おそらく野良だろう。
ここで起きた何かに巻き込まれたのだろうか。前足を怪我しているらしく、その場でにゃあにゃあと鳴いてはいるが一歩も動く気配はない。
「……可哀想に」
痛ましげに呟くと、傷口を撫でるようにそっと猫の前足に右手を置く。
少しの間そうしてから手を離すと、猫の傷は消えていた。
「…もう大丈夫ですよ。ここ、瓦礫が多いですから気をつけて…」
「フシャーッ!!!」
「あいたっ!」
前足を自由に動かせるようになった猫は、警戒心を剥き出しにして望の手を引っかいた。
爪痕からじわりと血が滲む。
望の手から離れた猫は、一目散に夜の闇へと消えていった。
「………やれやれ。また、嫌われてしまいました」
猫を見送りながら、苦笑を浮かべて呟く。
どうも自分は動物に嫌われる星の下に生まれてきたらしい。
引っかかれた手を見ながら、望はそんなことを考えた。
「…さて。僕も早く戻りましょうか。ここにいてももうやることは……おっと」
足を進めようとして、何か思い出したように踵を返す。
向かった先は、一人では運べない大きさの瓦礫の前。
「…この瓦礫なら、丁度いいかもしれませんね。明日の作業の手間も省けますし…」
しゃがみこんで瓦礫に左手を置くと、そっと一撫でする。
「………これでいいでしょう。さあ、今度こそ戻りましょうか」
そっと立ち上がると、廃墟の中へ消えていく。
瓦礫には、大小さまざまな切り傷や裂傷が残されていた。
最終更新:2011年08月08日 16:34