いつも通り屋上に上がれば、既に先客がいた。
灰色一色のその姿の名を、彼は思い出して呼びかけた。
「…
神江裏 灰音、じゃったかの。」
呼ばれた灰色は振り返り、誰にでもふりまく微笑を湛えた。
<…やぁ、覚えてくれていたようだね。>
同じクラスに居るはずの灰音。
姿も灰色一色なのにその印象は記憶に残りづらい。
現に人間離れした(人間ではないが)
ゴクオーも思い出すのに少しあぐねた。
「珍しいの、お前がこんな所に居るなんて。」
<神江裏 灰音は何処にでもいるよ。>
「…不思議なもんじゃな、お前も。」
独り言のように、ゴクオーは呟いた。
「人間でありながら人間ではなさそうなその態。あらゆる「モノ」を平等にみる眼。わしより人間じゃなさそうじゃ。」
<おかしな言い方をするね。まるで君が本当に人間じゃないようだ。>
「…お前みたいな傍観者が知ったところで、事態は変わらんじゃろうしの。」
「灰音…いや、『傍観者』。お前は何のために傍観する?」
興味本位の割に声に芯は通り、真意を見抜こうという意図が現れていた。
<別に意味はないよ。神江裏 灰音は傍観者だから、かな。>
「傍観者でも偏見くらい出るもんじゃろ。正義だ悪だと…。」
<…正義って、何?>
「えっ?」
ゴクオーは驚いて彼女を見る。
<正義って?悪って?何処に定義がある?定義は変わる?明確?曖昧?>
矢継ぎ早の質問に、彼は声も出せない。
<神江裏 灰音は何時だって平等。正義も悪もない。傍観者にそんなもの分からない。>
「…たく、ここまでとはのう…。」
ゴクオーは笑い出した。
「降参じゃ!こりゃ兄貴も裁くのが大変じゃのう!」
<…本当に不思議な人だね、君は。>
<…じゃあ、そろそろ下に降りるとするよ。>
灰色の傍観者は踵を返した。
「…わしはお前の事は心配しとらん。」
その背中越しに、ゴクオーは呼びかけた。
「色々物騒じゃが、お前は巻き込まれんし巻き込まん。そうじゃろ?」
「『負平等な傍観者』よ。」
<…。>
灰音は何も答えずにドアを開けた。
不平等と負平等
「…もし、あいつとわしの立場が逆なら、こんな時間を過ごすどころか、追放もなかったじゃろうな…。」
<君の出来事も神江裏 灰音は傍観するからね、地獄の使者。>
最終更新:2011年08月16日 13:55